第23話 奴隷購入 その2
冒険者ギルドの2階には貸部屋がある。
重要な取引や交渉、パーティーやユニオンの会議をする際に利用されることが多く、ギルドの会員なら無料で借りることが出来る。
防音で盗聴防止の魔法がかけられている。
部屋の中は荒くれものの冒険者が多いからだろう、簡素だが頑丈そうなテーブルとイスが用意されていた。
適当に座り、ベルリッツがタバコに火を着けたところで語り出す。
「ラオムが狙っている赤髪のエルフ、テレーゼ・フランメ・エーアリヒカイトは南にあるエルフの集落、通称『エルフの大森林』に君臨する4つのエルフ族 エーアリヒカイト家の生まれだ。人族で言えば貴族だな」
「エルフの貴族がなんで奴隷になっているんだ?」
「このエーアリヒカイト家ってのはエルフの中でも攻撃的な一族でな。弓と風雷魔法が特に秀でていて最も優れている者が族長になる風習がある。そんな風習がある中でどちらのスキルも持たない子が産まれたらどうなる?」
「落ちこぼれになる、の?だけどスキルは自分じゃ選べないんだよ?全員が戦闘向きなスキルを授かれるわけじゃない。それはエルフ族も一緒なんじゃないの?」
「そうだな、嬢ちゃん。スキルについては人族もエルフ族も同じだ。だがテレーゼはもう2つ変わったスキルを持っていたんだ」
「『防高高乗』と『火炎属性』か・・・」
「あぁ、攻撃力が低く、素早さ重視のエルフにはまったく旨味の無い無駄とも言えるスキル。それに大森林において全てを灰塵に帰する『火炎』は禁忌とされている。一応、テレーゼの一族 エーアリヒカイト族は『火炎』を司る一族でもあったんだが他族からの反発が強かったのだろう。スキルを授かってしばらくして『エルフの大森林』を追放されてしまった」
「ひどい・・・。なんで同じ一族の人たちは守ってあげなかったの?」
「セリス、それは難しいだろう。『属性』系のスキルは制御が難しいって噂だ。制御出来なければ、触れている場所から影響がでる。周りから排斥されたり、忌避されるストレスの中で『火炎属性』スキルを制御するのは至難の技だ」
セリスの気持ちもわかる。俺だって同じ気持ちなのだから。だが、エルフ族の風習やスキルの事を知っているので状況的にしょうがないのだと理解もしている。
「ラオムの言うとおりだ。むしろ、追放で済んでよかったと言うべきだろう。プライドの高いエルフ族が身内の恥とばかりに処分される可能性もある。そうでないのはエーアリヒカイト家の生まれだったからだ。他族と取引してテレーゼを追放という処分に留めたのだろう。事実、エーアリヒカイト家の権勢がその辺りを境に落ちてきている」
・・・・・・・
しばらく部屋の中が静寂に包まれる。
セリスなんか自分の事のように目に涙を溜めて今にも泣きそうな表情をしている。
この空気を変えようと次の疑問を口にする。
「でも、なんでエルフ族の元貴族が奴隷になっているんですか?」
「ここら辺から推測を交えることになるが、他の町でFランク冒険者として何とか生活をしていたようだ。だが、当時加入していたパーティーで行商護衛依頼を受けたが盗賊の襲撃を受け、失敗。珍しい髪の色をしたエルフという事で盗賊に拘束され、奴隷として売却されたのだろう。そして売却先の奴隷商で鑑定された結果、持っているスキルに対する評価は低く、戦闘奴隷としては向かない。またエルフゆえに女性としての身体的魅力も低い。それでも珍しい物好きの好事家はいるもんでな。最初はかなりの高値で取引されていたようだ』
その先はなんとなく想像がついた。
奴隷商館で見た彼女の死んだような目。他の奴隷と違って全てを諦めたように蹲り、こちらを見ることすらしなかった。
「しかしというかやはりというか、買われた先で火事を起こしたんだ。・・・しかも毎回な。以来、買われては返品、買われては返品。そのうち彼女を買う客はだんだんと減り、火事を招く使い道のない奴隷ということで売れ残っていった。今では利益を生まないあの商館一番の不良物件『火炎の魔女』って呼ばれてる」
「うう~、ラオム!早く行こう!早く彼女を引き取りに行こうよ!」
おもむろに席を立ち、俺の腕を引っ張りながら扉の方へ誘導するセリス。
「待て待て。今また行ったところで高い値段を提示されるのが落ちだ。ベルリッツさん。今の『彼女』の相場としてはいくらなんでしょうか?」
「そうだな、俺が知っている限りでは2,500,000リアルってとこだな」
なんだよ、俺達は相場の約10倍の値段を吹っ掛けられたのかよ!?ボッタクリも過ぎるだろう!?
「だが、それはあくまでも『現時点』での話だ。ここしばらくは買い手はまったく現れていない。商館としても維持費ばかりかかるのは勘弁だろう。だからといってこれ以上待っていては処分される可能性もあるぞ」
「ですね、ですがこの間の感じから俺とセリスだけで行くと客としてなめられているようなんですよね」
どうしたらなめられず、相場近辺で引き取ることができるだろうか・・・。う~ん、何かいい考えはないだろうか?
「それならベルリッツさんに来てもらって値段交渉してもらえばいいんじゃないかな?」
「「え?」」
腕を組み、顎に手を当てて考える。
確かにベルリッツに同行してもらえれば、子供だけとなめられることもない。しかもベルリッツさんは交渉のスキルを持っていたはずだ。自分達だけで挑もうと思ってばかりいたのでまったく視野になかった。言われてみれば、それが一番の可能性として高いと思う。
「セリス、良いところに気がついた!まさにその通りだよ!ベルリッツさん!お願い出来ないでしょうか!?」
ベルリッツに向き直り、その瞳を見つめる。
「交渉代理人か。それは俺も考えたことがなかったな。う~ん、そうだな、新しい飯の種を教えてもらったことだし500,000リアルで引き受けてやるよ」
「「よろしくお願いします!」」
こうして俺とセリスの頭は同時に勢いよくベルリッツに向かって下がったのだった。




