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旦那様、お出かけを提案する

「二人とも暑苦しくないの」


 朝から私を抱えてソファに座るロルフ様を見て、コルネリウス様が一言。

 ロルフ様は脚の間に座らせてお腹に手を回しているので、ぴったりとくっついているのです。この体勢はちょっと人前では恥ずかしいのですが、ロルフ様は気にした様子もなさそう。


「ちょっと暑いですけど、季節ですからね」

「私はエルがひんやりしてるから心地好いぞ」


 私は年がら年中冷え性でちょっと冷たいので、この季節になると程好いみたいです。寒い時期に素足でロルフ様の脚に触れたら一瞬びくっと震えますからね、直ぐに暖めてくれますけど。


 指を絡めて軽く遊びつつ楽しそうにしてるロルフ様に、私もちょっとだけ絡めて返しつつコルネリウス様に微笑みます。

 ……コルネリウス様はそんな私達に微笑ましそうで、でもその中にちょっぴりを呆れを混ぜていたり。


「お熱いのは良いんだけど、見ててちょっと暑苦しいかな。部屋か外でやってくれというのが本音」

「……部屋だとこれじゃ済まないのですよ?」

「君らがおしどり夫婦なのは百も承知なんだけどさあ……こう、独身にも配慮して欲しいというか」

「兄上は選り好みしなければ直ぐに結婚出来るでしょうに」

「妥協はしたくないんだけどなあ……でもそう言ってると婚期を逃すんだよねえ」


 私も奧さん欲しい、と嘆くコルネリウス様ですが、コルネリウス様がもし結婚したとなるとこの家を継ぐのはロルフ様なのかコルネリウス様なのかどちらになるのでしょうか。

 普通なら、コルネリウス様なのでしょうが……。


「……コルネリウス様が結婚したら、どちらが家を継ぐのでしょうか?」

「ん? そりゃロルフだろ。優秀な方に継がせるのが一番だよ」


 コルネリウス様は当主の座には全く興味がないそうで……というか、面倒に思ってるみたいです。自由が一番、と豪語するコルネリウス様って実は面倒臭がりですよね。

 しがらみとか義務とかあーやだやだ、と仰るコルネリウス様、控えめに言ってちょっと駄目な感じがします。いえ、分からなくもないですけど。


「君らが子宝に恵まれたら、手っ取り早いんだけどねえ。というか、どう考えてもクラウスナーに治癒術の才を取り込んだ方が良いだろうに」

「こ、子宝……ですか。その、コルネリウス様、数年はまず無理だと思いますよ?」

「そこでエルちゃんのロルフの認識が窺い知れるねえ」


 だ、だって……その、ロルフ様は夫婦の営みなんて、しようとか思ってないでしょうし……。押し倒しても無反応でしたし……最後はちょっと照れてくれましたけど。

 そんなロルフ様なので、当面の間はまずないと思うのです。ロルフ様ですからね。


「私に何か問題でもあるのですか」

「いーや、ロルフらしくて良いよねって話。ねえ、エルちゃん」

「は、はい」


 同意を求められたので頷きつつ、……やっぱりロルフ様ってマイペースで天然さんですよね、とばれないように苦笑い。

 まあ、私はそんなロルフ様が好きですし、いつか家族が増えたら良いなくらいで納得してるので。


 そう期待はしていないので今はロルフ様とゆっくり過ごすつもりなのですが……ロルフ様、私を抱き締めたまま顔を私の後頭部に埋めるのです。

 それから、やんわりと掌が腹部を撫でて。


「……エルは細いな」

「そうですか? ありがとうございます」

「もっと太ってくれないと困る」

「太っ!?」

「折りそうで怖い」

「そう簡単に折れませんから。ロルフ様だって折ったりはしないでしょう?」

「……折らないが、傷付けそうだ」


 心配なのかさすさすとお腹や腕を擦るロルフ様。……基本的に私には慎重に触れるし優しいロルフ様が私を傷付けるなんて、殆どないから心配もしてないんですけどね。


「大丈夫ですよロルフ様、自分で治せますから!」

「そこは傷付けないでとは言わないのだな」

「え? ロルフ様が私の事大切にして下さっているのは分かってますし、故意に傷付けるなんてないと思ってますよ? もし何かあったら事故だと思います」

「エル……」


 信頼してますし、心優しい方だと分かってるので、ロルフ様がそんな事するなんて夢にも思ってませんよ。

 そう伝えると、ロルフ様は僅かに声を震わせて、それから心情を表すかのように力一杯私を抱き締めてきます。圧迫感に「うぎゅ」と思わず声が漏れてしまいましたが、これは傷付けた訳じゃないのでノーカウントなのです。……ノーカウントですよね?


「私はエルを一生大切にするつもりだからな?」

「うん、それは端から見てても分かるけどね、絞まってるから」


 コルネリウス様は私の表情の変化に気付いて助け船を出してくれました。ロルフ様、感極まってぎゅうぎゅう抱き締めて結構締め付けていたのです。


「す、すまないエル。大丈夫か?」

「大丈夫です、愛として受け取っておきますので」

「抱擁にはたっぷり込めてるからな」

「や、君らがお熱いのは良いんだけどさ……お腹一杯だよ。いちゃいちゃするなら外でやってくれというのが本音かな」


 これも睦み合いの一環なので私としては嬉しいのですが、コルネリウス様的にはいちゃいちゃに受け取られていたようです。いえ、いちゃいちゃと言われれば否定は出来ないのですけど。


 お熱い事で、と掌で顔を扇ぐ動作をしながら苦笑いするコルネリウス様に、私も羞恥でもわっと顔が熱くなってしまいます。


「外でやれ、だと。エル、お出掛けするか?」

「そういう意味で言ったんじゃないと思いますよ……?」

「む? だが、折角の休みなのだからお出掛けというのも良いな。家では兄上が茶化してくるし」

「それは目の前でいちゃいちゃするので独り身が居たたまれないからだよ」

「じゃあ外に行こうか、エル。外でくっつけば誰にも迷惑はかけないな」


 善は急げと私ごとソファから立ち上がるロルフ様に戸惑いつつ、ちらりとコルネリウス様を窺えば手をひらり。つまり、お好きにどうぞ、という事なのでしょう。

 そのまま肩を抱かれて居間から出る私。


 ……あっさりとお出掛けが決まったのですが、肝心の行き先は一体。いきなり決まったから目的も何もないでしょうに。


「お出掛けは構わないのですけど、何処行くのですか?」

「もう一度泉に行こうか。そろそろ熱くなって来たからな。今度は泉に全身を浸しても風邪は引くまい」

「思い出させないで下さい、転んじゃったの」

「別にあれは仕方ないだろう」


 昔の惨事を思い出させてくれるロルフ様に「もう」と脇腹を軽くつつきつつ、……よく考えたらあの頃から私たちの関係が変わり始めたんだな、とも感慨深くなったり。

 初めての、ロルフ様からのお誘い。初めてのおでかけ。

 あの日は、とても嬉しくて……。

 ま、まあ転んだのは今でも恥だとは思ってるのですけど、結果的に熱を出して良かったのかもしれません。

 今度は、風邪なんて引かないようにしなくては。


「今度は転びませんからね?」

「どうだろうな。エルはうっかり屋だからな」

「もうっ!」


 ちょっぴりからかうように笑ったロルフ様ですが、結構突き刺さってますからね! 確かにどじだしとろいのは否定出来ないから可能性がないとはとても言い切れませんけど!


 再度脇腹をぽこぽこと殴る私に、とても生暖かい視線を下さったロルフ様。……こけるとか確信してませんよね? 私、そんな危なっかしいですか?


 むー、と唇を尖らせた私に、ロルフ様は朗らかな笑みを浮かべて頭を撫でてきました。

 ……こけないようにしなくては。

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