第27話 身支度その2
防具屋に入ると、先程かけてあげたマントを身体の前でピッタリ合わせて着ている服が見えないようにしなから服を選んでいるテレーゼがいた。
着ている服とのギャップに気後れしているのだろうか?
残念ながらセリスは服選びに夢中でその様子に気付いていないようだ。
「おーいセリスー、まず1着目を早くーー」
「いらっしゃいませ。あちらの美しい赤毛の御嬢様は前回同様、お連れ様でしょうか?」
うあっ、またこのお姉さんか。相変わらず意図も簡単に俺の間合いというか、後ろをとってくるよな。防具屋の店員の動きじゃないぞ、これ。
しかしセリスの時もそうだったけど、服のセンスはまちがいないんだよなぁ。任せておけば、きっとテレーゼに似合う服を選んでくれることだろう。
「え、えぇ、そうです。奴隷商館から連れ出したばかりなんですが彼女にも綺麗な服を揃えてあげたいんですがーー」
「是非、私にお任せ下さい! 御嬢様に似合う服を必ずや選ばせていただきます! それで何か御希望はございますか?」
「希望、か。あ、そうだ。今探しているのは普段着なんですが、諸事情がありまして燃えにくい素材の服でお願いできますか?あと、あの子は前衛として活躍してもらうつもりなので出来るだけ動きやすい服装を選んで頂けたらと思います」
「承知致しました。その条件で必ずや御嬢様にお似合いの、ご満足いただける服を選んでご覧にいれます。それでは少々お時間を頂戴致します」
服についてやれることがなくなった俺はいつ終わるとも知れない女子の買い物から避難するのも兼ねて近所にある武器屋に行くことにした。
一応、心配させてもいけないのでセリスに武器屋に行ってくる、と一言声をかけてから向かうことにした。
〜〜〜〜
「おやっさーん、こんにちわー、いるー?」
「おぉー、ラオムじゃねぇーか。今日はどうした?」
お店のカウンターで暇そうに剣を磨いていたおやっさんに声をかける。
「この間、厄介なやつと戦ってね。かなり武器を酷使したから空いている時間に調子を見てもらおうかな、と思って」
「やれやれ、相変わらず無茶苦茶な使い方をしているんじゃねえのか? まあいいや。どれ、見せてみろや」
おやっさんに収納からミスリルの槍を取り出して手渡す。
受け取ったおやっさんはしげしげと槍を調べ始めるが、だんだんとその顔は厳しくなっていく。
「……かなり無茶苦茶な使い方しただろう。ミスリルを短期間でここまでボロボロにするなんて相当なもんだぞ? ドラゴンにでも踏んでグリグリしてもらったのか?」
「あ、あははは、まあ、いろいろとありまして……」
じろりと鋭い眼光で睨まれて俺は適当に愛想笑いでお茶を濁す。
その後、おやっさんには武器の修繕を依頼をお願いしておいた。数日かかるらしい。
「あ、そうそう。あとこの武器を見てもらえますか? この間、迷宮で手に入ったんですけど」
収納から二振りの刀を取り出す。
「な!? こいつはおめー、もしかしてーー」
〜〜〜〜
武器屋での用件を済ませて防具屋に戻ってきた。どうやらまだどれにするか決め終わっていなかったらしい。しかたないので室内にある椅子に座ってしばらく待っていると店員のお姉さんがこちらに近寄って手招きをされたので付いていく。
試着室の前まで来るとニコニコ顔のセリスが試着室のカーテンを閉めたまま、中から顔だけ出して待っていた。
「ラウム、おまたせ! それじゃテレーゼも準備は いいかな? せーの、じゃーん!!」
試着室のカーテンがセリスによって勢いよく開けられる。そこには白地のシャツに赤のカーディガン、赤のミニスカートのテレーゼと薄い青色のワンピースを着たセリスがいた。
ボサボサだったテレーゼの赤い髪は綺麗にとかされ、ポニーテールに結われていた。またセリスもテレーゼに合わせるかのようにポニーテールにしており、仲良く同じ髪型にしている二人はまるで昔からの親友のような雰囲気が漂っていた。
「どう? 似合ってる? 似合ってる?」
「……ああ。正直びっくりした。とても似合っていて二人とも可愛いよ」
「そうでしょ! そうでしょー!!」
満足げなセリスだがテレーゼは頬を朱に染めながらうつむき加減で上目遣いに「本当でしょうか?」と控えめな声で聞いてくる。
「本当に可愛いよ。髪型を変えただけでこうも印象が変わるだなんて女の子ってすごいよな」
小さいときから知っているセリスでさえ、こんなに見た目の印象が変わってそう思ってしまうのだから女の子って本当変身するんだとしか思えない。
あ、店員のお姉さんが凄い満足げな顔している。
「いかがでしょうか? エルフという少しキツイ雰囲気の御嬢様を可愛らしくそれでいて自然な感じのコーディネートしてみました」
「私もテレーゼってすごく可愛いと思うの。こんなに可愛い仲間が増えて幸せ~」
テレーゼに頬擦りしながら感想を述べるセリスだが、テレーゼも嫌ではなさそうなのでしばらくそのままにすることにした。
そうして数回衣装を変えてのファッションショーを堪能して特に気に入った服を数点買い、お姉さんにお礼を言って防具屋を出た。
「ラオム様、私のような者のためにこんなに買っていただきありがとうございます」
「さっきも言ったけど、もう仲間なんだから気にしないの。テレーゼが嬉しかったら俺達も嬉しい。それだけだよ。さ、それよりもご飯にしよう」
〜〜〜
昼食でも例によって座席に付こうとしないテレーゼを説得して同じテーブルで食事をする。
食べ始めると「こんなに美味しい食事は初めてです」と目に涙を溜めながら食べていたテレーゼ。
普通の食事処で味も普通だと思っていたが、なんでも人と一緒に楽しく食事をすることでこんなにも美味しく感じられるのだということを初めて知ったらしい。
幼い頃、食事は豪華でも家族と食べる場面はなかったとのこと。冒険者になってからもこんな雰囲気は皆無だったようだ。
〜〜〜
食事も終え、宿屋に戻ってきた。
「とりあえず今日のところはこのままゆっくりしよう。二人とも色々あって疲れただろう?」
「私はそうでもないけど、休養をしっかりとるのも冒険者なら必要なことだしね」
「よ、よろしいのでしょうか?私は奴隷としての仕事らしいことはまだなにもしていないのですが……」
「いいんだよ。それより明日からはテレーゼの現状確認と『火炎属性』の訓練に入ろうと思っているから今日はしっかりと休むように! いいね?あ、ルーリアちゃん、今日から俺達のパーティーに加わったテレーゼ。宜しくね」
宿屋の受付でルーリアちゃんにテレーゼを紹介する。
「また綺麗なお姉さんですねー!セリスさんもそうですけど、うちに泊まってくれると色々と評判になるので大歓迎ですよ!」
なんでもこれまでもセリス目当てのお客が増えているらしい。冒険者だからいつも宿にいるわけではないが同じ屋根の下に泊まっているというだけでよく分からないが満足しているお客が多いようだ。
「よし! じゃあ、テレーゼ! 一緒にお風呂に入ろう!」
「え!? わ、私は最後に残り湯をいただけるだけで十分でーー」
「何言ってんの。これからは同じパーティーで共に戦う仲間なんだからまずは『一緒にお風呂』だよね!」
そう言って戸惑うテレーゼをなかば強引に引っ張ってセリスとテレーゼはお風呂場へと向かっていってしまった。
廊下を曲がって見えなくなったと思ったら、セリスがピョコンと顔だけ出して、
「ラオムも一緒に入る?」
「い!? ば、ばかやろう! い、一緒に入るわけないだろ! さっさと入ってこい!」
「ラオムだったら全然構わないのにぃ。今度混浴のところ探して入ろーねっ!」
意味深な発言を残して行ってしまった。
「……セリスとテレーゼが一緒にお風呂、か」
っと、いかんいかん。へんな想像をするのは止めておこう。二人をまともに見れなくなりそうだ。
「……混浴がある宿屋ですか。これはお父さんに相談ですね……」
「あの、ルーリアちゃん? 本気じゃない、よね……?」
〜〜〜
その後、一緒に夕食を食べた。
食事のあとは朝まで自由行動にして俺はお風呂に入りそうそうに部屋へと戻り、ベッドに入り考える。
眠る前はいつも空間魔法の有効利用について考えることにしている。
実はさっきまでテレーゼが奴隷として夜の奉仕をしたいと部屋までやって来ていた。
今日一日、普通の奴隷がやるようなことはしなくていい、と言ってきたにも関わらずまだやろうとする。なんというか、よく言えば真面目、悪く言えば頭が固い。根気強く言って慣れさせないとな。
あとテレーゼに便乗したセリスまで同じ事を言い出して宥めるのにとても苦労した。「どうして私はこんな初歩的な事をわすれていたのだろう!?」とかなんとか喚いていたが少し前に二人とも部屋から追い出してやっとベッドで一息ついたところだった。
……今日一番疲れた。
しかし今日、テレーゼに空間魔法について一から説明した。あの時に何か新しい運用のしかたを閃きかけたのだが……うーん、気になる。
あと一息、喉のもうすぐそこまで出かかっているのに話せない、そんな感じだ。
……考えいたら喉が渇いたな。
ベッドから少し離れたところのテーブルの上に水差しがあるな。
……ん? 何で今、俺は収納から水を出すのではなく、テーブル上の水差しをみたんだ?
取れると思った?
こう、手を伸ばせば……。
……
………
…………
そうか。
そう言うことか。
空間魔法にはこんな使い方も出来たのか。
納得。
スッキリした。
寝るとしよう。
これで今夜はぐっすり寝れそうだ。




