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7.尋ねました。ワカメちゃん編。

 魔改造されたドラゴンボールにおののいてしまったが、別の話はどうなんだという気がして、他の魔族の人にも尋ねてみた。



「ワカメちゃん。ちょっと尋ねたいことがあるんだけど」


「なにかな?」


「異世界の物語って、聞いてたりする?」


「おお、それはもちろん。我らの幼い頃には、子ども同士が出逢えば『魔王の珠』の話をしていたからな」


「魔界で大はやりだったんだ、ドラゴンボール……ええと、ワカメちゃんの聞いたのは、それだけ?」


「他にも色々聞いたぞ。私の好きだったものは、『リボンの軍師』だな!」


「リボンの……? (なんだろう)」


「うむ。小国の王女として生まれたサファイヤ姫の物語だが」


「あ、『リボンの騎士』」


悪辣あくらつな人間の呪術師の手により、呪詛を受けて育ってしまう。王位継承者たる王女でありながら、継承権のない王子の体にされてしまうのだ!」


「あ~……こっちじゃ、女性に継承権があるんですか」


「うむ。魔族は基本、女性が能力や形質を受け継ぐのでな。男が王位を継ぐのは稀だ」


「そうなんだ……じゃあ、タラちゃんは珍しい例なんですね」


「タラチは魔王であった姉上に、『婿どのと、まったり過ごしたい!』と叫ばれ、王位を押し付けられたからな」


「そんな理由で魔王に。ってか、そんな理由で退位って」


「なに、われらも支えているゆえ、大丈夫だ。トオコも気兼ねなく嫁いで来い!」


「いや、あわ、えう!? ええええ、えっと、そう、『リボンの軍師』! それってどんな話だったんですか!?(あせあせ)」


「おお。あれは素晴らしい物語であったぞ。呪いを受けたサファイヤ姫は、国中から、素晴らしい姫君として称えられていたのだが。しかし、その体は男」


「なんか、方向性が違う話になってるような」


「秘密がばれ、命の危機に! しかし姫は、からくもこの危機を逃れる。そうして名を変え、姿を変え、姫は魔王の元で軍師となり。祖国にはびこる悪を倒さんと、日々己れを磨くのであった……」


「おお。なんかカッコイイ」


「そうだろう。子ども心に痺れたものだ。そして、あの決めゼリフ……『たったひとつの真実見抜く、見た目は男、頭脳は女、その名は、リボンの軍師!』」


「ちょっと待てえぇ!」


「各地の謎を解き、呪詛を払う、『リボンの軍師』! その行く手を時にはばみ、時に味方となる、怪盗キッド!」


「コナンか。やっぱりコナンなのか!」


「二人の争いとラブロマンスに、魔族の少女たちは熱狂した」


「何を言えば良いんだろう、あたし」


「男である軍師に恋をしてしまったキッドの苦悩も、少女たちに受けていた」


「うを。魔族にも腐女子存在の予感が」


「そうして二人の真実の愛が、魔王陛下に認められ。呪詛が解け、サファイヤは真実、女性に! 二人はサファイヤの祖国に戻り、王位を継いだサファイヤは、男であっても王位継承は可能という法を制定した。キッドは王婿おうせいとなり、サファイヤを終生支えた……という物語だ。

 実際、小国では、男に継承権を認めない所もある。が、この物語が流行ったあと、各地で男性に継承権を認めようという動きが起きてな」


「へー……」


「タラチもその流れで、すんなりと王位を継げた。

 今思えば、この物語は、シュウゴどのがタラチを魔王にするために、お膳立てとして流したものだったのかもしれん。これがなければ、タラチはどこぞの王家の婿として、この地を離れる運命にあっただろう。その場合、わが甥が長く生きられたかどうかは微妙だ」


「そう……なんですか?」


「うむ。あれは魔族としては、体が弱くてな。今でこそ健康になってはいるが。他の魔族のテリトリーに行けば、適応したとしても、それだけで力を使い果たしたやもしれん。

 そのはかなさゆえ、一時、タラチは、『亜麻色の王子』と呼ばれていた」


「なぜ亜麻色」


「『リボンの軍師』が亜麻色のカツラをかぶり、村の祭りに参加し、正体を知らない怪盗キッドと、一騎打ちをしたからだ!」


「なぜ一騎打ち!?」


「知らんのか? 女が男を打ち負かし、肩にかついで家に連れ帰るのは、伝統的な求婚の作法ではないか」


「どんな作法それ! しかも求婚!?」


「キッドに心奪われたサファイヤ姫は、一騎打ちを申し込む。しかし呪いの力で男になっていた彼女には、力を発揮することができず。あわや負けてしまう、という時、


 キッドはわざと、姫に負けてやるのだ!」


「おお」


「『儚き君よ。力においては、僕の勝ちだろう。だが、僕の心は既に、君に敗北している』」


「うを~……」


「『君は光、僕は影』」


「うをい!?」


「そうしてキッドはわざと敗北、姫の忠実な配下となり。革命の嵐を姫と共に駆け抜ける……! 『文句があるなら魔王城にいらっしゃい!』は歴史に残る名台詞だな。『バスチーユに白旗が!』を聞いた時には、感涙があふれたぞ!」


「途中から『ベルサイユのばら』になってるよ!?」


「と、いうわけで、『亜麻色の王子』というのは、魔界では儚さの代名詞! タラチは今でも、グロウガリアスの美貌の王として人気が高い。

 そのタラチを射止めたトオコは、どれほどの女傑かと、大いに噂になっておるぞ! タラチに求婚した話も、あっという間に広まった。実にロマンチックだと大人気だ。

 おお、心配するでない。かように可愛らしいトオコに、決闘などの無粋なマネはさせぬ。文句を言う者は、われらがきっちり、血祭りにあげてやるからな! 心置きなく、タラチの嫁になれ!」


「ほ、ほへええええ!?」




 なぜだろう。どんどん外堀が埋められている気がする。



※ ※ ※



 浜野さんは最初、コナンの話をしようとしたのですが、魔族には変身能力を持つ種族がナチュラルにいたため、『体は子供、頭脳は大人』という、例のフレーズが使えなかったのでした。









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