表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

順応⁈

ゴキブリとして生きていくことを決心した俺。


その決心とは、何かをすることではない。


何もしないことだ。


人間だったときの自分というものを全て捨て、本能のままに生きる。


それしかゴキブリとして生きていく術はない。



俺は呆然と下水道を彷徨った。


どこに向かって歩いているのかはわからない。

何の為に生きているのかもわからない。


わからなくていいんだ。


ただ本能に身を委ねていればいいんだ。


何も考えず無心でいるはずなのに、不思議と体は勝手に動く。


これが、本能というものなのだろう。




何も考えずに歩いていると、急に足が速く動き始めた。


『ああ、何かを求めている。』


そして、ある物の前でピタッと止まった。



目の前には、茶色い塊がそびえ立っていた。


『なんだこれは。』


見覚えのある色、形。

そして、忘れられない強烈な匂い。


そうそれは、紛れもなくウンコだった。


きっとドブネズミかなにかの糞だろう。



なぜウンコに向かって走り出し、ウンコの目の前で止まったのかは、考えたくもなかった。


何故なら俺はずっと腹が減っていたからだ。



『まさか、これを喰えって事じゃないっすよね?』


俺は恐る恐る自分のカラダに問いかけた。


すると俺の口内から唾液みたいなのがドッと流れてきた。


どうやら身体は求めているようだ。


そしてなによりその時、俺の手足はその場から離れる事を全力で阻止するように、地面に爪を食い込ませ踏ん張っていた。


どうやら逃げることも出来ないようだ。


『わかったわかった。逃げたりしないから、ちょっと覚悟だけ決めさせて。』

そう自分の身体を宥め、ウンコをじっと見つめる俺。


『カレーだと思え、カレーだと思え、カレーだと思え、これはカレー、これはカレー』

そんな風に自分に暗示をかける。



『カレー、カレー、カレー、カレー・・・やっぱ無理‼︎ 絶対無理‼︎ウンコじゃん‼︎』




そう思った時には、もう俺はウンコを食べていた。(←注目)



いや、自尊心を保つためにも「カラダが勝手にウンコを食べていた」と言わせていただきたい。



自殺しようとしたの時と同じパターンだった。


俺の意思は、無視された。


虫のカラダに、無視された。(おいおい「虫だけに無視。」ってか?笑 全然面白くねーよ! てかなんでウンコ食ってんだよ!バカじゃねーの⁈ ゴキブリってなんでも食うんだろ?だったらもっとマシなもん食えよ!草とか、苔とか、髪の毛とか、虫の死骸とか、そうゆう美味しそうなモノを食えよ! いや、美味しそうじゃねーわ‼︎ 感覚おかしくなってるわ!気持ち悪りぃ! てかさぁ!色々言いたいことはあんだけどさぁ、全部言ってたらキリがねぇから、一つだけ言わせてくれや!これだけ言わせて貰えりゃ気が済むからよ!いいな? よく聞けよ?言うぞ!?)







「ウンコめちゃくちゃ美味いじゃねーか‼︎‼︎」




そう。

ウンコはめちゃくちゃ美味しかった。


例えるなら、、、いや、例えられないほどの美味さだった。

おそらくゴキブリには人間のような味覚はない。

だからこそ、栄養分をそのままストレートに感じ取り、幸福感を味わうができるのだろう。


ゴキブリがなんでも食べる理由がわかった。


だってなんでも美味しいんだから。



『ちくしょう!美味すぎんだよ!くそが!』


気づけば俺は、もはや自分の意思でウンコを食べていた。


人間生活26年で培った清潔感と羞恥心は、脆くもウンコの前で崩壊した。



大好物だった「早い!安い!旨い!」の三つ文句でお馴染みの吉野家の牛丼よりも


「臭い!汚い!旨い! 」でお馴染み(?)のウンコの方が美味しく感じるのは、前の二つ文句がハードルを極限まで下げてくれているからだろうか。


いや違う。


間違えなくウンコの方が美味い。

これは事実だ。


もし、食べログにウンコがあったら俺は迷わず5つ星を付ける。


もし、わんこそば大会ならぬ「ウンコそば大会」が開催されたなら、俺は2位以下に大差をつけ優勝するだろう。そもそも誰も参加しないだろう。



もし合コンで女の子から

「好きな食べ物なぁにー?」と聞かれたら

真っ直ぐな瞳で「ウンコ!」と即答するだろう。


そして俺はその合コンで、女の子ではなく「女の子のウンコ」をお持ち帰りするのだろう。




それくらい、ウンコは美味しかった。


美味しくて美味しくて美味しくて、気が狂いそうなほど、美味しかった。


本当だ。


信じて欲しい。


ウンコは美味いんだ!





今これを読んでいる人は、きっとこう思ってるだろう。



『ウンコのくだり長ぇーよ!美味いのはわかったよ!』と。




ならば言わせていただきたい。






正当化くらいさせてくれよ‼︎‼︎‼︎

ウンコ喰ったんだぞ‼︎

これくらい言わないと恥ずかしいんだよ‼︎





「美味しい」と「悔しい」

が心のシーソーでバッタンバッタンと上下運動を繰り返す中で、俺はふと思った。



『そういえば、家族はどうしてるのかな?』


死んでから生まれ変わるまでが衝撃の連続で、全く考えていなかった。


死んだ事を悔やむ時間も、悲しむ時間も与えられなかった。


きっと両親は悲しんでいるだろう。

まだ26歳の息子が、不慮の事故で死んだんだ。

底知れない悲しみに打ちひしがれているのだろう。

そして、悲しみの中こう願ってるのだろう。


「どうか、天国で笑っていて欲しい。」と。



父さん、母さん。


聞こえますか?


僕は今




「下水道でウンコを食べています。(めちゃウマ♪)」







そんな風に




自己嫌悪



開き直り


を繰り返し





俺はこの下水道でゴキブリとして



着実に成長していったのです。






つづく




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ