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旦那様は奥様馬鹿(あいさいか)

 ロルフ様に抱えられて無事に凱旋……で良いのでしょうか、取り敢えず帰宅した私に、アマーリエ様達は顔を見た瞬間駆け寄っては安堵の表情を見せてくれました。

 どうやら色々な場所を駆け回ってくれたらしくて皆くたびれたような感じでしたが、私の姿に安心したかのように肩の力を抜いています。


 ……皆さん、私の事心配してくれたんですね。


「エルネスタ、大丈夫だったかい……?」

「ごめんなさい、私の配慮が足りなかったばかりに……」


 お仕事があったでしょうに、ホルスト様も一緒に捜索してくれたらしく、纏うコートもよれています。


「いえ、私が勝手に連れ去られてしまったので。その、ご心配をおかけしました」

「いやいや、無事で何よりだよ。エルちゃんが無事に帰って来てくれたから、本当に良かったよ」

「コルネリウス様……」

「……エルちゃんが居なくなったと気付いた時はひやひやしたよ。探しても見当たらないし、居なくなった事をロルフに伝えに仕事場まで行けば大慌てで家に帰って捜索だからね。ほんと鬼気迫る顔だったよ」


 そりゃあもう周囲を威圧する程だったよ、そう笑うコルネリウス様。


「今だから笑って言えるけど、実際ロルフは凄い心配してたし、これで見付けられなかったらキレて手が付けられなかったと思うよ」

「そうね……今にも魔術暴発させそうだったもの」

「多分犯人見付けたら殺すレベルでキレてたよね」


 アマーリエ様やコルネリウス様まで真顔で頷いているので、恐らく相当な剣幕で私を探していたのだと思います。

 ……因みにコルネリウス様、正解です。止めてなければ二人共命を摘もうとしてましたからね。制止の甲斐あって事なきを得ましたが、あのままなら二人の命を奪ってその死ごと闇に葬りかねなかったので。


 まあお互いに大事にはしないという事になりました。まあイザークさんとアンネさんのおうちは大きな借りをクラウスナーに作ってしまい、クラウスナーに頭が上がらなくなったのですが。

 ……これで一件落着、なのでしょう。ロルフ様が駆け付けてくれましたし、アンネさんもこれからは何もしないと言ってくれましたから。


「……ロルフ様、心配してくれて、ありがとうございます」

「当たり前だろう」

「ふふ、ロルフ様、格好良かったです」


 心配してくれた事が嬉しいと思ってしまうのは、駄目でしょうか。心配かけてしまったのに嬉しいだなんて不謹慎ですけど、それだけ大切に想ってくれているんだって、実感出来たんですもの。


 必死に駆け付けてくれたロルフ様は、私にとっての勇者様に違いありません。


 抱えられたままロルフ様の顔を覗き込んで微笑むと、ロルフ様も穏やかな笑みを返してくれて、胸が温かくなります。やっぱり好きなんだなって改めて実感しますし、……ロルフ様も私の事を愛しく想ってくれているのだと、知らせてくれますから。

 ……好きかどうかまでははっきり聞いてないから、これから聞かせて貰うのですけど。


 胸の高鳴りと安心感が体を占めて不思議な感覚に陥る私の表情を見て、コルネリウス様は何とも微笑ましそうに私達を見詰めます。


「おや、随分と仲良くなったんだね。危機を乗り越えると愛の絆は強くなるのかな」

「そうですね。一時はどうなる事かと思いましたが」

「おやおや」


 しれっと肯定したロルフ様に、私は硬直して、コルネリウス様は笑みを愉快そうに変えて。


「そんな夫婦の邪魔をするのも悪いね。エルちゃん、部屋で休みなよ。ゆっくりロルフと語らいなさい」

「兄上に言われなくてもそうするつもりですが」

「はは、ほんと、変わったねえ。兄としては喜ばしい限りだよ」


 今度は慈愛の笑みを浮かべたコルネリウス様、私に意味ありげな視線を投げて笑ったので、私は頬を染めて照れ隠しに俯くのでした。




 ロルフ様に連れられて、部屋に戻……る前に、怪我に治癒術を使ったり土や泥や血で汚れてしまった体を清める為に軽く湯浴みと済ませます。

 ロルフ様が何の躊躇いもなく手ずからお風呂に入れようとしたので全力で拒否してリビングで待機させつつ、私はささっと汚れを流してからロルフ様の元に。


 もう自力で歩けるので平気なのに、また私はロルフ様に抱えられて、そして何だか久し振りに感じてしまう寝室に戻ってきました。

 今日は濃密な時間を過ごしたからでしょうか、とても、この部屋が懐かしく思えてしまいました。普段通りの時間に戻ってきたのに、ね。


 そのままベッドに運ばれて、ロルフ様に抱えられるようにベッドに腰掛けます。

 ロルフ様の膝の上に乗せられ横抱きにされた状態ですが、恥ずかしさはあるけど下りる気は全くしません。今日散々抱き締められたせいもあるのでしょう。


「エル」

「はい、何です……んっ」


 声を掛けられて、顔を上げた瞬間に吐息を共有させられて、固まって。


 瞳を瞬かせて至近距離のロルフ様を思わず凝視すると、鳶色の瞳と視線があって、その瞳はゆるりと細められます。

 唇の触れ方は優しくて、私を確かめるように少しずつ唇を食んだりして、徐々に熱を移していく。眼差しからはとても深い慈しみと愛情が見て取れて、頭がぼやけたような感覚と熱を注がれたような感覚が同時に起こって頭が混乱してしまいそう。


 ゆっくりと顔が離され私の瞳を覗き込まれて、キスの余韻でとろりと溶けた表情しか返せません。そんな私に、ロルフ様はとても満足そうに頷いて今度は頬に口付けを落とすのですが。


「ろ、ロルフ様……?」

「何だ?」

「な、何故、キスしたのでしょうか……?」


 ず、随分と、いきなりだったと思うのですけど。今日の一回目と二回目は理由が分からなくもないのですが、今のはあまりにも脈絡がないし、唐突で。


「エルを確かめる為だ。心配をかけさせて……本当に私は心配したのだぞ」

「ご、ごめんなさい……」

「全くだ。詫びとして今週はクリームシチュー二回だぞ」

「く、クリームシチュー二回、ですか」


 助けて貰った対価がクリームシチューで良いのでしょうか、もっと要求とかあっても良いくらいですし、そもそもロルフ様になら私が出来る事何でもするのですけど……。


 私の呆然とした表情を却下と捉えたのか、それともクリームシチュー発言自体が冗談だったのか。

 ふむ、と考え込む仕草を見せたロルフ様。暫く眉を寄せて小さく唸り、それから思い付いたと言わんばかりに私を見て。


「……嫌なら、こうしよう。今週はクリームシチューを我慢するから、今日は好きなだけお前に触れる」

「へっ、ろ、ロルフ様がクリームシチューを我慢……!?」


 あ、あのロルフ様が、クリームシチューを我慢する、ですか……!? 大好きすぎて毎日でも食べたそうなロルフ様が、私に触れる為だけに我慢、だなんて。

 そ、そもそも触れて欲しくないとか言った覚えは、ないのに。寧ろ触れて欲しいくらいです、私が此処に居るって、ちゃんと側にロルフ様が居るんだって、確かめさせて欲しいから。


「今はお前に触れたいのだ。お前を確かめたい」

「あ、ぅ……く、クリームシチューも触るのも、我慢しなくても良いですから……っ」

「本当か。どちらともとは、私も中々に幸せ者だな」


 言葉の通り、顔が明るくなって実に嬉しそうに口許を綻ばせるロルフ様。


「エルに触れたいのだが、何処まで許してくれるだろうか」

「……ろ、ロルフ様が望む限り……その、触れて頂ければ」

「そうか? 言質は取ったぞ」


 え、と声が漏れた時には、私はロルフ様に強く抱き締められていて、また頬に唇を寄せられていました。

 ちゅ、と軽く触れるような口付け。けれど、私への想いだけはひしひしと伝わってきて、幾度となく頬や額に口付けられる。


 ロルフ様が望む限り、をそのまま受け取ったらしいロルフ様は、思うがままに口付けの雨を降らせて来るのです。お陰で、唇が触れる度にひくんと体を揺らして、体温もちょっとずつ上がってしまって。


 顔には口付けつつ掌は私の体を密着させるように回され、もう片手は私の掌と重ねて離しません。全部ロルフ様に身も心も支配されているような感覚に陥りそうですが、不思議と嫌な気持ちはしませんでした。

 胸の内に湧くのは、羞恥と、ロルフ様への期待だけ。


「んっ、……あ、あの、ロルフ様?」

「なんだ」

「……その、今日は……ええと、ず、随分と、積極的というか、」

「お前が悪いのだぞ、心配かけさせて。あと、魔術で疲れたのだ」

「ご、ごめんなさい……あっ、そうだ、あの魔術はその、一体」


 嬉しいには嬉しいし幸せなのですが、流石にキスされ過ぎて顔が真っ赤になりそうなので、クールダウンさせて貰う時間を作る為にも話題を振ります。


 あの時魔物を文字通り消した、魔術。あれは、明らかに通常の魔術とは、異なるものです。

 あれは、きっと。


 私の予想を肯定するように、ロルフ様は瞳を輝かせて、いつかの屈託のない笑みを浮かべるのです。


「凄いだろう、とうとう古代魔術を再現出来たのだ。約束も、お前の力を借りたとはいえ、守れたな。一番最初に、お前に見せると言っただろう?」

「……はい」


 ロルフ様は、約束を守る人です。

 古代魔術が再現出来たらいの一番に私に見せてくれる、その約束は無事に果たされました。私に何かあれば助けてくれる、この約束だって、守ってくれた。

 その何気無い約束を守ってくれるというのは、とても、凄い事で。


「お陰で魔力も消費して疲れているのだ。……癒してくれ」


 その言葉と共に肩口に顔を埋めてすりすりと頬擦りして来るロルフ様は、何だか甘えるようにぴとりとくっついて……。

 多分私もロルフ様も疲れていて、お互いに癒しを求めているのでしょう。


 だから、私もロルフ様を甘やかすようにそっと抱き締め返して、背中を撫でるのです。ロルフ様もまた、私を抱き締めてほどいた髪にゆっくりと指を通して、労るように触れてくる。


 ロルフ様にとっては私に触れている事が何よりの癒しなのだと言われて、私はこそばゆくてひっそりと笑いながらロルフ様に触れようと抱擁を強めました。


 私にくっつく事、これがロルフ様の甘え方なのでしょう。いつもの密着は、つまりロルフ様なりに甘えていたみたいです。ちらりと見えた表情は、充足感に満ちていて、幸せそうに頬を緩めていたのですから。


 そんなロルフ様に心臓がまた高鳴り出すものの、今はどきどきよりも穏やかな幸福感の方が強くて、私はとくとくといつもよりは早い鼓動を感じながらも緩やかに微笑むだけです。


「……エル、一つ聞いても良いか?」

「どうかしましたか?」


 多分、互いに満ち足りた時を過ごしていたのですが、ロルフ様はふと顔を上げて私の瞳を真正面から見詰め。


「エルはそんなにも私の事を好きだったのか」


 そして突然落とされた爆弾に、私は思わずひっくり返った声を上げてしまいました。


「……っ、あ、あのですねロルフ様、それは」

「しかし、『こ、こんなちんちくりんでも、私はロルフ様の妻です。ロルフ様を好きな気持ちは誰にも負けません。あなたがロルフ様を好きだったとしても、ロルフ様は渡さない、です。ロルフ様は私の旦那様ですっ、絶対にロルフ様の隣にいます!』と言ったのは……」

「何で言った事覚えてるんですか……っ」

「私は記憶力がある方だぞ」

「知ってます!」


 ロルフ様が非常に記憶力が良いのも存じていますが、何で一字一句間違いなく覚えているんですか! そして何でそれを今になって再現するのですか!


 完璧に同じ台詞を言われて、改めて勢いでかなり大胆な事を言ってしまったのだと後から気付かされて、かなり恥ずかしいです。

 だからあの時ロルフ様呆気に取られていたのですね、冷静に考えると私ロルフ様の事大好きですって皆の前で宣言したも同然ですよね……! いえ、気持ちに偽りはないし、夫婦だから、問題はないにはないですけど……!


 ロルフ様の記憶に焼き付いているようで燃え上がりそうな程に恥ずかしいのですが、ロルフ様は冷静なようでじっと此方を見詰めるだけ。


「どうなのだ? 私の事が好きなのか?」

「……ぅ」

「……ああ、私が言わないと不公平か。ちゃんと帰ったら言うと約束したし、言わされるだけというのも嫌だろうからな」


 てっきり追及されるのかと思えばあっさりと引いてくれて、今度は逆に聞かされる立場に回されるのです。……ま、待って下さい、色々心の準備が出来ていないのに。


 内心大慌てな私など露知らず、ロルフ様は抱き締めたまま私を静かに穏やかに見つめて。


「前にも言ったと思うが……正直、最初は母上に勧められて、嫌々……という程でもないが、言われるがままに結婚した。最初は気遣おうとは思ったが、研究していたら忘れていたし。良い夫ではなかったな」


 今の私が見たら殴りに行きたい程だ、と苦々しげに呟くロルフ様。


「お前の能力を知った時は、歓喜した。こんな優れた能力を持つ女が身近に居たなんて、と思った。お前に触れるだけで増えるなら喜んで触れようと思った。打算的だったのは否定しないし、酷い男だったのも自覚している」

「……仕方ないです、それが、普通ですし……」


 自分に効果的な能力を持つ人間が偶然妻になったのなら、それは喜ぶしそういう目的で触れても仕方ないと思うのです。

 けど、ロルフ様はそんな過去の自分を悔いているらしく、酷く忌々しそうに昔の自分の行動を挙げては唾棄せんばかりの表情。


 きっと、今のロルフ様からしたら、あの時のロルフ様は別人なのでしょう。自分だと信じたくない、そう零していますから。


「だが、お前の事を知る内に……もっと、お前に触れたいと思うようになった。笑えば嬉しかった。悲しそうに笑う顔を見るのは、心苦しかった。何故お前はそんな顔をするのだろうかと考えもした。……いつの間にか、私はお前を、魔力増幅の為という言い訳で、好き勝手触っていた。そこは、本当に申し訳ない」

「……ええと……?」

「……お前に触れたくて、仕方なかった。お前に触れると心地好くて、とても、幸せだったのだ。だからその、沢山触れたし、私が触りたいからとくっついてしまった」


 増幅という名目で好き勝手に触れてすまない、とちょっと悄気たように謝ってくるロルフ様に、私は怒るつもりなんて微塵も湧かなかったというか、寧ろ嬉しいというか。


 つまり、ロルフ様が触れたくて触れてくれたのですよね。増幅とは関係なく、私に触れたかったから。触れたいという可愛らしい欲求に従っただけ。それをどうして怒れましょうか。

 ……まあ、変なところ触ったら、ちょっぴり怒りますけど。


「……こんなにも、胸を焦がされるような思いは初めて感じた。もどかしくて、欲しくて欲しくて、仕方なくて。エルに触れるだけでは、物足りなくなって。エルの全てが欲しかった。この腕に収めて、ずっと笑っていて欲しかった。……つまり、だな」


 ゆっくりと私の唇を指でなぞり、それから、今までよりずっと顔を近付けて、穏やかに、そしていつになく静謐な面持ちで、愛しそうに私を、見詰めて……。


「私はエルの事を愛している。誰よりも、ずっと」


 囁くように落とされた言葉に息が止まってしまいそうで、思わず握られた掌に力を込めて瞳を揺らしながらロルフ様を見詰めると、ロルフ様は照れ臭そうに、それでも誇らしげに、擽ったそうな笑みを浮かべて。

 ひゅう、と息を飲み込んで目の前の幸せそうなはにかみを浮かべるロルフ様に見とれてしまった私を、ロルフ様は優しく丁寧に頬を撫でるのです。


「これが愛なのだな、今更理解したよ。……エルを、愛している。もう、手放さない」


 言葉通り、私の事を抱き締めて離さないロルフ様に、じわりと視界が滲みます。

 込み上げてくるのは、結婚してから今までの記憶、そして、紛れもない歓喜。ずっとずっと心の底で願っていた、愛して欲しいという、叶いっこないと思っていた、願い。

 ……それは、今、叶ったのですね……。


 つい涙を零してしまって慌てたロルフ様が頬に口付けて背中を撫でてくるので直ぐに涙は引っ込んで、鳶色の瞳と視線が合ったから、今の気持ちを笑みに乗せて返します。


 私は幸せです、そう笑顔に込めるとロルフ様も安堵したようで、私に再び口付けては「泣くより笑った方が可愛いな」と大真面目に言ってきて……ちょっとロルフ様は大胆で私に甘くなりすぎだと、思うのですけど。

 でも、そう変えてしまったのが多分私で、こんなロルフ様も私は大好きなのです。


「だからこれからは、ちゃんと夫婦らしくしていきたい、と思っているのだが。共に過ごす時間も増やしたいと思っている」


 へにゃ、と幸せで頬を緩めた私に、ロルフ様も穏やかな笑み。


「それと、悪いところは直すぞ、もっと研究所から早く帰ってくるしお前を寂しがらせたりはしない。私だってエルと沢山一緒の時間を過ごしたいからな。それとクリームシチューを食べたいというリクエストはなるべく減らす……のも嫌だから週一回は継続だな。それから魔力増幅はなくともくっつく、あと……そうだな、他の男に触れさせるのはあまり駄目だからな、それから……」

「……ロルフ様、夫婦らしくというより、ロルフ様のお願いばかりですよ?」

「駄目か?」

「いえ、ロルフ様らしいです」


 大真面目に考えているのに何処か可愛らしい事ばかり考えているロルフ様に、堪らず笑ってしまいます。


 ……ロルフ様、小さな嫉妬したりべったりくっついたりシチューをおねだりしたり、何だか子供らしさがあります。

 それは、きっと私だけに見せる物なのでしょう。共に過ごしたい、触れ合いたいと思ってくれるのは、私だけでしょうから。


 嬉しくて、微笑ましくて、やっぱり笑みが勝手に零れてしまって、そんな私の反応にロルフ様は「何故笑うのだ」とちょっと不貞腐れてしまいました。

 そんな拗ねたロルフ様も可愛いだなんて、本人には言えませんね。


 少しだけむむ、と眉を寄せたロルフ様に、私はそっと手を伸ばして、自ら抱きつくように首に手を回します。

 それから、未だに納得のしてなさそうなロルフ様に、私から距離を詰めて。


 触れ合ったのは、ほんの数秒です。

 けれど、ロルフ様の驚きを引き出すのには、充分な時間でした。


「私からのお願いはただ一つですよ。……愛して下さい、ロルフ様」

「……エル」

「大好きです、ロルフ様。私も、愛しております」


 ああ、漸くちゃんと、言えた。大好きですって。愛していますって。私の気持ちを、ちゃんと伝えられた。

 想いを真正面から伝えるのはやっぱり恥ずかしくて、でも、清々しい気持ちでいっぱいです。私がロルフ様の事をお慕いしているのは揺るぎない事実で、気持ちは深まるばかりですから。


 照れ臭さに頬を染めて、でも幸せなのだと誇るように笑った私に、ロルフ様は暫く瞠目したまま硬直して。

 それから弾かれたように私を強く掻き抱き、そのまま唇を重ねてくるロルフ様。


 これで、七回目、でしょうか。

 夫婦になってから半年以上経つのにキスするのが両手で数えられる程なんておかしな話ですが、きっと、これからはどんどんと回数を重ねていくのでしょう。

 今までを取り返すように、もっともっと触れ合って、一緒の時間を大切に過ごしながら。


「愛しいと思うのも欲しいと思うのも知りたいと思うのも側に居て欲しいと思うのも、エルだけだ」


 唇を離したロルフ様は熱っぽい眼差しをそのままに、私に愛情を注ぐように視線を落として。


「どうやら、私はエル馬鹿になってしまったようだ。責任は、取って貰おうか」

「喜んで」


 愛しい旦那様の言葉に笑って、もう一度口付けてはこれからの未来を想像して、幸せに頬を緩めました。

 私の素敵な旦那様は、妻馬鹿になってしまったようです。

これで 旦那様は魔術馬鹿完結となります。

最後までお付き合いくださりありがとうございました。また番外編としていつか後日談でも書いていけたらな、と思います。恐らくべた甘になる筈。

それでは皆様、此処まで読んでいただきありがとうございました。

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