第24話 奴隷購入 その3
次の日、奴隷区画の前でベルリッツさんと待ち合わせて一緒に問題の商館へ乗り込むことにした。
「ベルリッツさん、おはようございます。今日はよろしくお願いします!」
「します!」
「おはようさん、ラオム、セリス。まあ、そんなに固くなるな。気楽に行こうぜ。そういや今回の予算と言うか目標額を聞いてなかったな。どのくらいで落とせばいいんだ?」
元からの手持ちが8,700,000リアル。
セリスが持っていたのが500,000リアル。
昨晩ベルリッツさんに払ったのが500,000リアル。
王様からの報償金二人合わせて10,000,000リアル。
その他消耗品を買ったりで合計18,500,000リアルってところか。
「昨日ベルリッツさんが言われていた相場の2,500,000リアルでお願いします」
「なんだ、そんな程度でいいのかよ?楽勝じゃねぇか」
なんとも頼もしいな。この人ならやってくれる。そう俺は確信する。
「いえいえ、仮に俺達が交渉した場合、20,000,000リアルからスタートすると思います。さすがに1/10にはならないでしょう。相場を知っている情報屋のベルリッツさんが適任ですよ」
「確かにな。そうそう、とりあえず例の『赤』以外にもカモフラージュで何人か似たような価格帯の奴を選定するから適当に選んでいるふりをしとけよ。さすがに一本釣りだとバレバレで交渉で不利だからな」
「はい、わかりました」
「よし、じゃ行くか!」
意気揚々と奴隷商館に3人で乗り込む。
豪華な扉をノックしてしばらく待つ。反応があり、出てきたのは主人であるミュッテンバーグその人。俺とセリスを見るなり、「奴隷を買いもしないガキ共め、また来たのか?」という心の声が聞こえてくるような侮蔑が籠った顔をこちらに向けてくるがすぐに後ろにいたベルリッツさんを見つけて視線をそちらに移す。
「これはこれはようこそいらっしゃいました、ベルリッツ様。本日はどの様な性奴隷をお探しでしょうか?いつものように犬耳幼女ですか?それとも猫耳ーー」
「あーあーあー、い、いやいや、今日はラオム達に奴隷の目利きを頼まれてな。残念ながら俺が購入するのでは無いのだ」。
奴隷商人ミュッテンバーグの言葉に被せるように大声で慌てて説明するベルリッツさん。
そーかー、ベルリッツさんはケモミミがすきなのかー。
なんというか、どーでもいーじょうほうがてにはいってしまったなー。
「な、そうだよな、ラオム!?今日はお前達のパーティーの前衛を探しに来たんだよな!?」
「好みは人それぞれですからー。お気になさらずー」
遠い目をしたまま答える。
っと、あんまり弄っているとそろそろベルリッツさんの機嫌を損ねるかもしれないな。何となく 涙目になってきている。
「えぇ、今日は俺達の前衛を探しに来ました。以前にも見せてもらいましたがベルリッツさんにアドバイスをもらって決めようと思っています」
購入の意思があるとわかった途端、気色悪い満面の笑みを浮かべ俺の方へ居直るミュッテンバーグ。
前に会った時は何とも思わなかったが前回のボッタクられそうな事が分かってから何となく見る目が変わってしまったな。
どこから見ても嫌な奴にしか見えなくなった。
セリスなんて俺の後ろから覗き込むように様子を伺っているし・・・。
「ラオム様の方でしたか。これは大変失礼を致しました。御希望は前衛の戦闘奴隷でしたね。他に何か希望はございますか?」
「そうだな、予算があるみたいだから俺が知っている相場で3,000,000リアル以下の奴だけ見せてもらえないか?」
ベルリッツさんが先導するように答えてくれる。
なるほど、予算で絞っても俺が前聞いた相場だとテレーゼが含まれない。ベルリッツさんは適正相場を暗に強調してテレーゼを候補に入れようとしているのか。
「3,000,000リアル以下の戦闘奴隷となりますと候補が少なく、現在ですと3体しかおりませんがよろしいですか?」
「構わん。それだけしか予算が無いんだし、最初から強すぎる奴隷を入れても扱いづらいだろう。その中から選ぶとしよう。あと対象の奴隷と話をした上で検討したい。出来るか?」
「承知致しました。それでは1体ずつ連れて参りますのでこちらの部屋でしばらくお待ち下さい」
ミュッテンバーグはそそくさと部屋を出ていった。
後に残された俺達は室内にあるソファーに座り、一息つく。
「さすがベルリッツさん、何度も購入した経験があるから手慣れていらっしゃる」
ニヤニヤしながらベルリッツを見ると飲んでいた紅茶を吹き出す。
「ラオムっ!そ、そのことはもう忘れてくれ!交渉は頑張るし、報酬も減らしてくれていいから!頼む!」
頭を下げて両手を合わせながら頼まれてしまう。
「冗談ですよ。それでベルリッツさん。これから俺達はどうしたら交渉の助けになりますか?」
「この依頼断っていたらよかったかも、全く頭が痛いぜ」
頭を下げたまま何やらブツブツ呟きが聞こえたような気がしたが、ハッと顔をあげて考えている」
「うーん、そうだな。これから1人ずつ話をしていくが目的のテレーゼ以外の奴隷は適当に質問して適当に相手してくれれば問題ない。テレーゼの時は聞きたいことを聞いてくれればいい。要は今回は買う気があるから真剣なんだぞ、という雰囲気を出してくれれば、その後のミュッテンバーグとの交渉がやり易くなる」
「それなら全員と話終わったら、誰にするかの相談をするってことで一時間くらい間を開けた方がそれらしいんじゃない?」
「確かにセリスの言うとおりだ。ベルリッツさんどうでしょう?」
「ああ、それで構わねーぜ」
セリスの意見も採用することにして、それからしばらく部屋で待っていると1人目の奴隷の準備が出来たという知らせがあり、人族の男性が入ってくる。
ちなみにミュッテンバーグは気を利かせて席をはずすということだ。
男は筋骨隆々で逞しく、身体中にある傷跡が歴戦の経緯を物語っているように見えた。
「やあ、こんにちーー」
「旦那!今日は俺っちにチャンスをくれてありがとうっす! 俺っちはハッテンと言いやす。スキルは『斧術』『体力強化』でやす。もし旦那が望むんだったら夜の方だってどんとこいっすよ!旦那の極太バスターソードだって喜んで受け入れるっす!あ、そっちの姉さんも大丈夫っすよ。俺っち、一晩に7発くらいは余裕っすから。俺っち、どっちでもいけるんで気にしないでくださいっす。旦那も姉さんもどちらも満足してもらえると思うっすよ!性奴隷兼戦闘奴隷として扱ってくださいっす。へへへ」
・・・『へへへ』、じゃねーよ!?男性女性両方ともいけるとかコイツ変態すぎだろ!!元々入れる気なんてこれっぽっちもないがこんな危険なやつ、間違ってもパーティーに入れるわけにはいかない。却下だ却下!!
「ご、極太バスターソード!?本当なの、ラオム!?」
「セリスも真に受けるな!」
チラチラと視線を俺の股間に送り、何となくではない様子で気にしているセリスを一喝し、その後何とかハッテンへの質問を終える。
しかしあいつは終始性奴隷としてのアピールしかしてこなかったな・・・。
2人目に入ってきた奴隷はネコ族の女の子だった。
見た目から10代と思うがマルティの時の前科があるから迂闊なことは言えない。
「どうも初めましてヘシアンと申します。見ての通り猫族です。所持しているスキルは『鞭術』『気配察知』『素早さ強化』です。レベルは現在15です」
見た目もかわいい感じで小柄な体格をしている。敵の攻撃を避けて前線を受け持つタイプなんだろうか?スキル的には中衛向きな気がしたけどな。
しかしこの子は最初の挨拶からも分かるように思ったよりもまともだがちょっと武器が特殊なんだな。『鞭術』なんて実際に持っている人初めて見たぞ。
ふと視界に入ったベルリッツさんの方を見ると何やらハァハァ言い出した。
俺はベルリッツさんの方をジト目で睨む。
すぐにこちらの視線を察して、ゴホンと一つ咳払いをして、口笛を吹きながらあらぬ方向を向いてごまかそうとしていた。
もし、この娘をパーティーにいれようものなら、もれなくベルリッツさんに付きまとわれそうで嫌だな。
そう考えるとこの娘もないな。
欠点らしい欠点は無かったから悪くはなさそうだっんだがな。
そして3人目。
今回の訪問目的のテレーゼが絶望の表情を帯びた状態でゆっくりと入ってきた。




