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第26話 身支度 その1

 

 テレーゼを連れて奴隷商館の外に出る。


「ベルリッツさん、こうして無事テレーゼを連れ出すことができました。ありがとうございました」


「俺の方も色々と勉強になった。なんだかんだで良い取引ができたと思っているから気にしないでくれ。ラオムとは今後もいい関係でいたいしな」


 どちらともなく手をだして俺とベルリッツさんはガシッと握手をする。


「あー、そうだ。おまけと言っちゃなんだが、最近この王都の噂を教えておいてやろう。そういう情報って好きだったろ?」


 ニヤリと笑ってベルリッツさんが話してくれた情報をまとめると2つ。


 一つ目はなんでも東にある隣国 ラーアド帝国との緊張が高まっているらしい。最悪戦争が勃発する可能性もあるようだ。とりわけ境界線に近い城塞都市フェローには噂を聞いた流れ者や傭兵が数多く集まっているようで色々と危険なのだとか。


二つ目は最近、ミザールの王城の地下で未発見の隠し部屋が見つかったらしい。金銀財宝を期待して封印されていた扉を開けて中に入ると1冊の書物が荘厳な台座に置かれていたそうだ。その書物には重要なことが書かれていた、即ち『世界7大迷宮について』。



「『世界7大迷宮について』ってどこまでの情報が書いてあったんですか?」


「やっぱりそこが気になるよな。なんでもこれまで謎だった7大迷宮の場所と簡単な迷宮の情報の記載があったらしい」


「ええー!? それって大発見じゃないですか!?」


「ねえねえ、それってそんなにびっくりすることなの?」


首をコテンと倒しながら、不思議そうな顔でセリスが聞いてくる。


「いいか、セリス。『世界7大迷宮』の存在事態は昔から知られていた。だけどはっきりとその場所が判明していたのは、迷宮王都 ミザール、極炎火山 メグレズ、ドラゴンズピーク ドゥベーの3つだけであとは名前しか伝わってなかったんだぞ! それが全部の場所が判明したかも、なんて冒険者なら興奮しないわけがない!」


「ふーん、そうなの?でもうちのお父さん、フツーに全部知ってるって言っていたけどなぁ」


「「 はぁ? 」」


何だって? セリスはいったい何を言っているんだ? 『世界7大迷宮』の場所をおじさんが知っている? 全部?


「セリス、それってどういうーー」

「私は興味なかったからあんまり詳しく覚えていないけど、確か海底迷宮 ベトナッシュ、百戦錬磨 アリオト、堅牢洞窟 フェクダ、天空回廊 メラク、あとドゥべーは戦龍跋扈 ドゥべーっていうらしいよ」


「なんてこった、こんな近くにお宝情報を持っている娘がいたなんてな……。ラオム、おまえさんは知らなかったのか?」


「初耳ですよ。セリスのお父さんって普通の村長さんだとばかり思っていましたがいったい何者なんだ?」


「ラオム。お父さんじゃなくてお義父さん、だよ。キャッ!」


セリスの妄想は今日も絶好調のようだ。

こういう時はそっとしておくに限る。


「…………なんにしろ、テレーゼの準備が整ったら1回村に戻るのも悪くないかもな」



「じゃあな、ラオム。あんまり夜の町をうろついて嬢ちゃん達を心配させるなよ?」


「な、何言ってるんですか!? うろついたりなんかしてないですよ! 変なこと言わないで下さい! ほ、ほらすぐにセリスが真に受けるじゃないですかぁ!」


 ジト目でこっちを睨んでくるセリスさんが恐い。俺はまだなにもしていない。濡れ衣なのだ。


「はっはっは、冗談だよ、嬢ちゃん。また何か欲しい情報があったら呼んでくれ。それじゃあな」


 そう言い残してベルリッツさんは奴隷地区の大通りの雑踏の中に消えていった。


「さて、じゃあ俺達も行くとするか」


「そうだね。まずはテレーゼの服を買いに行かない? この格好のままで連れ回すのは可哀想だよ。……ついでに私も新しい服が欲しいし」


「後半、心の声が聞こえたような気がしたんだが。ま、そうだな。二人の普段着をあの防具屋に買いに行くとするか。それまでテレーゼはこのマントを羽織っておくといい」


 そう言って収納からマントを取り出してテレーゼの肩に身体全体を覆うようにフワッとかけてやる。


「え? えぇ? いったいこのマントはどこから出てきたんでしょうか?」


 何もないところから現れたマントに驚き、慌てふためくテレーゼ。


「あー、そうか。テレーゼは知らないんだよな。これが俺の誰にも相談できないスキルってやつなんだよ。ここで説明するのも何だからまずは防具屋に行こう。詳しくは歩きながら話そう」


 今いる奴隷地区から防具屋がある商業地区は王城を挟んで反対側にあるので話す時間はたっぷりある。


「私達は平等をモットーにしているからそれがいいね。という事でラオム先生、説明お願いします」


 そう言ってセリスも丸投げではあるが納得の意思を示してくれたので スキルの他にこれまでの経緯を説明することにした。


 俺とセリスのスキルの概要や関係性(ただの幼馴染だと伝えるとまたセリスがむくれていたが)。

 この王都に来た経緯。

 迷宮に潜った時の戦闘、足りなかった戦力について。

 テレーゼの身の上をベルリッツさんから聞いていること。

 等々を説明した。


「はぁ、なるほど。私のスキルは珍しいだけで使えないスキルだと思っておりましたがラオム様のスキルはとんでもなく希少な上に有用なスキルでございますね」


「あははは、希少で有用なスキルなのはテレーゼのもそうだよ」


「うぅ~、二人ともいいよねー。自分だけと特別なスキル持っていてさぁ。私なんて一般的なの2つだけだよ?」


一般的なスキルのセリスが羨ましそうにこちらをみつめる。


「セリスのスキルは冒険者には欠かせないスキルだから自信を持っていいと思うぞ」


「セリス様は『神聖魔法』を望まれていたのですよね?それであればそれに勝るものはないと思うのです」


「ま、まあ、それはそうなんだけど。ラオムを見ているとどうしても、ね」


「確かに。そのお気持ちは私もわかります」


 隣の芝生は青く見えるものだ。他人のスキルがよく見えるのはみんなそうだよな。


「ところでテレーゼ。ずっと気になっていたんだけど、その話し方止めない? 何と言うかむず痒くなってくる」


「あ、そうそう! 私もそれはずっと思ってたんだよ! さっきも言ったけどこのパーティーはラオムが中心でリーダーなんだけど、そこに上下関係はなくて平等なんだよ。だから普通に話していいんだよ?」


「そう申されましても私は奴隷です。奴隷を購入された御主人様に対してそのような態度や言葉遣いをするわけには参りません。その辺りはしっかり明確にしておかなければ他者より侮られてしまいます」


思っていたより頑固と言うか、自分の身分を受け入れていると言うか。まあ、無理矢理そんな事を強制するのもおかしいよな。


「わかった、じゃあ無理に敬語を使う必要はないから好きに話すといいよ。テレーゼの意思に任せる」


「ありがとうございます」


深々とお辞儀をするテレーゼの所作は何と言うか、洗練されているような、気品があるような、普段俺が目にするものとは違って見えた。エルフ族の貴族出身だからだろうか?


「ラオム様?」


「あ、ああ。なんでもないよ、テレーゼ。服を買い終わったら食事にしよう。そして今後の事を話し合うとするか」


「さんせー。そうと決まれば、早く服を買いに行こう!テレーゼ、ほら、早く早く」


 セリスがテレーゼの手を引っ張り、遠くに見える防具屋に向かって駆け出した。テレーゼは若干戸惑いなからもセリスの手をしっかりと握り返し、セリスに遅れまいと付いていく。


「まったく、これじゃどっちの服を買いに行くんだか。でもセリスのお陰でテレーゼの緊張も解けたようだし、これはこれでいいかな」


二人に少し先に見ながら、俺はゆっくりと歩いて防具屋に向かうのであった。


3月は本業が忙しかったのでストックが無くなってしまいました。

今後は更新のペースが落ちると思います。

週1もしくは2のペースで更新していきますが今後ともよろしくお願い致します。


サブタイトル修正。

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