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旦那様は親馬鹿(予定)

 朝起きると、鳶色の瞳が此方を覗き込んでいました。

 いつから見ていたのでしょうか、私が起きた事に気付くと嬉しそうに、けど少し心配そうに表情を変えるのです。


 何が言いたいかは何となく分かったので「平気ですよ」と微笑んでみせると、目尻に唇を落とされます。沢山泣いてしまったから、ロルフ様は気に病んでしまったのでしょう。

 私としては覚悟してこの夜を過ごした訳ですし、気にされても困るのですけど。……愛される事の喜びを知れたのだから、多少体の負担があろうと、構いません。


「……エル」

「大丈夫ですよ。……ロルフ様に愛されて、私は幸せ者です」


 ずっと、待ってたんです。愛する人に求められる事を。……それが叶ったのですから。


 隔たりのない素肌同士で体をくっつけると、ロルフ様も私を抱き締め返して「私も幸せ者だ」と耳元で囁くのです。

 擽ったくて体をもぞりと身動ぎさせると、ロルフ様はそのままするすると剥き出しの背を撫でるので、擽ったくて堪りません。


 もぅ、と唇を尖らせて仕返しとばかりに私もロルフ様の背を撫でると、所々にある血の塊が、指の腹に触れる。……私のせいなので、こればかりは申し訳ないです。


「ロルフ様、これ治しますか?」

「良い。……エルに酷い事をしたのだ、私だけ良い思いばかりでは不公平だろう。泣いても止められなかったし」

「それは私が止めないでと懇願したからでは?」

「私が中断なんて出来なかったのだ。……エルが手に入ると思うと、止まらなかった」


 欲しかったんだ、そう囁かれて、恥ずかしさと、それに勝る喜びが、胸に広がります。

 さっと頬を染めた私に、ロルフ様は笑いかけて、私の体に走る傷痕に唇を寄せます。……この傷すらも慈しんで愛してくれたから、私は幸せで一杯でした。


「……エル」

「はい、ロルフ様」


 顔を覗き込んだロルフ様に微笑むと、ロルフ様は真剣な眼差しで私を見詰めて。


「……幸せな家族になろうな」


 甘く、そして愛おしげに囁かれた言葉に、私は鳶色の瞳を見つめ直します。


 結婚した時は、私は幸せになる事なんてないと思っていたし、なれるとすら思わず、愛されるとも思わなかった。

 けど、現実というものは、時に残酷で、そして時に幸福をもたらす。私の場合は、後者で。


 今日から私達は改めて夫婦として、家族として、生きていくのです。きっと、その内に宿る子と、一緒に。


「はい。……幸せな家庭を、築きましょうね」


 きっと、今の私達なら、自然と幸せな家族になれるでしょう。愛するロルフ様と、一緒なら。







「エル、待ってくれ」


 部屋にこもってばかりでは気分も鬱々としてしまうので、気晴らしにお庭の散歩をしていると、私の愛しい旦那様が慌てたように追い掛けてきます。


 ちょこっとお部屋を出ただけなのに、ロルフ様が急いで此方に向かってくるので、私は苦笑を浮かべながら立ち止まりました。

 気分転換にお庭に出ただけだというのに、この過保護さ。転んだりしないように気を付けて歩いているというのに。


 追い掛けてきたロルフ様に微笑みかけると、ロルフ様ははらはらした様子で駆け寄ってきては私の手を取るのです。転ばないように、逃げないように。


「一人で出歩かないでくれ、危ないだろう」

「心配性ですねえ、もう」


 屋敷内ですし、足元も整備されて凹凸が極力減らされ、私も躓かないように気を付けてるのに。

 それでも心配性なロルフ様は、私から目を離したくないようです。お仕事中はそわそわしてるとマルクスさんやヴェルさんから聞いているので、もうどれだけ心配なんだとアマーリエ様と一緒に笑ってしまいましたよ。


 ロルフ様としては大真面目に心配して下さっているので、私の態度にちょっぴり拗ねちゃいました。


「エルはどじだからな、本当に、気を付けてくれ。……もう、お前だけの体ではないのだから」

「――はい」


 私のお腹には、ロルフ様との愛の結晶が宿っています。


 結婚記念日から、約八ヶ月。

 沢山ロルフ様に愛して貰っていれば、気付けば私のお腹には一つの命が宿っていました。


 懐妊に気付いた時は、家族皆が喜んでくれました。ロルフ様滅茶苦茶どつかれてましたけどね、コルネリウス様に。

 後から知ったマルクスさんやヴェルさんにもこれまたどつかれてて「何故叩かれなければならないのだ」と不貞腐れてしまいましたけど。


 そんな事があり、皆から期待されている、お腹の子。

 お腹も膨らんできて、すくすくと育ってきているのが分かります。

 悪阻も酷かったけど、今は大分収まりましたし……。まあその悪阻が酷くて食べ物もあまり受け付けなくて臥せっていた時期があったので、ロルフ様の心配性が加速したのでしょうけど。


 ロルフ様は、私の事を気遣って肩を抱き、転ばないように細心の注意を払われながら、庭の奥にある東屋に。


 そこは、未だに燐光花が咲き誇り、淡い光を放っています。

 不朽花なんじゃないか、と思うくらいに、この花は枯れません。……私の魔力のせいなのかもしれませんね。


 椅子に腰掛けさせられた私は、隣に座ったロルフ様に凭れ掛かります。

 ロルフ様は、そんな私を見つめ、それからそっと膨らんだお腹を撫でるのです。


「生まれてくる子は、さぞ可愛いだろうな。エル似の女の子が良い。男の子でも構わないが。私の持てる知識の全てを教えてやるつもりだ」

「もう、気が早いですよ」

「今から生まれた時の事を考えるのも悪くないだろう。……優秀な魔導師になる筈だ。生き方を押し付ける気はないが、生きていく時の選択肢は与えたいからな」


 今から教育プランを考えてるロルフ様。

 お腹の中ですくすくと育つこの子は、私でも分かるくらいに魔力がある。繋がっているからよく分かるのですけど、比較的増えた私ですら比べ物にならない程、魔力がある。

 きっと、ロルフ様にも負けないくらいに才能がある子に生まれてくるのでしょう。


 ……ただ、ロルフ様も子供が本当に嫌がるなら押し付けはしない。あくまで、子供が生きやすく、そして自由に選んで貰う為に、知識を学んで貰うつもりらしいです。

 一応、跡継ぎはこの子になる予定なのですが……それもまた、この子次第です。


「ロルフ様が教えるように、私も色々教えたい事があります」

「……教えたい事?」

「あなたは愛されて生まれて来たんだって」


 あなたは、望まれて生まれてきた子。例えどんな事があっても、私はこの子を愛すると誓っています。

 私は、親とは上手くいかなかったけど……大丈夫、あなたは、ちゃんと愛されるから。私やロルフ様は勿論、アマーリエ様やホルスト様、コルネリウス様、それからお友達の皆さんにも。


 ……だから、安心して生まれてきてくれたら、良いな。


「……そうだな」


 ロルフ様は、私の言葉に同意してそっと抱き締めて来ます。

 膨らんだお腹の中で、ぽん、と反応するように動いた気がしました。


「沢山、愛情を注いであげるつもりですよ。真っ直ぐ、健やかに育って欲しいですから」

「私も一杯注ぐぞ、有らん限りに」


 私とエルの子だからな、と張り切っているロルフ様に、思わず笑みが零れます。


「ふふ、良かったですね、愛されてますよ。……まあロルフ様の場合過干渉になりそうですけどね、今の様子を見ると。あんまりしつこくしてたら、大きくなった時に『お父様鬱陶しい』とか言われちゃいますよ?」

「なにっ!?」

「ふふ、冗談です」


 ロルフ様、過保護っぽそうだからつい想像してしまいました。

 冗談だったのですけど、ロルフ様かなりショックを受けてます。くすくすと笑うとからかわれていたのだと分かったらしいロルフ様、ちょっと不貞腐れてしまいました。

 ……宥めるように口付ければ、簡単に眉間に出来た皺もほどけるのですけど。


「……沢山の愛情を知って、大きく育って欲しいですね」

「ああ」


 そっと腹に掌を乗せるロルフ様に重ねるように、私も掌を乗せて。

 温もりが、じわりと伝わってきて、何だか泣きそうになってしまいました。いやですね、涙腺が緩くなってしまったのかもしれません。あまりにも、毎日が幸福すぎて。


 じわりと視界が滲んでいくけれど、零れた熱はそっとロルフ様に拭い取られます。

 何処か痛いのか、なんて心配そうに覗き込んでくるロルフ様に、愛おしさと、幸せを改めて実感するのです。


「……ロルフ様、私、ロルフ様と結婚出来て良かったです。とても、幸せです」

「私もだ。……これからも、エルと、そしてこれから生まれて来る子を愛して、大切にしていくから」

「はい」


 大丈夫だ、と優しく抱き締められて、私はそのままロルフ様の胸に顔を埋めて、幸福感を噛み締めました。


 旦那様は、妻馬鹿と親馬鹿を併発する模様です。

これにて旦那様は魔術馬鹿を一区切りして完結にしようかと思います。

エルとロルフの八ヶ月の間に何があったのかとか、子供のお話とかにつきましては需要があればその内追加で書けたらな、と思います。


これまで感想や評価等、応援して下さりありがとうございます!とても連載の励みになっていました!

頂く度にとても嬉しい気持ちで一杯でした。いつも感謝しております。

それでは此処までお付きあい下さりありがとうございました、これからも応援していただければ嬉しいです!

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