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旦那様の目指すもの

 ひとまず私は光魔術だけなら使えるという事が発覚したので、その他の属性は切り捨てて光属性の魔術……つまり治癒術に集中する事になりました。

 光魔術は一応その名の通り光を出すというものや浄化の術もあるのですが、光自体は試しても出せなかったし、浄化は試す相手が本当に居ないので、一先ずは知識として覚えておく事だけにしておきます。


 私としては使える魔術があったというのが嬉しくて、そしてそれがロルフ様をお助け出来るものだからより嬉しい。これでロルフ様が怪我しても少しくらいの傷なら治せる、という程度の意識だったのですが……コルネリウス様には、そうでもなかったようで。


「まさかエルちゃんが治癒術使える才能があるなんてねえ、うちの家系からは出てないから驚きだよ」

「あの時は、本当に無我夢中だったので……」

「ロルフを治したいって思いが奇跡を起こしたのかな、ふふ」


 からかうような笑み、ですが馬鹿にしたようなものではなく、寧ろ嬉しそうなもの。

 純粋に、私が治癒術を使える事を喜んでくれたのでしょう。魔術が使えないと知った、私のあの時の落胆ぶりは傍から見ても凄かったみたいです。


「いやはや、本当に良かったね。エルちゃんにとっても、ロルフにとっても、家にとっても」

「家……ですか」

「言っておくけど、これは客観的な事で父上母上はそう思っている訳じゃない」


 そう前置きした上で、コルネリウス様は続けます。


「うちの家はこれでも魔導師の名家だ、当然優れた魔導師を輩出するって役目……というかまあ義務に近いものはある。治癒術の使い手ってのは中々居ないし、うちに取り込めるなら是非とも取り込んでおきたいって所かな?」

「このような、ちっぽけな才でもですか」

「何でそうなるかなー。というか、そもそも増幅能力の時点でとても稀有だからね? 私なんか、とか有り得ないからね? これ程にない素晴らしい嫁さんだからね? ロルフにしか効かないって点があるけど、それを除けば喉から手が出る程他家には欲しい資質だから」


 だからもうちょっと自信を持ってね、とにこやかながら本気の眼差しで言われて、曖昧に笑って頷いたらちょっぴり不服そうな表情。


 ……自信を持って、と言われましても……やっぱりそう簡単に持てるものでもないと思うのです。それに、この体質自体、後付けのものみたいですし……。そもそもこの体質が、その、こ、子供に引き継がれるかなんて、分かりませんから。

 そもそも、ロルフ様が……授かるような行為をしたがるとは、思いませんし。興味は持つかもしれません、あくまで魔力増幅の為の粘膜接触の意味で。


 この話はあまり続けたいものではないので、肩を縮めてコルネリウス様の視線を耐えていると私の意図を読んだのか、やれやれと私とは違う形で肩を動かし、溜め息。


「え、ええと、そ、そう言えば、何故治癒術が使えたのでしょうか。無理だとばかり……」

「才能があったからじゃない?」

「身も蓋もないですね……」


 ……話を逸らしたいのは私ですけど、何だか求めていた答えとは違うような。


「それと、あとは思いの力かな?」

「……思い、ですか?」

「魔術って結構思いの力があるんだよね」

「……思いの力」

「ロマンチックだろう? まああくまで例えというか、つまりは想像力も必要なんだよ。幾ら式を覚えたからと言って、それだけでは発動しない。意思を伴ってないと、それは顕現しないんだよね。明確なイメージを持つ、といった方がいいかな?」


 テーブルに置いてあったカップとソーサーに添えられたティースプーンを、指揮棒のようにくるり。杖に見立てて一振りしたようです。


 物語に出てくる魔導師……というか多くは昔のものだから魔法使いと呼称されるのですが、その魔法使いは杖を持っていました。魔力の流れを助ける、とかなんとか。

 今居る魔導師は全部頭の中で構築しているので、杖という補助は要らないらしいのですけどね。


「魔導師は、自分のイメージと腕に疑いを持ってはならないんだ。出来ないと思ったら出来なくなってしまう。自然の摂理をねじ曲げて事象を引き起こす魔術は、一般人にとって有り得ないだろう?」

「……そうですね、私にとっては、出来ないって思うばかりのものでしたから」

「一般人と同じ認識でいたならいつまで経っても発動しない。魔術は魔導師にしか理解し得ない法則であり、その法則を否定してしまったなら、それはただの夢物語になるのだから」


 そこがまず魔導師と一般人の違いかな、と微笑んだコルネリウス様は、少し休憩とばかりにやや冷めた紅茶を口に運びます。


 コルネリウス様は饒舌という程でもありませんが、ロルフ様と同じように魔術の事になると口数は多いです。そこは性格は反対なロルフ様そっくりなのですよね。

 魔術の解説や講義をする時は溌剌としていますし、コルネリウス様は本当に教師に向いているのかもしれませんね。教えるのが好きというのは間違いない筈。


「だから、言い方は悪いんだけど魔導師は現実の否定から始まる。……その意思が元から強かったロルフは、魔導師向きだよ本当に。ある種の才能だからね」


『昔の人間が出来たなら、今の人間が出来ない筈がないだろう。試す前から諦める方がおかしいのだ。大人に否定されたから諦めるなど馬鹿馬鹿しい、やってみなければ分からないだろう』

『私は、その否定を否定したいのだ。出来ない筈がない、叶わない訳がない、と。私は笑った誰もを見返したいのだ、お前達が諦めた可能性にだって芽が出て花咲かせるのだ、と』


 これは、あの時のロルフ様のお言葉。


 ……ロルフ様は、常識に囚われた魔導師の言葉を、否定した。出来ない筈がない、そう否定を否定して。

 そのような意思を持つからこそ、あんなにもロルフ様は……輝いて見えるのでしょう。何処まで純粋で、ある種貪欲と言い換えても良い程に、ひたすらに古代魔術を追い求めて。

 心も情熱も知識も技術も何もかも魔術に注ぎ込んでいるのです。


 そんなロルフ様に、私はとても憧れているし、お慕いしているのです。たゆまぬ研鑽を積みながら、飽くなき探究心と薄れる事のない情熱を持った、ロルフ様を。


「……ロルフ様は、何処までも真っ直ぐに自分を信じていますからね」

「まあそれが面白くない人も居るんだろうけどね。自分が信じきれなかったものも信じ続けて手を伸ばして届こうとしているから」


 コルネリウス様が仰っているのは、ロルフ様を馬鹿にして否定した人達の事なのでしょう。出来る筈がないとロルフ様を謗り、そして何処までも高みを目指すロルフ様を疎ましく思う人も、居るのでしょう。

 ……それはとても、残念で、悲しいですけど……受け入れられない人が居るのも、事実です。ロルフ様の才と情熱に妬みの念を送る人だって、居る。


 ロルフ様が傷付く事がなければ良いのですが、と自然と眉が下がってしまうのですが、それを見越していたらしいコルネリウス様は「ロルフは周り気にしないから大丈夫だよ。邪魔してくるなら正々堂々排除するから」と笑顔。


 ……実にロルフ様らしいというか、気にしない辺りとても心が強いのだと実感させられますね。そもそも心ない言葉に負けず屈せず、目標に向かって邁進するロルフ様には多少の妨害なんて何のそのかもしれません。

 ロルフ様には「古代魔術の再現」という揺るぎない一本芯と、消えない情熱があるのです。そうへこたれたりはしないのでしょう。


「まあ、ロルフも手応えは感じてるから、それが尚更周りには腹立たしいんだろうなあ」

「古代魔術の再現、出来そうですか?」

「時間を掛けさえすれば、多分出来るんじゃないのかな。あれはやると決めたらやる男だから」

「それがロルフ様ですから」


 やっぱり、家族の皆さんもロルフ様は有言実行で実直な方なのだという認識なのですね。接する期間が短かった私でもそういう思うのですから、コルネリウス様やアマーリエ様、ホルスト様なんてより強く感じているでしょう。

 ……昔ロルフ様の夢を否定したらしいホルスト様は、今研究し続けるロルフ様の事を、どう思っているのでしょうか。今度、聞いてみたいところです。


「ロルフの事、随分と信用してるよねエルちゃんも。ほんと、ロルフ大好きなんだから」

「……お慕いしているというのもありますが、ロルフ様はやってくれる方だと、私の心が告げているのです。……私に見せてくれるって、約束してくれたんです。ロルフ様は、約束を破ったりはしないと思います」


 勝手に信頼しているだけですし期待しているだけですけど、ロルフ様は一度誓った事は約束を違えないと思うのです。自らを傷付けない、という約束も、ロルフ様は真剣に聞き入れてくれましたから。


「……だから、あいつやる気満々なのか」

「え?」

「いや、何でもないよ」


 悪戯っぽく笑うコルネリウス様に、私は何かを誤魔化された気がしつつも素直に頷いてそれ以上の追及はしないでおく事にしました。

中途半端なのは一話に纏めると長くなるので分割したからです。残りは夜に更新。

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