出会い
初めての一次創作です
宜しくお願いします
長い永い時を生きる妖も存在を忘れられ、随分と数が減った現代。
人々がせかせかと生きている世の中を一人・・・正確には一匹
つまらさそうに眺めておりました。
「お前がまだ、生きていればなあ・・・」
意味ありげに呟く妖狐、篝(カガリ)
彼は人も寄り付かない山の奥深くで日々を過ごしていまして、五百年もの間山頂で人と関わらず生きてきました。
もうあんな悲しい事が起きるなら・・・
人間とはもう関わらないと心に誓ったあの日から。
ふと、篝の空のような水色の目が哀しく光り、足を折り曲げ身を縮める
「もう、何年になるかな。お前と出会い過ごしたあの楽しい日々は。・・・あの頃は楽しかったよな・・・」
何処ぞの武将がが狐を淘汰せんと躍起になっていた昔々、尾ひれのついた噂によって狐に近づくと「祟られる」と言われたのが恐れられるきっかけだったのですが、それは害を成さない妖狐にも飛び火したのでした。
「お前はもう居ない・・・居ないとわかっているのに・・・」
ぎゅうぅ・・と篝は胸のあたりを力強く握り、奥歯を噛み締めた
***
「狐に近づけば祟られ同族と化してしまう」そんな噂でわたしがここ一帯の人間に恐れられ、誰も来ない山の中でつまらない日々を過ごしていた、ある日のことだ。彼奴と出会ったのは。
わたしは、冬の青く晴れきった空の、自由に飛ぶ鳥を見つめていた。
あんなにも緩やかに飛ぶ鳥の自由そうな事・・・
鳥は人間に忌み嫌われることはないのだろう?
害をなさねば殺されることはないのだろう?
わたしは妖怪の狐と云うだけでこんなにも嫌われているというのに、いったいわたしが何をしたというのだろうか。
山を降り人に話しかければそそくさと逃げられ時には暴言を吐かれ・・・
ああ、斧を向けられた事もあった。
わたしがその気になれば人間の一人や二人、殺めることなんて造作も無い。
けれどそんなケダモノのような事をして、汚れるのは嫌だったし、何よりわたしは人間が好きなのだ。子を養うため、家を守るためせっせと働き、感情豊かで、協調性のあるあのヒトと云う種が。
わたしの元の体、つまりは狐の姿から訳あってこの妖狐となって直ぐのことだ。わたしを拾い、我が子のように育ててくれた人間の夫婦がいた。
勿論、そんなのとても昔のことだ。今はもう生きてやしない
だが夫婦の深く、柔らかい愛情がわたしを包んでくれたお陰で、わたしは人間を恨むなんて事はない。今までも、これからも。
幼少の頃の記憶を掘り返していると、近くで枝の折れる音がした。
ぴんと耳が釣り上がる。いつもならば気配だけで直ぐ察知したものを、物思いに耽っていたためか油断をしていた
音のする方へ目を見やると、そこには年は十四、五といった顔立ちの良い男子が腰を抜かしていた。
目を大きく見開き口をぱくぱくとするその様に、思わずわたしは口角を釣り上げ笑った。それを見て少年は自分がどれだけ無防備な恰好をしているかに気付いたのか、さっと上体を上げる。
すると次になんと地べたに正座をしたのだ。てっきり逃げるかと思っていたのでわたしは目を丸くし、少年に聞いた
「逃げないのか・・・わたしに近づくと同じ妖狐になってしまうんだぞ?」
勿論、そんなのはただの嘘だ。
だが少年のまっすぐな背筋は、目はどうにもそんな噂なんて気にも留めていないようだった。
「あっ、そういえば、そんな事母さんから言われていた気がします・・・でも、あなたがとっても綺麗な姿だったから、見とれてしまいました・・・ごめんなさい、狐さん」
というと、す、と頭を垂れたものだから尚更驚いた。綺麗だから見惚れた?それで本当に狐になってしまったらこいつはどうしたのだろうか?こいつ、頭は大丈夫なのだろうか?頭をぐるぐると疑問が渦巻く。
「・・・ともかく、日が暮れたら帰ることが出来なくなるぞ。早く帰れ」
そうわたしが言うと、きょとんとした目をして体を起こしまたお辞儀をして駆け足で姿を消していった。
それから間もなくだったろうか、暗雲が山の方へ向かってきたのは。
「一雨来る・・・か。」
そこでふと頭をよぎったのは、先刻の少年。ここの山は少し強い雨が降ると直ぐに流れる川が滝のように流れ、土砂がよく起こる。この短時間にあの少年が村へ着くとは思えない、神経を集中させ生体反応を探る。久しぶりに能力を使おうとしたせいか、中々見つからない。そうこうしている内に雨が降ってきた。雨脚がどんどん強くなる、雨音に妨害されつつも、なんとか少年を思わしき気配を察知した。
とん、と地面を蹴り跳躍。木の先に立ち気配のする方角へ跳ぶ。先ほどの少年が目に入った
足を滑らせ足を悪くしたのか、右足を抑え木の根もとでうずくまっている
そして、間の悪いことに上手の方でドドド・・・という音が耳に入る。土砂だ
「間に合うか・・・ッ」
木を蹴り速度を上げ、手を伸ばす、少年の膝裏に腕を通し背中に手をあてる。すかさず安全圏の木の先まで跳び、安堵の溜息をした
「あ・・・さっきの狐さん・・・」
転んだのか体中擦り傷だけだが、顔が不釣合いというくらいに柔らかく微笑む
「良かった、命拾いしたな・・・このままでは村へ届けるのも難しい、ひとまずわたしの根城に連れて行くが、構わんな」
「は、はいっ」
これまで幾度と大雨に耐えた廃れた神社を根城と称している、これくらいの雨量ならば流されなしないだろうとわたしは少年を抱え神社へ向かった