第7話 1年半
「待って、ねぇ、待ってよ、ラオム〜。ごめんなさい、調子に乗ってごめんなさいぃ〜」
歩いている俺の腰にへばりつきながら、ひたすら謝るセリス。
こいつ、1年半見ない間になんか性格変わってないか?前は人見知りであんな事言うやつじゃなかったのに。
「はぁ、わかったよ。俺も悪かったからな、おあいこって事で許してやるよ。だからいい加減に離れろよ」
「うぅ〜、よかったよぉ〜、ぐすん」
持っていた布でセリスの顔を拭いてやる。今のままじゃさすがに可哀想だからな。
「ありがと〜、ラオム〜」
拭かれるがままにされるセリス。
拭き終わり、ふと視線があることに気が付いて周囲を見ると周りの通行人全員がニヤニヤとこちらを生暖かい目で見守っていた。
「うわっ、ちょっ、セリス!早く場所を変えるぞ!おい、行くぞ!」
「えっ、ちょ、待って〜」
セリスの手を半ば強引に引っ張り、俺とセリスは駆け足でその場を逃げ出すのであった。
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宿屋街に来て適当な宿屋へ飛び込む。
「はぁ、はぁ、おばさん、部屋、2人分空いてる?」
宿屋に入るやいなや、息を切らしながら受付にいるおばさんに問い合わせる。
「あぁ、2人分ね。空いてるよ。うちは防音仕様だから安心しな。だから、ご・ゆっ・く・り」
トンッ、とおばさんはカウンターの上に部屋の鍵を1つ載せる。
「えっ!?あの、その、ラオムがそうしたいのなら、私は別に・・・ごにょごにょ・・・」
「!?ち、違う!シングルを2部屋だよ!2部屋!」
隣で真っ赤な顔して俯いてごにょごにょ言ってるセリスは無視して俺はおばさんの発言を否定する。
「なんだい、シングルが2部屋かい。儲かるけどつまらないねぇ」
俺はひったくるように鍵を取るとセリスの手を引いてドスドスと足音を立てるようにしながら部屋へ向かう。
並んでいる部屋の片方に二人で入り、セリスをイスに座らせる。
「セリス、とりあえずまず落ち着け。しばらくして落ち着いたら俺の部屋に来い。話をしよう。いいな?」
「ふぇっ!?ラオムの部屋に準備出来たら行く!?あわわっ!??!わ、わたし心の準備、わわわっ、がまだ!??!?で、でもラオムになら、べ、べつに!??」
「ていっ!」
何の準備をしようと考えているんだ!
混乱しっぱなしのセリスの頭に俺は軽く手刀を打つ。
「あぅ!」
「ほらっ、とりあえずこれでも飲んで落ち着け。この慌てん娘」
収納から熱湯が入ったポットとティーカップを2つ。あと紅茶を取り出し、紅茶を淹れる。
俺の『空間魔法』の収納に入れたものはどうも時間の干渉を受けないらしく、熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たいまま保存することが出来る。
「どうだ、落ち着いたか?セリス」
淹れたての紅茶が入ったティーカップを両手で挟み込むように持ち、セリスはゆっくりと時間をかけて一杯飲み干す。
「ふー、落ち着いたよ。迷惑かけてごめんね、ラオム」
「気にするな、いつものことだ。さて、落ち着いた所でまずはお互いの近況でも話しあうか」
「うん、そだね。私もラオムのあれからの1年半どうしていたのか、凄い気になってるよ」
「じゃ、まず俺からな。あの日、俺は胸を隕石に撃ち抜かれて・・・」
俺はセリスにこれまでの事を正直に全て話す。
一度、間違いなく死んだ事。
フェーイヒカイト様、神様に会って特別なスキルを授かり、生き返らせてもらった事。
よくわからないけど目的があるらしく、とりあえず冒険者をするように言われたこと。
俺の遺体が水葬された後、アールボー付近の海岸に流れ着いた事。
アールボーで冒険者になった事。
スキルを見せたら冒険者達に1年間共有させられた事。
スパルタ教育でたった1年間でCランクにまでなった事。
半年前にミザールに拠点を移した事。
今日はたまたま依頼でアールボーに来た事。
全て話した。
「今の俺は『目的を見つけること』を目的としている冒険者ってところだな」
重たかった雰囲気を吹き飛ばせないかと少しだけ軽く言ってみる。
それを聞いたセリスは、
「・・・大変、だったんだね。ごめん、なんか色々な感情が混ざってなんて言ったらいいのか、上手く言えないけど・・・。ラオムが生きていて本当に良かった」
ニコリ、と笑顔で言うセリス。
「バカ、それで十分だよ。・・・ありがとな」
「うんっ!それじゃあ、次は私だね」
俺はお互いのティーカップに紅茶を淹れる。
「あぁ、頼む」
「ラオムが森で血を流して倒れているのを見つけて・・・」
セリスが話した内容をまとめると、
俺が森で倒れていたが、村に連れて帰った時にはもう死んでいた事。
父さんと母さんが俺の死を見て激しく慟哭していた事。
セリスが水葬にしたいと言い出した事。
葬式の後、セリスが1ヶ月程何をやるにもやる気がでず、引きこもっていた事。
立ち直り、一大決心をして冒険者になろうと決めた事。
1年間、村の大人に混じって狩や冒険者の勉強をしていた事。
数ヶ月前にアールボーで冒険者登録した事。
パーティーに入る気はなかったのにあっという間に取り巻きが出来て正直困っていた事。
今日、依頼が終わってギルドに戻ったら見覚えのある後ろ姿があって衝撃が走った事。
「・・・私ね。村で引きこもっていた時にラオムのあの言葉を思い出したんだよ。『不安はあるだろうがセリスが待ち望んでいたスキルなんだから頑張って努力して使いこなして冒険者になって沢山の人を助けられるといいな!』って。それで、そうだ!私の夢は冒険者になって沢山の人を救いたいんだ!いっぱい努力してLV.をあげてラオムみたいに苦しんでいる人を救うんだ!なのにこんな部屋で蹲っているだけの毎日じゃあダメなんだ!ってね。それからいっぱい頑張ってアールボーに来て冒険者になって依頼もいっぱいこなして、今日ラオムの姿を見て私、思ったんだ」
「・・・なんて?」
「小さい頃から冒険者になりたくて、あの引きこもっていた日に思い立って冒険者になったのは今日、この日、この場所でラオムに再開するため、運命だったんだ!って。私はそう、思ったんだよ・・・」
そう、最後に呟いてセリスが紅茶の最後の一口を飲み干す。
「そっか。そうだな。この出会い、再会には意味がある。そう思いたいよな」
「うん」
俺も紅茶を一気に飲み干す。
「さっき冒険者ギルドでセリスと約束したって訳じゃないけど。セリス、俺とパーティー、組むか?」
「ちょっとラオムぅ、この流れは『俺のお嫁さんになるか?』だよっ!」
ジト目でからかうようにセリスが俺を見つめる。
「ちょ、てめ、この、セリスっ!くそっ、もうお前とパーティーは組まんっ!」
俺は腕を組み、プイっとソッポを向く。
「あははは、ごめんごめん。冗談だよ、じょーだん、あははは」
楽しそうに笑うセリスの笑顔に救われたような気がする。
先程の重たい雰囲気はどこへ行ったのやら、部屋の空気が一新されていた。
「まったく、お前はこの1年半で変わったよな」
「そう言うラオムは全くかわらないよね」
そうお互い言って見つめ合い、
「「あはははははははっ!」」
笑い合った。
「よし、じゃあ今日は休んで明日なったら行くか!」
「ん?どこへ行くの?ラオム」
「どこへ?って俺の拠点としているミザール、だよ。俺のパーティーメンバーなんだろ?ならセリスの装備を整えなくちゃな!」
「!?うん、そうだね!よし、ラオム、ミザールへ行こう!」
こうして俺はセリスと再会し、セリスがパーティーメンバーとして加わった。
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さて、お話の方は早く迷宮に行きたいのになかなか行かせてくれません。
迷宮に行けるのはもう少し先になりそうです。