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旦那様専用抱き枕の地位を得るのも近いです

「おお、それが言っていた寝間着だな」


 ロルフ様は少しだけ声を高くして機嫌の良さそうな声を上げていますが、私としてはその、ロルフ様の視線を感じて恥ずかしさで一杯です。


 先日ロルフ様に約束した通り、私は袖と丈が短めの寝間着を纏っています。

 アマーリエ様に相談したら何故かとても乗り気で、一緒にお買い物に行く事になってしまって色々と選ばれて買う事になったのです。


 流石に胴体部分を見せる訳にはいきませんので、あくまで袖が短く丈も膝程度のものを選んで頂きましたが……その、このようなレースやフリルがふんだんにあしらわれたものは、正直落ち着きません。

 湯上がりにこれを着た時は今までと違ってすーすーしていて、とても恥ずかしさを覚えました。このように肌を露出するなんて……。


「それなら肌に触れやすいな。よくやった」


 ロルフ様としてはお気に召して頂けたようなのですが、やはりというか、着眼点はそこなので複雑です。

 なんとも言えない気持ちになりつつも、慣れない格好もあって中々ロルフ様に近付けない私。ロルフ様は、入り口でもじもじとする私に不思議そうな眼差し。


「どうした、寝ないのか」

「ね、寝ますけど……その、は、恥ずかしい、です」

「何故だ? 服装の事か? 似合っていると思うので問題はないぞ」

「えっ」

「そのような事を恥じているのなら気にする必要もない。私にその格好は好都合であり、何ら私に不快ではない」


 何を躊躇しているのだ、と首を傾げるロルフ様に、余計に羞恥が煽られます。

 ……ロルフ様は何となしに言ってるし深く考えている訳ではないのでしょうけど、似合っている、って言ってくれたのは……凄く嬉しい。それがただの世辞であっても、私を促す為の言葉であっても、ほんの一言が私の胸を熱くするのです。


 別の意味で動けなくなった私に、ロルフ様は困り顔。

 それから、私に近付いて……。


「何を悩んでいるのか知らんが、兎に角、気にする事はない。ほら、いつものようにベッドで話すぞ」


 入り口付近に縫い止められた私をほぐすように頭をぽんぽんと撫でて、それから何て事のないように私を横に抱えてすたすたとベットに連れていってしまうのです。


 これには私も固まるしかなくて、ロルフ様に抱えられた状態のまま身を強張らせるのですが……ロルフ様は気にした様子もありません。私を抱えて苦になった様子もなくて、ロルフ様は存外力持ちなのだな、男らしい所もあるのだなと痛感させられた次第です。

 いえ、ロルフ様が男性なのは分かっていますし、その、抱擁でロルフ様の体も引き締まってる事は、存じ上げておりますが。


 口を開閉させて瞠目する私を他所に、ロルフ様はそのままベットに上がって私を下ろします。……ロルフ様が座って組んだ脚の間に。

 胡座を掻いた旦那様に出来た隙間の部分、そこに横向きに下ろされて……またも固まった私に、ロルフ様は満足そう。


「これなら触りやすいだろう」


 いえ、そうではなくてですねロルフ様!


「それにしても、お前は細いのだな。もっと食べるべきではないのか?」


 露出した二の腕や脚の辺りを撫でて少し揉んだロルフ様、私の顔をわざわざ覗き込んで来るので、顔に熱が集まってきます。


 細さ云々は良いのですが、ロルフ様に直に触られているのだと思うと、恥ずかしくて仕方がないのです。大きな掌の感触は、温かくて、硬い。ロルフ様は繊細な指をしていますけど、決して女性らしいものではなく、骨張っていて、でもほっそりとした指。

 それが私の肌を確かめるように触れているなんて、考えるだけで、頭に直接熱湯を注ぎ入れられたような感覚に陥るのです。


「この服は便利だな、お前に触れやすい。これはどうなっているのだ?」


 色々と服も気になるらしくて、ひらひらを摘まんでは確かめるように服をまじまじと見ています。


 気になった事は即探求、がモットーなロルフ様。

 そして今回気になったのが、スカート部分だったらしく……ぺろ、と普通に持ち上げて、捲って。


 此処で悲鳴を堪えられた私は、多分今日一番頑張ったのではないかと思います。


「ふむ、案外生地は薄いのだな。それにしても、肉付きが……」

「ろ、ろろろロルフ様、なりません、それは駄目です!」


 流石に太腿を見られるのは、無理です。もう少し捲れていたら下着が見えていたので、本当に、駄目です……!

 ロルフ様は知的好奇心だったのでしょうし、異性としてなんとも思ってないであろうロルフ様は気にしないのでしょうが、私が気にするのです! 下着を見られるなんて、む、無理です、恥ずかしくて死んでしまいます……!


 全力で裾を押さえて首をぶんぶん勢いよく振る私に、ロルフ様は特にそれ以上知りたいとは思っていなかったみたいで「そうか」と一言で止めて下さるので、ほっとしつつロルフ様様にだらしのない太腿を見られた事が胸に余計な負担をかけています。

 どっ、どっ、と心臓が強く脈打っていて、もう、羞恥で目頭が熱くなって来ました。


「エル、な、泣くな、すまない」


 うう、と俯いた私に、ロルフ様はおろおろ。

 どうやら泣いたと勘違いしてしまったみたいで、私を抱き締めて頭をなでなで。完全に子供を宥めるような触れ方なのですが、ロルフ様はとても真面目に私を泣き止ませようとしています。

 ……泣いてはいないのですが……ロルフ様の気遣いは、嬉しいです。した後に気遣うのではなくする前に気遣って頂けたらもっと助かったのですけど。


「だ、大丈夫ですロルフ様、平気ですから」

「そうか……?」


 ほ、と安堵したロルフ様。何というか、こういう所は可愛らしい御方なのだと再認識するのですが……束の間、ロルフ様が私の頬に口付けてくるからもう可愛げ云々の前に、ロルフ様にこのご機嫌の取り方を教えた方に詰め寄りたいです。

 ロルフ様、この方法を覚えてからスキンシップ増えましたし、何かあれば頬にキスして機嫌取ってくるんですからね。その機嫌取る内容は触りすぎたすまないとか、クリームシチュー食べたいとか可愛らしいものですけど。


 もう頬にキスはロルフ様なりの譲歩とスキンシップだと考えているので、あまり意識しない事にしています。いえ、本当は心臓が痛いくらいにどきどきしてますけど、ロルフ様があまりにも意識してないので私だけドキドキするのも不公平なので我慢です。


「明日はクリームシチューの日だな」


 やはりというか、キスが合図なのでそれを思い出したみたいです。先程より、ロルフ様の声は明るくなっています。


「そ、そうですね。……毎週クリームシチューを作ってるので、クリームシチューが得意になってしまいそうです」

「とても良い傾向だな。この調子で美味しいクリームシチューを作ってくれ」


 ロルフ様としては良い事ばかりなのでご満悦そう。……ロルフ様、本当にクリームシチュー好きですよね。本当は喜んで頂けるなら幾らでも作りますけど、毎日は困るので敢えて言いません。

 私の作ったクリームシチューを喜んで頂けるのは嬉しいのですが……気になる事は、あります。


「……その、ロルフ様、聞いても良いですか?」

「なんだ?」

「私のクリームシチューは……やはり、アマーリエ様の物と比べると、劣っているでしょうか……?」


 そう、美味しいとは言ってくれるのですが、アマーリエ様の物と比べた時にどう思われているのかが分からないのです。

 アマーリエ様から教わっていますし、味はアマーリエ様のお墨付きでもあるのですが……やはり元祖の方が旦那様にとっては、美味しいのでしょうか。


「少し味は違うな。だが、劣っているとは思わないぞ。寧ろ、私としてはお前の作った方が好きだ」

「えっ」

「……母上は、私が人参を好きでないと分かっていて大きめで多めに入れて来るのだ。父上が具材は大きめが良いと言うからそちらに合わせているのだろうが……私は塊はあまり好きでない。薄切りや刻んだものなら平気だが……」


 やはりですか。やはり人参が苦手なのですねロルフ様。


「笑わないのか」

「何でですか?」

「人参が好きでないなんて、子供のようだろう」


 少しだけ、不貞腐れたように瞳を細めてバツが悪そうなお顔をするロルフ様。

 ……同僚の方に笑われてしまったのでしょうか。私は微笑ましいとは思いますけど、馬鹿にするつもりは全くないのですよ。


「良いと思いますよ、私も苦手なものはありますから。ロルフ様は食べてるだけ偉いです」

「エルにも嫌いなものがあるのか」

「お恥ずかしながら、大きな塊のきのこは苦手で……私も、細かく刻んだなら平気なのですが……」

「そうか。お揃いだな」

「……はい」


 お揃い、という響きに胸が高鳴ってしまうのですが、ロルフ様は気づいた様子もありません。


「話がずれたな。……お前の作るクリームシチューは、人参を少し小さめに切ってしっかり味を含ませているだろう。とても食べやすいし、美味しいと思う」


 何となくですが普段見ていてロルフ様は人参が苦手なのかな、と思って勝手な判断でちょっと小さめにして、柔らかくなりすぎないように注意しながら味を付けているいるのですが、ロルフ様は気付いていたみたいです。

 ……少しの工夫でしたが、ロルフ様が喜んでくれて、気付いて誉めてくれて……本当に、少しの手間を惜しまなくて良かった。


「ロルフ様は人参がお嫌いなのだと思って勝手にしたのですが……お気に召して下さったなら良かったです」

「……助かっているぞ」


 少しだけ頬を緩めて労うように頭をくしゃりと撫でるロルフ様。……どきどきするのは私だけだとしても、やはり、触られると嬉しい。

 過度なスキンシップでなければ本当に、好きなのです。ロルフ様は偶に過度なので、そこは気を付けて貰いたいですけど。


「……明日のクリームシチューにはベーコンも入れて欲しい」


 流石ロルフ様、ブレないですね。


「分かりました。鶏肉もベーコンもお入れします」


 ロルフ様が言う我が儘なんて、研究かクリームシチュー関連だけなのです。私に叶えられるのであれば、期待にお応えして当然でしょう。それに、一週間に一回の日を楽しみにして下さっているのですから、より喜んで頂けるように努力はします。


「頼んだぞ。これで明日も一日頑張れる」

「そ、そんなにですか……?」

「ああ」


 私の活力だ、と堂々と宣うロルフ様に、嬉しさ半分、恥ずかしさ半分。そんなに喜んで頂けるなんて、作り手冥利に尽きます。


「……では、腕によりをかけてお作りします」

「ああ」


 満足そうに頷いたロルフ様に私も頬を緩めるのですが、ロルフ様はふと何かに気付いたように此方の様子を窺って来るのです。

 顔を覗き込むようにわざわざ近付けるので、少し……どきどきしてしまうのですが、今回のロルフ様は純粋な疑問を抱いていらっしゃるみたいで、私をじっと見詰めるのです。


「……思った事を聞いても良いか」

「何ですか?」

「お前は何故此処まで私に尽くすのだろうか。研究にも文句を言わずに付き合うし。お前に利益があるのか」


 私に従っても得はないだろう、と本当に不思議そうなロルフ様。


「り、利益なんて……私がしたくてしていますし……その」

「その?」

「……ロルフ様が美味しそうに食べてくれるのを見るのは、とても嬉しいのです。研究も、ロルフ様が喜んでくれるなら……それが良いです」


 ……私としては、見返りなど望みません。いえ、喜んで頂けるなら、それだけで充分です。

 私が勝手にしているだけですし、ロルフ様が何か私に返さないといけないという訳ではありません。研究だって、ロルフ様が楽しそうですし、私の力がお役に立つならば、喜んで協力致します。


 けれど、ロルフ様はこの返答に納得いかない、というよりはより疑問が深まったらしく、少し真剣な眼差しに。


「……お前は何故それで良いのか」

「駄目、ですか?」

「……駄目とは言わないが、普通少しくらい嫌がるべきなのでは?」

「……恥ずかしいですけど、ロルフ様に触れられるのは、う、嬉しいです」


 ……私はロルフ様が思うより、とても、身勝手な女です。

 ロルフ様にどんな形であれ求めて欲しい、少しでも触れて欲しい、なんて浅ましい思いがあるからこそ、こんなにも協力的なのです。

 見返りは要らない、なんて綺麗な言葉で取り繕ってしまいましたが、詰まる所、私はただ、好いた方に必要として欲しいだけ。


 けれど、それを口に出してしまえば、本当に浅ましくなってしまうから、口には出しません。私が勝手にお慕いして、勝手に力になりたいだけなのです。打算的、かもしれません。

 けれど、心の中で慕う事だけは、許して欲しいのです。


「そうか。私もお前に触れるのは嫌いではない。お前は触り心地が良い。肌もすべすべしていて気持ちいいな」


 内心しんみりとしてしまった私に、ロルフ様は私を抱き締めたまま、肌に掌を滑らせます。


 触れられるのは、嫌ではありません。嬉しいけれど、その触れ方は酷く擽ったい、というか。


「……ろ、ロルフ様」

「良い抱き枕だと思う」

「……抱き枕ですか」


 枕から抱き枕にグレードアップ致しました。

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