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第8話 人助け

来週から仕事が忙しくなるので更新のペースが落ちるかと思います。

「そういえば、ラオムのスキル『空間魔法』って『空間収納』とはどう違うの?」


 アールボーの町の宿屋を出た後、俺の拠点としている迷宮王都ミザールを目指して俺とセリスは街道をてくてくと歩いていた。

 今日は珍しく街道を歩いている人がいないのでこれ幸いにとスキルについて聞いて来る。


 そういや、セリスには授かったスキルについては話したけど、内容までは話してなかったか。


「ん?『空間収納』所持者に会ったことがないから俺も又聞きなんだけど、『空間収納』は物を出し入れする事しか、出来ないらしい。しかも物を入れる時に魔力を消費するが出す時には消費しない。対して、俺の『空間魔法』は魔力を消費しない。何をしても、な」


「ふぇ、私も冒険者をしていて荷物の苦労を知っているから、収納出来るってだけでも便利なのに、魔力も使わずに収納し放題とか!それは冒険者で取り合いになるわけだよ、うんうん」


 セリスは腕を組んで目を閉じ、何かに納得したようにしきりに頷いている。


「まあな。俺でもそう思うよ。荷物の選定や持ち運びを考慮しなくていいんだから、旅が前提の冒険者には喉から手が出るほど欲しいスキルだろうな」


「だねー、それでラオムは冒険者なのに普段は武器も防具も装備していないのかぁ。わかったけど、なんかずるい」


 ぷくっと膨らませたセリスの頬を俺はぷにっと指で押す。


「そう、膨れるなって。セリスの荷物も収納してやるから。でも魔物と遭遇する可能性がある場所では自分で武器と防具くらいは持っておけよ?」


 セリスから背負っていた荷物を受け取ったその時、視界の端に動く何かを捉える。


 あれはゴブリンとホーンラビットか。ちょうどいい。


「そういえば、セリスがどれだけ成長したのか、聞いてなかったな。そろそろ見せてもらうかな?」


 周囲に注意を払いつつ、俺はセリスの方へと視線を向ける。


「せ、せ、成長って!?た、確かに1年半前と比べれば、お、大きくなってるけど・・・ここで見せるのは恥ずかしいよぉ、でもラオムなら私・・・」


 胸を押さえながら真っ赤になってもじもじしている。

 オイ、チョットマテ。オマエハマタナニヲイッテイル?


「ちっがーう!服を脱ごうとするな!周りをよく見ろ!ゴブリンとホーンラビットが近付いて来ているだろうが!見せてもらおうとしたのはセリスの腕前、冒険者としての能力だよ!」


 一気に大声でまくしたて魔物に向かって指をさしたので魔物もこちらが気付いたのを察知したようだ。


「なーんだ。腕前の方か。じゃ、この続きはゆっくり後「早くしろー!」はっ、はい!っと、じゃあ行くよっ!」


 ヒヒュッ!


 弓を構えたセリスが1射したと思った次の瞬間、ゴブリンとホーンラビットの眉間に矢が刺さり、魔物は沈黙した。


「おー、なかなかやるじゃないか!今のは「クイックドロー」か。1射の動きで数発矢を射るってやつだな。さすがは『弓術』所持者!アールボー期待の新人は伊達じゃない、か」


「へへ〜ん。私もちゃんと努力していたんだよ!いろんな人とパーティー組んだけど、ただのお飾りじゃないぞ。次、魔物が出たらラオムの番ね。Cランク冒険者の実力をみせてもらうんだからね」


 フンスッ!と自慢顔で胸を張り、楽しそうに歩き始める。


「はいはい、わかってますよ。お姫様。俺はセリスみたいな武器系の攻撃スキルが無いんだから地味だぞ?あんまり期待するなよ?」


 ゴブリンとホーンラビットの魔石と素材を回収をサクッと終わらせる。


「あ、そうだ。ラオムが生きていたことが嬉しくてつい言い忘れていたけど、ちゃんと村に帰っておじさんとおばさんに『実は生きてました』って報告しないとダメだよっ!私もそうだったけど、おじさんとおばさんもあの時はものすごく悲しかったんだから」


 セリスが人差し指をピッと立てながら指摘してくる。


「うっ、俺も水葬される時の様子は見ていたから父さん達が哀しんでいたのは知っているんだけど、なんとなく会いに行きづらくてな・・・。い、いやっ、そう睨むなよ、セリス。なんというか、その、恥ずかしいんだよ!」


 俺は顔を真っ赤にしてセリスとは反対側を向いて話す。


「あんな村の人総出の水葬までしてもらって1年半も経っているのにどういう顔して会いに行けばいいのか、分からないんだよ」


「んー?そんなに難しく考えなくてもいいんじゃないかな?ラオムのお葬式をしてから確かに1年半経っているけど、普通自分の子供が生きていたら理由はどうあれ嬉しいと思うよ。私だってあれだけ嬉しかったんだからおじさん達だってきっとそうだよ」


 チラリとセリスの顔を見るとなんというか、いつも見ない凄い大人びた優しい笑顔でそう答えていた。


「・・・わかった。セリスがそう言うならもう少し時間が経って俺の気持ちに整理がついたら父さん達に会いに一旦村へ帰るよ。・・・その時は一緒に来てくれるか?」


「うん、わかった。そんな風に頼まなくても一緒に行くよ。大丈夫だよ」


「・・・ありがと、な」


 俺はセリスに聞こえるか聞こえないかくらいの声でボソッと呟く。


 セリスは何も言わず、ニコッと微笑んでくれた。


 そんな会話をしながら街道沿いを歩いていたが魔物は空気を読んでいるかの如く現れなかった。街道沿いは魔物と遭遇しにくいとは言え、内心ものすごく気まずかった。



 そんな中、しばらく進んだ時、街道から外れた先にある森から勢いよく1人の少女が飛び出して来る。


「だ、誰か助けて!誰かー!助けて、助けてー!」


 よく見れば、顔や腕、足等身体のいたるところに無数の擦り傷がついており、息も絶え絶えで何かに追われていたのか、どうも軽く混乱しているようだ、


「おいおい、あんな小さい子が1人で森なんか入ってゴブリンにでも追いか・・、いや、あれは!?」


 少女の後を追いかけるように森から魔物化した熊(レッドアイベアー)が攻撃態勢で飛び出して来る。

 魔物化した熊(レッドアイベアー)は魔力の濃い場所を棲家とする事で野生の熊が魔物に堕ちた変異種だ。このミザール近隣で遭遇する魔物の中では群を抜いて強く初心者を抜け出した中級者がただの熊と間違ってよく返り討ちに遭うことから『中級者殺し』と言われているが実際は

 上級者Dランクパーティーで挑むクラスの魔物だ。

 少女が逃げ切れる相手では無い。

 正直、ここまで逃げ切れただけでも運がいいと思う。

 俺はこのまま少女が魔物の餌になるのを黙って見ていられるわけがなかった。


「ちっ、まずいな!行くぞ、セリス!」


 セリスの返事も待たず、俺は一直線に駆け出す。


『身体強化』によって俺の運動能力は強化されている。魔物化した熊(レッドアイベアー)が少女に襲いかかる前にその間に割り込めるだろう。


「うん、わかった。って早っ!?もうそんなところに!?」


 走りながら武器防具を装備して、魔物化した熊(レッドアイベアー)と少女の間に割り込む。


 ザッ!


「よお、楽しそうだな。俺とも遊んでくれよ、なっ!」


 魔物化した熊(レッドアイベアー)の注意を少女から俺に向けさせるように牽制の攻撃を数撃放ち、ジリジリと少女から引き離して行く。

 その間に追いついたセリスが少女を保護し、傷を負っている少女にヒールをかける。


「その聖なる力を持って、彼のものに癒しの奇跡を与え給え、ヒール!」


 全身に付いていた傷が瞬く間に回復されていく。同時に痛みが無くなった事。魔物化した熊(レッドアイベアー)が少女を標的としなくなった事により混乱は少しずつ治まっていった。


「もう大丈夫だよ。傷も治ったし、急いでここから離れよう」


「う、うん」


 セリスと少女はラオムと反対方向に離れて行く。


「よし、安全な距離まで離れたみたいだな。魔物化した熊(レッドアイベアー)程度なら『アレ』を使わなくても余裕だな」


「ガァァァァァァッ!」


 魔物化した熊(レッドアイベアー)が立ち上がり、両手を高く上げて威嚇する。ただでさえ巨体なのに立ち上がることで身長は3mを超える。威嚇としては、十分だろう・・・ただの冒険者相手なら。


「さあ、お前には俺の糧になってもらおう!」


 3mを超える高さから全身のバネを使い、その巨体に似合わない程の速さで振り下ろされる片手の一撃は空気を切り裂き、触れたもの全てを肉塊に変えんばかり勢いを持って俺に迫る!

 普通の冒険者なら後ろに引いて回避する一撃を俺は敢えて相手の懐に飛び込み、振り下ろされたのと反対側の肩を思い切り槍で突く!


「ガァァァァァ、ァ!?」


 勢い良く振り下ろされた腕と逆の肩を突かれた事で魔物化した熊(レッドアイベアー)の身体はまるで独楽のようにクルンっと回転してバランスを崩し、ドズゥゥゥンと尻餅をつく。

 突き出した槍を瞬時に引き戻し、手頃な高さになった魔物化した熊(レッドアイベアー)の眉間に槍を突き刺す。

 ビクッ!と一瞬大きく震え、魔物化した熊(レッドアイベアー)は生き絶え魔石になったのを確認する。

 素材を回収するのは後回しにしてセリスと少女の様子を見るため、そちらへ移動する。


「で、セリスそっちは落ち着いたか?」


「うん、傷も治したよ。相当疲れていたのかな?今は寝てるよ」


 見れば少女はセリスの膝枕でスースーと寝息を立てていた。

 何故森にいたのかは分からないがこんな年端もいかない少女があんな恐怖を体験すれば、精神的にかなり疲れただろう。無理もない。


「このまま休ませてやりたいところだが、野宿するのもな。無理すれば今日中にミザールに着けそうだから、ちょっと急ぐか。この子は俺が背負って行くよ」


「確かにこんな小さい子が野宿なんて大変だよね。ラオムの意見に私も賛成だよ。ラオム頼むね」


 装備を収納して、少女を背負う。

 あっ、何だろう?ほんの僅かだけど何か良い匂いがする。香水か?この子が?森の中にいたのに?

 謎が深まるな。


「ああ、任せておけ。しかし、どうやってこの子は1人でここまで来たんだ?何をしていたのだろう?わからんな、起きたら聞いてみるか」


「それは私も気になっていて、落ち着いたら聞こうと思ってた。寝ちゃったけどね」


 そっとセリスが寝ている少女の頭を優しく撫でる。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 少女を背負ってミザールへ急ぐ。

 道中、何度か魔物に襲われた。魔物を狩りたい時には出て来ずに、出て来てほしくない時にたくさん遭遇する。こいつらわかってやってんのかと思う時がある。

 実に厄介だ。

 とは言え、ミザール周辺の魔物は大した事ない魔物が大半なので遠方からセリスの一方的な射撃で全て片付けた。

 面倒なので素材は放置である。


 そんな感じでなんとか日が落ちきる前にミザールの城門に辿り着けた。

 未だに少女は俺の背中で寝息を立てていた。

 結構揺れていたと思うんだが大物の器かもなぁ。


「まだ寝てるな。さすがに身分証の提示無くこの寝てる状態では入れてくれないだろうな」


「そうだねー、可哀想だけど私たちの確認の番が来る少し前に起こすしかないと思う」


 今は日が落ちる前ということもあって入門審査にはそれなりに列が出来ており、順番待ちをしている。

 俺たち冒険者はギルドカードを見せればほぼ素通り出来るのだがこの少女はそうはいかないだろう。


「何か証明出来るものがあれば良いのだが、最悪は保証金払って入れるしかないかな」


 なんて考えながら順番待ちをして、そろそろ起こそうか、と思っていた時に少女が起きた。


「ん〜、ここは?はっ!魔物化した熊(レッドアイベアー)は?どうなったの!?」


「お、起きたか。ここはミザールの城門前だ。魔物化した熊(レッドアイベアー)は俺が倒したからもう安心だぞ。ところでお前、身分証とかあるか?もうすぐ入門審査の順番なんだけど」


 キョロキョロと周りを落ち着いて見回し、どうやら状況を理解したようだ。


「なるほど、世話になったようですね・・・とりあえず降ろしてもらってよろしいでしょうか?」


「あ、ああ。わかった。これでいいか?」


「重ね重ねすみません。助かりました。礼を言います。とりあえず入門審査については心配ありません。こちらで何とか出来ますので。あなた方は見た所、冒険者のようですがお名前はなんと?」


 なんと言うか、この年齢でしっかりとした言葉遣いが出来る子供だな。でも他人に名前を訪ねる時は自分からっていう常識までは教わっていなかったようだな。知らないってことは、もしかして貴族の子供だったりして。

 まあ、いい。ここは俺が大人になってやろう。


「俺の名前はラオム。こっちがセリスだ。君の名前は?」


「私は・・・マ、マルティ。そうマルティです。ラオムにセリスですね。確かに覚えましたよ。今日のお礼は後日改めて連絡させてもらいます」


 そう言うとセルフィは門番に一言二言告げて城門脇にある門番の詰所に入って行った。


「なんだかよく分からないが、行くか。セリス」


「・・・っあ、うん。考えても分からないから、いいか。よし、行こっか」


 城門を通る時、俺たちと同時に審査を終えて城門をくぐって一台の馬車が通る。

 馬車は荷台が檻になっているようで中には、嗅覚に優れており鋭い牙や爪を持った獣人族、顔中髭で覆われた屈強な手足のドワーフ族、華奢で細身の金色の髪のエルフ族、元冒険者らしく身体中に傷があったり引き締まったいる体の持ち主が多い人族。さまざまなの奴隷と思わしき人々が手枷に足枷をさせられて座っていた。


「奴隷、か」


 パーティーとして戦力を整えるなら奴隷も有り、なのかもかなぁ。

 ふと、そんな考えが頭をよぎった。


「もう日も落ちたし、宿屋へ行くか」


 俺とセリスは、俺が定宿としている『星と目覚めの鳥亭』に向けて歩き出すのであった。

現在のステータスです。


ラオム

LV.39

ギルドランク:Cランク

スキル:『空間魔法LV.3』『身体強化LV.5』『魔力制御LV.5』

装備

ミスリルの槍

ミスリルの胸当て

ミスリルの小手

ミスリルのブーツ


セリス

LV.11

ギルドランク:Eランク

スキル:『神聖魔法LV.3』『弓術LV.2』

装備

狩人の弓

木の矢

ローブ

ケープ


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