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教訓は飲んでも呑まれるなです

「……すまなかった、まさかあれだけで意識を飛ばすとは」


 今回は復活も早かったというか、ある意味で嫌な慣れというか、十分くらいで私の意識は戻って来れました。意識を飛ばす事に慣れたくはありません。でも徐々に心臓は鍛えられている気がしなくもなかったりします。


 意識を回復させた私に開口一番で謝るロルフ様は、申し訳なさそう。ただ、やっぱり「何故あれしきの事で……」といった感情は顔に出ているので、ロルフ様はまだまだ女心は学べていないと思うのです。

 ロルフ様は何とも思っていないのでしょうが、普通、き、キスマークというのは、色事の最中にするものですし、そういう関係だと匂わせるものだと、思うのです。いえ、その、間柄的にはそういう関係なのが普通なのでしょうけど……!


 でも全くそういう事はないし清い身のままです。だから、こういうのは誤解させるので良くないと思うのです。誰にも見られないというのは分かっていますが、は、恥ずかしいし……。


「……ロルフ様、急にするのは本当に止めて下さい、心臓が持たないのです。私はまだ早死にしたくありません」


 心臓が鍛え上げられて動じなくなるか、私が羞恥で死ぬか、恐らく後者の確率が高いと思うのですよ。


「それは困るから、今度からはちゃんと申告してする」

「……ま、またするのですか……?」

「そうだが」


 何か問題が? と言葉ではなく顔で雄弁に語っているロルフ様に、私はその度に心臓に負荷がかけられるのだと悟ってしまい目眩にも似たものを覚えてしまいます。


 問題大有りです、ロルフ様。

 そ、そもそも、何故、痕を付ける必要があるのでしょうか。だって、あれは、その……意味がない行為でしょう? 幾らロルフ様がちょっとした独占欲を抱いてくれている(かもしれない)とはいえ、所有印を付ける程のものではないと思うのですよ。

 ただ、私をどきどきさせて、増幅効果を高めたいだけな筈。


「で、でも、増幅とはいえ、あんな……」

「増幅は関係なくしたいのだが」

「えっ」

「……駄目か?」

「な、何で……」


 だ、だって、する意味ないじゃないですか。こんな、恥ずかしい事。


「何故と言われても困るのだが……したかったからでは駄目だろうか」


 それなのにロルフ様は私が目を落としてしまいそうな程に衝撃的な台詞をあっさりと口にして、また痕の付いた辺りまで服を捲って「綺麗に付いたな」と満足そう。

 幾ら妻とはいえ、か、勝手に肌を見るのはどうかと思うのです……! 傷痕は気遣ってか見ようとしないのは有り難いですけど、だからって気軽に見るのも駄目ですっ。


 やや上機嫌なロルフ様の思考回路は、常人の私には理解出来ません。痕付けて楽しいのですか。


「し、したかったからでされる、のは、恥ずかしいです……」

「そんなに恥ずかしいものか?」

「恥ずかしいです!」


 吸われた、という時点で恥ずかしいのを何故分かって頂けないのでしょうか……っ!


「ふむ。……別に恥ずかしがる事はないと思うのだがな、親愛の証だと思ってくれれば」

「何処の世に親愛の証で痕を付ける人が居るんですか!」

「此処に居るが」

「そ、それは例外と言いますか……っ、そ、そもそも、親愛だからって、誰彼にこんな事しちゃ駄目ですっ」


 そんな親愛の示し方があったら幾ら身があっても持ちません。

 それに、ロルフ様がそんな事を他の女性にするなんて、嫌です。私の我が儘だとは分かっていますけど、そんなの……。他の女性にしたかもしれないと考えると、胸に大きな針が幾本も刺さったように、深く鋭い痛みが走るのです。


 眉を下げて首を振るのですが、ロルフ様は何言っているんだ、とでも言いたげに首を傾げています。


「他の誰にもしないが」

「えっ」

「したいと思うのはお前だけだし、するのもお前だけだ。問題ないだろう」


 今度は、針を抜かれて代わりにどろりと熱いチョコレートを注がれたように、甘く、陶酔にも似たとろけるような熱が、広がっていくのです。

 痛みは消えたけれど、今度は酷く熱くて、そして違う意味で、苦しい。このもどかしさと焦燥感と幸福にも似た何かと羞恥と、様々な感情が煮溶かされて、また胸で加熱されていく。


 ロルフ様は、どうしてこんなにも、私を振り回すのがお上手なのでしょうか。……期待したら駄目だって、分かってるのに。


「エルも私以外の人間にはしてはならぬぞ」

「……はい……」


 ……私がロルフ様以外にする筈がないのに。いえ、ロルフ様にも、もうする予定は取り敢えずないですけど。


「わ、私が……その、触りたいと思うのは、ロルフ様だけです……」

「触りたいなら存分に触ると良い。遠慮する必要はないぞ?」

「わ、わざわざ触らせなくて良いですから……っ!」


 触るとは一言も言ってません! 手を掴んで触らせなくても良いですから! ロルフ様、そんなに触られたいのですか……!?


「……何故そこで恥じらうのか分からない。昨日はあれ程」

「お酒のせいです!」

「……ふむ」

「……お酒仕込んだら、お、怒りますからね?」

「いや、酒が人の理性を緩ませるのなら、私が酔ったらどうなるのか考えただけだ」


 ロルフ様が、お酒に酔ったら。

 私の時は、理性が飛んで、べったりくっついて甘えん坊になったらしいです。つまり、欲望がそのまま表に表れた訳で。


 じゃあ、ロルフ様が酔って欲望が表れたら……?


「ロルフ様、飲んじゃ駄目ですからね。お酒は飲んでも呑まれてはならないのです」

「お前が言うと逆に説得力があるな」

「うっ、だ、だから昨日の事は忘れて下さい! 兎に角駄目ですっ」


 ……本音を言えばロルフ様が酔った姿も興味があるのですが、色々と大変そうな気がします。色々な意味で、ロルフ様が暴走しそうな気がします。

 あと私がロルフ様の色気に耐えられなくなる事は目に見えて分かっているので、飲ませては駄目です。職場の方と飲みに行くとかその辺りは私から制限は出来ませんが、出来れば飲んで欲しくありません。私が後々大変になるのは目に見えているので。


 酔った勢いで物凄い勢いで触られても堪らないので、私は兎に角駄目ですとロルフ様に懇願して、コルネリウス様にも変な悪戯をしないように注意しようと決心です。


 ……あっ、コルネリウス様がこのチョコレート勧めたの絶対わざとですね……!?


 今更気付いて、後でコルネリウス様に事情聴取しなければ、と堅く誓った私でした。

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