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第17話 目が覚めたら

 

 時は少し遡る。


 ミザールの迷宮の前の広場が見渡せる王城の尖塔の上に1人の人影が立っていた。


 その人影を一言で表すなら『影』だろうか。

 現在は満月で周囲は明るい、遮蔽物も何もないそんな場所に立っているにも関わらず、黒に塗り潰されているかのように頭も体も足も手も黒一色。肌が見えているところは1つもなく唯一その瞳だけが煌々と金色に輝いていた。


彼奴(あいつ)の動き出す予兆を感じてからそれなりに経つな。もうそろそろ出てくる頃だと思うのだが・・・。」


 迷宮を見つめていたその『影』はふと空に輝く満月に目を向ける。


「しかし・・・何も今日出てくることはないだろう。せっかく悪魔との強制契約(デモンズペイン)を使い、全能力を強化したまではいいもののその対となるの弱点として満月の日を弱点に設定したのは不味かったか?いや、まさか思考能力や運まで落ちているのではないだろうな」


 『影』はやれやれと頭を左右に振る。

 そんな事を考えているとふいに迷宮から1組の男女が慌てたように走り出てくる。


「おや?このタイミングで迷宮から出てくるということは、まさか?」


 数秒後、迷宮出入口から勢い良く対象物が飛び出してくる。

 死霊の王獣(ワイトキングビースト)だ。


「ほう、最初の獲物は今出てきた男女か。ん?あぁ、地上に出てくるなり、いきなり自分の弱点である満月だった事に驚いてるのか」


 『影』は楽しそうに笑い、暫くことの成り行きを見守る事にした。



「ふむ、殺られてしまったか。いくら弱点の満月の日で能力が大幅減退しているとは言え、30階層の階層主程度の力量はあると思ったのだが・・・。しかし何だ、あの冒険者は?・・・30階層の階層主程度の魔物を一人で撃破できる冒険者、か」


 しばらく考え込んでいたが、


「まあ、いいか。これはこれで興味深いデータが取れた。面白そうなサンプルも見付かったことだ。暫く退屈はしなさそうだな」


 そう呟いて『影』は不敵に笑い、ゆっくりと闇に溶け込んで行くのであった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 どこからか声が聞こえる。

 深い深い水底(みなそこ)に沈んでいるような感覚の中、どこか遠くの方で俺の名前を呼ぶ女の子の声が繰り返し聞こえていた。

 早くその声に答えようとするが叶わなかった。

 そのうち俺を呼ぶ声が1人ではなく、複数の人が叫んでいるように聞こえた。聞こえる声が1人増える毎になんだか力が湧いてくるようで俺は少しずつ上がっていった。



 目が覚めた。少しぼーっとしていたが、屋外ではないことに気付き、周りを見る。


 見たことのない天井。

 見たことのないベット。

 見たことのない部屋。


 ゆっくりと身体を起こし、記憶を辿る。


「そうか、俺はあいつを倒した後、限界凶化(オーバードライヴ)の反動で・・・」


 あそこまで酷使した限界凶化(オーバードライヴ)は初めてだった。いったいあの時の反動で俺はどれだけ意識を失ってしまったのだろうか?何日経ってしまったのだろうか?


「そうだ、セリス!あの時はまだ周囲にワイトがかなりの数残っていたはずだ。俺がこうして無事でいると言う事は難局は切り抜けたと思うのだが、あの状況をセリス一人でどうにかできたとは思えない。あの後、どうなったんだろう」


 非常に気になったが周りにはそれを聞くことのできる人はいない。

 とりあえず身体の調子を確認するためにベッドから降りて軽く身体を動かしてみる。

 ・・・特に問題なく動く。どうやら一応回復しているようだ。


「・・・と言うことは、寝ていたのは一日二日じゃないな。こりゃ、けっこうな人に迷惑かけてそうだなぁ」


 近くにかけられていた俺の服に着替え、部屋を出ると当然ながら見たことのない廊下が続いていた。

 だが先ほど部屋の中から見えた外の景色にはなんとなく見覚えがあった。多分、ここは冒険者ギルドなのだろう。誰かにすれ違った人に聞いてみようと思ったのだがこういうときに限って廊下には誰もいない。あまり使われないフロアなのだろうか?


「仕方ない。まあ、1Fのエントランスまで行って受け付けに行けば、アトリさんなり受付の人がいるだろうから聞いてみるか」


 そう思い、俺は下りの階段を降りていく。1階についてロビーに出たところで受付にいたアトリさんと目が合った。


「ラ、ラオムさん!目が覚めたんですね、よかった!お身体の具合はいかがですか?あれから3日も寝ていらしたんですよ。そうだ!お腹空いてませんか?食事をお持ちします!さ、あちらの席に座って待っていてください!」


 俺を見つけるなり、アトリさんは受付で話していた冒険者を放置して俺のところまで来てまくし立てるように話す。


「・・・あはは、ア、アトリさん。俺の事は大丈夫ですから、えっと、その受付にいた人が固まっちゃってますよ?相手しなくていいーー」


「いいんです!!ギルドマスターからラウムさんが起きたら何をおいてもそちらを優先しろ、と言われてますので!」


「あ、そですか」


 すごい剣幕で語りかけてくるアトリさんにそれ以上言えず、おとなしく従うことにした。

 アトリさんは受付に備え付けてあるベルをチリンチリン、と鳴らすと先程から受付で固まっている冒険者を同僚に任せて俺を酒場の席に案内する。

 手際よく料理を手配し、「絶対にここで待っていて下さいね」と言い残し、ギルドの奥の部屋へと走り去っていった。


「3日も寝ていたかぁ。そりゃお腹もすいているよな」


 先程からずっと空腹を感じていたのでとりあえずアトリさんに頼んでもらった料理を食べることにした。


 出てきたのはお腹に優しい料理で気兼ねなく、全て平らげることが出来た。

 ちょうど食事を食べ終えたその時、冒険者ギルドの入り口の扉が勢い良く開かれた。


「ラオム!!ラオムが目を覚ましたって聞いて飛んできたんだけど!ラオム、どこ!?」


 入ってくるなり、セリスにしては珍しい大声を上げてフロア内をキョロキョロと見渡す。

 こちらからはセリスの姿を視認出来るがセリスからはちょうどに人影に隠れてわからない位置だったらしくだんだんと鬼気迫る顔になってきたセリスに俺はひらひらと手を挙げて応えてやる。


 その合図で俺を見つけたセリスは一直線にこちらに駆け寄り、座っていた俺に向かってダイブしてくる。


「わーん、ラオム、生きていて良かったよー!!」


「わぷ、ちょ、セリス!?ふが、い、息が!くるひ・・・」


 座っていた俺の顔の高さとセリスの胸の高さがちょうど同じ高さになり、そのふくよかすぎる双丘に俺の顔はガボッとハマり、逃げ場を失う。

 もがけばもがくほど顔に触れる柔らかい面積が増えていく。

 俺は慌ててセリスの腕をタップする。


「わ、ご、ごめん、ラオム。・・・つい嬉しくて。エヘヘ」


「ったく、せっかく生きて帰って来たってのに今の、死ぬかと思ったぞ」


「・・・生きて、帰って来た?そうだ!帰って来たら、ぎゅ〜〜〜ってする約束だったよね!!」


 『帰って来た』と言う言葉にハッとしたセリスに俺は再び圧殺せんとばかりの巨大で柔らかな双丘にこれでもか、と襲われるのであった。


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