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第31話 スキル改変1

思う所があり、結構多めの加筆修正を行いました。

 

 取り出したのは1冊の本だった。


 少し古びた感じではあるが、装丁が豪華で表裏表紙に宝石や金属がふんだんに使用されており、一見しただけで高価、価値がある本なのが伺えた。


「なんだかキラキラした本だね。えっと、読書でもするの?」


「いやいや、この流れでそれはないだろ。いいか? これからテレーゼについて行う事、その後に出てきたこの本、と聞いてセリスは何か思い出さないか?」


「......ん~ん~、私は本なんて読まないからなぁ。あんまり記憶に無いんだよねぇ。あ、テレーゼは本って読むの?」


 目を閉じて腕を組み、さんざん考え込んだ挙句、話を突然テレーゼに振る。セリスから話をいきなり振られたテレーゼは慌てた様子で、


「え、あ、わ、私ですか!? 私は実家にいた頃は教育の一環として嗜む程度ですが読んでいました。ですが今は奴隷の身分ですので本などとてもではありませんが......」


 下に俯き、顔を伏せてしまったテレーゼだが突然何かに気がついたようにハッとして顔を上げる。


「あ、あのラオム様! その本はも、もしかして『スキルの書』ではないでしょうか? 実家にいた時に習っていた本にちょうどそのような本の装丁の記述を見た覚えがあるのですが......」


 俺はニヤリと笑い、『スキルの書』を二人の方に向けながら回答を明かす。


「よく知っていたなテレーゼ。正解だ。こいつがかの有名な『スキルの書』、先日のちょっとした魔物退治の褒美として王様から1回分の使用許可を貰っているんだ。で、ここまで聞いたら察しが付くと思うがこいつをテレーゼに使おうと思っている」


「えー? 『スキルの書』の事は覚えているけどそんなのいつ持ってきたの!? 私全く全然覚えがないよ!?」


「覚えがないも何も昨日、セリスとテレーゼが新しい服が欲しい~、って特訓帰りに服を買いに行っている間にチャッチャッと王城に行って王様は忙しそうだったからマルティに頼んで借りてきたんだが?」


「そんな! 1人でセルフィに会いに行ったなんて......きっと美味しいお茶やお菓子をご馳走になったに違いない!! ずるい! 私も食べたい!」


「ちょっと待て。誰もお菓子なんてないーー」


「ラオム様! 確かに私は奴隷の身なので主人から『使え』と命令されれば使わざるを得ません。ですがせっかく『火炎属性』もほぼ制御できる様になりましたので何卒御慈悲をいただけないでしょうか!?」


 いつものように俺とセリスが掛け合いをしているとテレーゼが慌てふためきながら突然土下座をして割り込んできた。


「え? え? どうしたの? テレーゼ、落ち着いて!」


「あー、そうか。テレーゼは『スキルの書』がどういった本なのか知っているんだよな。当然過去に使用した者がどういうことになっているかもいくらか知っているわけだ。まあ、多分大丈夫だ。テレーゼが考えている様なそんな大ごとにはならないだろうさ」


 どうどう、と言った感じで土下座しているテレーゼ前にしゃがみ、肩をやさしくたたいて気持ちを落ち着かせようとする。


「ですが、ですがこれまでの使用者は大概スキル改変の反動で酷いデメリットを被っていると書かれておりました。これまで悩んでいたスキルの問題から解放され、これからやっとスキルに悩まさせることなくラオム様にお仕えできると思っておりましたので何卒御慈悲を......!」


 いったいテレーゼが読んだという本にはどんな記述が書かれていたんだ? 普段冷静なテレーゼがここまで怯えるだなんてよっぽどだぞ?


 いつまで経っても土下座を止めないテレーゼに俺の考えを説明する。


「確かにテレーゼが知っている様に俺もこれまでの『スキルの書』の使用履歴を見て変更内容やその後に発生した反動と言うか代償を調べて見た。知っていると思うがスキル改変をする場合、対象となるスキルの貴重性、能力、変更する内容等、様々な要因がある。改変する要因が多ければ多いほどその代償は大きく、小さければその代償も小さい。例えば過去には、自分にとって不利な内容のスキルの一部の効果を削除して財産を失った者、不要なスキル自体を全く別なスキルに改変して自身の親族全てを喪った者、所持していたスキルが少なかったから新しく望むスキルを追加して何重もの呪いが降りかかってきた者等、スキルの改変には高い割合で酷い代償が返って来ていた。もちろん代償らしい代償も無い成功例とも呼べるケースもある。それらを分析してみて俺はある程度の法則性を見つけたんだ」


 俺が見つけたこの法則性が正しければ、テレーゼのスキルを有用なものに変えてもそこまで代償は発生しないと思われる。


「法則性? でも酷い代償だった人の方が多かったんだよね? それって本当に大丈夫なの?」


「確かにな。確実とは言えないがまあ、聞いてくれ。それで2人の感想を聞かせてくれ」



 法則その1


 元からあるスキルの効果などに対して追加もしくは削除してはいけない。


 法則その2


 全く違うスキルに変更してはいけない。


 法則その3


 自身が所持していたスキルの数を変動させてはいけない。


 法則その4


 使用者のLV.は高い方が良い。


 法則その5


 使用者の魔力は高い方が良い。


「おおまかに言うとその5つだな。細かく言えば、もう少しあるんだがこの5つさえ気を付けていれば大きな失敗はないと予想している」


「えーっと、......つまりどういうこと?」


 疑問符を頭にいくつも浮かべたセリス。こういう難しい話にはいつもながらついて来れないようだ。反対にテレーゼはある程度得心がいったようで、


「例えば法則その1でいうと『剣術』というスキルを場合、『剣槍斧適性』というように内容を追加は駄目。少し前の私のような要らないと思っているスキルの削除も駄目。法則その2なら『剣術』を『風雷魔法』に変更するのも駄目。法則その3なら『剣術』しか持っていなかった人が『身体強化』を追加しても駄目、と言う感じでしょうか?」


「ああ、そういうことだな。出来ないわけではないみたいだが過去行った記録を見るとかなりの代償を支払っているケースが多い」


「えー!? そんなに制限があるの? それだったらスキルを改変したくても代償が怖くて何にも改変なんて出来ないよ!」


 不満たっぷりの声を上げるセリスに元々分かっていたのだろう神妙な顔をして頷くテレーゼ。


「普通に考えればそうだな。だが昔から自分の授かったスキルに不満を持っている奴はごまんといるのさ。特に貴族連中は優秀なスキルが一種のステータスだからな。『スキルの書』による自身に都合のいいスキルは喉から手が出るほど欲しいって訳だ。で、欲にまみれて『スキルの書』を使用した挙句、代償が大きすぎて自滅するってパターンだな。ま、さっきも言ったようにこの5つさえ外さなければ、大きな代償はないと俺は思っている。さっきのテレーゼの推測に付け加えるなら魔力が高いであろう王族や公爵等は代償の被害が少ない傾向にあるようだ。数少ない成功例だな。」




 その後、俺はテレーゼのスキルに対してどのように使用するかを説明する。


 テレーゼのスキル『防高(ディフェンス)高乗(バイプッシュ)』、これはこれまで試して見たところ、文字通り防御力を上げれば上げるだけ攻撃力も増す、と言うスキルだった。

 膂力有り余る種族なら全く問題なく使えるスキルだと思うが残念ながらテレーゼはエルフだ。素早さ主体のエルフが防御力を上げるために重装備してもメリットがデメリットに打ち消されてしまう。

 そこでこの『スキルの書』を使い、スキルを改変するのだ。改変と言っても大きく変更してしまうと代償が付いてくるので先の5つに当てはまらないよう、代償が少ないようにする必要がある。


「ということで『スキルの書』を使ってこう改変しようと思っている」


 防高(ディフェンス)攻乗(バイプッシュ)

 ↓

 防低(ディフェンス)攻乗(バイプッシュ)


 これなら法則性のどれにも抵触していない。

 唯一心配しているのはこのスキルの元からの位の高さ、レア度というか、基本値だ。

 いくら変更内容が軽微でも基本値が高ければその代償も増すだろう。

 これだけは聞いたことのないスキルだし、やってみなければわからない。

 俺が気にしているのはこの点だけだった。

 ここまでの説明を2人に話したところ、


「なるほどね。んー、でも確かに聞いた限りではその法則性には当てはまらないけど、その法則性自体が誤りだったらもしかして大変な事になるんじゃない?」


「はっ! そうですよ、ラオム様! そもそもそんな危ない橋を渡る必要はありません! 私は今のままでも十分良くしていただいております。そんなリスクがある方法を取らなくても良いではありませんか!?」


 セリスはたまにさらっと的を得た発言が飛び出してくるのが怖い。


「確かにセリスの言うとおり、その可能性は否定出来ない。だがさっきも言ったが改変内容が軽微だから致命的な代償では無いと俺は思っている。何にしろ、やってみる価値は大いにあると思う」


 腕を組んでじーっと俺の顔を睨むように見つめるセリス。


「......ふう、こうなったラオムはテコでも自分の意見を曲げないもんね。ま、しょーがないか。ラオムの法則性を否定する材料も見当たらないし」


「さすがセリス、よく分かっているな」


「ラオム様がそこまでいうなら、わかりました。私も覚悟を決めます」


「ありがとう、テレーゼ」


 ん? なんかセリスが一人でニヤニヤしている?


「昔、大人達の同意が得られなかった時にこっそり単独行動した結果、暴走して失敗したのを見てるからねー。あれはひどかったなー。今回も目の前でやられた方が安心だよ」


「ちょ!? そ、そんな昔の事はいいだろ! たくっ」


 そんなこんなで何とか2人の同意?が得られたので『スキルの書』を使う事にした。



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