ここは乙女ゲームの世界みたいですよ。
まあ、アレだよね。
こういう系の話はもはや王道の設定になってるよね。
乙女ゲームや漫画の世界に転生したとか。
それがヒロインや悪役、なんてことないモブだったりとか。主人公の他にも転生者がいるとか。
そんで主人公が悪役のときは、死亡フラグ回避のためーとかなんか色々頑張るけど、結局は誰かと(ただしイケメンに限る)結ばれたりとか。
話の流れ的にはこういうのよくあるよね。
設定としては……うーん……あ、例えば、
乙女ゲームの世界の場合だと、攻略対象者全員の名前か名字に共通する字があるとか。
数字だったり色だったり。
あ、あと誰もキャラが被んないってのもスゴいよね。俺様、腹黒、チャラ男、無口、双子、幼馴染、爽やか、不良…とかね。
あとは、そうだなー……あ、皆基本的にハイスペックだよね。
ああいうの本当に羨ましい。
何なの?アレ。
容姿、家柄、成績、運動、何でもあるよね。
まあ、キャラによっちゃどれか(ただし皆イケメン、つまり容姿以外のどれか)が欠けているとかはあるけど。
イケメンで何でもできるなんて何それホント羨ましい。
自分が可哀想になってくるじゃないか。
……さて、ここで現実に戻ってみよう。
私は今トイレの中にいる。
ついでに言うと今は授業中である。
なんで私トイレなんかにいるんだろ……。
あ、いや、トイレなんかとか言ってもトイレをバカにしてる訳じゃなくてさ。
でも、当初の予定としては今頃保健室にいるはずだったんだ。
なのに、私がいつも行っている第二保健室は今日先客がいるみたいでさ……。
あ、私のいるこの学校は良家の子息やご令嬢みたいな金持ちが通う、金持ち学校なんですよ。
……うん、ごめん。
私の語彙力だと上手く説明できないんだけど……とりあえず少女漫画とかによくある設定と思ってくれればいいよ。
とか言っても私あんまり少女漫画とか読まないからただの偏見かもしれないから、うん、ごめん。
そんで話を戻すと、保健室に行けなくなった私の予定では、少しの間トイレで時間潰してもう一度保健室に戻る予定だったんだ。
先客というのが体育で怪我したと思われる人だったから、傷の手当てしたらすぐ居なくなると思ったから。
それなのに……私の他にも今トイレにいる人がいるんだ。
その人がさっきから独り言言っててさ……。
好感度が足りない、とか。
逆はー展開には誰々がどうの、とか。
隠しキャラが出るには誰々とどうの、とか。
私は乙女ゲームをプレイしたこと無いけど、そういう手の話をネットで読んだことあるからまさかとは思ったんだけど、どうやら私と一緒にトイレにいるこの人は俗に言うヒロインと言うやつだと思われる。
まあ、ヒロインさんはトイレに私がいるって知らないだろうけど。
因みにこの学校のトイレは流石金持ち学校と言うのか、普通の学校に比べて豪華である。
数が多くてスゴく綺麗。
そして私は一番奥の個室に入っている。
ヒロインさんは恐らく手洗い場にいるんだけど、私の耳がいいのかヒロインさんの独り言が大きいのかヒロインさんの声が聞こえてくる。
そしてトイレから出るには手洗い場の前を通らなくてはならない。
そう、何を隠そう、私は今トイレから出られないのである。
もし今私がトイレを出て行ったとしよう。
ヒロインに(もう、さん付けめんどくさい)見つかってしまうのだ。
ヒロインは独り言を聞かれた、私は独り言を聞いたことがバレてしまい気まずくなる。
そして何を隠そう(パート2)私はコミュ力低い系女子である。
もし私がヒロインと知り合いでコミュ力高い系女子だったら出て行けたのかもしれないけど、コミュ力低い系の私には無理な話である。
まあ、うん。
いいかげんコミュ障治せっては自分でも思ってるんだけどね……。
時計を確認すると二時間目があと数分で終わりそうだった。
この学校のトイレは綺麗だけど……ずっとトイレにいた私って何なんだろう。
こんなことなら他に生徒がいても保健室に行けばよかった……。
てか私さっきから何回"トイレ"って言ってんだろ……。
今日一番使った言葉がトイレだったら泣けてくるぞ……。
いや実際に泣いたりはしないけど。
そんなこんなで二時間目が終わったようで、ヒロインの独り言は無くなり何人か人が入ってきた。
私もそろそろ出ないと。
ずっと一番奥の個室が使えないなんて知られたらヘンな噂とかたちそうだし……。
もちろん戻る場所は教室ではなく保健室ですが何か。
保健室に戻るとまたしても先客がいた。
と言ってもこの子は知り合いだから問題無い。
むしろ私の話し相手をしてくれるから大歓迎さ。
「ひーなーちゃーん」
「……?あ、夕陽ちゃん。おはよう」
「うん、おはよ!」
ひなちゃんはコミュ力低い私が普通に話せる数少ない友人である。
「ひなちゃん、先生は?」
「うーんと、さっき出て行っちゃった。夕陽ちゃん来たら、これ、やっておいてって」
そう言ってひなちゃんに渡されたのはプリントの束。
元気なのに保健室に入り浸っている私には毎回授業で習う範囲の問題が書かれたプリントが渡される。
つまり何が言いたいかっていうと、さすが金持ち学校兼進学校、保健室にいるのに勉強させるなんてヒドイ!ってことだね。
……まあ、元気だしね。
病気でも何でもないからちゃんとやるけど。
あ、ひなちゃんは歴とした病気持ちです。
何の病気かは分からないけど。
「んー、今の時間は数学か……」
そういえば結局二時間目って私は保健室にも教室にもいないから、あれはサボったことになるのかな……。
サボったことは一度も無いんだけどなあ。
あ、保健室にいるときは一応勉強してるからサボりには入らないんだよ!
他の人はそう思わないかも知れないけど、私はそう思ってます、はい。
「ねーひなちゃん、この問題答え教えて!」
私は数学、というか全科目平均的にしかできないけど、ひなちゃんはスゴく頭がいいんだ。
「もー……夕陽ちゃん、いつも言ってるけど、答えは教えないよ?ヒントあげるから一緒に解こう?」
「うー……はい」
ひなちゃんはいつも答えを教えてくれない……。
まあ、ひなちゃんの教えかた分かりやすいし、私の為を思って言ってくれてるの知ってるからいいんだけど。
因みにひなちゃんの本名は違う、と思う。
出会ったときに「ひなって呼んで?」って言われたから、ひなちゃんって呼んでるんだけど。
この前先生がひなちゃんに「朝比奈」って呼んでたんだよね。
普通「朝比奈ひな」って無いと思うんだけど……。
どうなんだろ?
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「ホント、夕陽ちゃんは可愛いなぁ」
僕が女装して学校に通っているのは、僕の家のしきたりによるもの。
どうして女装する必要があるのか昔聞かされたけど僕は家のことなんて興味無いから、すぐに忘れてしまった。
僕だって男だから女装なんてしたくないんだけど、高校までの辛抱だって我慢した。
おばあ様には逆らえないってのもある。
高校の偉い人がおばあ様の古くからの知り合いだったから、僕は保健室通いの病弱な女の子という設定で学校に通わせてもらっている。
僕が本当は男だって知っているのは学校では保険医の先生くらい。
勿論、夕陽ちゃんにだって言っていない。
僕は夕陽ちゃんが好きだ。
どこがって具体的には言えないけど、夕陽ちゃんを見ていると、好きだなぁって思う。
将来は夕陽ちゃんを僕のお嫁さんにしたい。
だから、そろそろ僕もいろんなことを頑張んなきゃなって。
夕陽ちゃんに好きになってもらわなきゃいけないし、家のことも知らなきゃならない。
面倒だけど、僕と夕陽ちゃんの将来のためだから、僕頑張るよ。
夕陽ちゃんのいなくなった室内で、僕はそう決意した。
本編に書けなかったネタバレ
主人公:夕陽
ゲーム内:プレーヤーに好感度を教えてくれる情報通なお助けキャラ
現状:保健室通いでとても情報通にはなれないコミュ力低い系女子
保健室の友人:ひな
ゲーム内:病弱で女装している隠しキャラ
現状:女装はしているが本当は病弱ではない