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黒頭巾の神撃〜Black hood's divine attack〜  作者: 南斗家那乱下


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熱閃

シロミが刺客を倒す少し前、静まり返ったキャンプ地にも音もなく死の気配が迫っていた。


「……っ! 誰だ!」


火の番をしていた剣一が、即座に双剣を抜き放ち身構える。その鋭い声に反応し、テントからアリスが飛び出してきた。


「何事!? ……っ、なんなのあいつら!」

「構えろアリス! 来るぞっ!」

「わかった!」


シロミの時と同様、白いローブを深く被った二人の刺客が、夜闇を切り裂くようにほこの閃撃を仕掛けてきた。アリスは瞬時に近接形態コンバットスタイルへと移行して腕で受け、剣一は双剣を交差させ、火花を散らしながら攻撃を受け流す。


「こっちは任せて! 剣一はそっちをお願い!」

「ああ。気を抜くなよ、こいつら普通じゃない!」


二人は背中合わせの状態から、流れるような動作で二手に分かれて敵と対峙した。


「どこの誰だか知らないけど……丁度むしゃくしゃしてたんだっ!!」


アリスの脳裏には、今日の恥ずかしすぎる「一線越え」の記憶がよぎっていた。一切言葉を発さない、不気味に佇む相手に対し、苛立ちが加速する。


「寡黙なのは、剣一だけで十分……!『紅蓮連脚(プロミネンスラッシュ)』!!」


炎を纏った超高速の回転連撃。しかし、アリスによって放たれたその連撃は、刺客の鉾によっていとも簡単に受け切られた。だが、アリスの目的はその先にある。


「……強いじゃん。なら――変形(フォームチェンジ)遠隔形態(ディスタントスタイル)!」


アリスが叫ぶと同時に、全身を包む紅蓮の魔装が、まばゆい光と共にその構成を瞬時に組み替えた。

スリットの深いチャイナドレス風のシルエットは霧散し、次の瞬間、幾重にも重なった炎のフリルが足元まで広がる、絢爛豪華けんらんごうかなウェディングドレス風の魔装(マジックドレス)へと様変わりする。

それは美しくも、近づく者全てを焼き尽くす灼熱の正装だった。


最大出力(フルドライブ)っ!『追尾(ホーミング)獄炎(ヘルファイア)』!!」


アリスが片手を前に振りかざすと、手のひらから奔流のような太い炎が放たれた。その中心を核に、周囲を幾重もの炎の渦がぐるぐると回転しながら、逃げる敵を自動で追尾し追い詰めていく。

灼熱の檻に追われ、刺客がわずかに体勢を崩して背後へ飛び退いた。だが、そこはすでに「詰み」の場所だった。逃げた先には、いつの間にか再び近接形態(コンバットスタイル)へと戻り、技を構えていたアリスが待ち構えていた。


「……じゃあね。最大出力(フルドライブ)、『烈火重撃(バーニングストライク)』っ!!」


地面を爆ぜるような勢いで踏み込み、魔力を極限まで溜め込んだ炎の拳を大きく振りかぶる。その渾身の一撃は、白フードの敵の胸部を正面からぶち抜いた。


「「はぁ……、はぁ……っ……!……この感触……人間じゃ……ない……!?」


敵が燃え盛り、完全に消滅したのを確認した瞬間、アリスの全身を包んでいた紅蓮の魔装マジックドレスが、霧が晴れるようにスウッと消えていく。それと同時に、極限まで張り詰めていた緊張の糸が、音を立てて切れた。


「……っ、あ……」


急激に襲ってきたのは、魔力を底まで使い果たしたことによる凄まじい脱力感と倦怠感だ。膝が笑い、視界がぐにゃりと歪む。アリスは支えを失った人形のように、その場に力なく崩れ落ちた。


「……やりすぎ、た……。あいつ、意外と……硬かったし……」


地面に手をつき、荒い呼吸を繰り返す。指先一つ動かすのさえ億劫で、全身の筋肉が熱を持ったように重い。額からは滝のような汗が流れ落ち、土の匂いが混じった夜風が、熱くなった肌に痛いほど冷たく感じられた。


一方で、少し離れた場所で剣一もまた激闘を繰り広げていた。


「……っ! なんだこの感覚、魔力はあるが人間じゃないのかっ……!」


機械的に繰り返されるほこの重い連撃を、双剣で火花を散らしながら受け流す剣一。その瞳には、かつてないほどの警戒の色が浮かんでいた。


「みんなが心配だ……一気に飛ばしていくぞっ!『双刃旋風(そうじんせんぷう)』!」


鋭い回転斬りが襲いかかるが、白フードの敵は無言のまま全てを受け流し、間髪入れずに鉾で鋭い反撃を繰り出してきた。剣一も負けじと刃を合わせ、夜の静寂を鉄の打突音が切り裂く。


「あまり時間はかけられないな……全力でいかせてもらう……限界突破(リミットバースト)ーー『人智(じんち)(つるぎ)』」


剣一が双剣を鞘に納めると同時に、その体から膨大な魔力が溢れ出した。大気を震わせるほどのプレッシャーと共に、彼の手の中には青白く発光する巨大な魔剣が生成される。


「『人智連撃斬(じんちれんげきざん)』!!」


一歩踏み込むと同時に、視認不可能な速度で幾千もの斬撃が放たれた。敵は防ぐ間もなく、周囲の巨木ごと木っ端微塵に切り刻まれ、音もなく霧散していく。


「……くっ。あいつらは、無事なのか……」


剣の形を維持していた魔力が霧散し、大量の魔力を消費した剣一の体に重い疲労がのしかかる。彼は膝を突きそうになるのを気力で堪え、トボトボと、しかし必死にアリスの待つキャンプの方へと歩き出した。


一方、真白は死に物狂いで剣一のもとへ走っていた。しかし、その行く手を阻むように闇の中から白い影が躍り出る。


「はぁ……はぁ……っ!? ぐっ……!」


咄嗟の判断で短剣を抜き、襲いかかるほこを受け流すが、その衝撃に腕が痺れる。


「……そ、そんな、他にもいたなんて……。でも、ここで止まるわけにはいかない……! 力を貸して、召喚(サモン)!ウルダイブ! !」


真白の叫びに応え、青白い魔力の光の中から水の聖霊が姿を現した。


「思っていたよりも随分と早い登場になりましたね。ですが……任せてくださいっ!『霊水(れいすい)激流(げきりゅう)』!!」


ウルダイブの両手から放たれた奔流が、夜の森を飲み込むような勢いで敵を襲う。しかし、刺客は人間離れした跳躍でそれを回避し、空中から真白の首元を狙って鋭い突きを放った。


「……っ!」

「すばしっこいですねっ。……直々にお相手しましょう。『海王(かいおう)矛槍(ほこやり)』!!」


ウルダイブの姿が水へと変化し、次の瞬間、彼女の手には水を圧縮して作られた巨大なトライデントが握られていた。鋭い金属音と共に敵の鉾を弾き飛ばし、真白を庇うようにして刺客と打ち合う。


「……すみませんっ! 助かりました!」

「いえいえ!真白さん、魔力を多めにいただきますっ!『水球(すいきゅう)監獄(かんごく)』!!」


ウルダイブの宣言と共に、敵の足元の地面から水が波打ち、球体となって刺客を完全に閉じ込めた。監獄の中では激しい水流が渦を巻き、敵の自由を奪っていく。


「くらいなさいっ!『海竜(かいりゅう)咆哮(ほうこう)』!!」


さらにウルダイブがトライデントを振ると、溢れ出した水が巨大な竜の形を成した。咆哮と共に口から放たれた一筋の超高圧水流が、水球の中で藻掻く敵を丸ごと粉砕し、夜の森の彼方へと吹き飛ばした。


「……ふぅ。お待たせしました、真白さ……大丈夫ですか、真白さん!?」


ウルダイブが眼鏡をくいと上げ、凛とした表情で振り返る。しかし、そこにあったのは勝利の微笑みではなく、蒼白な顔で膝をつく契約者の姿だった。

真白は、最高位聖霊の強大な力を維持するために、自らの魔力を根こそぎ吸い上げられていた。視界は激しく点滅し、肺は焼けるように熱い。指先一つ動かすことさえままならない、ギリギリの意識で彼女は呟いた。


「……だ、大丈夫。お兄ちゃんの、所へ……早く……行かない……と……」

「真白さ……!」


ウルダイブが駆け寄ろうと手を伸ばすが、契約者の魔力が底を突いたことで、その姿は水泡みなわが弾けるように淡く透け始めた。


「……お兄……ちゃ……」


真白は最後に兄の名を呼ぼうとしたが、声にはならなかった。糸が切れた人形のように、彼女の体は湿った土の上へと倒れ込んでいく。

それと同時に、ウルダイブの姿も夜の闇へと完全に消えていった。

後に残されたのは、荒れ果てた戦闘の跡と、冷たい夜風に打たれる意識を失った少女だけだった。


「……本当に、無茶をするんだから」


暗闇の中で意識を失った真白のそばに、音もなく降り立ったシロミが呟く。彼女はいつもの余裕ある微笑みを消し、慈しむように、そして壊れ物を扱うような手つきで真白を抱き上げた。

シロミが真白を抱えてキャンプ地へと戻ると、ほぼ同時に、反対側の闇から一人の影がふらつきながら姿を現した。


「……っ! 真白は……真白は、大丈夫なのか!?」


剣一だった。彼もまた満身創痍でありながら、その腕には同じく魔力を使い果たしてぐったりとしているアリスを抱き抱えている。真白の姿を認めた瞬間、剣一の瞳に痛切なまでの焦燥が走った。


「落ち着いて……大丈夫よ、ひどい魔力の枯渇みたいね。ゆっくり休ませれば意識は戻るわ」


シロミは努めて穏やかな声で告げ、真白をテントの中の柔らかな毛布の上へと横たえた。


「とりあえず、詳しいことは明日話しましょうか。あなたたちも限界でしょう? アリスを寝かせたら、先に休んでいいわよ。……火の番は代わるわ。私も少ししたら寝るから」

「……すまない。恩に切る」


剣一は短く答えると、アリスを真白の隣へと運び、自分もまた、切れた弦のようにその場に座り込んだ。


「……あの子たちに、これ以上の手出しはさせないわよ」


シロミは一人、再び焚き火の前に腰を下ろし、呟くように決意を固めた。パチパチとはぜる火を見つめる彼女の横顔には、先ほどまでの慈愛は消え、冷徹な怒りの色が混じっていた。

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