7.尋ねました。カツオくん編。
ベルばらにコナンがプラスされたリボンの騎士に遠い眼差しになってしまったが、ひょっとしてまだ別の話があるのかと思って、さらに尋ねてみた。
「カツオくん。ちょっと尋ねたいことがあるんだけど」
「なになに~? なんでも聞いて?」
「異世界の物語って、聞いてたりする?」
「もちろんだよ~! 俺、大好きだったんだ、『魔王の珠』!」
「ワカメちゃんもそう言ってたなあ。他には何か好きなのなかった?」
「うん、俺ね~。『一休の拳』がすんごい好きだったんだよ~!」
「いっきゅうの……? (何だろう)」
「小さい男の子が主人公でね。彼は、さるやんごとない家の子どもだったんだけど、僧侶が修行をする寺に預けられて育つんだ。その子がすごーく賢くて、いろんな問題を知恵ととんちで解決して行くんだよ! こんな風に、『ポク、ポク、ポク、チーン!』ってやってさ」
「ああ~……『一休さん』」
「あの謎の呪文、意味不明だけど、心身の強化のためだろうって、大はやりしたよ!」
「いやあれ、呪文じゃないんだけど」
「一休さんは、心穏やかに過ごしていた。しかし! 悪の限りを尽くす桔梗屋に、幼馴染の少女を拉致されてしまう。救出に向かう一休」
「あれ、なんだかサスペンス風味に」
「『さよちゃんを返せ!』叫ぶ一休。しかし、時遅く、少女は既に亡き者に……」
「え、さよちゃんが死んじゃうの?」
「『ふはははは! この桔梗屋に逆らったものの末路はこうだ! 貴様もひねりつぶしてくれる~!』 巨大化する桔梗屋」
「巨大化!?」
「桔梗屋の正体は、はるか太古に地中深く眠りについた凶悪怪獣、ゴ・ジーラだったのだ。善良な魔族を装い、世界を支配しようと、虎視眈々と狙っていたのであった……」
「なぜそこでゴジラ!?」
「『危ない、一休さん!』火を噴く桔梗屋から、身を挺して一休さんをかばったシン・エモーン」
「火を噴くんだ、桔梗屋さん……新右衛門さんもいるんだ~……(どう反応して良いのかわからない)」
「『逃げてください、一休さん……』がくり。シン・エモーンは力尽きた」
「出たと思ったら、もう退場したよ……」
「『シン・エモーン……お前の事は忘れない。桔梗屋! 貴様の血は何色だあァ~!』」
「ほのぼの系のアニメだったはずなんだけどな、一休さん……」
「一休さんの怒りが臨界点を突破した時。そこに起こるはひとつの奇跡。どん! と怒りの気迫が爆裂。一休さんの体がまたたく間に変化する! ぎしぎし、めりめりと盛り上がってゆく筋肉!」
「き、きんにく?」
「『おおおおおおおおお!』叫びと共に跳躍する一休さん。『おあたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた』!」
「ちょっと待てえぇ!」
「『おあたあ!』肉体を極限まで鍛え上げた動き! 目にも止まらぬ速さで打ち込まれる拳!」
「ほ、ほのぼの系アニメが……ほのぼの系アニメが……」
「『なんのつもりだ~。この俺様に、そんな攻撃が効くと思っているのか~』笑う桔梗屋。しかし、一休さんは無表情に言った」
「な、なんか嫌な予感が」
「『貴様は既に死んでいる』」
「やっぱケンシロウかい!」
「『ひでぶ!』悲鳴と共に、爆散する桔梗屋。こうして世界の平和は守られた」
「一休さんが……一休さんが……」
「立ち去る一休。風に乗り、彼の言葉が大地に落ちる。『……なむさんだ~』」
「怖い! なんか怖いよ、最後のそれ!」
「もうね~、俺、大好きでさ~。一休さんのファンクラブ作っちゃたりしたんだよ~。で、会員は年に一度、修行の集会を開くんだ! ザ・ゼーンを組んで知略を尽くした討論会、そして、一休さんの修めた『ホクトウ・シン・ケン』の修行をするんだ!」
「そうなんですか……(もはや何を言えば良いのかわからない)」
「なんかでも、体を鍛えながら軍略とかねったりしてたら、今じゃ、魔王軍の若手ホープ訓練機関みたいになっちゃったけどね~! だから、その機関の名前、『イッキュウ・ゼンジー』って言うんだよ! 諜報活動とか得意な人が育ってるよ~! そんでそんで~、俺がトップなの~。
合い言葉は、『貴様は既に死んでいる』。独特の『ポク、ポク、チーン』の呪文を使う、隠密部隊さ!」
「うわ~……」
「トオコちゃんの身辺も、ひそかに警護してるヨ! 暗殺企むやつらがいたら、先手必勝で先に暗殺しにいっちゃうから、いつでも気軽に声をかけてね~」
「あああ、ありがとうございますっ、ででででも、目立つ事はキライなんでできれば、お、穏やかに……っ(青ざめ)」
「うう~ん。トオコちゃんてば。一休さんみたいにオクユカシイんだね」
「はえ?」
「一休さんも、人目につかないようひっそりと暮らす事を望んでいたんだ……その望みは、桔梗屋によって阻まれてしまったけれど。あ、そしたら俺は、さよちゃんになるのかなあ!」
「なぜ、そこでさよちゃん。この場合は新右衛門さんでは」
「えっ、やだ、照れちゃう~!」
「えっ」
「シン・エモーンはさらわれて、敵対する『ナント・セイ・ケン』の最後の将になっちゃうんだよ~!」
「まさかのユリアポジション!?」
「一休さんとの切なく激しい友情が、何だかアヤシイと一部で評判だったんだよ。俺がシン・エモーン役だったら、タラチに殺されちゃうよ~!」
「いろいろ突っ込みたい事あるけど、とりあえず魔族にも腐女子いた~……(遠い目)」
ほのぼの系アニメが、なぜそうなったし。
ここはやはり、例のセリフですか。「きにしな~い、きにしな~い。一休み、一休み」




