やきもちおとうさま
「ロルフ様、どうなさったのですか渋い顔をして」
愛しの旦那様が二階の窓から庭を見て渋面を浮かべて眉間にも顎にも皺を浮かべているので、何事かと私も覗いてみたら、リーゼロッテとレオナルド王子殿下が仲良く魔術のお勉強をしている所でした。
今日はちゃんと(アマーリエ様に)訪問の許可をとってからやってきているので、ロルフ様も咎められないみたいです。それに、コルネリウス様と二人がかりで授業をしているので、ロルフ様も止められようがないのです。
どうやら可愛い娘がレオナルド王子殿下に取られてしまいそうなのが複雑のようです。
知己とはいえ、愛娘の事ともなればそう態度も軟化しないみたいなんですよね。
「……最近、リーゼロッテが私よりレオナルドや兄上になついている気がする……」
「こればかりはどうしようもないですよ。コルネリウス様と過ごす時間の方が多いですし、レオナルド王子殿下の事はリーゼロッテが敬愛してますから」
どうしても週五日は研究所で過ごすロルフ様より、家に居てリーゼロッテに魔術を教えているコルネリウス様では過ごした時間が違いますもの。
でもロルフ様をお父さんとして見ていない、というより、リーゼロッテの場合は尊敬して超えたい壁として見ている節があるのですよね。
大好き、というのには変わりありませんが、そこに対抗心が混じっているのも確かです。
正直、この辺りはロルフ様に似ていると思うのですよ。ロルフ様も、小さい頃ホルスト様を目標にしていたそうですから。
やはり似てしまうのですよね。才能も、好奇心も。
「……兄上は分かるとして、レオナルドの方になつくとは」
「そこは女の子ですもの。王子様に憧れるのも仕方ありませんよ」
私も幼い頃は憧れましたし、夢見るのは女の子にはありがちです。
まあ、リーゼロッテの場合は憧れもありますが、仕えたい守りたいって言ってるのでその辺りは純粋な憧れではない気もしますが。
「……むう」
「仕方ありませんよ。拗ねないの」
そういう所は子供っぽいんですから、と頬をつつくと、更に拗ねたような顔。
片手では数えられない年月を一緒に過ごしてきましたが、過ごす時間が増えるごとに色々と知らなかった事が増えていきます。
何だかんだ、ロルフ様って好きな人に構われないと拗ねちゃうんですよね。
私を筆頭に、と自負出来るのですが、まあ私やリーゼロッテが適当にあしらったり構わなかったりするとすぐにしょげちゃいます。そんなところも可愛いのですけどね、ふふ。
「まあ自立するのは良い事ですよ」
「まだどこにも行かせるつもりはないぞ!? リーゼロッテはまだまだ未熟だし可愛いし良い子だから、誰かに狙われたらと思うと……」
「どこかにやるのは流石に成人してからですってあと何年あると思うのですか。それにもし狙われても平気かと」
「何故だ」
「頼れるお父様が本気でキレたら誰にも手がつけられないでしょうに」
もし誘拐でもされたら、恐らくロルフ様は理性を置いて誘拐犯をぼこぼこにするでしょう。ロルフ様に目をつけられたら多分、ぼろ雑巾になる事間違いなしですから。
それに、リーゼロッテもまだ幼く未熟とはいえ、魔導師見習いよりずっと強いと強いと思いますよ。
あと、この敷地から出す時は誰か必ずつけますから、誘拐もないかと。……まあ私の例がありますので、気を付けてはいるのですが。
リーゼロッテには護衛も兼ねて従者でも付けた方が良いのではないかと思うのですよね。
私達がずっと見ていられる訳でもありませんし、そういった子を雇うのも手だと思います。
なんて考えていたら、ロルフ様は思案顔。
「……そうか、狙う不埒な輩は片っ端から吹き飛ばせば……」
「あの、ロルフ様、狙うっていうのはリーゼロッテを好いた殿方という意味ではありませんからね。いえそういう意味でもありますが、そうでなくて……」
「大丈夫だ、問題はないぞ」
全然分かってない気がします。
娘が可愛すぎて未だにお外にあまり出さないですからね、ロルフ様。
いえ、正しくは今ちょっと王子殿下達のいざこざがありホイホイ出すと危険だからとレオナルド王子殿下に進言されて、家になるべく居てもらうようにしているのですが。
せめてお友達が出来たら、と思うのですが……中々近所に丁度良いお年頃のお子さんが居ないのですよね。困りました。
やはり、多少年上でも子供の従者を雇って一緒に過ごしてもらうのが成長を促すと思うのですが……どうしたものやら。
ちら、と隣を見ると、旦那様は硬い表情。
……異性の従者はロルフ様が怒りそうな気もしますが、まあ考慮しておきましょう。
最近いいところをコルネリウス様とレオナルド王子殿下にとられっぱなしでちょっぴり拗ね気味な旦那様に苦笑して、宥めるように掌を握りました。
更新二ヶ月ぶりですみません(平伏)
お知らせとなりますが、『旦那様は魔術馬鹿』二巻が出る事となりましたー!
活動報告にカバーイラストを載せてますのでご興味がある方はご覧いただけたらなと思います(*⁰▿⁰*)




