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旦那様の変化と酔いどれ奥様

三人称です。

 ロルフから見て、エルネスタという少女はどうも卑屈で自信がなく、弱気で遠慮がちな内気な少女だった。


 今でこそ普通に(それでもやや遠慮がちだが)話し掛けてくるエルネスタだが、結婚した当初は常に此方を窺っておどおどと、それでいて決して近寄ろうとはしなかった。


 それはロルフも自身で寄せ付けない雰囲気を作っていたからというのと、顔がどうも冷たいというせいがあるのは自覚していたのだが、それを差し引いても、エルネスタは酷く控え目だった。臆病と言っても差し支えがないであろう。


 言っては悪いが最初こそロルフはエルネスタを身近に居た奇跡の逸材という認識であったものの、今では能力は関係なく、側に居て心地好い家族という認識にまで至っている。


 大分時間をかけて少しずつ心を通わせて、漸く怯えられる事も震えられる事もなく接する事が出来るようにはなったが、それでもまだ気弱で卑屈な部分があるエルネスタ。


 どうしたらこの内向的で自罰的な性格を緩和出来るのだろうか。


 悩んでも、答えは出ない。

 いや、自身がするべき事は何となくは分かっているが、エルネスタの入ってはならない禁忌の部分に確実に土足で踏み込む事になるから、躊躇しているのだ。


 事ある毎にエルネスタが本音を押し留めて表面だけ笑うのを苦々しく思ってはいたものの、それでエルネスタの精神の均衡が保たれているのだとも分かっている為、深く入り込む事に足踏みをしている状態だった。


 せめて、本音をもっと口にしてくれたなら。思っている事を吐露してくれたなら、ロルフはエルネスタを否定する事なく受け入れるのに、そう思ってすらいた。


「……ロルフさまー」


 そして、ひょんな事から、その機会は訪れた。




 寝室……というかエルネスタの私室ではあるが、最早共同の部屋に近い。整理整頓をしない自身の悪癖のせいでもあるが、エルネスタの部屋はとてもロルフにとって居心地の良いものであった。


 片付いているし、漂うほんのりと甘いような、それでいて爽やかな香りは、ロルフにとって酷く心地好いもので。今なら寝室を分ける必要などなかったと自信を持って言えるロルフなのだが、それを言えばエルネスタは慌てて顔を真っ赤にするだろう。


 ソファに腰掛けたロルフは、テーブルに詰まれた包みを見てそういえば先日の外出でチョコレートを買ったのだと思い出した。


 エルネスタは自らは包装すら解こうとしないし、ロルフが食べるまで手を付けない、エルネスタはそういう性格だと今までの言動から想像出来る。まるで従者のように一歩後ろを歩くような、そんなエルネスタは、良くも悪くも控え目すぎなのだ。


 折角買ったのだからとエルネスタを呼び寄せて隣に座らせ、遠慮なく包装紙を丁寧に剥がしてはチョコが並んで仕切りに一つ一つ詰められている箱を取り出す。


 流石というか、専門職が作ったチョコは、艶やかな光沢を帯びていてしっとり滑らかな表面。それぞれ形や飾りが違う、その細かさは芸術品にも似ていて、隣のエルネスタがほぅと息を吐くのが聞こえた。


「美味しそうですね」

「そうだな。どれ」


 僅かに期待を潜ませた声を聞き逃す筈もない。

 甘いもの、特にチョコレートが好物だとコルネリウスからも実践による調査結果を聞いているロルフは、当初の目的を果たすべくチョコレートを一粒摘まみ、それからエルネスタの柔らかそうな唇に触れさせる。


 これには驚いたように瞳をしばたかせるエルネスタだったが、チョコレートが溶けてしまうし唇に触れたものを突き返すのも駄目だと判断したらしく、そのまま口に運んで。

 ぱくん、小さな唇に滑らかな光沢を帯びたチョコレートが、滑り込む。そして、遠慮がちに一噛み。


 それからのエルネスタの表情の変化は、顕著なものだった。


 まず、瞳が輝いた。

 大粒の翠玉は光を内包したかのように煌めきを放ち、鮮やかな虹彩をより鮮明な翠緑に。雪のような頬はうっすらと薔薇色が花咲いて淡く色付いている。

 口許こそ手で押さえているものの、その奥でゆるりと弧を描いているのは、瞳からも読み取れた。


「美味しいか?」


 返事は、ない。しかし、首をこくこくと縦に振って嬉しそうにゆるゆると瞳を細めて頬を緩めた表情から、その味の良さは想像が出来る。


 好き嫌いは殆どないらしく、アマーリエの作った料理は喜んで食べているエルネスタではあったが、チョコレートを食べた時程目まぐるしく変わった事はない。つまり、余程美味しく、そして好きな味だったのであろう。


 そう判断したロルフも一粒口に放り込むと、舌の上でじわりと溶けていくまろやかで、それでいて濃厚な甘さと、ナッツのペーストが入っているのか香ばしさが口に広がる。


 体温でとろけていく感覚は心地好く、些か甘さが強いとは思ったものの、頭脳労働の後に一粒くらいなら最適なものだろう、という判断にはなった。エルネスタ程好んでは食べないが、悪くない、とも思う。


 せめて食べ続けるならもう少し甘くないものが……と思って、ふともう一つあった小包が、視界に入る。


 此方はコルネリウスの勧めで買ってみたもので、それを知らせると二人で仲良く食べると良いよと熱心に勧めて来るのだ。甘さは控え目だからロルフでも美味しく食べられるだろう、とも。

 ……そして、食べる時は寝室で二人で、という助言つきで。


「それはコルネリウス様のお勧めの物ですか?」

「ああ。二人で仲良く分けて食べろ、と」

「そんなに美味しいんですか?」


 包装を開けるロルフの一言にぱあっと瞳を輝かせたエルネスタも、間が悪かったと言えばそうなのかもしれない。

 期待が混じったその瞳を見て、ロルフは当然食べさせてやりたいという欲がそそられる。包みを開けて、自身が食べるよりも早く真っ先にエルネスタに与えたというのも、仕方のない事だった。


 チョコレートを手にした時に、少し水が入ったようなちゃぷんという音に気付けたなら、こうはならなかったかもしれない。


「ふあぁ……」

「エル?」

「……お酒の味がしますー」


 何とも言えない顔でエルネスタが噛んで飲み込んでいるそれは、チョコレートの中に詰め物が入っている、所謂ボンボンショコラだ。種類は多岐に渡るが、エルネスタに与えたのはその中でもウィスキーが詰められた、ウィスキーボンボンというもの。

 名の通り、ウィスキーが入ったものになる。


「……酒が入っているからな」


 ロルフも口に放り込めば、芳醇な香りと一瞬脳を揺らすような酒独特の味が口に広がる。

 ロルフとしては、甘いだけのものよりは此方の方が味的に好みではあるので、ある意味ではコルネリウスの見立ては間違っていない。


「でも、美味しいですね。もう一粒良いですか?」

「気に入ったなら食べると良い」


 エルネスタも成人しているし、飲酒自体には問題がない。本人が気に入ったというのなら、止める必要もないだろう。

 自分から食べたいと望んだエルネスタは、普段欲の小さな少女な為、エルネスタが望んだならと止める道理もなかった。


 一粒、また一粒とエルネスタの口の中に消えていくチョコレート。


 酒に弱いとは聞いていたものの、所詮は小さなもの。

 ロルフとしては酒が入っているとはいえ、それはほんの少量のものだろうし、それくらいで酔うとは全く想像していなかったのだ。コルネリウスも大丈夫だと太鼓判を押していた。


 ……果たして何処か楽しそうなコルネリウスの笑みは、信用して良いものだったのだろうか?


 弟として長年相手して来たロルフが気付くのが遅れたのは、まさかエルネスタを巻き込んで何か画策するとは思っていなかったというのと、たかがチョコレート如きで、という油断があった為だった。


「ロルフさまー」


 そして、気付いた時には、エルネスタは普段より芯の揺らいだ甘い声を出して、ロルフに抱き付いていた。


「……エル?」


 普段エルネスタから抱き付かれる事はまずないので、驚きを禁じ得ない。

 いつもロルフから触れて抱き締めていて、エルネスタは自らはくっつこうとはしなかった。恥じらいと躊躇いが実行に移すのを止めていた形だった。

 そのエルネスタが、今自らロルフに抱きついているというのだから、驚きもひとしおである。


「ロルフさま、ロルフさま」


 すりすりと幼子のように甘えてはやや舌足らずな声でロルフの名前を繰り返すエルネスタに、流石におかしいと感じたロルフは抱き付くエルネスタの顔を上げさせて……そして、今更のようにボンボンを与えてしまった事に、後悔をした。


 何処をどう見ても、今のエルネスタは酔っているようにしか見えなかった。


 普通のチョコレートを食べた時の頬の緩みや顔色とは明らかに性質が異なる、ねだるような甘さのある笑顔と、熱を孕んだように上気し仄かに色付いた頬。ひたすらに好意を示すしっとりと濡れた翠緑の瞳は、これでもかとロルフに甘えるような眼差しを向けている。


 ロルフの知るエルネスタは、困ったように笑うか遠慮がちに微笑むか。自信がなさそうに小さな体を縮めて窺うような眼差しばかりだった。

 幼い顔立ちに似つかわしくない達観したような、諦めた表情すらする、そんな少女で。


 それなのに、今はどうだ。

 屈託のない……いや、何処か女を匂わせるような、媚ではなく艶がある、ほんのり色香を漂わせた笑み。

 恐らく本人は何ら意図したものでなく無邪気なものだからこそ、より色っぽさを内包したあどけなさが強調されているのだ。


「……エル、酔っているな?」


 ただ、ロルフはロルフで堅物に近い存在であった為、動揺こそしたものの、どうこうしたいという感情は抱かないという残念さを発揮していた。

 コルネリウスがこの場に居たならば「男としてそれはどうなんだ」と嘆いていた事だろう。


「よってないです」

「酔った人間は皆そういうらしいぞ」

「わたしのどこがよってるのですか?」


 全体的に酔っている、としか言いようがなかったのだが、この状態のエルネスタがそれを認める事はなさそうだ。

 そう判断したロルフは突っ込むのを諦め、取り敢えず機嫌を良くしようと抱き付いてくるエルネスタの頭を優しく撫でる事に専念する事にした。


 普段より言動が幼くなっているエルネスタなら喜ぶかと思っての行動であったが、予想は当たっていたらしくとろりと幸せそうに笑みを浮かべてぴっとりとくっつくエルネスタ。


 これが違う女であれば嫌悪感も湧き出たであろうが、エルネスタだからこそ、悪くない。寧ろ、何とも言えない心地好い温かな感情と、これまた何とも言えない焦燥感にも似た何かが、ロルフの内側を巡る。


 嫌ではないし、それどころか喜ばしい。甘えて貰いたいという、自分でも何故抱いたのか分からない願いは叶って、満足していた。そして、足りない、とも思ってしまう。


 もっと、自分を頼ってくれれば良い。甘えれば良い。我慢などしなくて良い。我が儘を言って欲しい。


 普段は口に出さないが、その思いは日増しに強くなるばかりだ。

 だからこそ、結果的に酒の力を借りたとはいえ甘えるようにくっつくエルネスタに、ロルフは少なからず満足感を覚えてしまうのだ。


 絶対こうなると確信して勧めたであろうコルネリウスには後々問い質したいという気持ちはあったものの、酔って理性の箍が緩んだエルネスタがしたい行動をしてくれる事には感謝をしてすらいる。……ただ、翌日に詰問するという誓いは揺るぐ事もないが。


「ロルフさま、もっと……」

「どうして欲しいのだ」

「ぎゅっとして……?」


 だめですか、そんな切なそうな声でうるうると潤んだ眼差しで見上げられて断れる程、ロルフも非情ではなかった。いや、そもそも断るつもりも毛頭なかったのだが。

 ことエルネスタに関してはかなり判断基準が緩いし、甘えて貰う事に充足感すら感じている。それがどうしてなのかまでは、ロルフは分からないまま、気付かないままである。


 ささやかなおねだりに嫌な顔一つせず……寧ろ穏やかな顔で、エルネスタの望むままに抱き締めては優しいほんのりとした笑みを見せるロルフ。

 その表情が幼子を慈しむような表情なのか、はたまた大切な存在を愛おしむものなのか……第三者が居れば言葉を以てして明確に結論付けてくれただろう。残念な事に、この場には二人しか居ないが。


「……ふふー、ロルフさまだ」

「私以外の何があるというのだ」

「ロルフさましかいないですね、だって、ロルフさまにしかしてほしくないですもん」


 恍惚とも陶酔とも違う、純粋な喜びと幸福感を顔に露にするエルネスタは、とても無邪気にロルフに抱きついて幼子のように頬を擦り寄せる。信頼に満ちた笑みは、ロルフの胸に一摘まみだけ、何か不可思議な熱を落とし込むのだ。


 普段あれだけ抱き締めているのに、エルネスタから抱き付かれて身を寄せられるのは、何故かいつもと違って後頭部が熱くなるような感覚を覚えてしまう。

 柔らかい肢体も細い体も甘い匂いもいつも通りだというのに、どうしてか普段よりも触れたいという願望が胸の奥から滲み出て来るのだ。先程まで、ただ抱き付かれていたという認識だったのに。


「……エル」


 衝動というには小さく、かといって気のせいで済ませるには大きなもの。上手く処理しきれなくて、しかし燻らせたままではもどかしい、そんな思いを抱いたロルフは、どうして良いのか分からずにただ細い体をしっかりと抱き締める。


 先程よりも密着すれば、より柔らかなものが押し付けられる。今まで然して何とも思わなかったのに、何故か今日に限って、それがとても……魅力的なものに、思えてしまう。


 けれど触れるのは喜ばないのも分かっているロルフは、抱き締めたままエルネスタの頬に口付けを落とす事で、その渦巻く何かを何とか片付けた。


 当然、いきなり口付けを受けたエルネスタの反応は顕著なものだった。

 ロルフの腕の中でエルネスタはより一層あどけない顔を幸福にとろけさせていて、喜びが照り出たように明るい笑顔を浮かべている。チョコレートを食べた時など目ではない程に滲み出る幸福感に、ロルフも瞠目するのは当然だった。


 エルネスタ本来の笑顔は、こうだったのだろうか。


 そう思うと、少しだけ、胸に靄のようなものが広がる。


 酒の力を借りないと本来の笑顔は出ないのか。

 そして、そうならざるを得なかったエルネスタの置かれた境遇を考えると、更に苛立ちにも似たむかむかとした衝動が湧き起こったが、何とか理性によって腹の中に留められている。


 エルネスタ自身は悪くないし責めるつもりは毛程もない。ただ、エルネスタの自信と笑顔を失わせた原因には、並々ならぬ嫌悪と憎悪が、胸の内に渦巻く。


 何故エルネスタには自信がないのか、コルネリウスに指摘されて考えた結果、傷が全ての始まりだったのだろうと予測を付けていた。


 ロルフとて、鈍いが何も分からぬ程愚かではない。エルネスタが話したがらないし話題に触れると傷付いた痛々しい顔をするので口には出さないが、体に負った大きな傷が何もかもエルネスタから奪っていったのだろうとは、理解している。

 エルネスタが襲われた場面に居たのなら、守ってやれたのに。


 生き残っても、エルネスタからは様々なものが失われた。心からの笑顔も、自信も、幸せな未来も。

 取り戻せるなら取り戻したいし、叶えられるなら叶えてやりたい。いつも遠慮がちな妻が本来の笑顔を取り戻してくれたら、それはロルフにとっても喜ばしい事だ。存外ロルフはエルネスタを気に入っているし、とても好ましく思っているのだから。


 どうしたら自信がついてくれるだろうか。

 そこまでは上手く分からなかったロルフは、せめてもと、エルネスタが思っている事を、酒に酔っている内に聞き出そうと考えた。自制心が緩んでいる今聞くのは卑怯だとは理解していたが、こうでもしない限りエルネスタは本音を飲み込むのは分かりきった事で。


「……エル、お前が私に望むものは、何だ?」

「のぞむ、もの?」

「お前は、私がどうしたら、嬉しいだろうか」


 問い掛けに、エルネスタはとろんとしていた瞳を不思議そうにしばたかせ、それから少し悩むように「んー」と唸った後、ぽすんとまた胸に顔を埋めて。


「……ぃ、してくれたら」

「エル?」

「……んーん、なんでもないですー」


 最初の方の音がロルフには聞こえずに聞き返すものの、エルネスタは決して繰り返す事もなく、ただ顔を隠すようにロルフの胸元に頬擦りするだけ。聞き返してもエルネスタは答える事は、ない。

 まるで、それだけは言ってはならないと誓っているようで。


 甘えるように身を寄せるエルネスタに、ロルフは口惜しいと思いながらも無理に聞き出す訳にもいかず、ただ喉を鳴らして子猫のようにもぞもぞ擦り寄るエルネスタを撫でては本音が聞けたならもっと望む事をしてやれたのに、と内心で残念がった。


 それでも、こうして幸せそうに笑みを零してくれるだけでも、進歩だった。酒の効力ではあるが、紛れもない本心からの笑みだったのだから。


 ……いつか、自ら、心からの笑みを贈ってくれる日は、くるのだろうか。命じられ結んだ婚姻であっても、そう笑ってくれるのだろうか。

 そんな疑問も、湧いたが。


「エル」

「……なんですか?」

「お前は、私と結婚するのは嫌だとは思わなかったのだろうか」


 こてんと緩慢な動作で首を傾げたエルネスタを抱き締めながら問うと、逆にエルネスタが不思議そうな表情に。


「そんなことおもいませんよ。ロルフさまといっしょにいられて、しあわせです」


 ふやけたような笑みを浮かべてまた幸せそうに胸に顔を埋める妻に、ロルフは安堵すると共に、自分はどうなのだろうかと自身に対する疑問も浮かぶ。


 結婚して、良かったのか。

 それは間違いなく良かったと言えるだろう。

 自己主張をする事なく、大人しく控え目に笑う心優しい少女。その上で稀有な能力を持って検証にも協力的で、研究も馬鹿にせず理解を示してくれる、ロルフにとって理想的な妻だった。


 そう、あくまで大人しくて媚を売らず研究の邪魔をして来ない、それが単によかった、それだけだったのに。


 いつから、エルネスタに笑って欲しいと、望んで欲しいと、 側に居て欲しいと、触れたいと、願うようになったのだろうか?


「ふむ」

「……どうかしましたか……?」

「いや。人間分からないものだと思っただけだ」


 名状し難い感情をエルネスタに抱くようになってしまったロルフは、ただそう答えて、腕の中に収まる小さな妻を抱き締めて感慨深げに呟いた。


 その感情が、愛おしさという感情だと気付く日は、そう遠くない。

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