語り
過去を思い出そうとしているのか、ヒナタの白い肌に汗が滲む
きゅっときつく結ばれた口元が綻ぶ。決心がついたようだ
「僕は・・・親の借金返済の足しに、男娼で稼げと言われて・・・」
わたしは眉を潜めた、まあ確かに。
当時まだ、男娼と云うものはそこまで名の知れたものでもなかった。
だが、ヒナタは整った顔立ちをしていて、日焼けもしていないのか、焼けない体質なのか透き通ったように白い肌をしている。一つに結われた肩甲骨ほどまである髪は、さながら本物の女のようだ。
以前人間に化け情勢を知っておこうと下りた、そこそこ開けた町でも実際わたしも声をかけられた覚えがある。男の顔立ちでも誘われるのだ、ヒナタほどならば高くつくのだろう
「・・・酷なことを言わせたな」
「いえ、いいんです。これを言わねば、なぜこの村に流れ着いたのか説明がつきませんから・・・それで、今に至るという訳です。村の方にはほんとうに優しくして頂いて・・・僕は元の家にいた頃より・・・ええ・・・・・」
憫笑を浮かべるヒナタは、何かを隠しているようだった。本人は隠しているつもりなのかわからないが、まだひと悶着あるような物言いをする
「まだ、何かあるのか」
ヒナタは小さな驚きを隠せず、少し目が開かれる。
交わされていた視線がふいと外れた
「今日はもういい、少し休め。そして、その様子では帰りたくないと見える。・・・今晩は此処に泊まれ」
「良いの、ですか?」
「お前の話すのが遅いから、ほら見ろ。・・・もう日も落ちかけているではないか」
鳥居の方には赤い太陽が沈んでゆく、それを見たヒナタは少し微笑んで
「ごめんなさい、口下手で」
と返すものだから、わたしも思わず笑みがこぼれた。
***
一つ一つ、丁寧に思い返すと、楽しさを思い出し口が弧を描き
それから現れる絶望を思うと、胸が張り裂けそうになる
そんな感情が渦巻く中で篝は感覚だけを便りに、ヒナタとの思い出の詰まった、当時根城としていた山を目指し、無機質なビルを足蹴に跳び始めたのでした