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第11話 奴隷市場

 奴隷。

 この世界では一般的な存在で実に様々な理由で奴隷が生まれる。


 戦争で負けた側また捕虜にされて帰国出来なかったもの。

 返しきれないくらいの借金をかかえ自らの身体にて支払う者。

 自らの家族を養うために売られる者、もしくは進んでその身を売る者。

 戦争ではなく、旅の最中等に盗賊や人攫いに捕まり、望んでいないのに売られる者。

 自ら犯した罪により奴隷として判決が下される者。

 様々な理由で奴隷になるが基本的に奴隷の所有者が了承しない限り奴隷という身分から解放されることは有り得ない。


 世の中には、

 こいつは『奴隷だから』と差別する人。

『奴隷だから』と差別しない人。

 差別する事なく、そもそも人としてすら見ずに物扱いする人。

 認識は様々で本当に色んな人がいる。


 俺自身、奴隷になった事も所有した事もない。育った村にも居なかったので奴隷という存在を正直大して気にしていない。

 奴隷だろうが奴隷でなかろうが使えるなら使うだけだ。


「奴隷市場、か。俺も今まであまり来たことがないんだよな。1つ1つ見て回るか」


「戦闘奴隷を探せば良いんだよね?男性の方が戦闘には向いていると思うけど、あんまり暑苦しいのも嫌だな。でも女性だとラオムを取られるかも・・・あ、でも、それだと・・ブツブツ・・・」


 あー、またセリスが1人の世界に行ってしまった。まあ、真剣にどんな奴隷にするか考えているようだからほっとくか。

 さて、どこから見て回るかな。


 奴隷市場にはしっかりとした館に店を構える高級店と広場に簡易的な台を設けてそこでオークションを開催するという2通りあるようだ。


 広場でオークションされている奴隷を見たが労働奴隷がほとんどで戦闘奴隷は少なかった。いたとしても労働奴隷よりも少し強いのではないか?といった程度だった。


「そうなると次は商館に行ってみるか」


 あれこれと考え込みながらも一応俺の後に付いて来るセリスに一声掛けて俺はそこら辺にいた案内人に1番数が揃っている商館に案内してもらう。

 そして案内してもらった商館は奴隷市場や魔物市場、スラム街が広がる町の北とは思えない、まるで貴族の館といっても過言ではないほどの建物だった。貴族の館との違いと言えば、庭が全く無いくらいか?


「・・・奴隷稼業って儲かるんだなぁ」


 そう呟いたのが聞こえたのか、案内人が教えてくれる。


「ここの商館には貴族の方もやって来られますので受け入れる側としてもそれなりの『格』が必要なのです」


 なるほどな。貴族が買いに来るのにオンボロ館じゃあ体裁を気にする貴族も買いに来ないわな。


 案内人にチップと礼を言い、商館に入る。


「これはこれはいらっしゃいませ。当館の主人をしております、ミュッテンバーグと申します。本日はどの様な奴隷をお探しでしょうか?当館では労働奴隷、家事奴隷、性奴隷、戦闘奴隷等何でも取り揃えておりますのできっとお客様のご要望にお応え出来るかと思います」


 如何にも商人!とでもいう様な背が低く小太りなおっさんだがそこそこの貫禄ある商人が出て来た。さすがに貴族も相手にしているだけあって気品も漂っている。


「ミザールを拠点としている冒険者のラオムと言います。この先の戦闘を見越して戦闘奴隷を探しているのですが、今いる戦闘奴隷を見せてもらえないでしょうか?」


「承知致しました。現在、当館には14名の戦闘奴隷を所持しております。これから戦闘奴隷の区画へ御案内致します。14名のうち、まずはおすすめの戦闘奴隷を紹介致しますので他に気になる奴隷がいれば遠慮なくお申し付け下さい」


 ミュッテンバーグに案内され、俺とセリスは館内の戦闘奴隷の区画へ移動する。

 市場の奴隷オークションと違って館内は清潔で悪臭もなくむしろ何かの香水か?どことなく良い匂いが漂っていた。

 貴族の館なんて行ったことないが、もし行く機会があればこんな雰囲気なんだろうか?と軽く緊張しかけたが、ふと隣を歩くセリスを見るとガチガチに緊張して右手と右足が同時に出ていたのを見て逆に緊張がほぐれた。


「おい、セリス。そんなに緊張しなくてもここは貴族の館じゃないぞ。もっと気楽に構えろよ」


「そ、そうは言ってもどこを見ても高そうだし、絨毯はフカフカだし、ラオムみたいに出来ないよ」


「しょうがないな。なんてあったらフォローしてやるから早く慣れろよ」


「あ、ありがとうぅ、ラオムゥ〜」


 ガチガチのまま、案内された区画に入る。

 中は中央通路の左右に種族毎、性別毎に分かれた牢があり、14名の戦闘奴隷が各部屋の中で待機しているらしい。


「手前から獣人 雄 2名、ドワーフ 雄 1名、人 雄 3名。奥の区画に手前から獣人 雌 2名、エルフ 雌 3名、人 雌 3名となっております。それではまずはこちらの獣人です。珍しい狼族でして戦闘力には定評がございます。所持スキルは『匂い察知』『短剣術』『身のこなし強化』。獣人のLV.45で即戦力としてお役立ち致します。お値段は5,500,000リアルで非常にお買得と思います。如何でしょうか?」


「ふむ、悪くないですね。立派な前衛として十分な働きをしてくれそうだ。だが最初に出された奴隷を即決するのはさすがにちょっと、ね。他も見せてくれませんか?」


「承知致しました。それでは次は・・・」


 そうして各種族毎に部屋を回っていた時、女エルフの部屋で気になる奴隷を見つけた。


「・・・スキルは『弓術』『森林適性強化』、LV.23となっております。エルフは見た目からも人気が高く、お値段もその分高額となっており7,700,000リアルです」


 エルフは男女共に美男美女が多く、購入者は男でも女でもハーレムを作りたいやつが購入して行く傾向が強い。性奴隷は戦闘は出来ないが夜の相手が可能。戦闘奴隷は戦闘も夜の相手も可能でその分高額である。増して、エルフで見た目が良ければ価値は更に上がる。


「ふむ、そのエルフの詳細は分かりましたが、あちらにいる髪の色が真っ赤なみたことのないエルフについても教えてもらえないでしょうか?エルフの髪の色は金色か銀色だと記憶していたのですが?」


「さすがラオム様、御目が鋭い。通常、金色もしくは銀色の髪のはずですが、あちらのエルフは突然変異体のようでご覧いただいているような赤色は生まれつきの赤色なのです。このエルフは南方にあるエルフの国の貴族出身で年齢は16歳。200年以上生きると言われるエルフにしては幼く、現在のLV.も10。その分LV.も含めてこれから育てる必要がありますがどの様に育てるのも自由です。スキルは一般的に『弓術』『森林適性強化』『神聖魔法』『風雷魔法』『土樹魔法』いずれかの組み合わせが多いのですが、その赤色エルフはそれらのスキルを1つも所持しておりません。代わりに所持しているのはなんと4種類。これは大変珍しく5万人に1人の確率と言われております。そして肝心のスキルは『二刀流』『受け流し』『火炎属性』そして『防高(ディフェンス)攻乗(バイプッシュ)』という、これまた特殊なものばかりなのです」


 なんだ、それ?

 髪の色が違うってだけでも異端なのにスキル構成まで全く違うなんて異端すぎるな。外見はエルフなのに中身がエルフではないような、そんなスキル構成だな。

 しかも最後のスキルってなんだ?


「『防高(ディフェンス)高乗(バイプッシュ)』?他の3つの内『火炎属性』も珍しいけど3つ共それなりに有用なスキルだと聞いたことがあるけど、最後のやつは聞いたことないスキルだな・・・?セリスは知ってる?」


「ううん、私も初耳のスキルだよ。一体どんな効果があるんだろう?」


 ミュッテンバーグはそんな俺とセリスの会話をニヤニヤしながら聞き、会話に入って来る。


「そうでしょうとも。私も長年この商売をしておりますが、この様なエルフは初めて見ました。スキル構成も近接系スキルで大変珍しいものですし、エルフとしても希少価値が高いと評判です。更に『防高(ディフェンス)高乗(バイプッシュ)』、このスキルは鑑定によって調べたところ、防御力が高ければ高いほど、攻撃力が乗算されていく能力の様です」


「えっ?それってかなり強力なスキルなんじゃ?」


 セリスがポツリと溢した発言には俺も一瞬そう思ってしまったがどうにもしっくり来ない。

 それを聞いたミュッテンバーグはここぞとばかりに推してくる。


「左様でごさいます。先ほども申し上げた様にこのスキルを含め、どのスキルも前衛として役立つ事間違い無しのスキルでございます。しかもスキル4つ持ち。ここまで稀少な奴隷はそうそう出てこないと思われます。当館1番のオススメ奴隷、御値段今なら20,000,000リアルです。実際、今も数名の方々から御声をかけていただいておりますので御早目に御決断下さいませ」


 この奴隷についてミュッテンバーグは何か焦っている様に俺は感じていたのだが・・・ふーん、なるほどね。最後の売り文句でなんとなく推測出来た。



 その後、残りの奴隷を確認して俺たちは奴隷商館を後にした。

 そろそろ迷宮に行く時間だったので歩きながら奴隷商館の感想を言いあう。


「ねー、ラオム。なんで誰も買わなかったの?ラオムの話し振りから誰か買うのかと思ったよ」


「奴隷市場に来る前に言っただろ?今日は確認に行くだけだって。良さそうなのがいたからってさすがにすぐ買ったりはしないさ」


「え〜?そう?なんだかあの髪が真っ赤なエルフに後ろ髪を引かれていた様に見えたんだけど?」


「そ、そんなことな、ないぞ。今日は確認だけだ。それなりに収穫はあったからそれでよかったんだよ。それにあのスキルはクセが強すぎる。とても有効利用出来そうな気がしない」


「その割には1番熱心に話を聞いていた様に見えましたけどー?やっぱり見た目が良いからエルフ狙いなんですかー?」


 ジト目でセリスがこちらを睨んで俺の肩をグッと掴み、その手に力が入る。かと思えば、パッと手を放し表情を変えて質問してくる。


「でもあのスキルは確かに強力だと私も思った。ラオムもそう思ったから興味深く話を聞いていたんでしょ?」


「そうだな、あのスキルにあのスキル構成で獣人や人だったら即買いクラスの物件だと思う。だが、あれは「エルフ」だ。多分だけどあの奴隷商館のかなりの不良在庫案件なんじゃないか?と思ったんだ。本当にオススメならあのエルフ部屋で最初に紹介して来るだろ?」


「確かに、そうだね。言われてみれば変だよね」


「防御力が高い程、攻撃力が乗算される。これを聞いてセリスならどう装備を整える?」


 セリスがう〜ん、と腕を組むとその巨大なものが上へと押し上げられる。

 俺はちょっと目のやり場に困って上を見上げる。


「そうだね。やっぱり防御力を上げるために防具をいっぱい装備するかな!そうすれば攻撃力が上がって魔物が倒し易くなるもん!」


「そうだな、正解だと思う。・・・普通の冒険者なら、な」


「普通の冒険者なら?」


 セリスの顔には「?」がたくさん浮かんでいる様に見えた。


「忘れてないか?あのスキルを所持しているのは「エルフ」だ。非力な「エルフ」だぞ。高い防御力の防具、例えばフルプレートアーマーだとしよう。そんなものを装備すれば攻撃力はスキルの影響で上がるだろう。しかし当然防具の重量も増える。エルフがそんな重量の防具を装備できると思うか?仮に装備出来たとしても動くだけで精一杯、攻撃を当てる事すら困難だろう。当然せっかくの『二刀流』『受け流し』のスキルも死んでしまうだろう」


「あ!確かに!そうなるとあのスキルは意味が無い?『二刀流』と『受け流し』と『火炎属性』で戦って行くしかないのか。それにしても高いよね」


「半分正解かな。あのスキルは無いものとして、セリスの指摘した3つのスキルだけで戦うとする。でも結局また「エルフ」が問題なんだよ。基本の身体能力が低いからそのスキル構成では近接戦闘なんて意味が無い。足手纏いでしかないんだよ。更に言うなら『火炎属性』も気になるな。あれって行動の全てに『火炎属性』が付与されるスキルだろ?一応訓練次第では制御は出来ると聞いているけど、あのエルフが制御出来るかはわからないな。いくらスキルの希少性、エルフの貴族、エルフとしての希少性があると言っても20,000,000リアルは高すぎる。本当にオススメな奴隷なら他のエルフと一緒のあんな粗末な部屋に入れてないだろ。最初から違和感があったけど、ミュッテンバーグの途中からの推しが強かった、いや他に比べて強すぎたのもあってこいつは『火炎属性』や『防高(ディフェンス)高乗(バイプッシュ)』がネックになってもて余している、不良在庫なんだろうと予想したんだ。今のままでは買う気はないなぁ今のまま(・・・・)では。」


「はぁー、なるほどねー」


 セリスが感心した様にウンウンと何度も頷く。


 確かに面白い人材で興味はあったが。戦闘向きの奴隷は他にもいたし、迷宮で現状の戦力を把握してから補強を検討するという計画に変更はない。


「さて、そろそろ迷宮だぞ。準備はいいか?セリス」


「うん、援護は任せてよ!」


「なら、行くぞ!」

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