第29話 特訓 1
この10日間くらい風邪引いて本業をこなすのが精一杯で遅くなりました。
ゆっくりではありますが引き続き更新していきたいと思います。
エアスライドに乗って数十分で目指していた目的地、海岸まで辿り着いた。
エアスライドの動き始め、セリスはゆっくりと離れていく地面に感激して喜んでいたのだが高さとスピードが速くなるにつれてだんだんと静かになっていった。今では顔を真っ青にしておとなしくというか、ぐったりと横たわっている。
反対にテレーゼは騒ぎこそしないがその目は爛々と輝き、空中でも辺りに視線を世話しなく動かしていた。
「……ラオムぅ、エアスライドがあんなに速いだなんて聞いてないよぉぉ」
ただの絨毯となったその上でぐにゃぐにゃになり、未だ立ち上がれないセリスが苦情を申し立ててくる。
「悪い悪い、どれくらいのスピードに耐えられるか試してみたかったんだ。……言っておくがまだ全力じゃなかったからな?」
あからさまに顔をしかめて抗議の視線をよこすセリスに対してテレーゼは「承知しました」と一言。こっちはまだまだ余裕がありそうだ。
「あの、それでラオム様ここでいったいどのような事をするのでしょうか?」
「ん? この前に少し言っただろ? テレーゼの『火炎属性』を制御する特訓だよ」
「こ、このスキルは危険です! 今は隷属魔法の効力によって押さえられておりますが、それが無くなればラオム様とセリス様に御迷惑がかかるかもしれません」
「テレーゼ、俺は言ったよな? 俺が何とかしてやるって。当てはある。大丈夫だから俺の言うとおりにしてみろって」
「んー、私はラオムのこと信じているけど、そんなに自信があるってことは何か根拠があるの?」
二人の視線が俺に集まる。
ゆっくりと頷き、その根拠を話始める。
「セリスは俺達の村にたまに来ていた冒険者達を覚えているか?」
「あの村に来ていた冒険者達って私の知っている限り一組しかいないんだけど……あのギースさん達のこと?」
「そうだ。俺は昔からあの人達が体験した色々な冒険談を聞くのが楽しみだったんだ」
「あー、確かにギースさん達が村に来たとき、ラオムってベッタリだったもんねぇ。一時期、ラオムって男の人の方が好きなのかと思っていたくらいだよ」
「そ、そんなことを思っていたのかよ。あの村にはあれくらいしか娯楽がなかったんだからしょうがないだろ。……で、その中でサーディースさんって覚えているか? よく氷を出してくれていた人」
「んー、確かそんな人もいたような……? ラオムみたいに話しかけたりはしなかったから朧気にしか覚えてないや」
「そか、接してないとそんなもんだよな。で、俺がサーディースさんから聞いたのはあの人も『水氷属性』持ちで昔かなり苦労して制御に成功したって話だ」
「「え!?」」
二人から同時に驚きの声が上がる。
特にテレーゼの方は信じられないと言った表情で小刻みに震え、口をパクパクさせている。
「属性を制御する方法って言ってもまさか俺が関わることになるなんて思ってなかったから、そんなに細かくやり方を聞いたわけじゃない。制御方法の概略をザックリ聞いただけなんだがやってみる価値はあると思うんだ」
「やります。いえ、やらせてください! このスキルを制御できるならどんなことだってします! 耐えてみせます! だから是非、お願いします!」
「わ、分かったから。近い、近いって、テレーゼ」
「あ、し、失礼しました。つい、興奮してしまいました」
「制御できるように頑張ろうな。なに、時間はあるんだ。焦る必要はない」
決意に秘めた目をしながらテレーゼは力強く頷いて返事を返す。セリスも隣でウンウンと笑顔で頷いている。
「さて、俺が聞いた制御方法はいたって簡単だ。『属性を溜め込まない。我慢しない』これだけだ」
「え? たったそれだけ……なんですか?」
「私もラオムのことだから、もっと何かものすごい授業的な、特訓的な何かを想像していたんですけど」
「気持ちはわかる。だがサーディースさんが言うには、『属性という奴は抑えよう抑えようと体の中に閉じ込めているといつしか許容量を超えて溢れるようになる。むしろどんどん体外に放出すること、同時に操る術を身につけるほうがいい』って言っていたんだよ」
溜めるのはあんまりいいことないから適度に抜いておけよー、男だから分かるだろ? なんてこともサーディースさんは言っていたな。
「ってことでこれから隷属魔法の禁則事項にある『スキルの使用』それを外す。これまで溜めてきたモノを遠慮なく出しきるといい。余裕があれば、少しでも制御出来るように頑張ってみるのもいい」
「私とラオムのことは気にしなくてもいいよ。危なくないように離れてるから。周りには何もないし、誰もいないから思いっきりやるといいよ」
「……分かりました。やってみます」
少し離れた波打ち際まで歩いて行き、再度周りに何もないのを確認してこちらに合図を送る。
俺は隷属魔法の禁則事項から『スキルの使用』のチェックを外し、テレーゼに手を上げて合図する。
直後、テレーゼを中心として轟音と共に巨大な火柱が発生する。その炎はまるでの火龍がのたうち回るかのように荒々しく周囲をうねりながら焼き焦がし海水を蒸発させていく。
「うわぁ、結構離れているのにここまで熱気が伝わってくるなんて。ラオム、本当に大丈夫なの?」
「危険は承知の上さ。今何とかしてやらないとあれだけの炎だ。隷属魔法での抑えが効かなくなってからやるよりはましだろ?」
しばらく様子を見ていたが噴き出した炎は最初から勢いが衰えることなく轟々と渦巻いている。目を凝らしてみれば炎の中心にいるテレーゼが必死に制御しようと努力している様子が伺えるが成果は一向に現れていなかった。
「まあ、さすがにいきなり制御できるほど簡単ではないだろうなぁ。こうなるとテレーゼの体力が何時まで持つのかが心配だな」
「何を呑気に言ってるのよ、ラオム! あんな炎の中で倒れられたらどうやって助けにいけばいいのよ!」
「あぁ、それはだなーー」
説明をしようとした矢先、テレーゼの身体がぐらりと揺れて片膝をつく。
「お? 丁度疲れてきたみたいだな。そろそろ一旦休憩させるか。最初から無理をしてもいいことはないからな」
隷属魔法の禁則事項に再びチェックを入れると炎が弱まっていくが消える様子はない。
これは予想していたことなのでおもむろに海の中に入り、海の中でゲートを開き海水を収納に取り込む。そして取り込んだ海水を射程距離ギリギリの位置からテレーゼと周囲にぶっかけて消火していく。
炎と海水がぶつかり合い物凄い音を立てる。あれだけ燃え盛っていた炎は発生源を停止させたこともあり、あっという間に鎮火することができた。
ちなみにかなり勢いよく海水をかけたのでテレーゼが流されてはいけないと思い、軽く身体を空間固定させてもらっていた。
「テレーゼ、大丈夫か? 無理しなくていいから安全第一でやろう。セリス、回復魔法をかけてあげてくれないか? それからちょっと休憩だ」
「わかった!今かけるから待ってて」
「ラオム様、御気遣い申し訳ありません。気負いすぎていたようです。……あと消火して頂いたのは有り難いのですが、そ、その海水をかけられるとな、なんだか体がベタベタになるのが気になりますね……」
「大丈夫だよ。ちゃんと真水も用意してある。テントも用意してあるから後でテントの中で身体を洗うといい」




