8.宣言されました。1
体調が、不良さまになりました……(+_+)
「そこの小娘! わらわと勝負せよ!」
うららかな春の日の午後。小鳥がひよひよと歌う魔王城の中庭。
メイドとしての仕事の途中、あたしはいきなりそう叫ばれた。
そこには、美少女がいた。
きらきらしい銀髪はツインテール。風にひらひらとなびくレースとリボン。すべすべの白い肌にさくらんぼのような唇。青い瞳には、勝気な光が宿っている。
正しく美少女だった。
推定年齢は、どう見ても五歳だったが。
「うっわ。可愛い。どうしたのかな~、お嬢ちゃん。迷子~?」
「誰が迷子か! わらわは、そなたよりもよほど、城の事を知っておるわ!」
「そっか~。今日はど~したのかなあ? お父さんかお母さんと一緒なの? はぐれちゃったのかなあ?」
「なんじゃ、その、子どもに対するような言い方は! わらわを何じゃと思うておるか!」
「いや~、怒っても可愛いわ~! 目がきらきらして、子猫みたい~!」
「ぬうっ!?? 何をする、やめよ! なでるな、抱き上げるな、高い高いするな~~~!」
いや、やるでしょう。こんな可愛い女の子見たら。
* * *
「姫さまは、タラチさまの幼馴染でございまして」
久々の小さい子との触れ合いに、ついうっかり『飛行機~!』とか、『ぐるぐる~!』とか、全力で遊んでしまったあたしに、ひっそりと美少女に付き添っていた侍女さんが言った。
ちなみに『姫さま』の方は、最初こそ文句を言っていたが、途中から面白くなったのか、ぐるぐる振り回されて、きゃーきゃー言いつつ喜んでいた。今ははしゃぎすぎて疲れたのか、芝生にひっくり返っている。子どもって、全力で遊んだ後は、電池切れたみたいにばったり倒れて寝ちゃうものねえ。
「幼馴染なんだ。姫さまってことは、王族か何か?」
「炎禍公爵家の姫君であらせられます。四代前の魔王陛下の、二番目の姫君のお血筋です。
臣籍に降りましたが、先々代魔王陛下のご長男を婿に迎えられており、北の御一族の中では、有数の力を持つお家でもあります」
侍女さんは、落ち着いた色合いのドレスに、きっちりと結いあげた髪型の、空気に溶け込むように控えめで、自己主張をしない感じの女性だった。というか、本当に姿が半分消えている。
表情はほとんど動かない。青白い顔をして、半分体が消えている状態で、すすす、と近寄って来て話しかけられた時は、本気でびびった。
「わたくし、ゴースト族ですので。空気に溶け込むのは得意としております」
「あ、そうですか」
「ふふふ」
無表情に『ふふふ』はヤメテ。なんか怖いから。
「ロザリーと申します。噂に名高いトオコさまとお会いできて、うれしゅう存じます。ぽっ」
最後の『ぽっ』は、照れているという表現でしょうか。思い切り無表情&棒読みでしたが。
「うわさ?」
「われらが麗しのタラチ陛下の、運命の恋人。出会ってすぐに恋に落ち、君は勇者、わたしは魔王。離れられない二人のさだめ。
トオコさまの剣を突き付けての『わたしのものになれ』宣言は、現在、魔族の乙男のみならず、武将たちにも『浪漫ちっく』だと大好評にございます」
何それ。
「そんな噂が流れてるの? でも、あたしとタラちゃんとは、別になんでもない……」
「何をおっしゃいます。陛下との恋路を是非、応援しようと、北の荒野一帯で草の根活動が始められておりますよ? 『陛下と勇者どののロマンスを応援し隊』、通称『ヘロし隊』は、会員数を順調に伸ばしております」
草の根活動?
「草の根活動って言うと、地域の掃除をしようとか、小川を綺麗にしようとかのボランティア活動みたいに聞こえるんですが……ってか、『ヘロし隊』って、どういう略?」
「『へ』いかと勇者どのの『ロ』マンスを応援『し』『隊』です」
「略しすぎて意味不明……と言うか、あたしとタラちゃんは、本当に何も」
「それで、姫さまは思いつめてしまわれたのでございます」
途中で遮られた。人の話を聞こうよ、ロザリー。
「なぜなら姫さまは、由緒正しい炎禍公爵家の姫君。魔力の高さも申し分なく、ゆえに、
トオコさまがおいでになられる前は、タラチさまと、婚約の話も持ち上がっておりました」
え?
「婚約!?」
「はい」
「あの子とタラちゃんが!? え? 婚約してたの、二人!?」
「候補の一人にございました」
「え、そしたら、
ロリコン!?」
タラちゃん。あんな美形顔であなた、幼女趣味だったんですか!?
まさかのロリコン疑惑。




