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旦那様のある意味弱点

 その人を一言で表すなら、とても綺麗な人。

 私より、ちょっと歳上くらい、でしょうか。

 ロルフ様やイザーク様も顔の造形はとても整っているのですが、目の前の彼は、人々の理想とする王子様そのものです。

 柔らかそうな少し長めの金髪に蒼穹を思わせる青の瞳。乳白色の肌は染み一つなくきめ細やか。すっと通った鼻梁に柔らかな笑みを湛える唇と良い、ひたすらに端整で人々を魅了しそうな顔立ちです。


 王子様の理想像そのものな彼は、固まったままの私に人懐っこい笑みのまま。


「あれ、僕の事聞いてないかな? というかエルネスタ夫人で合ってるよね?」

「は、はひ、合ってまふ……あっ」


 雲の上のお人だと思っていた王族の方を目の前にしてしまったせいで、緊張のあまり思いきり噛んだ私。

 ガチガチになってしまった私にイザークさんが身を震わせて口許を押さえていますが、絶対笑ってますよね……!


「れ、レオナルド王子殿下、ですよね」

「そうだよ。そんな堅くならなくても良いよ、僕に王位継承権はないし、そんな偉くないから。何なら気軽にレオって呼んでくれても良いよ」

「そうだぞエル、雑に扱って良いから」

「君はもう少し僕を敬おうねロルフ」

「敬ってます敬ってます」

「態度と声が伴ってないよロルフ」


 ろ、ロルフ様、王族の方なのにそんな口の聞き方をしても良いのでしょうか。レオナルド王子殿下は気にした様子もなく口だけで咎めていらっしゃいますけど……。

 鷹揚な態度を崩さないレオナルド王子殿下に、イザークさんだけ折り目正しく腰を折っています。ロルフ様、イザークさん見習って下さい。


「レオナルド王子殿下、お久し振りです」

「おお、イザークか。息災だったか?」

「はい。お気遣いありがとうございます」

「……ロルフ、イザークを見習え」

「したらしたで気持ち悪いと言うでしょう」

「うん、殊勝なロルフとか寒気がするね」


 やっぱり良いや、とあっさり掌を返して笑うレオナルド王子殿下。ロルフ様はほれ見ろといった風に鼻を鳴らしていて……親しげなのは、傍から見ていても分かります。

 王子殿下がフレンドリーそうなのもありますが……ロルフ様がこうして気さく……というか素で話すのはヴェルさんとマルクスさん、あとイザークさんくらいしか見た事がないので、意外というか。


 ちら、とイザークさんを見ると微妙に呆れた表情ながらいつもの事だと認識していらっしゃるそうで「二人はいつもこうだ」と証言してくれました。

 ……良いんですかね、王族の方にこういったフランクさで。


「それにしてもエルネスタ夫人、こんな馬鹿をよく好きになったね」

「へっ、ば、馬鹿……ですか?」

「や、だって朴念仁で冷血漢で研究しか頭になくて妻なんか省みそうになかったし? 政略とはいえ結婚しただけでも驚きだよ、一生独身だと思ってたのに」


 急に話しかけられて戸惑うし、話の内容が際どいというかロルフ様にぐさぐさぐさっ、と立て続けに言葉のナイフが刺さっていて色々と困ります。しかも否定出来ませんし。

 ロルフ様、まさにぐぬぬという表情。横で聞いてるイザークさんも「あー」と思わず同情的な眼差しを……私に。その……うん、ごめんなさいロルフ様、そこは否定出来ません。


「……その、ええと、でも! 今は大切にしてくださっていますよ!」

「今は」

「……今はです」


 ごめんなさいロルフ様、フォローしきれませんでした。


「ロルフー、駄目だぞちゃんと奥さん大切にしないと。ほんと乙女心分かってないんだからさ。どうせロルフの事だから、冷たくあしらったり無視決め込んでたんじゃないのか? ほんと研究者としては優秀なのに男としてはてんで駄目だよね君」


 ズブズブズブ、と襲い来る言の刃にロルフ様、冷や汗。というか頬が引き攣ってます。


「……っ、……そこは反省しています」

「本当に甲斐性なしで申し訳ないね、ロルフに代わって謝るよ」

「い、いえそんな!」

「出会った頃から研究以外駄目駄目な男だったし、僕も矯正できなかったから。もーちょっと女心の分かる男にしてあげれば良かったなあ」

「……黙っていれば好き勝手言いおって」


 反論出来ないらしく言われたい放題なロルフ様ですが、段々こめかみの辺りがひくひくと揺れ動いていて、無表情に拍車が掛かっています。そしてとどめに、低く唸るような声での呟き。

 ろ、ロルフ様? もしかして、物凄く機嫌悪くなってます?


「ん? 何か言ったかな?」

「いえ、何でも」


 けどにこやかな笑顔にそれ以上悪態づく事はなくて、大人しく首を振ってます。

 大人な対応を心掛けてる、ようではあるのですが、ロルフ様やっぱり顔が引き攣っていらっしゃいます。ぴきぴきと音を立てて血管が浮き出てきそうで、心配というか。


 そして、ロルフ様と此処まで軽快なやりとりをするレオナルド王子殿下とは、一体。


「あ、あの……その、お伺いしても宜しいでしょうか?」

「ん? 構わないよ、なんだい?」

「……その、レオナルド王子殿下は、ロルフ様とはどういったご関係で……」

「ああ、聞いてなかったのか。僕はロルフの上司みたいなものでね」

「じょ、上司?」

「王立の研究所は幾つかあるんだけど、ロルフが勤めてる研究所は私の管轄なんだ。私も常に研究所に居る訳じゃないし、訪ねてきたエルネスタ夫人と会う事はなかったのだけど」


 本当はもう少し早く会ってみたかったんだけどね、という苦笑にどう反応したものか迷いつつ、それよりもきっかけとかの方が気になります。

 ロルフ様は家出がきっかけとか仰っていたのですが、それは本当なのでしょうか。……そもそも家出って。


「し、知り合ったきっかけは……?」

「んー。僕が幼い頃、ちょっと城から避難……家出をしたんだけど、その時にクラウスナーの土地に入った所をロルフに拾われたんだ。……ああいや、ちゃんと後から短期滞在の形にはなったんだけど。まあ詳しい話は屋敷でロルフに聞くと良いよ。それで、歳の近いロルフと仲良くなったんだよ。それで今になっても懇意にしている」

「そ、そうなのですか……」

「結構昔から知ってるからさ、ロルフが駄目駄目なのはよく知ってるよ。女心分かってないし扱いなってないし基本的に自活なんて出来ないだろうし。ま、それは僕にも言える事なんだが……。ほんと、研究以外駄目駄目だよ」

「……レオナルド、後で覚えてろ」

「おやぁ、何か言ったかな?」

「いいえ、何でも」


 大分、素が出ています。というか王子殿下にそういう事を言って良いのか分かりませんが、本人達が気にしていないなら、良いのかな……?

 ロルフ様的にはかなり、王子殿下の言葉が突き刺さっているようで、顰めっ面になりかけています。多分、本人もちょっと気にしてるみたいで……別に、私としてはもう良いのに。


「あ、あの、ロルフ様」

「何だ」

「私はロルフ様が女心分かってない駄目駄目な人でも大好きですからっ」


 だからロルフ様の気にしてる事は気にしなくて良いんですよ、と必死に宥めてみるのですが……何故か、三人が固まって。


「っ、……ふ、……くっ、あはは! 妻にまで駄目出しされてる! 流石ロルフ、本当に接し方変えた方が良いんじゃない?」

「えっ、ちがっ」

「黙っていればこの糞餓鬼……!」

「おっロルフ、地が出てるぞ、良いのか? 奥さんは幻滅しないかな?」


 違っ、私そんなつもりで言ったんじゃないのに……!


「……あっ、あの、ロルフ様? 大丈夫ですよ、幻滅したりしませんから。それに、ロルフ様がちょっと女性の機微が読めない所なんて今更ですしっ」

「……エル……私はどうしたらお前に今までの事を詫びれるだろうか……」

「無邪気に止め刺してるよ?」

「……えっ、あっ、ち、違うのですよ? ちょっと空気の読めないというか鈍いロルフ様も好きです!」

「エルネスタ殿、更に抉っているが」

「えっえっ、違うんです、そうじゃなくて! そういう所も引っ括めてロルフ様が好きですよ!」


 ロルフ様良い所も悪い所も引っ括めて好きです、とちゃんと主張しておかなければと意気込んでの発言なのですが、ロルフ様が複雑そうな表情で……。

 何故かとても申し訳なさそうに謝られてしまったので、私もブンブン首を振って大丈夫だと言い返しておきます。


「それに、私冷たくされるの慣れてますから。ロルフ様の無視なんて、優しいものですよ」


 実家では居ないもの扱いされてましたし、その点ロルフ様は興味がないだけでしたから全然平気で……あれ、何故皆さんはそんな可哀想なものを見る眼差しで……。

 レオナルド王子殿下には肩に手を置かれて「もう頑張らなくても良いからね」と同情されてしまいました。ロルフ様もこの時ばかりはレオナルド王子殿下の手を振り払わず、悲しげに此方を見てくるだけ。……イザーク様まで。


 不本意なのですが、印象が可哀想な子になってしまった感が否めません。

 あの、ええと、すごく可哀想な子扱いされてますけど、今幸せですからね……?


「ええと、ロルフ様、私大丈夫ですよ……? ロルフ様の側に居て幸せですからね?」


 ちょこんとロルフ様を覗き込んで微笑むと、本当に何故か分かりませんが三人から頭を撫でられたり肩をぽんぽんされました。……そんなに私、不幸オーラ出しているのでしょうか……。


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