さあどうしよ
俺はゴキブリとして生まれ変わった。
前世の記憶をそのままに。
さっきまで俺がいた球体は、ゴキブリの卵だった。
そこから考えるに、周りにウジャウジャいる赤ちゃんゴキブリ達は、俺の兄弟ということになる。(ざっと見て40匹兄弟)
そして、さっきから頭上にいるクソデカいゴキブリは、俺の母ちゃんか父ちゃんというわけだ。
大家族にも程が有る。
ビックダディもお手上げだ。
幸いな事に、ゴキブリには子育てをする習性はないようで、そこだけは本当に救われた。
もしあのビッグゴキブリダディに、頭をなでなでされたり、ほっぺにチューをされたり、いないないばぁ!をされたらと考えただけで、鳥肌が立つ。
いや、たぶん触角が立つ。
とにかく俺はこれから、このゴキブリ大家族の一員として生きていくことになる。
【痛快!20男20女、ゴキ崎さん家の大家族スペシャル!〜2014 夏〜】
に出演決定というわけだ。
その出演オファーをそう簡単には受け入れられなかった。
というか、どうしたって受け入れられるわけがない。
人間として過ごした記憶がガッツリ残っている俺が、ゴキブリとして生きていくことは、どう考えたって不可能だ。
まるで花王のキャッチコピーのような「清潔で美しく健やかな毎日」を送ってきた俺が
「不潔で醜く壮絶な毎日」を過ごすゴキブリ虫生を送れるわけがない。
『とりあえず、ここから出て行こう。』
生後数分で家出の決心がついた俺は、仲間の死骸や糞を美味しそうに貪り食う兄弟達に背を向け、1人でトボトボと歩き出した。
(※訂正 1人→1匹 トボトボ→カサカサ)
実家(巣)から出て行った俺は、薄暗い道無き道を、彷徨った。
とにかく1匹になりたかった。
ゴキ目のつかない所にいきたかった。
休まず、ひたすら歩き続けた。
歩いても歩いても、疲れない。
身体が軽い。バリくそ軽い。
そもそも、疲れという感覚があるのかも疑わしいほどだった。
おそらくここは下水道。
水はほとんど流れてないから、もう使われていない排水管だ。
気味が悪い、気色が悪い。
全てがキモい。
何もかもが人間と違う。
『どうして人間の記憶なんか残ってんだよ!』
きっと閻魔様に歯向かったからだ。
俺を送り出す時、妙にニヤニヤしてたのを覚えている。
絶対にあいつの仕業だ。
全部あいつのせいだ。
「アイツぶっ殺してやるからな‼︎」
と叫びたかったが声は出なかった。
ゴキだから。
『これからどうすればいいんだ。』
その答えはもうとっくに決まっていた。
[死ぬ]
その選択肢以外、思いつきもしなかった。
死んだらどうなるかはわかっている。
また同じように抽選され、生まれ変わる。
どんな生き物に生まれ変わるかはわからないが、このままゴキブリとして生きていくよりはよっぽどマシだ。
「よっしゃ!いっちょ死にますか!」
そんな軽い感じで俺は壁に向かって全速力で走り出し、思い切り体当たりをした。
バチン!
あれ?
もういっちょ!
バチン!
もういっちょ!
バチン!
・・・。
痛くない。
全く痛くない。
俺は思い出した。
「昆虫には痛覚がない。」ということを。
『この死に方は無理っぽいな。』
早々に諦め辺りを見渡すと、水溜りを見つけた。
『これだ!』
外傷で死ねないなら、溺死だ。
これなら水に入ってるだけでそのうち死ぬことが出来る。
「レッツ!ダイブ!」
水溜りに飛び込んだ。
6本の足で水を掻き、水中に潜って行く。
『うっひょー!苦しいー!!これは逝けるぞ!』
死への期待感に胸を踊らせながら、底へ底へと潜っていく。
『めちゃ苦しい!逝ける逝ける逝けるぅー‼︎‼︎』
意識が朦朧としてきた次の瞬間だった。
バシャバシャバシャバシャ!
俺の6本の足は、物凄いスピードで水を掻き始めた。
『えっ?なにこれ、ストップストップ!』
そんな俺の指令を完全にシカトして、ガムシャラに水を掻く足達。
そして勢い良く水中から飛び出た、俺。
。。。。
うん。
そうかい。
ゴキブリが何億年も前からずっと生き延びてきた理由がわかったよ。
その生命力は、己の精神をも凌駕するということなんだね。
いくら死のうとしても、それを勝手に阻止するDNAがしっかりと組み込まれているということなのね。
要するに、自殺は100%無理ってことなのね。
「やっぱゴキブリ最強じゃーーーーん‼︎‼︎」
その時俺は、ゴキブリとして虫実に生きていくことを、決心した(させられた)のです。
つづく。




