3.意外でした。後編。
あたしの言葉にサザエさんは、首をかしげた。
「なぜ、そうなるのじゃ?」
「え、だって。こっちの魔族の人が占って、あたしの世界の、良く知られたマンガの登場人物の名前を、その、見つけてくるんだったら……」
「トオコ。物事は響き合い、連動するものぞ?」
サザエさんは、つややかな黒髪を優雅にかきあげた。
「世界と世界は、互いに映し合い、つながりあうものぞ」
「はあ」
「ゆえに、われらが占って見つけた名は、そなたの世界においても預言の元にある名である」
あたしは、首をかしげた。
「よくわかりませんけど……」
「力は力を呼ぶ」
サザエさんは言った。
「わからぬか? そなたの知るハッセ・ガウー・アマールチカが偉大な人物であったからこそ、
われらの世界にその力が響いたのじゃ。
その響きを、占い師は見つけ、引き込んだ。
ゆえに、ハッセ・ガウー・アマールチカは、預言したとも言えるのじゃ。意識せず、それでいて確実に、二つの世界をつなげたのじゃからのう。おのが作品によって」
「え、……ええ~????」
「わからぬか。したが、そういうものじゃ」
くくっと笑ってサザエさんは、ミルクティーを一口飲んだ。
「魔法の法則は、あたしにはさっぱりです……」
「力は力を呼ぶだけじゃ。単純じゃぞ?」
「う、うう~ん?」
全然わからん。
「ええっと……とにかく! 異世界の言葉を、代々の魔王さまは名前にしてるんですね?」
「そうじゃ。それで、まあ、悲劇はかなり減った」
サザエさんの言葉に、あたしは納得した。そりゃそうだ。『サザエでございます』とか、『イクラちゃんです』なんて名乗られたら、思わず止まる。思考とかやる気とか、いろいろ。
「そう言えば、あたしの他にも勇者っていたんですか?」
「何人か会うておるぞ。どうも、そなたと同じ世界とは限らぬようじゃが」
「そうなんですか?」
「うむ。わらわや、妹たちの名に反応せぬ者もおったのでな。そなたの前に来た勇者は、おそらく同じ世界の者であろうが」
「あたしの前の勇者……」
「三十年ほど前になるか。若い男でな。相手をしたのは、わらわだったのじゃが……、名乗った瞬間、泣き崩れられた」
「は?」
「『こんな美女が、サザエさんだなんて……!』と言われてのう。魚をくわえた猫がどうのと言っておったが」
「あ~……それ、たぶん、あたしと同じ国の人ですね……」
衝撃の度合いがわかる。脳裏に流れたであろうテーマソングも、あたしと一緒だっただろう。
「あれ、でも三十年? そんな前からあのアニメあったっけ?」
「あちらとこちらでは、時の流れが違っておるようじゃぞ。勇者たちの話をまとめれば」
「あ、そうなんですか? あや~……そういう設定の話あるな、言われてみれば」
むこうの世界で読んだ、異世界トリップもののラノベを思い出しつつ、あたしはうなずいた。
「まさかの同級生だったり? いや、それはないか。いきなり行方不明になった同級生とか、いなかったよね……むしろ、あたしが行方不明者……」
あ、ちょっと落ち込んだ。
「いや、しっかりしろ、あたし。ええとサザエさん。それで、その勇者はどうなったんでしょうか」
「会いたければ呼び寄せるぞ」
「呼び寄せ……え、まだこっちで生きてるんですか!?」
「うむ。
わらわの婿じゃ」
…………はい?
「シュウ・ゴー・ハマー・ノウ・レク・サージャ。いろいろあっての、わらわの婿におさまった」
にっこりと、サザエさんが微笑んだ。
「え、しゅうご……修吾さんかな。ハマー・ノウ……浜野? 婿……え、じゃ、タラちゃんのお父さん?」
「うむ。わが城に住み込んで、あれやこれやと働いておる。ああ、『レク』というのは、婿という意味じゃ。レク・サージャで、わらわの婿、ということじゃな。
シュウゴにはこちらに身寄りがなかったゆえ、わらわが娶る形になっての」
「は、じゃあ、えと、いわゆる入り婿……ってことは」
あたしは思わずつぶやいた。
「リアルマスオさん」




