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第十二章 まさかの殺人?!

 放課後である。掃除を終えた教室で、空は海と光を待っていた。海はこの間借りた包帯を返しに保健室へ、光は体育教師の高田に呼ばれて職員室へ行っている。

 西日が入ってくる教室の自分の席で、二人が来るのをただ待っているだけなのはかなり退屈だ。どちらでもいいから、早く戻って来てくれないだろうか。

 そんな事を考えた時、ドアが開く音を耳にした。ドアに背を向ける格好で座っていた空は、その音に海か光が戻ったのかと振り返る。

 だがそこにいたのは、飯田倫子だった。

「あ、高橋君一人? めずらしいね」

 少し小さな声で、飯田は空に話し掛けてきた。空は頷く。

「ああ、光と海待ってるんだけど、コレがなかなか戻ってこないんだよ」

「……いつの間にか、すっごく仲良くなったみたいね、春名君と。前は仲悪そうだったのに」

 飯田が空の方に近づいてきた。飯田の席が空の右斜め前の席だからだろう。空は飯田の言葉に、光のことを何て偉そうで嫌な奴だと思っていた事を、思い出した。

「ああ、ま、色々あってさ。あっ、そうだ飯田。おまえ坂木先輩と仲良いんだって? この間も廊下で話してたよな。先輩と」

 そう言うと、忘れ物をしていたのか、机の中から教科書を取り出していた飯田が、手を止め振り返った。

「……幼馴染なの。だから色々と頼っちゃって」

「へー、いいよな。生徒会長が幼馴染か。勉強とか教えてもらえそう」

「あはは、高橋君は春名君に教えてもらえばいいじゃない。頭いいでしょ。春名君」

「あーでも、同い年の奴に教えてもらうってのも何か嫌だなーみたいなさ」

 そう言って頭を掻くと、飯田は少し目を見張ってから微笑んだ。

「結構プライド高いんだね。高橋君」

「そうでもないけどさ、なあ、坂木先輩ってどんな人?」

「……どうしてそんな事聞くの?」

 そう問われて空は返答に窮した。幼馴染の飯田なら坂木先輩の裏の顔を知っているかもと、思いつきで聞いただけだったからだ。そのため返答はしどろもどろになる。

「え、えーとだからさ。あれだよ、ほら、坂木先輩は有名人じゃん。ただたんに好奇心だったんだけど。聞かないほうが良かったか」

「ううん、別に。皆が噂している通りの人だよ。優しくて、頭が良くてスポーツ万能。でも、ちょっと抜けてるところはあるかも。あの人結構天然入ってるから」

「え? そうなの」

「この間も、ケータイとテレビのリモコン間違えて持って来てたし」

 飯田の言葉に空は噴出した。そんなベタなボケをかますような人だとは思わなかった。空が笑い出したので、飯田もつられるように笑った。二人して軽く笑ったあと、飯田は空に言った。

「今度は私の好奇心なんだけど、ウサギのこととか調べてたよね。犯人はもう分かった?」

 空は返事に詰まった。まさか飯田に、君の幼馴染が犯人じゃないかと疑っていると、告げる訳にもいかない。空はただ首を横に振るだけにしておく。

「そう。春名君とか、結構ウサギ好きでよく見に来てたでしょ。ウサギ好きの久保くんが、春名君を熱心に部に勧誘してたし。それが、あんな事になって、久保君はまだ春名君のこと疑っているみたいだし、心配だったの。でも、そっか、まだ犯人は分からないのかぁ」

 残念そうに呟く飯田の言葉に、空は驚いた。光がウサギ好きだって? 光は一言もそんな事を言っていなかった。

 だが待てよ、光は久保がカメ子とトロ吉と言うのを聞いてすぐにウサギだと言い当てていた。不思議に思ったものだが、よく見に行っていたなら話しは分かる。

「あ、じゃあ、私もういかなきゃ。下で有紀ちゃん待たしているの。またね」

「ああ」

 飯田は少し速い歩調で、教室を出て行った。

 飯田が教室を出て行ってしばらくすると、海と光が連れ立って教室に戻ってきた。その後少し教室で話しをしてから、空は二人と共に教室を出た。

 階段を一階まで、他愛もない話をしながら下りる。一階についた。玄関に向かうため、職員室横を通り過ぎようとした時、空たちは職員室から出てきた理科教師に呼び止められた。

「お、わるい、お前達。第二理科室の鍵閉めてきてくれないか。終わったら鍵は職員室に持って来てくれたらいいから。頼んだぞ」

 そう言って理科教師は笑顔で職員室に戻って行った。鍵を手渡されてしまった空は不満げに頬を膨らませる。

「なんだよ。出てきたんなら自分で閉めにいけよな」

「第二理科室っていったら、新校舎やんな。逆方向やんか。それに、鍵って用務員さんが閉めてくれるんやろ」

「違う。特別教室の鍵は担当の先生が閉める決まりだよ。ほら、文句言ってないで、さっさと済ませよう」

 そう言うと、光はさっさと歩き始める。さっさとといっても歩調はゆっくりだ。足が痛いのかもしれない。空と海は光の隣を、並んで歩く。第二理科室は一階だ。階段を上らなくてよかったのがせめてもの救いか。これが第二音楽室だったら四階まで上がらなければならなかった。

 渡り廊下を渡って、新校舎に移ると、その先に第二理科室が見えた。空は先行って閉めてくると言って第二理科室に向かって走り出す。人気(ひとけ)がないせいか廊下に足音が大きく響いた。

 理科室の前に着いた。ドアは開いている。空は何となく中を覗いた。中は暗かった。電気がついていないだけでなく、遮光カーテンが引かれているのだ。だがそのカーテンが一箇所だけひらひらと揺れている。風のせいだろう。どうやら、窓が開いているようだ。

「窓開いてるみたいだから、俺ちょっと閉めてくる」

 そう言って、空は理科室に足を踏み入れた。

 遮光カーテンのせいで、かなり暗く視界が悪い。空はカーテンが揺れている場所を目指して歩く。動かないように設置された実験用の机に手をおきながら、ゆっくりと足を運ぶ。

 揺れるカーテンばかり見ていたせいだろう。何かに足が引っかかって、空はあっと声を上げてみごとに転んだ。何かを下敷きにしてしまったようだ。空はそろそろと床に手をついて体を起こす。

 何かがこぼれていたのだろうか。手に液体がついて、空は思わずシャツに擦り付けた。その手を下へおろしたとき、手に何かがあたった。堅い感触。コレなんだろう。そう思って、空は手にあたった物を掴んだ。その時、背後のドアから海が声をかけてきた。

「おい、大丈夫か? 何こけてんねん」

「電気つけて行けば良かったんだ」

 光はそう言って、ドアの近くにある電気のスイッチを入れた。カチカチと何度か点滅し、蛍光灯が明るい光を教室に振りまいた。

 空は明るさに目をつぶり、ゆっくりと瞼を開いた。そして、空は自分が手にしていた物を見て、絶叫した。

「うわぁー」

 慌ててそれを放り出して、空は尻を床に着けたまま、手と足を使って後ずさる。そして、空は見た。いや見てしまった。自分が何に躓いたのかを。もう一度大声で叫んだ空に、二人が近づいてくる気配がする。だが、振り向く事が出来ない。目の前のものから目が離せなかった。

 息を飲む音がすぐ近くで聞えて、空はそちらを見上げる。傍らには海が立っていた。青ざめた顔で、空が見ていたものを凝視している。

「黒田や……」

 そう呟く声が擦れている。

 海が驚くのも無理はない。そこにいたのは紛れもなく人。それもよく見知った顔の。空の前に倒れていたのは、担任教師の黒田、その人だった。

 黒田は床に仰向けに倒れていた。腹部には赤黒い染みが広がっている。衣服をぬらしているものがペンキではない事は分かる。横たわる黒田の脇に、服のシミを作った原因である血液が、水溜りのようになっていた。

「せ、先生……」

 呼びかけて、空は震える手を黒田に伸ばす。手が黒田に触れる前に、その手を掴んだ者があった。

「やめろ、空。死んでる」

 空の手を掴み、淡々とした口調で光は言った。

「し、し、死んでるって何で。そんなの、まだ分からないじゃないか」

 光を見上げて言うと、光は首を横に振った。

「見たら分かるだろう」

 そう言って、光は空の手を離すと、黒田の脇に立った。黒田の顔を覗きこんで言う。

「瞳孔開いているし、これだけ出血してたら、まず助からないよ」

「何で、何でそんな冷静なんだよ。し、死んでるなんて、ど、どうして」

「お前がさっき放り投げたそのナイフで、誰かが先生を刺したんだ」

 光が言った通り、先ほど空が手にしていたのは、血の付いたナイフだった。空は先ほど放り捨てたナイフに視線を送る。ナイフは床を滑って、空から一メートル以上離れた位置に落ちていた。

「誰って、誰だよ」

 空は光に問う。光は分からないというように首を横に振った。

「と、とりあえず、警察に電話したほうがええんか? それとも先生呼ぼか? その前に救急車……」

「ああ、どうしよう。俺、思いっきり先生の上にのっかっちゃたよ。あ、制服に血がついてる。ああ、もうどうしよう」

 空の制服には擦り付けたような赤い後がある。先ほど手についた液体を、シャツで拭ったような気がする。あの液体は黒田の血だったのだ。

「とりあえず、先生に連絡して……」

 光の言葉を遮るように、後方から声があがった。

「ひ、人殺し……」

 その声に、空は慌てて振り返る。そこには空たちがずっと気にしていた人物がいた。

 坂木だ。坂木はドアの縁を掴み、こちらを凝視している。

「先輩……」

 光が少し驚いたように呟いた。坂木は、血の気の失せた顔を、廊下に向けた。

「誰か。誰か来てくれ、人が、人が死んでる」

 坂木が叫んだ声に答えるかのように、こちらに向けて廊下を駆けてくる複数の足音が大きく校舎に響く。

 まもなく教師達が数名、理科室に踏み込んできた。

 そして、全員が黒田の死体を前に絶句した。

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