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奥様と紺碧の再会、そして金色との出会い

 案内役の方に案内されてロルフ様と会場に入るのですが……なんというか、一言で表すなら華やかです。私の貧相な発想で想像したパーティー会場よりかなり豪華絢爛で、きらびやかといいますか。

 会場自体広々としておりますし、立食形式らしくテーブルの上には何だか高級そうな料理が並んでおります。


 私が作るのは庶民じみているというか、あまり手間隙をかけないで美味しいものを、というコンセプトなので素材の味を生かすもの。あ、人参は除きます、ロルフ様人参嫌がるので。

 でも此処に並ぶのは、それぞれの持ち味を活かしつつも最適な調理方法で作り上げた料理ばかり。あと食材が見るからに高級っぽそうです。私の貧相な知識による識別ですけど。


 ……まあ料理の事は、後に回すとして……会場には、文字通りキラキラした人達が一杯です。ロルフ様同様大抵が盛装で、ドレスやタキシードを纏った方々が談笑中のようで。


 そして、私達が会場入りした事に気付いた誰かが「あ」と声を漏らして……私は反射的にロルフ様で視線の槍からガードしてしまいました。側でコルネリウス様が苦笑なさっていますが、最早これは反射というか防衛本能から来るものなのです。

 腕にしがみついたまま「ひぁぁぁ」と間抜けな声を上げる私は、皆様にはさぞ滑稽に写っている事でしょう。


 や、やっぱり帰りたい。

 ロルフ様が居るから頑張りますけど、こんなに綺麗な人達と場所の中に居るのは結構に負担です。胃がきゅっと引き絞られてます。


「……エル、大丈夫か?」

「だ、大丈夫です、頑張れます……」


 人見知りにはかなり辛いですけど、これも妻の役目というなら頑張れます。……それに、此処に耐えないと、王子殿下が来た時にまず耐えられないので……。


 ぷるぷるしつつも気丈に微笑んでみせると、ロルフ様は何故か顎の下をもしょもしょと擽るように撫でてきます。

 緊張をほぐしてくれようとしてくれているのでしょうか。何か猫みたいな扱いされてます。多分髪が結われているし顔もお化粧してるから撫でる所に迷ったのでしょう。


「おーいそこの二人、いちゃつくのは帰ってからね」

「む。……エル成分を補充しきれてないが仕方あるまい」

「毎回思うのですが、何なのでしょうそれ」

「エルと一緒に居ると出てくる幸福感と充足感の事を指している。接触部分と時間に応じてエル成分が分泌される。エルが私に触れて幸せそうな時は私成分がエルに注ぎ込まれているのだ」

「なるほど……!」

「なるほどじゃないからねそこの天然夫婦。エルちゃん大分ロルフに毒されてるよね」


 何だかそれっぽい説明に納得しかけて、コルネリウス様に突っ込まれてしまいました。


「兎に角、お開きまで頑張って耐えてね。私達もなるべくフォローはするけど、本当に駄目ならテラスで休んで良いから」

「は、はい。ありがとうございます。私、頑張りますね」

「エルは側に居てくれたらそれで良い。話し掛けられても無視すれば良いのだぞ」

「ロルフ、それをエルちゃんにさせたら怒るわよ。エルちゃんも人付き合いが苦手なのは重々承知なんだけど、毎年あるから慣れてね?」


 クラウスナーに嫁いだんだからこればっかりはね、と肩を竦めるアマーリエ様に、私もコクコクと頷きます。

 クラウスナー家に嫁いできたのですから、苦手でも頑張らなきゃ。ロルフ様の奥さんなんだって胸を張って堂々と……は多分無理ですけど、ちゃんと誰にでも言い切らなきゃ。アンネさん達に啖呵切ったんですから。


 頑張ります、と言ったもののロルフ様の腕からは離れられなくてあんまり説得力はなかったかもしれません。

 けどアマーリエ様はそれに満足そうに微笑んで「さあ行きましょうか」と促します。


 ロルフ様もアマーリエ様には逆らえないので素直に従いますが、私の事は気遣わしげに見てくるので頑張りますねとアイコンタクトしておきました。


 アマーリエ様とホルスト様の後をロルフ様とついていく形で挨拶回りですが、肝心の王子殿下は今席を外しているようなので後回しだそうです。

 私は他家の事なんてさっぱりなので挨拶回りはます顔と名前を覚える事からスタートです。

 ジロジロ見られる事に戦々恐々としつつもぺこりと頭を下げて挨拶。

 それから逃げたいのを堪えて相手の方を見ると微笑ましそうにされたり興味深そうにされたり。後者はロルフ様が「しっしっ」と威嚇しつつ手で払ってあっち行けと顔で訴えてました。アマーリエ様に怒られてましたけど。


「……エルネスタ殿か」


 愛想笑いと名前や顔を覚える事に疲れて合間に溜め息を零していると、ふと耳を擽る低い声。

 溜め息にも似た声は、何処かで聞き覚えがあって……。


 もしかして、と振り返ると、紺碧の髪を綺麗に整えたイザークさんの姿。会ったのは誘拐事件の時の森以来なので、数ヵ月振りなのですが……お変わりないようです。

 イザーク様の登場にロルフ様の警戒レベルが一気に上昇して一気に臨界突破しそうなのですが、落ち着いてくださいロルフ様。


 ロルフ様的にはイザークさんの存在自体が禍根の勢いで嫌がってますけど、もうイザークさんが私に危害を加える事はないと分かっていますので。

 ……手を出したら文字通り存在を消されかねないのも、イザークさんは分かってるでしょうし。あの古代魔術を目の前で目撃してますからね。


「お久し振り……でしょうか? お元気そうで、良かったです」

「エルネスタ殿も元気そうで何よりだ。……先日は、」

「あれはもう良いですので」


 イザークさんは今でも申し訳なさそうですが、危害を加えないという約束をしていますし、私としてはもう良いと思っております。

 ただ、ロルフ様ががるるると獣宜しく警戒心剥き出しにしてますけど。


「イザークさんも、この集まりに?」

「ああ。俺のバルヒェット家も呼ばれている。アンネのメルテンス家も呼ばれているからアンネも居るが……もう彼女は何もしない。安心してくれ」


 もうあなたに何かするつもりは一切ない、と断言したイザークさんに微笑み返すと、ロルフ様はとても面白くなさそうです。取り敢えず視線があっち行けと語ってます。

 これにはイザークさんも呆れているようで、端整な顔立ちを分かりやすくひそめていました。


「……ロルフ様、威嚇しないの」

「もう何もしない、それは誓約書にも誓ってあるだろう」

「そうだろうがお前がエルに近付くのが面白くない」


 私を背後から腕の中に収めて素っ気ない態度をする姿は、ちょっぴり子供っぽいというか。可愛いのですけど、嫉妬がとても分かりやすいのですよね、ロルフ様。


 もう、と随分とやきもち焼きな面が発覚したロルフ様の腕をぺちぺちと叩いて宥めつつ、べったりなロルフ様を見て驚くイザークさんには曖昧に微笑んでおきます。

 ……周囲の視線を集めてる気がしますが、見えなかった事にしましょう。私は見ませんでした、知りません。


「……今日はクラウスナーの一族としての出席か」

「はい」

「そうか。……そのドレス、よく似合っている」

「ありがとうございます」

「……ロルフ、お前はもう少し余裕を持て。何もしないから。エルネスタ殿が困っている」


 むぎゅーとぬいぐるみ宜しく抱き締めてくるロルフ様に、イザークさんから突っ込みが。

 地味に苦しいのでそろそろ緩めて欲しいなーとは思っていたので、イザークさんが言って下さってちょっぴり助かってます。


 ちろりと体を預けるように見上げて「緩めてくださいね」とやんわり私からも注意すると、地味にショックを受けています。……い、嫌だとは言ってませんからね?

 そんなロルフ様に私もイザーク様も肩を竦め合うのですが、ロルフ様はそこが面白くなかったみたいで抱き締めるのは止めたものの不満そう。


「……色目を使ったらぶっ飛ばす」

「ロルフ様、なりませんよ」

「……しかし」

「ロルフ様、駄目」


 めっ、と注意をすると、しゅーんと萎れたように悄気て項垂れるロルフ様。……そこが可愛いとか思ってしまったのですが、間違ってるでしょうか。大型犬が悄気てるように見えるのです。

 どちらかと言えばロルフ様は切れ長な瞳ですが、この時ばかりはつぶらな瞳でしょんぼりしてるので、構ってあげたくなるような雰囲気を醸してます。


「扱いが上手くなったな」

「そうでしょうか?」

「ロルフの所から泣きながら逃げ出してきた時が嘘のようだ」

「誤解は解けましたので。それに、今はちゃんと、愛されてる自覚はありますから」


 信頼関係を築いてますし、気持ちは通わせているので、こういうやり取りも出来るようになったのです。……まあ、私がロルフ様に振り回される事が多いのですけど。

 くすくすと笑う私に、イザークさんも何処か面白そうに口の端を緩めて、そしてロルフ様は拗ねて。


 思えば、こうしたやり取りは、数ヵ月前では考えられなかったのですよね。イザークさんとロルフ様はいがみ合ってましたし、私は本心を見せられなくてロルフ様に一歩引いていた。

 それがこうなったのですから、時の流れというものは不思議でなりません。


 今はまだ人見知り気質は変わりませんけど、いつか、色んな人と仲良くしていけるのかな……なんて、思ったり。


「おや、面白そうな面子だね。僕も混ぜてよ」


 そう、思っていたのですが……後ろから聞こえてきた、悪戯っぽい声に「え?」と動きが止まって。


「あと、僕にもその子を紹介してくれるかな、ロルフ」

「……あなたが席を外していたのでしょう、レオナルド殿下」


 一瞬言葉の意味が分からなくて固まった私に、ロルフ様は私ごと振り返って……。


「やあ。お互いに初めましてかな、エルネスタ夫人」


 金髪碧眼の青年がにっこりと私に微笑んだのを、私は何処か遠くで他人事のように見つめるしかありませんでした。

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