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奥様は精一杯嘘をつく

活動報告ログ。もしもエイプリルフールがあったら。

次から後日談に戻ります。


 今日はエイプリルフール、という日らしいです。よく分からないですけど、嘘をついても良い日、だそうな。

 ……嘘をつくなど気が進まないのですが、コルネリウス様に『愛情を確かめてみよう』などと言われて、なし崩しに参加する事に相成りました。


 まあ、ロルフ様もそう騙されるとは、思わないのですけど……心苦しいですね、こんな事を言うのは。


「ロルフ様」

「何だ?」

「だ、大嫌いです」


 自分で口に出しておきながら言わなければ良かったと後悔したのは、ロルフ様が完全に動きを止めて読んでいた本をバサバサと床に落として愕然と私を見たからです。


「……エル、私は何かしてしまっただろうか? よく無神経と言われるが、私はまたもエルを傷付けたのだろうか? もし傷付けていたならば謝ろう、何か不満があるなら言ってくれないか。その、お前に嫌われるのは、嫌だ」

「え、あの」

「エル、私の事が嫌いになってしまったのは何故だ? 私は何をしたのだろうか、ちゃんと言ってくれ。私はエルの事を愛している、手放してやれない。悪い所があるなら改善する。だから、嫌いにならないでくれ」


 一気に泣きそうな……物凄く悄気た顔をされて、縋るように此方を見てくるロルフ様に、罪悪感が押し寄せて、私も泣きたくなります。

 ど、どうしましょう、ほんの冗談のつもりだったのに、ロルフ様本気にしてしまって……。それだけ私の事を愛してくださっていると分かって嬉しい反面、自分がとても嫌な存在だと突きつけられてしまいます。


 慌ててロルフ様に抱き付いてぎゅうっと密着すると、離すまいとロルフ様も手を回し、それから不安で溢れ返った瞳が私を切なげに見詰めて……もう、嘘なんてつかないと、心に決めました。

 こんな顔をさせるなら、乗らなければ良かったです。


「ロルフ様、申し訳ありません。その、今日は嘘つきの日で」

「……嘘つきの日?」

「はい。嘘をついても良い日、だそうです。その日の午前中についた嘘は、その一年絶対に本当にはならないそうで」

「つまり、嘘だったと」

「ご、ごめんなさい……ロルフ様を傷付けるつもりはなかったのですが、傷付けてしまって」


 ロルフ様のお心に傷を付けてしまったのは本当に申し訳ないですし、責められて当然なのですが……ロルフ様は、逆に安堵したようにほっと息を一つ。


「嘘なら良い。どうせ兄上に言われたのだろう」

「そ、そうですけど……怒らないのですか?」

「怒ってる」

「えっ、ご、ごめんなさい」

「だから、今日はエルから愛してると言ってキスをしなければ許さないぞ?」


 えっ、と固まった私に、ロルフ様はにこりと、笑って。

 あ、あれ、ロルフ様、何でそんな笑顔で。


「さあエル、言ってみろ」

「……ぇ、あぅ……ろ、ロルフ様、愛して、います」

「聞こえないな」

「っロルフ様、愛しております」

「……聞こえなかった、もう一度言ってみろ」

「も、もうっ! ロルフ様、大好きです、あなただけを愛しております!」


 絶対聞こえてるのに、と思いつつも私がロルフ様に意地悪を言ってしまったのが原因なので、此処はちゃんと言わなければなりません。


 本音を口にして、それからロルフ様に抱き付いておずおずと唇を重ねると、そのままロルフ様に後頭部を押さえられて長い口付けに早変わり。これが狙いだったのだとは理解していますが、ず、ずるい。


 暫くされるがままになっていて、漸く離したと思ったら「私もエルを愛している」と情熱的なお言葉を返事として下さるのでもう一杯一杯です。

 私が悪いとはいえ、ずるい。こういう時はロルフ様って、計算高いのですよね。


 もう、と小さく息をついた私がロルフ様の胸に顔を埋めると、ロルフ様は喉を震わせて笑っては抱き締め返してくれました。


「所でエル」

「何ですか?」

「実は、私は今日が嘘つきの日だと知っていた」

「……え?」


 嘘つきの日だと、知ってた?


「兄上からショックを受けないように前以て言われていてな」

「……つまり、全部騙された振りだったと」

「そうなるな」


 騙されただろう? と笑ったロルフ様に、一気に羞恥が胸から込み上げて頬を染めます。


 ……つまり、全部ロルフ様とコルネリウス様の掌の上だったと!


「……ロルフ様、嫌いです」

「それは嘘か? 真か?」

「知りませんっ、ロルフ様とコルネリウス様のばかっ」


 兄弟の結託が恨めしくて、胸を叩いて抗議してから私はロルフ様から離れてアマーリエ様の元に向かいます。……今日の献立の変更の相談をしなければ。今日のクリームシチューはなかった事にしましょう。


「ロルフ様、今週はクリームシチューなしです」

「えっ」

「これは嘘でも何でもないですからね」


 ぷい、とそっぽを向いてみせてロルフ様を置き去りにする私に、後ろから「エル……っ」と本気で縋るような声が聞こえてきましたけど知りません。

 絶対来年はロルフ様に嘘なんてつかないです。全くもうっ。

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