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輪廻の狐  作者: 月永
2/3

一夜

「痛っ・・・・!」

「動くな、この薬ならよく効く。少々染みるがな」

それを聞くと口をきゅっと閉じて痛みを堪えた

廃れた境内に会話が響くのは、いつぶりだったか。

そう思いながら腕や足、とにかく露出していた部分は全て泥と傷まみれだったため、傷薬を塗りたくる。

あらかた出血も止まり、痛みが引いてきたのか少年が口を開く

「ありがとう、ございます・・・」

「気にするな、久方ぶりに言葉を交わした人間が事故で死なれてもいい気はしないからな」

助けたのは、ただの自己満足なようなものでもあったのだ

自分が気づかないだけで、本当に狐に接触したら祟りが起こるのではないのだろうか

そんな下らない疑問がふと頭をよぎり、そんなはずあるまいと。

実際こうして少年は生きている、祟りなんてものは無かったんだ。ありもしない噂に、よもや自分までもが踊らされたのかと思うと行き場のない憤りが胸のあたりをつつく


「そう言えば」

七輪で焼いた魚の焼き目を見ている時に、ふと少年が喋り出す

「あなたの名前、まだ聞いてなかった」

「・・・必要ないだろう、もう会うことはないのだから」

どうして、と当たり前のように口に出す少年に言い聞かせるようにわたしは言った

「もうこの山には来るな。今日なんの用で立ち入ったか知らんが、触らぬ神になんとやらで村の人間もこの山にわたしがいることを周知して立ち入らない。お前の親とてそういう考えだろう、お前の親にわたしがお前を拐かした等と思われてしまっては、最悪わたしはこの地を去らねばならない。はっきり言って迷惑だ夜が明けたら親の元へ帰るがいい」

眉間に皺を寄せ、突き放すようにきつい言葉を並べた。

少年は口をへの字に曲げ目を見開き、今にも涙が零れそうな顔をしている。

羽織っていた毛羽立った毛布に包まり黙りこんだ

これでこいつも明日にはわたしの前から消えるだろう、それでいい、もう人間に嫌われるのはこれで最後だ。老いと云う概念がないのを呪った、こんな世知辛い世の中で、人間も愛せない、生き辛い世の中など・・・早く消失してしまいたい、と。

色々な感情がこみ上げてきて、倦怠感が身を襲う。少年の残した魚ともう一匹を平らげ、眠りについた


目が覚めたら既に日が高く昇っていた、久々の能力の使用に体が疲れていたようだ。

未だ四肢の痛みはひかず舌打ちをする

境内を見渡すと少年の姿はない、帰ったらしく毛布が丁寧に畳まれていた

わたしはもはや昼ともいうべき朝飯を取りに、鳥居をくぐる

「あ・・・おはよう、ございます」

驚いた、少年はまだ帰っていなかったのだ。それどころか石段に溜まった落ち葉を、どこかに捨ててあったのであろう竹箒ではいている

「昨夜親元に帰れと言ったはずだが」

それを聞くと少年は、少し眉を下げて

「僕に帰る家なんて・・・ないんです。あっ勿論、今厄介になっている方々はとても良い方なのですが・・・・・・その・・・」

どもってしまい、すぐには話しそうもない。仕方なくまた境内へ入れ、腰を据えて話すことになった


「まず、僕の自己紹介から話させてください。・・・良いですか?」

「構わない、はじめてくれ」

こほん、と咳き込み1回。すうと口を開けた

「僕はヒナタと言いまして、今年で齢18になります。ものの数ヶ月前までは近くの城下町でそこそこ大きな店の跡取り息子・・・でした」

18、全くわからなかった。顔が幼いせいかもっと若いと思っていたが・・・まあそれは後で聞くとしようと思った

「でした、というと」

「実は、数年前から落ち目になりまして。ただただ廃れていくだけでした・・・・・・・・・。」

そこからまた、黙りこくってしまった。これから先の出来事が、少年・・・もといヒナタが戻りたくない理由に近づくのだろうと、私は茶を啜り次に口が開くのを待った

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