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第22話 奴隷購入 その1

 

 道具屋で必要な物を買い揃え、宿に戻って夕食を食べた俺は1人で情報を集めるために再び町へと赴く。


「さて、それじゃ行くか」


「で、どこに行くの?」


 ドアの外には出掛ける準備万端なセリスが立っていた。昔のセリスなら間違いなく寝ている時間だったのに!?


「い、いや、ちょっと情報を集めにだなーー」

「なら、私も行く!ん?なにかやましいことがあるの?ん?ん?」


「そ、そんなことはまったく無いぞ!?わかったよ、セリスも来いよ。だけど後で文句いうなよ?」


「子供じゃ無いんだからそんな事を言わないもーんだ」


 強引に付いてきたセリスと夜の町を連れだって歩く。しばらくして唐突に、


「それで?どんなエッチお店に行く気だったの?」


 一歩踏み出し、俺の方へ向き直って小悪魔のような笑みを浮かべながらそんなことを言い出す。

 踏み出した足から力が抜けて、ガクッとバランスを崩すも何とか耐えきる。


「だから違うって言ってるだろ!?俺の目的はあそこ!」


「え?あそこって冒険者ギルド?」


 もっと過激なお店に行くことを想像していたのか、予想とまったく違った行き先に呆然としているセリス。


「なーんだ、つまんないの~」


「ここにいる情報屋に用があるんだよ。自分で情報を集めてもいいけど、金を払って得た方が手っ取り早い。ガセネタの可能性もあるけど、これから会う情報屋は信頼できるやつだからまず大丈夫だ」


 冒険者ギルドの扉を開けて、酒場の方へ向かい目的の人物を探す。


「うわ、夜の冒険者ギルドってこんなにお酒臭いんだ。ちょっと嫌かも」


「だから言ったろ。宿で寝てろって」


「む~、いいんですっ。それでお金を払ってまでって、ラオムはどんな情報が欲しいの?あっ、もしかしてこれから買おうとしている奴隷のこと?」


「正解だ。目当ての奴隷がどういう経緯で奴隷になったか、とか他の冒険者にはいくらで販売しようとしている、とかどのくらいの期間売れ残っている、とかだな」


 酒場を見渡す。いつもの席に情報屋 ベルリッツが座っているのを見つけ、近寄り向かいの席に座る。


「ベルリッツさん、こんばんわ」


「おー、『八つ裂き』に・・・そっちは『蒼き戦乙女』のお嬢ちゃんか。どうしたい、なんか欲しい情報でもあるのか?」


「まあ、そうなんですが・・・その『八つ裂き』ってなんですか?前も言われたのですけど?」


 俺もセリスも「?」を浮かべている。


「なんだおめー、自分達に二つ名が付いたこと知らないのか?」


「「はあ!?二つ名!?」」


 驚きでセリスと顔を向かい合わせて叫ぶ。周囲の視線がこちらに集まり、恥ずかしくなって小声でベルリッツに聞き直す。


「ちょっとベルリッツさん、俺達に二つ名ってどういうことですか?詳しく教えてもらえますか?」


「構わんが、これも金取るぜ?」


 ベルリッツは手に輪っかを作り、ひらひらと揺らす。俺はセリスと頷き合い、


「構いませんのでお願いします」


「オーケー。・・・数日前の事だ。ミザールの迷宮から一組のパーティーが生還した。そいつらは想定外の魔物に襲われて、全滅も覚悟したそうだ。前衛二人になったとき、颯爽とそのパーティーを助ける奴等が現れたそうだ」


 あれ?なんかどっかで聞いたことあるような?


「そいつらのうち一人は倒れた仲間の傷を癒し、遠く離れた二人の前衛の傷も癒した。襲いかかる魔物も近寄らせることもなくその見たこともない弓で射殺したそうだ。もう一人は並みいる魔物を槍で突き刺す、のかと思いきや、まるで小枝を振り回すかの如き軽快さで槍を振り回し、次々に魔物の四肢を分断、細切れにしていったそうだ」


 えーと、それの話ってもしかして・・・


「その時の助けられた奴等がその様子を見て『八つ裂き』『蒼き戦乙女』と言い出したら、他にも数組同じような状況のパーティーがいたらしくてな。あっという間に定着したってわけだ」


「はぁ、あいつらか。変な名前つけやがって」


「まあまあ、いいじゃないのラオム。それだけ実力を認められてるってことだよ」


 目をキラキラ輝かせながら諭してくるセリスをジト目で睨む。


「お前はいいよな、聖女的な二つ名で。俺なんて快楽殺人者みたいな二つ名だぞ!?」


 すると腕を組み、片方の人差し指を顎に当てて何やら思い出している。


「んーと、あの時の光景を一番見ていた私からすると納得の二つ名なんだけど・・・」


「くっ、セリス、お前もか!俺に味方はいないのかぁ」


「あははは、ウソウソ。一番近くで一番多く戦っているラオムを見ていた私には、頼もしいなって言うのとカッコいいなって言う感想しかないよっ!」


 そう言ってニッコリ笑うセリス。昔っからこの笑顔をされるとなにも言えなくなるんだよなぁ。ずるいよなぁ。


「わ、わかってるならそれでいいっ」


 と顔を見られるのが恥ずかしかったのでセリスと反対を向いて誤魔化す。


「おーい、用がないなら他へ行ってくんねえかな?君達。それともそれは独り身のおじさんに対する当て付けかな?」


 すっかり存在を忘れられていたべルリッツが呆れながら声を出す。


「うわぁ、す、すいません!ベルリッツさん!」


「はぁ、まあいいよ。二つ名の件はわかっただろう?もう広まってるから取り消しは効かねえぞ。諦めな。」


「うぐぐぐ、仕方ない」


「で?本題は何だ?何が知りたい?そうだな、ラオムのことだから『奴隷』に関することじゃないか?」


 こちらを見ながらニヤリと笑うベルリッツ。


「さすがはベルリッツさんです。ご名答。そこまでご存じならどの奴隷が目的なのかもご存知でしょう?」


「まあ、『赤』だろう?」


「その通りです。・・・教えていただけますか?」


「現状から俺のわかる範囲でいいなら、な」


「是非お願いします。では御代はこれでどうでしょう?」


 収納から小金貨5枚をテーブルに置く。

 ベルリッツはギョッした顔をしたがすぐさま普通の顔に戻り、小金貨を懐にしまう。

 それもそうだろう。通常の情報量は内容にもよるが大体小金貨1枚前後が相場なのだ。それが5倍。


「知っていることは全部話せ、か。それだけにご執心って訳だ。オーケー、いいだろう。ここじゃ話しにくい。上に行こうぜ」


 ベルリッツさんはクイクイっと上を指差した。



 

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