表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

8.宣言されました。2

遅くなりました。

「陛下には、そんな性癖はございませ~ん!」



 タラちゃんがロリコン。タラちゃんがロリコン。


 ああでも、十五歳だし良いのか。タラちゃん、見た目は二十歳過ぎてるから犯罪くさく見えるけど……いや、良くないよ! 十五歳と五歳でも十歳差じゃん! 高校一年生と幼稚園児だよ!


 などと考え、頭がぐるぐるしていたら、いきなり出現した兵士? らしき男の人に、涙目で叫ばれた。え、誰?



「お久しぶりですね、カクート」


「ロザリー! トオコさまに、陛下の性癖を誤解させるような発言はつつしめ!」


「え? いま、どこから……え?」



 誰もいなかったよね。今ここには、怪しいロザリーとあたし、へたりこんでいる美少女、いや美幼女の他には、誰もいなかったよね! ちょっとロザリー、なに落ち着き払って挨拶してるの! 


 混乱していると、兵士に膝をつかれて挨拶された。精悍な男性の頭には、犬耳。ちょ、犬耳あるよ、この人。



「御前に姿を現したこと、お許しください。わたくし、


ヘロしです!」


「ひろしです?」



 一瞬、情けない感じのホストの姿が頭に浮かんだ。



「いえ、『ヘロし』です。『ヘロし隊』会員ナンバー二五〇番、『勇者どのを見守り隊』所属、カクートにございます。

 われらは隊員の義務として、トオコさまを日々、陰ながらお見守りいたしております!」


「『ヘロし隊』……」



 いきなり出た、『ヘロし隊』。二五〇番って、会員数どれだけいるの。

 そこで、ばっさばっさという音がした。思わず音の出所を見ると、跪く彼の背後。尻尾もあるよ、この人。



「『われら』ってことは、まだたくさん隠れてたりするんですか……」



 そちらは気にしないようにして、あたしが言うと、半分透けているロザリーが、ぼそりと言った。



「『へロし』は一人見かけると、その五十倍は隠れていると言われております」


「Gのつく虫かい」



 解説をありがとう、ロザリー。



「それにしてもどこから……ぜんぜん気配なかったよ」


「はっ、われら、普段の任務は、特殊部隊『イッキュウ・ゼン・ジー』の隊員として、隠密活動をしておりますので!

 気配を殺して草葉の陰に忍んだり、天井裏に隠れたりなど、大得意でございます!」



 ばっさばっさ。揺れる尻尾。



「忍者かい」



 思わず突っ込むと、「はぁうっ!」と叫ばれた。



「そそそそそそのような……そのような、おほめの言葉をいただけるとは……」



 ばっさばっさばっさ。兵士の目がキラキラしている。すごい勢いで尻尾が振られている。



「え、ほめ言葉になるの、今の?」


「先代魔王陛下の王婿、シュウ・ゴーどのから伺っております。


『ニンジャー』、とは、


 異世界に生息する、オタクを究めた究極の魔人の敬称にございましょうっ!」



 きらきら、ぶんぶん、ばささささ~っ。

 目のきらめき度MAX。尻尾の振り度MAX。


「どんな異世界解説をしたんだ、浜野さん!」



 あれか。世紀末英雄な一休さんな感じで、忍者の説明しちゃったのか。それにしても、忍者がオタクって、どこでどうしてそうなるんですか。そうしてあなたは、どうしてそんなに大喜びをしてるんですか~~~っ!



「『ニンジャー』は、『ヘロし』の憧れ、『イッキュウゼンジー』の目標なのです!」


「あー……そう。うん。どんな風に憧れて、何を目標にしているのか知るのが怖いんだけど。そっかー……」



 絶対、どこか誤解があるよね。説明したの、浜野さんだし。



「あれ、えーと、ちょっと待って。『イッキュウゼンジ』って言った? それって、カツオくんの特殊部隊じゃなかったっけ」



 そこでふと、気がついて言うと、犬耳兵士は尻尾の振りを抑え、でも嬉しげに答えた。



「はっ。要人警護や、各国の情報収集などが主な任務であります! トオコさまにも、目立たぬよう警護し、安全を確保するよう言われております!」


「ああ、だから……ん? それだったら……普通、名乗る時には、『イッキュウゼンジ』が先で、『ヘロし隊』が後になるのじゃ?」



 素朴な疑問だった。だってどう考えても、名乗る時には、厳しい訓練を受けた公的……と言えるのかは良くわからないが、正式な? 身分みたいなものが先になって、趣味の分野みたいなのは、後になるんじゃないかと思ったのだ。


 別に、何をどうしようとの意図があったわけではない。


 しかしあたしの言葉は、兵士の何かに、火をつけてしまったらしかった。



「われらの真の姿とはぁ! 草葉に忍ぶ者に非ず!

 ただ趣味に生き、趣味を全うし!

 オタクと言われる道を貫く!


 それがわれら、『ヘロし』の心意気なり~!」



 すくっ、と立ち上がったと思うと、いきなり叫ばれた。びしいっ! と、戦隊ものみたいなポージングをされながら。



「『ヘロし』! それはオタク!(しゃきーん!)

『ヘロし』! それは愛と友情の絆!(ずばーん!)

『ヘロし』! それは世を騒がせ、全てを動かしながら、ひたすら趣味に尽くす熱き魂の叫び!(どどーん!)


 われら、『ヘロし』! 『ヘロし隊』~!(ぱぱらぱっぱぱ~っ!)」



 一言ずつ、ポーズを取っていた。しかもポーズを取るたび、どこからか効果音が轟いた。なんで。



「『隠れヘロし』はいつも、良い仕事をしますね。場面にあった音の選択も見事です」



 動じる事なく、無表情に言うロザリー。



「隠れている人たちがやってるんですか、あの効果音。ってか、これって何か意味あるの」


「『ヘロし』ですから」


「意味不明なんだけど」



 オタクって所だけはわかったけど。



「『ヘロし』は陛下と勇者さまのロマンスに尽くすもの。それゆえの様式美です」



 様式美なのかい。



「なんでこれが様式美……いや、良いよ、説明しなくても。どうせ浜野さん辺りが言ったんでしょ。に、しても、ロマンスに尽くすって……」


「オタクですので」


「ロマンスオタク?」


「正確には、『陛下と勇者さまのロマンス』オタクです」



 その間も、犬耳兵士のエキサイトは止まらない。



「東に陛下の涙あれば、行って勇者さまのハンカチがありますよとささやき!(びしいっ!)


 西に勇者さまの笑顔あれば、行って状況を陛下に魔力で中継し!(しゃきーん!)


 南に陛下と勇者さまのロマンスを語る者あれば、行ってけしからん、もっとやれと励ましてやり!(きらきらきら)


 北に陛下と勇者さまを知らない者あれば、お二人のあれこれを布教して、ロマンスにハマらせる!(どどーん!)

 

 われらの活動は、日々、多岐に渡り。そうして今日も、ひっそりと勇者さまに張りつき、その動向を陛下へ、そして世界に中継しているのです!(ぱんぱかぱーんっ!)」


「いやそれ、ストーカーだから!」



 なにそれ怖い。



「最近では、絵心のある『ヘロし』による『今日のどきどき☆勇者さまと、うきうき♪陛下絵巻』(きらきらりーん)、


詩才ある『ヘロし』たちによる『朝までお二人のロマンスを語りたい』(ちゃらららーん)、


文才のある『ヘロし』による小説、『わが愛は世界を越えて』『星の瞬きに貴方を想う』など(だらららららら、しゃきーん!)、


読みごたえある作品が満載の『勇者さま日報』が発行され、瞬間移動能力を持つ『ヘロし』たちによる、


『ヘロし』の宅急便が各地にお届けしております!(どどーん!)」


「『ヘロし』の宅急便!? ジジがいたりする!? いやそうじゃなくて、なにそれ、同人誌か~いっ!」



 怖過ぎる。いろいろと。そして全くタイミングがずれていない効果音担当の人たち、すご過ぎる。



「このように、われらは趣味に生き、趣味に死ぬ、オタクの中のオタクにございますれば!(ぱぱぱぱーん!)


 名乗る際には堂々と、『ヘロし』と第一に名乗りたいっ!(どどーんっ!)


 闇に忍び、影に忍ぶ、『イッキュウ・ゼン・ジー』の者は皆、この思いを胸に秘め、今日も『勇者さま日報』を手刷り・製本しているのです。ああ、たぎるこの思い! 萌えるこの熱意! 


 『ヘロし』!(ぱぱーん!)


 われらは『ニンジャー』な『ヘロし』!(ぱぱぱぱーん!)


 ロマンスは、(だららららららららら~……)



 永、遠、に!(ちゃっちゃちゃ~、ちゃちゃちゃちゃんっ! だんだかだんっ!)」



 最後の『永、遠、に』に合わせて、オチをつけるような音楽がどーんと流れた。変な特番を見ているみたいだ。



「忍者の同人活動……しかも胸張って言われた……」



 ポージングと言い、流れる効果音と言い。もう、どこを突っ込めば良いのかわからない。



「そういう訳で、名乗る際には、まず『ヘロし』と名乗らせていただいております、勇者さま」


「あー……えー……」



 熱弁しまくって気が済んだのか、『ヘロし』なカクートさんが跪き直し、真面目な顔になって言った。



「しかし、任務も忘れてはおりません。われら、常に、勇者さまの身の安全をはかり、ひっそりと警護をしております」


「ソウデスカー……」



 あ、ちょっと棒読みになっちゃった。



「任務外の時間も、ひっそりと張りついておりますね」



 ぼそりとロザリー。



「張りつかれてるの、あたし」


「はい。『ヘロし』は一人見かけると、その百倍は隠れていると言われております」



 増えてるよ! さっきより!

 自分の背後に見えない『ヘロし』がうじゃうじゃといる光景を思わず想像してしまい、遠い眼差しになってしまった。嫌すぎる。



「ちょっともう、やだ、そんなに付きまとわれてるって、あたし、気の休まる暇もないじゃない~~~!」


「大丈夫です。陛下とご一緒されている間は、お邪魔にならないよう、離れておりますから!」


「タラちゃんがいる間だけ!? それ以外はずっと、張りつかれてるの!?」



 そこでふと、疑問が沸いた。



「あれ? でも、そんなにロマンスオタクなら、二人が一緒にいる間の方が、張りつきたくなるものじゃないの?」


「それは邪道です!」



 犬耳兵士カクートが叫んだ。すちゃっ! と立ち上がるとさっとポーズを取る。



「鍛え抜かれた『ヘロし』なら、現実のお二人の姿に萌えるばかりでなく!(ぱぱぱぱーん!)


 お二人のいない所でも、理想のロマンスを脳内で常に捏造ねつぞう、再生、垂れ流しができるもの。それこそが!(だららららららら……)


 真の、『ニンジャー』!(どどどーんっ!)」



 突然の叫びにも瞬時に対応。乱れもしない効果音。



「忍者違うからそれ! しかも捏造するのか!」


「実体を見せずに忍び寄り、萌える影。日々、『勇者さま日報』を手刷りし続けるニンジャーのぱっしょんは、侮れません」



 ロザリー。君の解説もいろいろ微妙だ。



「それはともかく、勇者さま」



 ささっともう一度跪き直すと、兵士が言った。ああ、もう、ポーズは取らないのね。



「陛下には、幼女趣味はございません。トオコさま一筋であらせられますから」



 必死な顔だった。



「えー……」



 なんの話だっけ? と言いかけて、あ、と思った。そうだった。タラちゃんのロリコン疑惑について話してたんだった。


 『ヘロし』の強烈さに、考えてた事、全部吹っ飛んでたよ。



「あー……、そうだった。そうだった。タラちゃんね。

 ああ、まあ……、あたし云々は置いといて。王族、だもんね。

 うん、そう、王さまとかお姫様って、そういうのがあるよね。政略結婚とか……、ああ、あるある、婚約もあるわ。えーと、わかったから」



 泣きそうな顔になっていたので、慌ててそう言うと、ばっさばっさと音がした。また尻尾振ってるよ。



二回に分けるつもりだったのに、どこで切れば良いのか判断がつかず。この長さに。恐るべし、『ヘロし』。


あのホストの人、いま元気なんでしょうか。


そうして、フィリピン? だったと思うのですが、戦隊ヒーローもののイラストのついたスナック菓子が売られています。


『ひろし』と大きくひらがなで記されたスナックが。なぜなんだ、ひろし。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ