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夢の診療病棟  作者: お米
1/30

1. 夢の診療病棟

 目が覚めるとそこは見た事のない天井だった。

あたまがぼーっとする。

しばらくすると意識が少しはっきりとしてきたので、わたしは起き上がってみた。

そしてまわりを確認した。

「ここは…」まったく身に覚えのない部屋だった。

たしか、自分の部屋にいたはずだ。晩御飯を食べて、お風呂に入り、ベッドに横になったところまでは覚えていたからだ。

 ベッドから立ち上がって、もう一度、周囲を確認してみた。

窓がある。そしてその反対を見るとドアのようなものがある。一般的な住宅にあるようなドアではない。

 それはどこかの施設などでよく見かけるものだった。天井を見ると、蛍光灯が煌々としていた。


 どうやらここは病院の一室のようだった。わたしは先月に亡くなったおじいちゃんのことを思い出した。病院に何度かお見舞いに行ったことがあったので、その時の病室とよく似ていたのでそう思ったのだ。

 おじいちゃんが入院していた病室と比べ、違うところといえば、窓枠には、窓ガラスではなくて、木の板が打ちつけられている、というところだった。

それをみて不気味に思ったが、このままここにいても何もわからないので、わたしは入り口と思われるドアをそっと引いてみることにした。


スーッ。


 思っていたより、静かに開いた。冷たい空気がこっちに入り込んできて、足元を冷んやりとさせた。

 わたしは少しずつドアから顔を出し、外の様子を確認した。


 長い通路だ。


 通路を挟んで。ところどころに同じようなドアがお互いに向かいあっていた。ここと同じような病室がいくつもあるようだ。


 人の気配はなく、やけに静かだ。わたしだけなのだろうか。

 そんなことを考えながら、この先がどこに向かっているかも分からないまま、部屋から出て歩き出していた。


 しばらく歩くと、向かっている先にぼやりと明かりが見えてきた。


 明かりの先に着くと、そこは病院の待合室のような場所だった。風邪とかで熱が出て、今にも死にそうなのに、長い時間待たされる、あの場所を連想させる。その待合室のようなところにはわたしが来た通路以外にもいくつも同じような通路があった。


 しばらくあたりを見回していると、向かいにある通路から人影のようなものが見えた。わたしはごくりと唾を飲んだ。するとわたしと同じぐらいの歳だろうか、男の子が歩いてきた。

 それを見て少し安心したのか、気づいたら、わたしから声を掛けていた。

「こ、こんにちは」いや、こんばんは、の方が正しかったかもしれない。

「あ、どうも」と男の子も安心した表情をしていた。利口そうで、プライドが高そうな感じの男の子であった。

「あのー、ちょっとお聞きしたいのですが…」とわたしは話しかけた。

「なに?」

歳が近いと思ったのだろうか、彼はタメ口で返事をした。

「ここってどこなんでしょうか?」わたしは敬語を使って話した。

「俺にも分からない」彼は不安そうな様子でこたえた。

「じゃあもしかして、あなたも気付いたらここに居たってことですか?」

彼は頷いた。

「どこなんだろう…ここ」少なくとも一人ではないことが、わたしの不安を和らげてくれた。


「たしか…僕は自分の家の部屋に居たはずなんだ。そしたらいつのまにかここにいた。」

彼は自分の置かれている状況を整理するかのように話した。

「わたしもです。気づいたらここに…」

 そういうとしばらくお互いに沈黙が続いた。しばらくすると、この沈黙に耐え切れなくなったのか彼が話かけた。

「君、歳はいくつ? 見た目は俺と同じぐらいだと思うんだけど」

「あ、はい。十六歳です。高校一年生です。」とわたしはこたえた。

「そう」彼はそれだけを言って、あとは黙ってしまった。何か気に触ることを言ったのだろうか。

 またしばらく沈黙が続いた。


「あ!」


 突然、声が聞こえた。後ろからだろうか。わたしはその声の方に振り返った。

年齢は三十代後半ぐらいだろか、そこにはひとりの女性が立っていた。

「あーよかった、人がいた。わたしひとりかと思っちゃったわ」

 そう言いながらわたしたちの方に近づいてきた。女性は安堵したのか、すこし笑みが見えた。

「ねぇ、ここがどこだかわかるかしら? わたし、目が覚めたらここにいて…」

「俺たちも分からないんです。気付いたらここのベッドに寝ていました。」

と彼は言った。それにつられてわたしもこたえた。「わたしも同じです」

「あらそうなの」彼女は少し残念そうだった。

「ここがどこなのか調べようがないわね、スマホもないし」

 そういえば、ここに来る前は部屋着に着替えたはずなのに、いつのまにか入院患者のような衣服を着ていた。

まるで病人だった。

「そういえば、今何時なのかしら」

そういうとその女性はあたりをキョロキョロと見回した。

「時計ありませんね」わたしは言った。

「そうね。ないわね」と女性は言い、ぶすっとした。

 ここもあの病室と同じで、窓に木の板が打ちつけられていた。


「おや?」


 また声が聞こえた。

 わたしたちは同時に声が聞こえた方に振り向いた。

 今度は男性だった。見た目は──メガネをかけていて、無精髭を生やしてた。少し痩せている。年は三十代半ばといったところだろうか。

「あのー、ここってどこかわかります?気がついたらここにいて…」

 無精髭の男性はそう言いながら、わたしたちに近づいてきた。

「わたしたちもわからないんです」と女性はこたえた。

「そうですか…」彼はがっかりしたようだ。


「わん!」


 次は鳴き声が聞こえた。

 わたしたちは一斉にあたりを見回した。

しかし誰もいない。

「わんわん!」今度は先ほどよりも近く聞こえた。

 振り返って足もとを見ると、そこに犬がいた。

「きゃ!」わたしはしりもちを着いた。そこには柴犬がいた。

「犬だ!」

「かわいい」

「わんわん!」

 柴犬は尻尾を振っている。うれしいのだろうか。わたしの顔をぺろぺろと舐めまわした。

人に馴れているみたいだ、飼い犬だろうか。

わたしはしばらくその犬を撫でていた。

なんでこんなところに犬がいるんだろう。


 ピンポンパンポーン


 突然、館内放送が流れた。


「いや、だから、それは」

「院長、真面目にやってくださいよ」

 男性と女性の声がした。

女性が何やら男性に注意しているようだ。

「いやー、厳しいねー、夕実ちゃんは」

「院長、もう繋がってます」

「あ、やべ」

 男性の慌てた様子が目に浮かぶようだった。

「てすてす、聞こえますでしょうか」

「えーでは、聞こえましたら手を上げてください」

 皆はお互いの顔を確認しあった。まず最初に手を挙げるげたのはアラフォー女性だった。

続けてプライドが高そうな少年、その次にメガネをかけた男性が手を挙げた。わたしは最後だった。

「ま、手を挙げたことなんて、こっちからは分からないんだけどね」と天井にあるスピーカーから笑い声が聞こえた。

「ちっ、なんなんだよ」とプライドが高そうな少年は呟いた。


 みんなを不機嫌な顔をしていた。

「さて、冗談はここまでにしておいてと」

「皆さん、全員お揃いでしょうか。と言っても全員かどうかなんてわかんないよねー」

 この一言がみんなをさらに不機嫌にする。

それはそうだ。お揃いと言っても、わたしたちに分かるわけがない。そもそもここがどこなのかさえ、分からないのだから。

「えー、あと少ししましたら、わたしもそちらに伺いますので、皆様、適当にお掛けになって、もう少しお待ち下さい。ではでは、また後ほどー」


 ピンポンパンポーン


 わたしを含め、みんな怪訝な顔をしていた。

「一体どういうことなんでしょうか。」とわたしは言った。

「まったくわかりませんね。そもそもさっきの人は誰なんですか」と今度はメガネの男性が話しを始めた。

 わたしを含め、みんな今の状況が全く飲み込めていない。

「なんか、いい加減そうな男ね」とアラフォー女性はそう嫌そうな顔をして言った。

「とにかく、ああ言ってることだし、もう少し待ってみましょう」とメガネの男性がわたし達を落ち着かせるような口調で話した。

 わたしも同意見だった。今の状況があまりにも分からなかったので、そうするしかないと思ったからだ。

しばらくわたしは犬を触ったりして、時間を潰していた。

すると、ペタペタペタ、とスリッパを履いて、歩くような足音が聞こえてきた。

「やぁやぁ、お待たせしました」

 それは白衣を着た男性と、ナース服を着た女性だった。

男性の年齢は三十後半ぐらいだろうか、猫背で、やせ細っていて、ひょろ長い腕をしていた。

猫背ではなかったら、身長は平均男性よりもかなり高いの身長なのだろうと予想できた。

女性はメガネを掛けていて、二十代後半といったところだろう。中肉中背で美人というよりは、かわいいらしいと言ったの方がしっくりとくる女性だった。


「院長、人を待たせてその謝罪の仕方ではダメです」看護師の女性は眉間に皺を寄せて、白衣を着た男性に向かって怒った口調で話した。

「夕実ちゃんきっつー」

 白衣の男性はふざけた感じでこたえる。

 看護師の女性は深いため息をした後、わたし達の方を向いた。


「皆様、長らくお待たせして、申し訳ございません」

「わたしはここで看護師をしております、小鳥遊夕実<たかなし ゆみ>と申します」

「横にいるこのふざけた人は、当病院、院長の夢島豊<ゆめしま ゆたか>です」

「病院? やっぱりここはそうなんだ」とアラフォー女性

「なんでわたしたちはここにいるんでしょうか」とメガネの男性

「はぁー、家に帰ってゲームの続きしたい」とプライドが高そうな少年


「そうだよねー、訳が分からないよね。何から説明したらよいやら」と考え中なのか、少し間が空いた。

「えーとね、ここはどこかというとね…」彼はそう言って、少し間を置いた。

「夢の中なんだよね」この場がざわついた。

「夢? 何を言っているかわけが分からないわ」

 こいつは一体、何を言っているんだというような空気感がこの場に流れた。


「院長!」と看護師が怒った口調になる。

「そんな言い方をしたら、ますます皆さんが混乱します。そんなことも分からないんですか!」

「えー、じゃあ君が説明してよ」

「最初からそうするつもりです」


「こほん、では今からご説明しますね。ここは、院長が言ったように夢の中です。そしてここは『夢の診療病棟』です」

「夢の診療病棟?」とアラフォー女性がもっと詳しい説明してくれと言わんばかりの顔をしている。

「はい、わたしたちはここで勤務しております。夢の住人と言ったらよいでしょうか。そして、あなた方はここの患者として来院しているということです」

「なんで? わたしどこも悪くないわよ」

「いえ、今、この場にいるということは、あなた方は病にかかっているということです」

「病と言っても、からだのどこかが悪いとかそういう身体的なことではないです。あなた方は人生に対して何かしらの病にかかっています。それがここにいる理由です」

「人生の病って具体的にどういったことなんでしょうか?」今度はメガネの男性が訊いた。

「はい、それはこれからご説明致します。人の人生は生きている間様々な経験をします。喜怒哀楽という言葉があるように、喜び、怒り、悲しみ、楽しみと言った感情があります。またそれ以外に不満、後悔など挙げたら切りがないのですが。わたしたちはこういったことを負の感情と言います。そういった感情のことを、ここでは病の一種としています」

「一体どういうことなのか全然分からないわ」とアラフォー女性が声をすこし荒げた。

「まぁまぁ」と院長が興奮した馬を落ち着かせるような口調だった。

「ここからは僕が説明するね」ここからは院長と言われてる男性が説明するようだ。

「君たちはそれぞれ、今の自分の現実世界での置かれた状況に対して、負の感情を抱えているってこと。

たぶん本人もそれをうすうすは勘づいているはずなんじゃないかな」

「そのせいで、ここにいるってことなんだな」

 負の感情……わたしには心当たりがある。


「それをここで診察して、治すための手助けをさせてもらうってこと、まぁカウンセリングを受けてもらうってことかな」

「カウンセリングって言われてもなぁ」とメガネの男性が言葉を漏らす。

「あのー」と突然、今まで黙っていたプライドが高そうな少年が尋ねた。

「もう帰っていいですか」

「んー。ダメでーす」院長は少しふざけた感じの言い方をした。少年はムッとした。

「まぁ、ダメっていうよりは、無理といった方が正しいかな」

「無理ってどういうことよ」とアラフォー女性がまた声を荒げた。

「カウンセリングを受けないと帰れません!」院長は突然、キリッとした顔立ちをした。まるで、顔文字でよくみる、文字で書かれた顔の横に『キリッ』とだけ、文字が書いてあり、あの自信ありげな時に使う、あれだ。その院長の顔がその顔文字に見えて、わたしは笑いそうになった、が、堪えた。

「院長、ふざけないでください」彼女のこめかみに血管が浮いたのを確認した。

「夕実ちゃんきっつー」

 漫才を見ているかのようだった。

「カウンセリング受けたら、家に帰れるってことですか?」とわたしは訊いた。

「はい、先ほども言ったように、受けていただければ」

 家に帰りたいのは本音だった。でも帰れなくても別にいいと思ってしまった自分が一瞬いた。

「あーめんどくさ」プライドが高そうな少年は、今すぐ帰れることを諦めたのだろうか。椅子に腰を掛けた。

「まぁ、カウンセリングを受けることで、帰れるのなら」とメガネの男性も反論する態度は取らなかった。

「もう、なんなのよ」アラフォーの女性はまだ納得していないようだ。

 わたしもとりあえず受けてみようと思った。

「あれ、皆さん、なかなか聞き分けがよろしいですねー。助かります」と院長はにんまりとした。

「あのー、ここにいるのはわたしたちだけなんでしょうか?」わたしは訊いた。

「はい、ここにいるので全員ですね。他に何かご質問ある人はいますか?」

「あのー」わたしは続けて質問した。

「はい、どうぞ」

「夢ということは、これはわたしの夢ってことですか? それとも……」

 わたしはこの先をどういったらいいのか分からなくり、言葉が詰まってしまった。

「あー、何を言いたいかわかるわかる。自分以外の人はあくまでも自分の夢の中の人なのか、それとも相手も自分と同じような夢を見ているかもしれないってことだよね」わたしは院長の説明に対して、うなづいた。

「それは──僕にも分からない」それは、僕にも分からない、てへ!、と言っていると思わせるような口ぶりだった。

「他になにかありますかー?」

 院長のふざけた態度を見て、これ以上、何も聞く気がしなかった。他の人も同じような思いだったに違いない。

 わたしは、ここが夢と言われても簡単には信じることができなかった。おそらく他の人もそうだと思うが、そもそも夢の中というものは、もっとぼんやりとした意識の中で、何かに追われたり、落ちたりと、まぁ、わたしの場合は怖いことがほとんどなのだが、そんな感じではないだろうか、けれど、今は意識もはっきりとしている。それに、何かに追われたり、落ちたりもしていない。わたしはここが夢の中と説明されても納得がいかずにいた、もしや誘拐、それか監禁でもされているのではないかという、不安と恐怖を感じていた。


 夢であってほしいと願うところは、そこだけだ。

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