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旦那様のご帰宅

「何故居る」


 ロルフ様が帰宅したのですが、出迎えにレオナルド王子殿下も一緒だった為開口一番抑揚のない声。機嫌が悪そうなのは、多分、私の出迎えが抱擁ではなかったからでしょうか。

 流石に王子殿下の前でべったりするのも恥ずかしいからと普通に出迎えたのですが……ロルフ様的にそれが不服だったらしく「さあ」と手を広げて来るのです。……ロルフ様、ひ、人前でそれは……。


 ぷるぷると首を振ると「お前のせいだ」とレオナルド王子殿下を睨み始めるのです。そんなぞんざいな扱いは駄目ですよとはらはらするものの、レオナルド王子殿下はへらっと軽い笑み。


「僕の事は気にしなくて良いよ? 旦那様の胸に飛び込んでおいでよ」

「エル、あれは無視して良いから。寧ろ居なかった事にして良いから。ほら」

「……あぅ」


 ロルフ様が待ち構えていらっしゃって、そわそわと私を見詰めて来るのです。私を抱き締めないと帰宅した事にならないらしくて、じーっと視線を投げるので……私も覚悟を決めて、小走りでロルフ様に体当たりです。

 あっさりと受け止められてそのままホールドされる私ですが、レオナルド王子殿下の視線が恥ずかしくてつい身じろぎ。ロルフ様は実にご満悦そうで何よりなのですが……。


 でも、流石に人前で口付けは無理ですロルフ様。


 顎を持ち上げてそのままキスして来ようとしたので、つい、反射で思いきり頭突きをしてしまいました。

 ゴン、という鈍い音がして、よろりと体勢を崩すロルフ様。あああやってしまいました、こんな強く拒むつもりじゃなかったのに……!


「良い音したねー」

「ごっ、ごめんなさいロルフ様! お気を確かに!」

「構わぬ……エルに怪我はないのだな……?」

「ご、ごめんなさい、私だけ無事で……」


 石頭が幸いしたのか祟ったのか、私だけは多少痛むだけで済みました。代わりにロルフ様が重傷ですが……。


 復活したロルフ様の額がまあるく赤くなっていたので、本当に申し訳なくて手を伸ばして治癒術をかけておきます。

 心なしか膨らんでいる額の表面をそっと撫でるように指の腹で触れて。祈りを込めて治癒術をかけると指先が淡く光り、ほどけるように患部に吸い込まれるにつれて赤みは引いていきます。


 大分治癒術も扱えるようにほっとしつつ、何事もなかったかのようにいつもの肌になった額をもう一度撫でて確認。


「痛みはないですか?」

「ああ。……今度から頭突きはもう少し優しくしてくれ」

「ご、ごめんなさい……」

「それはロルフが所構わずキスしようとするからじゃ」

「お前が居なければエルは拒まなかった」

「……流石に玄関先だと恥ずかしいです……」

「何!?」


 駄目なのか!? とショックを受けてる旦那様に小声で「出来れば寝室で」とお願いしておくとちょっぴり不満層ながらも頷いてくれました。……多分今日寝る前に沢山される事になりそうです。


「まあ良い。……で、レオナルドは何故此処に居る」

「突撃友人の晩御飯を……」

「帰れ」

「冗談だってば。色々と二人で話したい事があるんだよ。コルネリウスにも聞きたい事はあったし」


 決して遊びに来ただけではないよ、と笑ったレオナルド王子殿下。……遊びに来たという目的もあるのですね、とは突っ込まないでおきました。




 そんな訳で今日はレオナルド王子殿下も夕食をご一緒するとの事で緊張の私なのですが……なんというか、色々と戸惑う事ばかりで。


「おかわりー」


 思ったより、レオナルド王子殿下は食欲が旺盛でした。


「お前は相変わらず遠慮ないな」

「アマーリエ夫人の料理が美味しいからね」

「まあ。嬉しいですわ」


 ころころと笑いながら厨房に行ってお代わりをよそってくるアマーリエ様。受け取ったレオナルド王子殿下は嬉しそうにまた料理を口に運び出すのです。その細い体の何処に入っているんだ、と思うくらいに。


 上品に、しかし凄い勢いで食べていくレオナルド王子殿下に、見ているだけでお腹一杯になりそうです。

 そういえばアマーリエ様が量を増やさなくちゃねと言っていましたが、この事だったのですね……!


「……よく食べますね」


 あまりの食べっぷりに最早感心してしまう私に、コルネリウス様はひっそりと苦笑。


「あー、レオは仕方ないよ。今食い溜めしてるようなものだから」

「食い溜め、ですか?」

「安心して食べられるのはうちくらいだからさ。何回か毒殺されかけてるから。うち以外じゃ結構少食なんだよ、殿下」


 ……え、と固まった私に、丁度聞いていたらしいレオナルド王子殿下がもきゅもきゅと口にあるものを咀嚼してから飲み込み、口を開きます。


「そんなに気にする事はないよ、幼い頃の話だし。今は争奪戦から最も縁遠いし、見向きもされていない。毒だって耐性を付けてるし、もう簡単に効きはしない。単に癖っていうだけだよ」

「……レオナルド王子殿下」

「長いからレオで良いってば。どうしたの?」

「何か私に作れるものがあるなら作りますっ! 沢山食べて下さい!」


 此処でしか安心して食べられないなら、安心して沢山食べられる内に食べて頂くのが良いと思うのです。

 ……あ、でもこの家に嫁いで一年も経たない、まだレオナルド王子殿下にとっても顔見知り程度の私の料理を安心して食べて頂けるのでしょうか。やはりアマーリエ様の料理しか……。


 差し出がましい事を言ってしまったのでは、と口にしてから後悔してしまう私に、レオナルド王子殿下は数回目をしばたかせて……。


「じゃあロルフの言ってたクリームシチュー、食べてみたいな」


 ふわ、と柔らかい笑顔が浮かんで、それにほぐされるように私の口許にも笑みが浮かびます。……ロルフ様はちょっぴりむすっとしてましたけど。


「私のクリームシチューが……」

「ロルフ様の分も作りますから、ねっ?」


 地味に拗ねてしまった旦那様を宥めると、レオナルド王子殿下は楽しそうに、それから眩しそうに私達のやり取りを眺めるのでした。




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