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第4話 冒険者登録

 第4話 冒険者登録


 レンガ造りの建物に備わっている両開きのドアを押し開け、俺は恐る恐る中に入る。

 入ってみると中にいた冒険者達の視線が集まる。

 ある者は興味深く俺を観察し、ある者は興味無さげに元の視線に戻し、ある者はニヤニヤと薄気味悪い笑顔を浮かべる。

 俺はそんな彼らの視線は無視して室内を観察する。

 室内は入り口から正面奥に受付カウンター、右手側に掲示板や個別相談コーナー、左手に酒場という配置だった。


「何をするにもまず冒険者登録だよな」


 掲示板も気になったが自分にそう言い聞かせて少しドキドキしながら受付カウンターに向かう。

 受付には犬の獣人の様だが村では見たことが無いくらいキレイ系の美人が座っており、さらにドキドキしながら声をかけようと近づくと、


「こんにちは、今日はどのような御用件でしょうか?」


 美人からの先制パンチが入る。

 こうなると事前に用意していた言葉がとっさに出て来ない。


「えっと、あの、その、すみません、冒険者登録を行いたいのですが、どうしたらよいですか?」


「初めての方ですね。承知しました。では、改めて。・・・冒険者ギルド アールボー支部へようこそ!受付担当のアトリと言います。登録ですね。それではこちらに必要事項を御記入下さい」


 おぉぅ、この対応この笑顔。すごいな。こんな対応と言うか瞬時に切り替わるとは思わなかった。

 最初から笑顔ではあったけど、もう1つ上の笑顔があるとは思わなかったな。


「あ、はい。分かりました」


 差し出された用紙を受け取る。

 記入すべき内容を確認する。

 俺の実家は商店だったので父さんから基本的な読み書きは習っていたのが役に立ったな。


「あの、必要事項って名前と種族と年齢だけでいいんですか?」


「はい、それだけで結構です。書き終わりましたら裏面の規約も御確認下さい。後程、相互確認の為に口頭で説明致します」


 規約についてまとめると、


 1.利用について

 冒険者ギルドに登録する事で冒険者カードが発行され、加盟している世界中の冒険者ギルドで同等サービスを受けることができる。


 2.サービスについて

 各種仕事の斡旋紹介、報酬の受け渡し、魔物の素材等の買取を行っている。


 3.冒険者カードについて

 冒険者カードは冒険者自身がしっかり管理する事。冒険者カードに記載されているランクはG,F,E,D,C,B,A,S,SS,SSSの10段階となる。

 紛失した場合、再発行は可能だがランクはGからとなる。

 基本的に自身のランクより1つ上の依頼までしか受けることが出来ない。


 4.禁止行為について

 a.各国の法令に違反する行為

 b.ギルドの品位を貶める行為

 c.他の冒険者の依頼を妨害する行為

 d.ギルド員同士の生死かけた決闘等の行為

(相応の理由または生死が保証されている場合は除く)

 禁止行為が見受けられた場合は相応の処置を行う。


 5.ランクの変動について

 ランクに応じた規定回数の依頼達成もしくは依頼難度に応じて昇格する。一定期間依頼を受けないもしくは一定回数依頼を連続で失敗した場合、1つ下のランクに降格となる。


 6.義務について

 魔物の襲撃等で国もしくはギルドから要請があった場合は特別な理由がない限り、それに従う義務がある。

 戦争が発生した場合は任意とする。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 なるほど、わからん。


 アトリさんの話だと基本的な事なので冒険者をやっていれば自然とわかって来る内容なんだとか。

 なら今深く理解しなくてもいいか。


「規約についてはよろしいでしょうか?それでは、こちらの石板の上に手を乗せて下さい。ギルドカードの作成を行います」


 アトリさんの指示に従い、受付カウンターの上にある魔法陣の様なものが書き込まれている石板の上に手を乗せる。

 手のひらから『何か』が引き出されて行く感覚があり、石板全体が薄っすら明滅するがすぐに収まる。


「はい、登録が完了しました。これがラオムさんの冒険者カードとなります」


 ん?今、カードを受け取る時、アトリさんの目が一瞬鋭くなったような?気のせいか。


「ありがとうございます」


 何やら金属製のカードを受け取る。

 カードには、名前、性別(非表示可能)、年齢(非表示可能)、種族、LV(非表示可能)、ギルドランク、スキル(非表示可能)、パーティーが記載されている。


 名前:ラオム

 性別:男

 年齢:15

 種族:人族

 LV.:1

 ギルドランク:G

 スキル:空間魔法LV.1 身体強化LV.1 魔力制御LV.1

 パーティー:


「なんか色々と便利そうなカードですね。個人のLV.まで表示してくれるのか。スキルLV.もわかるし、身分証にもなる。このカード、便利過ぎるな。ん?あのアトリさん、このパーティーって言うのは何でしょうか?」


「はい、それはですね、パーティーと言うのは冒険者同士、もしくは奴隷、魔物で構成することが出来る小さな団体です。基本5人1組となっており、パーティーの5人には均等に経験値が加算されると言われております。パーティーの編成はギルドカードからの操作で誰でも可能ですが、編成した方がリーダーとなります。リーダーは加入、除名が可能でメンバーは脱隊のみとなります」


「必ずしも5人必要という事もないでしょうか?」


「もちろん人数の最大が5人というだけであって4人以下でも大丈夫です。戦闘後の経験値は入りませんが6人目、荷物持ちという事でパーティーに追従する人もいます。駆け出し冒険者や冒険者見習いの方が戦闘を勉強する為にされているケースが多いですね」


 なるほど、俺も戦闘経験なんて無いから最初はどこかのパーティーの荷物持ちをしてを勉強するのがいいかも。


「パーティーについて分かりました。あと、町に来る時に冒険者が3名、ゴブリンに襲われて亡くなられていましたのでそのギルドカードがあるのですが」


 そう言って俺は3名分のギルドカードをカウンターに置く。

 そういや、カードの中身全く見てなかったな。まあ、いいか。見たところでどうする事も出来ないし、ギルドに任せよう。


「回収いただいてありがとうございました。当ギルドで責任を持って御遺族に連絡したいと思います。ラオムさんには早々に辛い役回りをさせてしまいましたね。申し訳ありません。これにめげず頑張って下さい。あとギルドカード回収の謝礼金として大銀貨9枚を支払い致します」


「いえいえ、アトリさんが謝る事ではないです!たまたま出くわしただけなのですから、しかたないですよ。それより色々教えてくれてありがとうございます。また何かわからない事が出来たら教えて下さい」


「もちろん、そのための冒険者ギルドでもありますからいつでも来て下さいね」


 ニッコリと笑顔のアトリさんに最後までドキドキしながら俺は掲示板へ向かう。


「セリスは女の子として可愛かったけどアトリさんはキレイ系で可愛かったな。あ、そうだ。こういう時は挨拶しておかないとな」


 商店の店主の父さんや村に来ていた冒険者達から聞いていた事、目上や先輩には挨拶をしっかりする事、社会で生きていくということの常識だそうだ。

 そう思い出し、掲示板でなく酒場の入口中央付近に向かい、


「初めまして!今日から冒険者の仲間入りしました、ラオムと言います!昨日、15歳になったばかりで右も左もわからない初心者ですが冒険者の先輩方に負けないように、御力になれるように頑張りますのでよろしく御指導お願いしましゅ!」


 いかん、大声で言ったはいいが最後で噛んだ!

 めちゃくちゃ恥ずかしいぞ、これ!

 顔や耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。しかも、


 ・・・シーン


 場内も騒がしかったのに俺の挨拶で水を打ったように静まり返ってしまって変だな?と思った瞬間、


「・・・くはっ、くははは、な、何を言いだすかと思えば、このルーキーは!」

「ワッハッハッ!お、おもしれー、奴だな!」

「くっ、この初心者、侮れん!この場を一気に持って行ったぞ!って駄目だ堪えきれん!ブッ、ハハハハハハー!」

「冒険者になって、あ、挨拶するとか、どんな田舎者だよー。ぶばはははー!」


 酒場にいた全員が一気に笑い出す。


「あれ?俺、何かおかしいこと言ったかな?」


 う〜ん?と頭をひねっていると酒場の冒険者達の中から1人の猫獣人の女性が笑いを堪えながら歩いて来る。


「あ、あんた、あははは、なかなかお、あははは、面白い挨拶をするじゃないか。ははは、こんなに笑ったのは久しぶりだよ」


「笑うのか話すのかどっちかにして下さいよ」


「あー、いやスマンスマン。我慢するつもりだったんだがな。あたしはウォーム。『スカイブルー』ってBランクパーティーのリーダーをしている。よろしくな」


「ラオムです。こちらこそよろしくお願いします」


「ウォームでいいよ。まあ、普通の新人はあんな挨拶なんてしやしない。基本的に冒険者自体がみんな相手より自分を大事にしているからね。新人に手取り足取りものを教えるなんて事はしないのさ。よっぽどの物好きでない限り、ね」


 うはっ、それって俺はどれだけ的外れな事をしたんだ?村で俺が教わった事はなんだったんだ。

 一気に顔が真っ赤になったのを感じる。


「んで、ラオムはどんなスキルを授かったんだい?冒険者として自分の手札を晒すのはあまり感心できる事ではないが、あんな挨拶をされちゃぁねぇ。この町であんた舐められちまうよ?」


 ウォームが肩をすくめながらやれやれと言った感じで教えてくれる。


「ぐ、ぐぬぬ、そうなのか。わ、分かりました。舐められないように教えてくれてありがとうございます。戦闘面はからきしですが俺のスキルはこんな事が出来ます」


 そう言って手近にあったテーブルとイスを『空間魔法』で収納して、置いてあった場所とは反対側に出してまた置く。


「どうでしょう?こんなスキルなんですけ、ど?」


 あれ?さっきまで笑い声が止まなかったのに今度は一斉に静かになった?


「『空間収納』系のスキルなんですが」


 ガタッ!

 ガタガタッ!

 ガタッガタガタッ!


 座っていた冒険者達が一斉に無言で席を立つ。

 ん?なに?なんか始まるの?

 あれ?お互いを睨んで牽制しあってる?


 静寂を嫌ったとある冒険者が口火を切って俺に話しかけた途端、一斉にみんな話し始める。


「いいぜおめー、俺たちのパーティーに入れてやるぜっ!さぁ、冒険の旅に出発だ!」


「てめー!抜け駆けすんなよっ!ラオウ、安心しな!初心者にも分かりやすいと評判で安心と信頼で出来ている俺たちのパーティーに入るといい!すぐに一人前にしてやるぜ!」

「いやいやラムー君、さあ、行こう!すぐ行こう!今すぐ俺のパーティーにはいってくれ!今ならこの剣と盾をあげよう!なんならこの小手もつけるよ!だから、さあ、おいで!カモン!」

「はぁはぁ、ラオウ君、あんな君の名前も覚えてない様な男達のパーティーなんかやめておねーさん達のパーティーに来なよ!エロエロじゃない、イロイロ教えてあ・げ・る!だから来てー!お願い!」


 うわっ、なんだ!?なんでこうなった?

 ひどい手のひら返しを見たぞ。

 しかもなんだこの異様な熱気は!?

 俺の前で何人もの人が「ラオムはうちのパーティーに」なんて言い合いをしていて収拾がつかない。

 俺は助けを求めてウォームをチラ見する。


「やれやれ、まさかレアスキルの『空間収納』とは、ね。冒険すれば当然荷物が出る。長期間迷宮に行くにも準備が必要だし、迷宮で手に入れた素材や魔石を持って帰るにも持って帰れば帰るほど荷物になる。冒険者ってのは常にその手の悩みがつかないんだよ。だが『空間収納』のスキルがあれば、そんな問題は一気に解決する。だからみんなそのスキル持ちが喉から手が出るほど欲しいってわけさ。だからラオム、あんたうちのパーティーに・・・」


「あーーー!ウォームの姉さんが抜け駆けしてるっ!!ずるい、ずるいよー!」


「って、いいじゃねーか!あたいが1番に声を掛けたんだから!」


 ウォームも加わり、さらにヒートアップする集団。

 本人無視して相談してんじゃねーよ。

 あぁ、もう!収拾がつかん!

 こうなったら・・・よし!諦めた!なる様になれ!

 そう切り替えたらちょっと楽になった。

 ボーッとしていても仕方ないので酒場のカウンターに行き、マスターに話しかける。


「マスター、ここの冒険者達はいつもこんな感じなんですか?なんか治まるいい方法はないですかねぇ?」


「・・・1つのパーティーで独占するのではなく、ルールや期間を決めた持ち回り制にしては如何でしょうか?」


 口数の少ないマスターがボソッと意見する。


「「「「「それだっっっ!!!」」」」」


 冒険者達が一斉にマスターを指差し声を揃えて言う。


 こうして俺は冒険者ギルド登録初日にみんなの共通のパーティーメンバーとなり、あっちのパーティー、こっちのパーティーを行ったり来たりする事に決まった。

 今はルールなどがあらかた決まったのでみんな大宴会モードだ。

 そして俺がカウンターで1人ぐったりしていると目の前にレモンスカッシュがトンッと置かれる。


「あれ?マスター。俺頼んでないですよ?」


「・・・私からのサービスですよ、明日から頑張って下さい」


「ありがとう、マスター!」


 そのレモンスカッシュは俺の心に沁みた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 理解力がない無知なる馬鹿かよ
2020/01/24 09:40 退会済み
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