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夢の診療病棟  作者: お米
14/30

14. 宮本葵(4)

 起きたらいつも気になっていた壁のシミが目に入った。

「はぁ」とわたしはため息をついた。今日からまた憂鬱な一週間がはじまる。

 わたしは重い腰を上げ、ベッドから立ち上がった。ベッドの横にある全身鏡の前で顔を見た。

部屋の明かりが点いていないせいなのかもしれないが、とにかくひどい顔だった。


 洗面所の鏡で自分の顔を、もう一度確認した。先ほどに比べたら、まだマシだった。やはり部屋の明るさのせいだったようだ。とはいえ、いつもと比べてもよくはなかった。

 リビングに入ると、おはよう、と母が言った。

おはよう、と答えようとしたが、母が少し驚いた表情をした。

「どうしたの? 顔色悪いわよ」

「そう? いつも通りじゃない?」母には心配かけたくないので、わたしは平気なふりをした。

「体調悪いなら、学校休んでもいいのよ」

「大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから」

「そう? あまり無理したらだめよ」

「わかってるって」

 母の言葉に甘えそうになったが、母に勘付かれてしまうような感覚になったので、行きたくもない学校には行くことにした。

 それから、母は心配する様子はなく、わたしは朝食を食べ終えると、制服に着替えた。

「それじゃあ、いってきまーす」


 学校に着いたら、いつものように机に落書きがしてあった。

 教室を出て、廊下にある手洗い場に向かった。慣れた手つきで雑巾を取り、蛇口を捻って、雑巾を濡らして絞る。それから教室に戻って、自分の机を拭き、手洗い場に戻り、また教室に戻る。そして何事もなかったように席に着く。この一連の動作はルーチン化していた。


 午前最後の授業は体育だった。男子は教室、女子は更衣室で着替える。

 わたしはクラス全員の女子が着替えた後、最後に更衣室へ入り、体操着に着替えた。もし山辺恵子より先に入って着替えて、更衣室を出てしまった場合、自分の荷物に何をされるか分からないからだ。

 今日の体育は女子は体育館でバレーボールの授業だった。チーム分けがあったが、山辺恵子とは別のチームだった。ほっとした。

 体育の授業が終わると、皆、更衣室に着替えに戻り行ったので、わたしもそれに続いた。

 女子達が和気藹々と着替えをしている中、急に周囲がざわつき始めた。

誰かのお財布がなくなったらしい。さらに聞き耳を立てていると、どうやら小向沙緒里の財布がなくったようだ。

「どんな財布だったの?」と山辺恵子が小向沙緒里に聞いた。

「ピンクの長サイズでハートマークが付いてるやつ」小向沙緒里は慌てふためいているようだ。

 わたしはあまり興味がなかった。小向沙緒里のことを友達と思っていたが、いじめを受けていたわたしが助けを求めようとしたが、何もしてくれなかったからだ。だからどうでもよかった。わたしは体操服を脱ぎ、制服に着替えた。鞄を開けて、汗で湿った体操服を入れようと中を確認しようと思った時、わたしの全身が硬直した。

 身に覚えのない財布が、わたしの鞄の中に入っていた。

「なにこれ」わたしは思わず声に出してしまった。わたしはすぐに気づいた。山辺恵子だ。あいつの仕業だ。

「もしかして、盗まれたんじゃない?」

 わたしは誰かがその言葉を発したのを聞いて、咄嗟に財布を体操服で隠してしまった。するとなぜだか、山辺恵子がわたしに向かって歩いてきた。

「ねえ、宮本さん。小向さんの財布知らない?」

「知らない」わたしは思わず鞄の取手を強く握りしめた。

「宮本さんって、小向さんと仲良かったよね?」わたしはなんて答えたらいいか悩んだ。

「まぁ、いいや。そんなことより、鞄の中見せてくれない?」

「な、なんで?」

「んー、なんでだろう。ただ見てみたいなぁって思っただけ」

わたしは首を横に振った。

「いいじゃん、別にやましいものなんて入ってないよね?」

 

 山辺恵子は嫌がるわたしのことなんてお構いなしに、鞄を取り上げて、中を確認した。

 わたしの心臓が張り裂けそうなくらい鼓動した。

 山辺恵子は、あ!、とわざとらしい言い方をした。

「小向さん、財布あったよ」

「えっ、どこにあったの?」山辺恵子の言葉を聞いて、小向沙緒里が安堵した表情をして、こっちに歩いてきた。

「それがね、宮本が持ってたのよー」

「えっ? 宮本さんが……」小向沙緒里は、信じられない、といった顔をした。

「最低だよね、友達の財布を取るなんて。これは先生に言わなきゃだ」

「わたしじゃない」

「はぁ? どうみたってお前がやったんだろ」

「ちがう! わたしの鞄に勝手に入っていた」

「えー、それじゃあ財布が勝手に歩いて、宮本さんの鞄に入ったってこと? ありえないんだけど」

「知らない、わたしじゃない!」

「うそつくなよ! お前じゃなきゃ、他に誰がやったっていうんだよ」山辺恵子はわたしに鞄を投げつけた。

 周りも気づいているはずなのに、誰もわたしの味方をしてくれない。わたしはその場にいるのが耐え切れなくなり、床に落ちている自分の鞄を持って、更衣室を飛び出した。そして、そのまま学校を出た。

 誰かに追われるように逃げるように走った。自分でもどこに向かって走っているか、分からなかった。

 そして気づいたら、学校から少し離れた河川敷にいた。

 わたしは河川敷に座った。頰から涙が落ちた。なんでわたしがこんな目に合わなくちゃいけないのだ。もう限界だった。

 わたしはしばらくあたりをふらふらしていた。今、家に帰れば、母に確実に怪しまれる。


 下校時刻を見計らって、わたしは家に帰った。おかえり、と母が言っただけで、それ以上は何も言ってこなかった。学校からは何も連絡はなかったのだろうか。母いつもと同じ様子だった。

 わたしは下を向いて、ただいまだけ言うと、そのまま自分の部屋に入った。着替えもせずに、そのままベッドで横になり、わたしは泣いて腫らした瞼を気にすることもなく、そのまま眠った。

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