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人工少女は電気鯨の夢をみるか・雨で連作

作者: 十浦 圭

この短編は拙作「人工少女は電気鯨の夢をみるか」のスピンオフ的な立ち位置になっています。上記の作品を読んでから読むことをお勧めします。


お題は「確かに恋だった http://85.xmbs.jp/utis/」様の「雨降りに恋10題」をお借りしています。


1.こんな雨の日には


「あめー」

落とされた呟きに、隣の少女を横目で見た。

だらしなく机に頬をつけ、外を眺めるきーこの表情は、いつも笑っているこの少女には珍しく物憂げだ。

「どうした」

再びページに視線を戻しながら問いかける。

「雨だなあ、って思って」

「今更だろ。朝から降ってるじゃねえか」

「それは知ってる」

「知ってるのを俺は知ってるよ」

「あ、そっか」

「じゃなくて、だから雨がどうしたって?」

進まない会話に顔を上げて問うと、つっぷしたままきーこは少し俯いてみせた。器用な奴だな、と少しおかしくなる。

「だって、桜」

「は?」

「雨が降ったら桜、散っちゃうんでしょう」

団長がお団子くれるって言ったのに!こぶしを握って足をばたつかせたきーこの言葉に、こらえきれずに俺は噴き出した。


ちなみにタイトルは「こんな雨の日には(お花見ができない)」が正解ですw

時系列は空想の街の再会の後。




2.てるてるぼうずの恋


「ふふふ」

「んだよ気持ちわりい」

「素直になりなよ」

しかめっ面でコーヒーを啜る様子は下手をすれば普段よりも機嫌が悪そうだが、よくよく注意して見るといつもよりカップに口を付けている時間が長い。これは明らかに照れ隠しだろう。そんなことで僕が騙されるとお思いかい?とか、嘯きたくなるなあ。

「にやにやすんな」

「めでたいことじゃない!きーこちゃんがステージを借り切る日が来るとはねえ」

「ふん」

陳腐な題だ。と呟いた夏樹の右手には『てるてるぼうずの恋』という題が書かれた台本が落ちている。

歌手として徐々に名が売れ始めたきーこちゃんーーー未だにアンの方がしっくりくるが、そう呼ぶと夏樹の機嫌が若干降下するのであまり使わない。愛すべきこの友人は彼の“唯一”のことになると途端に心が狭くなるということが明らかになっているーーーの初めてのステージを借り切ってのショーのタイトルである。タイトルはきーこちゃんの仲良しの演奏家さんが決めたとかなんとか。確かにこれはきーこちゃんのセンスでも夏樹のセンスでもないだろうね。

「まぁ、僕も陳腐かそうでないかと聞かれれば」

チープかな、とは思うけど。

「でもそれとこれとは別の話しでしょうが」

「なんで俺は今お前に説教されてんだよ?」

誰もめでたくないとは言ってない。

低く唸った彼の声が、まるで喉を鳴らす猛獣のようで。

やっぱり上機嫌なんじゃないか、と僕は腹を抱えて笑った。


団長はこんな感じ。ちょっと道化がかってるけど普通にいい人っぽい感じ。内面はともかく。あ、あと笑い上戸らしいことがこの話で分かりました。

ちなみに単独ステージだからだいぶ未来の話しですね。きーこ17才、夏樹が26才くらいの頃だと思います。




3.君を待つ雨の午後


ぶ、と音をさせて吹くと紙屑が舞い上がった。唇にぺたりと張り付いた一枚をつまんで取る。

「まーだかなあ」

足をばた、とさせると、カップの水面が揺れた。ここの紅茶は確かに美味しいけど、流石に3杯目となるとがぶがぶ飲む気にもならない。

それに、美味しい紅茶なら夏樹と一緒に飲んだ方がもっと美味しい。美味しいねって言える相手がいないのは

「つまんないなあ」

大きな窓の外の、雨に沈む街を見る。

雨の日はひんやりするから好き。流れる曲も出されたケーキも紅茶も美味しいからこの店は好き。だから早く夏樹が来ればいいのに。

机に頬をつけると、磨き上げられたそれはすべすべして気持ちが良かった。少しだけ気分がよくなる。きょろ、と店内を見渡して他に客がいないのを確かめて、店に流れる曲に合わせて歌を口ずさむ。

「チィムチィム、トム、タム」

歌詞はでたらめ。楽器だけの曲だから別にいい。声を楽器にするのは楽しいから好き。

目を閉じて、旋律に合わせてゆっくり足を動かす。

「タムタムタァムトム」

「なんの歌だ」

ふいに頭に手が乗せられ、同時にいつもの声が降ってきた。ぱっと目を開ける。

「おそーい!」

「遅くなるっつったろ」

「それでも遅いと思う」

向かいに腰かけた夏樹は指を曲げてウエイトレスを呼ぶ。

「アールグレイ、とベリーパイ一つずつ」

「夏樹ベリーにするの?じゃあ私ね」

ぐいを身を乗り出すと意外そうな目を向けられる。

「待ってる間に食べたんじゃねえのか。よく食うなあ」

「食べてないよう。夏樹待ってたんだもの」

カスタードプリン!メニューを指さして高らかに宣言する。ウエイトレスが少し微笑んで、かしこまりました、とお辞儀をした。

すとん、と席に戻る。皮の縫い目に指をすべらせると心地よくて嬉しい気分になる。

「おまえなあ・・・」

ふいに漏らされたうめき声に顔をあげると、夏樹は右手で顔を覆って脱力しているようだった。

「?なに?」

首を傾げるとちらりと視線がむけられて。

「や。なんでもねえっつうか」

顔を覆っていた右手が伸びて頭を撫でられる。

「俺はお前が好きだよ」

苦笑混じりに落とされた呟きと頭を撫でる手に、くすぐったくて笑みがこぼれる。そんなこと、言われなくても

「知ってるよ!」


とりあえずいちゃいちゃさせたかった。このきーこは割と幼いですね。空想の街の後すぐの12才くらい。食いしん坊でケーキ大好きなのに律儀に自分が来るのを待ってるきーこちゃんが可愛くて仕方がない夏樹さん。普段はこんな甘々してないと思うんだけど、まあせっかく短編書くんだしということでお互いにデレさせてみた。暇な時のきーこはとりあえず食べて、その後歌って暇つぶしをするんだと思います。



6.降りしきる夜雨


寝返りを打つたびにきし、とベッドが唸る。安価な宿だとこういう思いもかけぬところで不便が出る。まあ、いくら自分でもこの程度で腹を立てるほど狭量ではないが。

窓の外ではざかざか雨音が鳴っていて、俺はきしんだ右肩に思わず眉を顰めた。

湿度か、記憶か。雨の日、特に夜は傷が痛むことがある。

うずく肩を手でこする。眠りは未だやってこない。

「う・・・」

と、静かな部屋に声が響いて、一瞬俺は口をつぐんだ。

「う、うう」

なおも続くうめき声に身体を起こす。絶妙なタイミングだったせいで一瞬錯覚しかけたが、この声の主はどうやら俺ではなく。

「な、つき」

隣のベッドで小さくきーこが囁いた。

手を伸ばすと同時にずきりと右肩がうずいたが、予想通りのそれは無視して、丸まった体を揺らす。

「おい。きーこ。起きろ」

「う?」

「う、じゃねーよ」

ゆっくり開いた瞼の奥で、ぽやん、としたグレーの目が俺を見つめる。

「・・・なつきだ」

「そりゃ俺だろ」

そのままベッドの端に座れば、欠伸をしながらきーこも体を起こした。

「やな夢みてた気がする、すごく」

「うなされてたぞ」

「うー・・・?」

「大丈夫か」

くしゃり、と髪を撫でる。俺の手の動きに合わせて、きーこはそのまま首をぐらぐら揺らした。

「おぼえてない」

「ふん」

「夏樹いた気がする・・・」

「あー。寝言言ってたわ」

「んー?」

ようやく目が覚めてきたのか、きーこが俺を見て眉を顰めた。

「寝言言ってた?起こした?」

「寝てなかった」

「そうなの?」

「肩が痛むんだよ」

窓の外は相変わらず雨音。俺につられて窓を見たきーこが首を傾げた。

「眠れないの」

「俺はな」

「私ももう眠れないもん」

「ふうん」

「紅茶飲む!」

また突飛なことを。ぱっと振り返るきーこに顔を顰めてみせる。

「今から?」

「私は紅茶を飲む。夏樹はいる?」

「ミルクで」

「はあい」

勢いよくベッドから降りるきーこにベッドサイドの電球を付けていると、ふと何かを思いついたかのように彼女はくるっと踵を返した。

「なんだ」

そのまま俺に駆け寄る奴の顔を見返す。

確かに眠気は飛んだのだろう。にこにこしたままきーこは俺の肩に手を伸ばし、ゆっくりとそこを撫でた。

「きーこ?」

訝しげな俺の声に顔を上げて。

「金糸雀が言ってたから」

「何を」

「してもらって嬉しかったことは、すぐにお返したら忘れなくていいって」

紅茶淹れてくるね。

そのまま首を傾げ、たたたっと走りだした小さな背中に。

ふわりと、痛みが少し軽くなったような気がしたのは、きっとただの錯覚なのだろう。


短編はいちゃつき率が上がりますね。別にこの程度のことでいちいち夏樹がきーこに惚れ直したりはしてないとは思いますが。短い中にクライマックス作ろうとするとどうしてもこんな感じになるよね。

きーこの口調はだいぶ迷いましたが、やや幼いものの12才時よりは微妙に整理されてるし、でもまだ夏樹と同室で寝てるから13才くらいだと思います。分かりにくいですが、多分サーカス連中と同じ宿なんだと思う。街中の興行なんだろう、きっと。隣がホールとか。

きーこが肩を撫でたのは、自分がさっき頭を撫でられたからです。後は起こしてくれたことへのお礼的な感じ。深い意味はなし。痛いの痛いの飛んでけ的なつもりもないです。




読まなくていい設定話


・きーこ(人工少女・ツー・アン)

孤児だった。9歳のころに旅人の夏樹と仲良くなる。その後研究所に拉致され研究対象としてアンドロイド化されるが夏樹に助けられる。救出後、回復のために夏樹の知り合いのサーカスに預けられていた。その後12歳の時に空想の街へ行き記憶を取り戻し、夏樹と再会。再開後はサーカスの公演に出たり夏樹と旅をしている。歌うことと食べることが好きな、明るい少女。


夏樹:元はちゃんとした身分の生まれだが、サーカスの団長と知り合ったのがきっかけで家を出て賞金稼ぎとして旅をしている。腕の立つ賞金稼ぎ。旅が好きで気まぐれなところのある青年。きーことは9歳差。出会った時は18歳、空想の街の時は21歳。特に恋愛関係という訳ではない。

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