一家、会場に向かう
短めです。
そんなこんなで馬車で会場に向かった訳なのですが……開催地を見て帰りたくなりました。
うちとは比べ物にならない豪邸というか、いえクラウスナーの屋敷も広くて充分に豪邸なのですが、此処と比べると些か狭いというか。豪奢な屋敷に辿り着いた私がひしっとロルフ様の背中にへばりつくのも仕方のない事でしょう。
「エル、大丈夫だぞ。取って食われたりはしない」
「ろ、ロルフさまぁ……本当に私、場違いじゃ……」
「ないから安心しろ。私の自慢の妻だぞ、自信を持て。クラウスナーの嫁だろう」
「……ずっとこうしててもいいですか?」
知らない人達の中に放り出されたら死ねる自信があるので、せめてロルフ様のお側にずっと居て精神の安定を図りたい所です。ロルフ様が側に居てくれたら、私も少しは落ち着けるでしょう。
だからロルフ様にくっついていたいのですが、と振り返ったロルフ様を見上げてお願いすると、何故か唇をもごもごさせた後に前を向いて顔を隠してしまいます。えっ、だ、駄目でしょうか……。
何故か髪をくしゃっと掻き乱したロルフ様。それから小さく唸って僅かに身動ぎするから、そんなに嫌だったのかとそっとロルフ様服を離しておきます。
途端に慌て出すから、ロルフ様がよく分かりません。
「……エル、背中より腕にしがみついてくれ。お前も歩きにくいだろう」
「良いのですか?」
「嫌とは一言も言ってない。……ほら、エル」
窺う私に手を差し伸べるロルフ様。
私は少し躊躇って……でも背中より、ロルフ様の顔が見える横の方が良いと判断しておずおずとロルフ様の腕にきゅっと抱き付くと、腕を絡めてくれます。
そういえばこういうのがエスコートになるのでしょうか。パートナーと腕を絡めて歩くのが一般的……かどうかは兎も角、私はロルフ様の妻だから、良いのですよ……ね?
……これを知らない人にまで見られるのはかなり恥ずかしいのですが、投げ出されるよりずっと良いです。こうしてればはぐれたりしませんし。
それに、ロルフ様の体温を感じて、落ち着けます。……心臓はどきどきするけど心は落ち着くのって、不思議。
何だかロルフ様の動きが抱き付いてからぎこちないので、邪魔にならないように気を付けなきゃ、と少し身を離すと、何故か不満そうな眼差し。小さく離れるな、と言われてくっつくとご満悦そうに鼻を鳴らしています。
「ご機嫌ね、ロルフ」
「そりゃあ可愛い子兎が泣きそうな目で自分だけを頼りにしてるんだからね。ロルフとしては役得だよね」
「おまけにエルネスタを自分のものだってアピール出来るからね」
「そこ、黙って下さい」
前を歩く三人が口々に言ってる内容に気恥ずかしくてやや後ろに隠れてしまう私。ロルフ様は、そんな三人に不貞腐れたような声を上げています。
それでも絡めた腕と指は離そうとしなくて、三人の仰る事が的を射ていると証明していました。
つい、えへへと照れ臭くて口の端を緩めつつむぎゅっと抱き付くと、ロルフ様と視線が合います。……笑い返してくれたのが嬉しくていつまで経っても笑顔が収まらないのですが、どうしましょう。
ふにゃっとした笑みが直ってくれない私に、ロルフ様は「早く帰りたい」と何故か私より先に音を上げています。
「母上、帰っては駄目でしょうか」
「駄目。エルちゃんを愛でるのは終わってからよ」
「ちっ」
……最近ロルフ様が分かりやすく愛情を注いでくれて、私としてはとても嬉しいのですが……どんどんべったりになってる気がします。
いえ、私は嬉しいし幸せですけど、仕事場から真っ先に帰ってくるロルフ様に人付き合いとか大丈夫なのかな、とか心配になってしまったり。こういう集まりがあるなら知り合いとかも居るでしょうし。
「……ロルフ様、ちゃんと挨拶しなきゃ駄目ですよ」
「分かっている。義務は果たす。気持ちは別だ。エルは私についていれば良いからな、不安がる事もない」
「……はい」
ロルフ様にはああ言いましたけど、本当は私の方が帰りたい。それが分かっているからこそ、あんな事を言ったのでしょう。
でも、ロルフ様がついてくださると言ったから……私も、頑張らなきゃいけません。ロルフ様が側に居て支えてくれるのですから、きっと知らない人が沢山居ても、囲まれても、耐えられる筈です。……ロルフ様背中に隠れてしまうかもしれませんけど。
頑張りますね、とロルフ様を力強く見上げると、ロルフ様は少し眼差しを和らげました。
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魔術馬鹿の後日談は100話くらいで終わるかなーと思っております。もっといくかもしれませんが。
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