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結ばれた二人の日常

八ヶ月の間のお話です。

 朝起きて、愛しい人に抱き寄せられて、暫く微睡みを楽しむ。こんなに幸せな事はありません。

 シーツの中で互いに身を寄せ合って、触れて、互いの体温を知る。隔たりのない、生まれたままの姿でくっつくのは、幾度経験しようとも些か恥ずかしい。けど、えもいわれぬ心地好さがあるのです。


 しなやかな筋肉のついた胸板に顔を埋めてそっと吐息を落とすと「擽ったいぞ」と悪戯っぽい声。抱き寄せる腕に力が入って、より体が密着します。

 少し汗ばんだ肌が擦れると昨夜の事を思い出して気恥ずかしくなるのですが、沢山愛された記憶ばかりで、羞恥にも勝る喜びが胸を高鳴らせました。


 ……私、ロルフ様に愛されているんだって思うと、体がふわっと温かくなるのです。いえ、実際に愛されると温かいどころじゃなくて互いに熱くて火傷してしまいそうですけど。


 私が言いたいのはそうではなくて、幸せだなあって改めて思う、といいますか。

 ……いつも最後は色々と朦朧としてますけど、それでも、私は幸せです。この人の体温に触れ、私の事を知ってもらって、それから身も心も結ばれているのですから。


「……エル、何を考えている?」


 充足感に自然と口許を緩める私に、ロルフ様は感覚で何となく分かったらしく、少し体を離して覗き込んできます。

 私はまた距離を詰めて、くっついてからふふっと笑いつつロルフ様を見上げるのです。


「いえ、幸せだなって。……私、ロルフ様に愛されて、生きてきて一番幸せだと思ってます」

「私もエルと愛し合っている今この時が、幸せだ。好きな女の全てを知るというのは、斯様にも幸福感に満ち溢れる事なのだと、エルで初めて知った」

「……私が初めてじゃなきゃ嫌です」

「エルもな。しかし互いにそれはないと分かっているだろう?」


 悪戯っぽく囁くロルフ様にほんのりと頬を染めつつ「もう」と呟くと、抱き締める力が強まります。


 互いに初めてだなんて、分かりきった事でしょう。結婚記念日のあの夜は、互いに手探りで触れ合いましたから。……ロルフ様が一度失敗して地味に凹んだり、私が泣いたり、それでもしっかりと結ばれて一夜を明かしたのです。

 代償は私がちょっと起き上がれなかった事ですけど、それも良い思い出ですよ。


「……エル、私はお前が良い。お前しか要らない」

「……私も、ロルフ様が良い」

「エル、今日は休みだから」

「はい、なので起きましょうね。今日はお出掛けしたいです」


 ちょっと危ない方向に行きかけたので、さらりと方向修正をしつつロルフ様に笑顔を向けます。流石に今からは駄目、絶対。後でアマーリエ様達に然り気無く気遣われて気恥ずかしい思いをしますから。


 ロルフ様はちょっと残念そうにしつつも、私がおねだりした事が嬉しいらしくて「何処に行こうか」と直ぐに切り替えてくれます。

 ……いえ、名残惜しげに胸元に顔を埋めてしまうので「もう」と背中を軽く叩くのですけど。


 ふかふか(ロルフ様談)に顔を埋めて満足そうな顔をして猫のように瞳を細めているロルフ様は可愛いのですけど、恥ずかしいからそろそろ起きてお風呂に行きたいのです。


「ロルフ様、オイタは駄目です。ほら、朝の支度しないと」

「……む。では行くか」

「へ、」


 あっさり起き上がったロルフ様は、側に置いてあったローブを羽織り、それから私をシーツでくるんで、そのまま横抱きに。


「あ、あの?」

「ん? 清めるのだろう?」

「そ、そうですけど、何でロルフ様が抱えて」

「一緒に入るからだろう」


 待って、そんな事したらロルフ様。


「愛し合った夫婦なんだから問題ないな」

「ロルフ様っ!」

「駄目か?」


 しゅん、と悄気たように眉を下げたロルフ様に、思わずぐっと息を飲み込んで。……これはロルフ様の策略だと分かっているのですけど、私がこの顔に弱いって分かってての行為だと理解してても、……無下にしきれない私が居るのです。


「……自分で洗いますからね?」

「ならば私は洗ってくれるのだな?」

「……もう」


 随分と積極的になった事で、とちょっと言ってあげたかったものの、一年の隙間を取り返そうと思ったらこのくらいべたべたした方が良いのかもしれません。

 ……一緒に入った事がない訳ではないけれど、……その、恥ずかしいのは変わらないのです。


 仕方ありませんね、と唇を尖らせつつも承諾する私に、ロルフ様は分かりやすく顔を輝かせるのです。……もう。


 ロルフ様としては二人でお風呂に入るのは好きらしくて嬉しそうに微笑んで、甲斐甲斐しく私を浴室に運びます。

 ……なんだか最近ロルフ様がちょっとえっちになった気がしますけど、愛されてる証拠なので良いかな、なんて思った私は、多分ほだされてるのでしょうね。


「……全てさらけ出すのはロルフ様だけですよ?」

「ん、何か言ったか?」

「いいえ、何でも」


 呟いた言葉は届かなくても良い。だって、ロルフ様はそれを身に染みて分かっているから。

 小さく笑った私は、ロルフ様の暴走を如何に食い止めるか、ちょっと脳内で考えては肩を竦めるのでした。


 まあ、止まる訳もなく、結局されるがままになってしまった訳ですけども。

という訳でちょっとずつ後日談の後日談更新していけたらなとか思ったり。応援宜しくお願い致します。

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