第28話 エアスライド
次の日、朝から町の外に出て街道を歩く。
「ねー、ラオム。今日は何処まで行くの?」
ある程度町から離れ、町から完全に俺達が見えなくなるまで離れる。
周囲は見渡す限り草原だ。
「そろそろいいかな。目的地はテレーゼに何かあっても大丈夫なように南の海岸だよ」
「えー!? 南の海岸ってミザールからだと日があるうちに辿り着けないよ。馬車もないのにそんなに歩くのやだ~」
「セリス様、疲れたらどうぞ仰ってください。私が背負っでもお連れします」
「まあまあ、二人とも落ち着いて。さすがに俺だってあそこまで歩くつもりはないよ」
「え? それじゃあ、どうやって行くの? 走るの?」
「違うわ! そういや、セリスにもまともに説明したことなかったか。移動手段はこれだよ」
俺の足元を指差す。
セリスとテレーゼが疑問符を浮かべながら、足元を凝視する。
「……もしかして浮いているのですか?」
「テレーゼ、正解。そう『空間固定』によって今、俺の足元を浮かせて固定している。で、次はーー」
浮いた状態でツツーと滑るように平行移動する。
「ちょっと!? なにそれ! そんな事が出来るなんて私聞いてないよ!?」
「言うの忘れていたからな。でもセリスは1度『これ』を見ているはずだぞ?」
「??」
セリスとテレーゼの周りを滑るようにくるくると周回し、時おり上下の移動も混ぜてみる。
「…………あっ! もしかして武器屋から出て冒険者ギルドに行く時に囲まれた、あの時の!」
「正解だ。よく覚えていたな。あの時に使った技が『これ』だよ。俺はエアスライドって呼んでいる」
「確かに浮いていけば、歩くことはないので疲れませんが私とセリス様はそのようなスキルはありませんし、もしかして二人を背負うおつもりですか? 魔力の消費も大変かとーー」
「忘れたのか? 昨日説明しただろ、俺の空間魔法は魔力を消費しない。で、使い方次第でこんなことも出来る」
浮いている足場をセリスとテレーゼの足元まで広げる。そのまま3人を宙に浮かせる。
「わ、わわっ! 浮いてる! 私、浮いてるー!」
「ラ、ラオム様!? これは落ちたりしないのでしょうか!?」
初めての浮遊に驚き戸惑う二人。
足元を固定しているので落ちることはないと思うが慣れるまでは違和感ありありだろうな。
「大丈夫だよ。実は俺は俺も最近気づいたんだがこの空間魔法の展開する間口、物を出したり入れたりする開口部、今後はゲートと呼ぼうか」
実際に俺達の正面に見えない間口を展開する。
「これって意識しなかったら最大で直径7.2メートルの円で展開される。ここからここまで、だな。だが意識して展開するとこういうことも出来ることがわかった。二人とも背中の辺りを触ってみな」
二人は疑問符を浮かべながら言われた通りに何もないはずの背中の辺りに恐る恐る手を伸ばしてみる。
「なんだろう。ん!? 見えないけど何か足元から伸びて背もたれみたいになってる!」
ある程度イメージすれば大まかではあるが、形をなす事ができるようになったのだ。
条件は直径7.2メートルの円の面積の範囲内だけど。
「他にもこんなのも作れるぞ」
「これは椅子、ですか? これに座っていればそのエアスライドで移動する場合でも疲れないし落ちないでしょうから安全ですね。ですが……」
感想を述べた後に躊躇するように少し言いよどむ。言うか言わざるべきか、迷っているように見えた。
しかし、俺にはテレーゼが何を言いたいのか大体理解していた。
「第三者から見たら空中に浮かんでる。あまつさえ座って滑るように移動している、不思議なパーティーに見えるってことを心配しているんだろ?」
「え? は、はい。その通りです」
「あはは、確かに知らない人が浮いている状態、今みたいな状態の私たちを見たら……あっ、これって下着が丸見えになるんじゃないの!?」
セリスが慌ててひらひらしているスカートの端を押さえて顔を真っ赤にしている。対してテレーゼは動揺もしていない。
「そっちの心配をするかよ、セリス。……その問題についての対応策を考えてある。……これだ」
俺は収納から絨毯を取り出す。
どこにでもある普通の絨毯に見える。強いて言うなれば少し高級そうに見えてことぐらいか。
大きさは一辺が6m程度だ。
「なるほど、これなら万が一他人に見られてもそこまで不審には思われませんね」
「え? え? なにどういうこと? 二人だけわかってずーるーいー」
「子供かっ! いいか、この世界で空を飛ぶ方法は今のところ2つある。1つは『飛行』関係のスキルを持ったやつを仲間にすること。2つ目は浮くことが出来る魔道具を手に入れることだ。もっとも有名なのが『魔法の絨毯』だな」
どちらも滅多に見かけるものじゃないがその存在は確認されている。『飛行』スキル所持者は少ないし、稀少性から秘匿する人が多い。後者の『魔法の絨毯』は高ランクの冒険者なら持っている者もそれなりにいる。
「まだランクの低い俺達が持っていると無用なトラブルに巻き込まれる可能性があるから高ランクになるまでは出来るだけ秘匿しておきたいが使えるのに使わないのも勿体無いよな」
「私の実家でも所有していましたがここまでの大きさはなかったです。もしこれが本物の魔道具なら少なくとも1億リアルはするでしょう」
「「そんなにするの!?」」
テレーゼが言い出した値段には俺もビックリだ。
移動手段としての魔道具にそこまでの価値があるとは。
ま、これは俺のスキルだからな。気にしないでおこう。
取り出した絨毯と同じ大きさにエアスライドを展開してその上に乗る。本物ならふわふわしているらしいが俺のは微動だにしない。だからと言って決して堅いわけではないのだ。
「ほら、セリス。これで魔法の絨毯に乗っているように見えるだろう? これがまさか俺のスキルだなんて誰も思わないだろう」
「おー、便利そう! 楽そう! 寝心地良さそう! あー、これで街の中とか移動出来たらいいのに」
「街中でこれをやってしまうと目立つことこの上ないからな。魔道具を奪おうとする奴が必ず出てくる。まあ魔道具じゃないから奪われることはないんだが、面倒事を増やすこともないだろう」
「最低でもSランク以上でなければ、鴨がネギを背負っているみたいなものかと思います」
「ちぇー、ざんねーん」
「だな。よし、という訳だ。さぁ、二人とも乗ってくれ。さっさと目的地まで行くぞ!」
「「はーい」」




