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旦那様のやきもち(?)

 コルネリウス様が自室に戻った後、私もロルフ様に連れられて自室に戻る事になりました。というか強制で。ロルフ様が手を離して下さらなかったのです。

 ロルフ様は何だか真面目というか緩みのない表情で、何を考えているのか全く想像出来ません。ただ、手だけはしっかりと握られて、逃がさないと言わんばかりに連行されます。


 お部屋に戻ると、ロルフ様はソファに私を座らせては自分も隣に腰掛けて。……手は、離して頂けません。


「……ろ、ロルフ様……?」

「……何もされていないか?」

「え?」


 何もされていないか、とはどういう事なのでしょうか。

 もしかして、私はロルフ様に疑われているのでしょうか。いえ、実際そんな事絶対に有り得ないですし、コルネリウス様もわざとだって、ロルフ様なら分かりそうなのに。


「兄上は、女好きなのだ。人のものに手だしはしないとはいえ、接触が多いのも事実だ。よくそれで誤解されたりする。兄上はただ、女の柔らかさが好きなだけなのだ」


 それは確実にロルフ様も似ているのでは。

 ロルフ様も柔らかいのは大好きですよね、私を触って楽しんでますし、偶に寝惚けて胸を枕にしたりしますし。私の動揺なんて知らないまま「おはよう」と平然とした顔で起きてそのまま頬擦りするってロルフ様ですからね。柔らかいの大好きですよね。

 ……他意はないと分かっているのですが、中々慣れません。というか慣れてしまっては駄目だと思うのです、あんな、恥ずかしい体勢。


 ロルフ様は、もしかして深いところでコルネリウス様の影響を受けていたり……?


「え、ええと、挨拶で手の甲にキスされたくらいで、他は……」


 私かコルネリウス様、どちらに疑問を抱いているのかは分かりませんが、取り敢えず誤解のないように説明すると、ロルフ様は握っている手をじっと見て。


「……ドキドキしたのか?」

「え? い、いえ、その、びっくりの意味ではしましたけど……」

「そうか」


 私の一言に、何処か安堵したように吐息を零したロルフ様。


 ……あれ?

 気のせい、でしょうか。今、良かった、って感じの息を吐き出して表情を和らげた、気がしたのですが。


「つまり、心拍数が上がっても他人では魔力増加は見られないのか、興味深い」


 ……気のせいでしたね。ロルフ様に限ってありませんね、私が都合の良いように考えすぎました、反省です。

 ロルフ様がやきもちを焼くなんて、ないでしょう。私の事を異性として好きではないです、嫉妬なんて起こり得ないでしょう。研究対象として気に入って下さっているのは分かっているので、……もしかしたら、取られると思ったのでしょうか? それなら独占欲も分からなくもないのですが。


「……エル」

「はい、何で……」


 何だ、それなら……と納得した私が旦那様にお返事をすると、ロルフ様は握ったままだった掌を軽く持ち上げます。

 そして、そのまま……まるで何かを誓うように、恭しく口付けを落として。


 ひゅ、と肺が引き絞られた時のような喉を掠める空気の音。

 柔らかな感触が触れた所から一気に熱が広がって、そのまま全身を駆け巡ります。何で、どうして、という疑問も一緒に広がっては頭をくらくらとさせるのです。


 お陰でふらりと体が傾いだのですが、幸か不幸か、原因であるロルフ様が抱き留めて、そしてふにっと掌を心臓の上に押当てて。


「私にはどきどきするのだな」


 ……そんな事を平然と、耳元で宣うから、もう心臓がいつ飛び出てもおかしくないって思ってしまいます。平気で胸に触れてくるし……! ロルフ様は何とも思ってないでしょうけど……っ!


「……ろ、ロルフ様、は、大胆すぎです……」

「そうか?」

「そうですっ」


 これを大胆と言わずして何と言いましょうか。

 幾ら夫婦だからって、急にこんな事をされては、心臓が持ちません。私はロルフ様にどきどきさせられてばかりです。ロルフ様は、平然としてるのに。


「……よく分からないが、触っては駄目なのか」

「だ、駄目という訳じゃなくてですね……」

「私はもっとお前に触れたいと思うのだが、駄目だろうか」


 ロルフ様としては非常に真面目に言っているらしくて、真っ直ぐな瞳が私を捉えるのです。顔が真っ赤なままの私がロルフ様の瞳に慌てた様子で写っているのも、よく、分かります。


 もっと触れたい、というのは、検証の為だと分かってはいます。それでもどきどきして胸が苦しくなってしまうのは、私がロルフ様の事をお慕いしていて、嬉しい反面悲しいという複雑な気持ちを抱いているからでしょう。


「……っ、お、お手柔らかに、お願いします……」

「柔らかいのはお前では?」

「……ロルフ様……っ」


 何処を触って言ってるんですかそれはっ。


「すまない、分かったから怒らないでくれ。ならば何処なら触って良いのだ」

「え、ど、何処と言われましても……」

「胸は怒るだろう、胴体部分も駄目だ。私は何処を触れば良いのだ」

「……ど、何処って……い、言われても……その、……うう」


 何で触って良い場所を言わなければ。何ですか、この辱しめ。


「……ろ、ロルフ様になら、何処でも嬉しいですけど……出来れば、普通に抱き締めるとか、が」

「そうか」


 ただでさえ定期的に頬にキスされて毎日抱き締められて寝ていて、これ以上に何処か触られるなんて、堪えられません。嬉しいですけど、恥ずかしいし、旦那様は許すと際限なく触れてくるのが目に見えて分かっているのです。


 許してしまえば普通に比喩表現でなく何処でも触れてくるでしょう、寝惚けてない状態で胸に頬擦りなんてされた日には火を吹いて顔が焼けてしまいそうです。

 制限をかけないと、ロルフ様は興味の赴くままに手を伸ばすのです。好奇心とはとても厄介なものだと、ロルフ様直々に教えて頂きましたとも、はい。


 普通にお願いします、と懇願した所、ロルフ様は普通の意味を少しだけ考えて、そして私の事をそのまま抱き寄せて背中に手を回します。そのままこてん、と肩口に顔を埋めてすりすり頬を寄せて来るので、擽ったくて仕方ありません。

 ふ、普通じゃない気がするのですけど……。ロルフ様としては、これが顔の収まりが良いらしく肩をそのまま頭置きにしてますが。


「……エル」

「……はい」

「兄上は、どうだった?」

「こ、コルネリウス様ですか? その、ロルフ様とは正反対な方だと……」


 性格も、雰囲気も、異性に対しての態度も、鋭さも。

 笑顔で人当たりの良いように見えて、その実何かを探るように見ている。何か意図を持って、あのような言動をしている……そう、思ってしまいます。

 なのでコルネリウス様は天然を装った策士、というイメージが付いてしまいました、まだちゃんとお話もしていないのですが。


 ロルフ様は腹芸など出来そうにないと思うので、余計にコルネリウス様が何かを画策しているように見えてしまうのですよね。


「……私は、ロルフ様の方が落ち着きます」

「……落ち着かれても困るのだが」

「どきどきしながら、落ち着くのです」


 ロルフ様としては心拍数を上げて欲しいのでしょうけど、私としては、ロルフ様はとてもどきどきして、でも一緒に居るとほっとして幸せになってしまうのです。


 ロルフ様は温かくて、内側が穏やかで、そして何だかんだで優しくて、時に子供のような無邪気さを見せて可愛らしいのです。男性の芯のある強さも見せてくれる。表面上は真面目で取っ付きにくいですが、その実気遣いがあって、そして少し天然さんな所があって。

 そこが、ロルフ様の良い所ですし、惹かれる所です。……研究に没頭しすぎて常識から外れた行動をするのは、ちょっと直して欲しいですけども。特に異性の体をまさぐるとか。


「……よく分からないが、それなら良い。……エル、一つ良いか」

「何ですか?」


 どうかしましたか、と問い掛けると、ロルフ様は肩口から顔を上げて。至近距離で見詰められて、少しだけ固まってしまった私に、一言。


「……あまり、私の居ない場所で人に触れさせるな」

「……ぇ」

「調査が出来ないだろう」

「……そ、そうですよね! ちゃんとロルフ様が居る時にします!」


 び、びっくりした。本当にロルフ様が、その、やきもちを焼いたのかと、一瞬思ってしまいました。自意識過剰でしたね、恥ずかしい。


 ほんのちょっぴり面白くなさそうなロルフ様にこくこくと頷くと、機嫌を良くしたらしいロルフ様はそのまま頬に口付けてはまた肩口に顔を埋めてしまいました。

 ……ロルフ様に、いつも振り回されてばかりです。私の事、どきどきさせてばかりで、ずるいです。ロルフ様は何とも思ってないのに、いつも私ばかりで……。


 これが作戦なら大したものですが、ロルフ様は天然でこんな事をするから、私の心は掻き乱されてばかりなのです。……ロルフ様の、ばか。

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