第13話 迷宮探索 その2
薄暗い階段を降りていき、俺達は11階層に降り立った。
そこに広がっていた光景は先ほどの10階層の階層主の部屋よりも広く、10階層以前の石造りの迷宮とは似ても似つかない、草原だった。
「何これ何これ!迷宮の中にこんなに広い空間があるなんて!とても信じられない!あれ?なんとなくさっきのフロアよりも明るいような?」
「そうだな、ここから20階層まではこんな感じのこんな感じの部屋が続く。確かに広いから開放感はあるが隣の部屋へ続く横穴も数多くあり、ヘタをすると隣の部屋からも魔物が入ってきてあっという間に囲まれる可能性が高い。この階層からの魔物は先ほどの階層よりも弱くなっているがその分魔物も集団戦を使ってくる。だから魔物を見つけたら確実に仕留めていかないと危険になる。わかったかな?セリスくん」
「なるほどねぇ、魔物自体は弱くなっているとは言え、戦っている間にたくさんに出てこられるとキツいもんね。よーし、囲まれる前にどんどん倒しちゃおう!」
「よし。それが分かったのならひとまず10階層のさっきの階層主の部屋まで戻るぞ」
「えぇ?なんで?先に進むんじゃないの?何か忘れ物でもしたの?」
ほぼ初めてとなる本格的な迷宮攻略に加えて、先程の階層主 スケルトンロードとの戦闘でセリスは少しばかり興奮している様子だった。
俺達が迷宮に入ったのは夕方。
ここに来るまでに結構時間が経っている。多分、もう外は深夜に近いような時間になっているだろう。こんな時間まで休憩らしい休憩を取らなかった俺も悪いのだが、一段落ついてお腹も空いてきたし、ここら辺で休憩を取らないとこの後の戦闘に支障が出ると思う。
「セリスはお腹空かないのか?もうかなりいい時間になってるぞ。そろそろ仮眠でも取らないと動きも鈍くなるし、集中力もなくなって戦闘になったとき危ないぞ」
「・・・うわぁー。そう言われてみれば、確かにお腹空いてるかも!ラオムに言われるまで全く気が付かなかったよ。あー、こりゃダメだね、1回気がついちゃうとお腹がすいてきてどうしようもないや。早くご飯にしよう、ラオムー。・・・あれでもどうして10階層に戻るの?」
「10階層の階層主はさっき俺たちが倒しただろ?そうするとしばらくあの部屋に通常の魔物は出現しない。休むには絶好の部屋ってわけだ。ま、誰かが魔物を誘き寄せてくれば別だけどな。で、この11階層の入口、この階段前でも魔物は出現しにくいがそれでも可能性は0ってわけじゃない。万が一に備えて10階層で休むってこと」
「なるほど!勉強になります、ラオム先生!」
「うむ、よろしい。では行こうか?セリス君」
急に真面目な顔になり、ボケるセリスに乗ってやる。
「「アハハハッ!」」
他の知らない人とのパーティーでもそつなくこなしてきたけど、やっぱり気軽に冗談を言い合える幼なじみがパーティーに居るって、いいなぁ。
俺たちは10階層に戻ってさっそく食事にする。
俺の収納から出した水や火を使って温かい食事を取る。そして同じく収納からテントや寝袋を取り出し、交代で仮眠を取ることにする。こんな深夜とも呼べる時間帯に行動しているパーティーは他にいなかったようでお互いが交代している間、誰とも会うことはなかった。交代には1時間の砂時計を使い数時間休んだ後、簡単な朝食を取り俺たちは再び11階層に降り立った。
「よし、それじゃあ攻略再開だ。さっきも言ったが基本的に魔物は見つけ次第撃破していくぞ!距離が離れていて魔物が俺達に気づいていないようならスルーも考える。この階層から出る魔物は、トレント、ピクシー、オーク、グリーンウルフだな。魔物に気付かれたら先制攻撃を仕掛けてもらって構わないがあまりに魔物の数が多かったら俺に知らせてから射ってくれ」
「わかった!今度はバンバン撃っちゃうよ、私!」
フンスッ!と気合十分なセリス。
スケルトンロードとの戦闘で自信が付いたようでなによりだ。
「あ、そうだ。ここから多分他のパーティを見つけることもあると思う。他のパーティーが魔物と戦っている場合、横槍を入れるのはマナー違反だから気をつけてくれ。基本的には他のパーティーのことはスルーして進むことにする。それが迷宮での暗黙の了解ってやつだ」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ見つけた場合はラオム報告して手出ししないようにしておくね」
「ん?これは・・・?」
11階層をしばらく進むと何やら辺りに戦闘した後が残っていた。どうやら数時間前にこのあたりで戦闘したようだな。
「セリス、気をつけろ。この辺りで戦闘の跡がある 冒険者が勝っていればいいがもし魔物が勝っていたら味をしめてこちらに攻めてくる可能性がーー」
タンッ!
そう言い終わる前に矢が飛んできた!くそ!どうやら前の戦闘で勝ったのは魔物たちのようだ。
「来るぞ!気を付けろよ、セリス!」
「任せて!」
そう言うとセリスは 魔物の矢が飛んできた方を向いて矢を射る。遠くの方で魔物の悲鳴が聞こえた。俺はその声を頼りに駆け出し、そこに蹲っていたオークに止めを指す。直後、殺気を感じた俺は、左脇の隙間から後ろに向かって槍を突き出す。突き出された槍の先端には忍び寄っていたオークの頭を打ち抜き、オークは絶命して魔石となる。その間もセリスの射撃は続いていた。今も俺の頭の上をセリスの矢が通過して、上空を漂っていたピクシー数体を魔石に変える。
その後、俺も付近に居たオークを数匹仕止める。ふとセリスの方を見るとセリスは木を背後にして矢を射っているところだった。
不味いと思った俺はすぐさまセリスに向かって大声を出す。
「セリス!それはただの木じゃない!トレントだ!直ぐに離れろ!」
「え?」と驚きの表情で後ろを振り返るセリス。そこにはセリスに向かって枯れた木の枝を大きく振りかぶるトレントの姿があった。
「くそ!ヤバい!間に合うか!?行けぇー!」
俺は『魔力制御』でミスリルの槍に魔力を込めて思いっきりトレントに向かってぶん投げる!!
ボッ!!
トレントの攻撃がセリスに当たる寸前、間一髪で俺の槍がトレントに届き、そして貫いた。
槍はそのまま後方へ飛んでいき迷宮の壁に深く刺さっている。
「大丈夫か!?セリス怪我はないか?」
俺は急いでセリスの所まで駆け寄り、座り込んでいるセリスの肩を掴み、安否を確認する。
「ふわぁ、た、助かったよラオムゥ!ありがとー。で、でもちょっとびっくりしてこ、腰が抜けちゃった。あはは・・・」
気まずい表情で頬をポリポリとかく、セリス。
セリスもまた危ない状況だったのを理解していたようでちょっと腰が抜けてしまったようだ。
しかし先程のトレントが最後の一匹だったようで戦闘は終了。一息つけそうだった。
俺はセリスの腰が回復するのを待ってから槍を回収する。
そしてセリスも落ち着いたようなので先程の戦闘で落ちている魔石や素材を回収する。
「しかし危ないところだったな、セリス。隙を見せないために木を背後にして矢を射る、というのはいいアイデアだったがこの階層にある木はほとんどがトレントである可能性が高い。木を背後にするならまず木に矢を打ち込んで何とも無いのを確認してから背にした方がいい」
「はーい・・・すみませんでした、ラオム先生」
しょんぼりとうなだれるセリス。その頭をポンポンと優しく叩いて、
「さっきも言ったが魔物に背後を取られないように木を背にするのは正しい。今回のことは今後に活かせばいいのだよ、セリス君」
と優しく諭す。
その後の戦闘ではセリスもわかったようで危なげない戦闘が何度か続く。
何度目かの戦闘の後、遠くの方で俺達の他に交戦しているパーティーを見つけたがどうやら苦戦しているようだ。
「ラオムも気付いたみたいだけど、どうするの?なんかあのパーティー危なそうだけど無視していく?加勢に行く?」
セリスが心配そうに声をかける。
どうするかな?と思案しながら苦戦しているパーティーの顔が判別できる程度に近づいてみるとこれまでに一緒にパーティーを組んだことはないが何度かミザールの冒険者ギルドの酒場で話したことがある知人のようだった。
「どうやら知人みたいだな。このままに見過ごして死なれても後味が悪い。一応、声をかけて了解を得たら救援するぞ」
「そう来なくちゃ!ラオムだったらそう言うと思ってたよ!」
そういうとセリスは俺にウインクして笑顔になりながら駆け出す。
俺たちは苦戦しているパーティーに走ってある程度の距離を残して近寄り、手近な一人に声をかける。
「ミザールの冒険者ギルドの酒場で何度か話したことがある、ラオムです!救援は必要ですか!?」
「あ、あぁ、ラオム、ラオムか!?すまん!加勢してくれると助かる!頼めるか?」
「わかりました。行くぞ、セリス!俺はオークの群れに突っ込み前衛の二人を助ける。セリスは怪我人の手当を頼む。一通り手当を終えたら俺と一緒に前線で戦っているやつにヒールアローを射ってやってくれ」
「わかった。ラオムも気を付けてね!」
「あぁ!任せておけ!」
俺とセリスは二手に分かれて、それぞれの冒険者の元へと駆け出す。
前方では倒れた仲間を庇うため二人の戦士がオークどもの注意を一身に引き付けていた。
俺はそんな彼らが引き受けている先頭のオークの横っ腹に突っ込み、一匹始末して注意を俺の方に向ける。
「のんびり戦っていたら更に囲まれる可能性があります!俺が突っ込むので援護お願いします!」
「わかった。すまない助かるよ」
「ありがとう!任せてしまってすまない」
「気にしないで下さい。まずは生きて帰ってからの話、ですよ。で、俺の仲間が後ろで倒れている連中を回復させたらあなた達2人にも回復を飛ばすからそれは臆せず受けて下さい」
「あぁ、よくわからんがラオムの仲間がなにかしたら指示通りおとなしく受けておく」
俺はオークから目を離さずコクンと頷く。
オークの数はざっと数えて20匹ほどか。満身創痍の彼らからしたら絶望的な数だろう。むしろ、よくここまで耐えていた方だ、と思う。
さて、人命がかかっているんだ。あまり時間をかけてられないな。長引かせればまた仲間を呼ばれる可能性が高い。
ここは全力であのオークどもを早急に始末した方がいいだろうと判断し、今身体に残っている魔力を全てミスリルの槍とブーツに注ぎ込み性能を向上させて準備完了だ。
俺は一番手近なオークに一足飛びで近づき、間合いを詰め、オークに向かって水平にまるで剣で切るかのように槍を払う。
オークの胴体はまるでバターでも切ったかのように両断された。 無造作に振った一撃でオークを両断できることを確認した俺はそのまま手近なオークに襲いかかる。
戦闘の駆け引きも技術も武器の相性も何も関係なく、ただオークに向かって無造作に槍で突き、払い、殴る。その度にオークに風穴が空き、四肢が宙を舞い、肉が潰れる。オークの群れは一匹また一匹と着実に数を減らしていった。
オーク達は思っていた。
槍を持っただけの人間が槍術を使っているわけでもなく、素早く高い技術があるわけでもなく、ただ子供のように槍を振り回しているだけに見える。なのに、なのに何故だ!その射程圏内に入っただけで手が、足が、胴体が、首が両断され宙を舞う。
最初に比べて数が1/3程度に減らされた時点でオークのリーダーは混乱から立ち直り、残った仲間に指示を出す。
荒れ狂う暴風には射程距離外から攻撃しろ、と残った仲間で暴風の周りを取り囲んだその時、囲みの外より自分たちの後ろからの攻撃に仲間が一人倒れる。
ハッとして、後ろを振り向くオークリーダー。
「おいおい、最初に襲われてたのは俺たちなんだぜ?忘れてもらっちゃ困るなぁ」
その時、別の角度からも矢が飛んで来て、取り囲んでいるオークの後ろ頭に刺さり絶命する。
「ラオム、みんなの回復は終わったから援護するよ!」
暴風ラオムを囲み、前後左右から挟撃するつもりだったオーク達は、逆に前後挟まれる形になり混乱して反撃らしい反撃をすることもできず、新たな仲間を呼びに行くこともできず全滅させられてしまう。
「ふー危ないところだった。改めて礼を言わせてもらう」
「助かったぜ!ラオムは本当に良い所に来てくれた。うちのパーティーを代表して礼を言うぜ。しかしヒールアローとは驚いた。あんなスキルの使い方があったんだな」
「まあ困った時はお互い様ですよ、ま、ヒールアローについてはセリスのスキルと武器が揃って初めて使える技ですからね。それより戦闘も一段落したし、少し休憩にしませんか?1パーティーで休憩するよりも2パーティ合同で休憩した方がやりやすいですからね。」
「もちろんOKだ!こちらとしても願ってもない申し出だからな」
そうしてしばらくお互いに休憩をした後、彼らは地上に向かって帰還の途につき、俺たちはさらなる下層へ向けて歩き始める。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
この時、地上へと戻れた彼らはラオムの活躍ぶりを他の冒険者に語るとき、
『八つ裂き』のラオム
『蒼き戦乙女』のセリス
と二つ名をつけて話を広めるのだが、それをラオム達が知ることになるのは、もう少し後の話になるのであった。
この休み中に1日のPVが2000を越えました!
ありがとうございます!
先週まで3桁行けば、御の字だったのにいったい何があったのでしょうか?
今週は月曜、水曜、金曜更新の予定です。
また読んでいただけると幸いです。