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黒頭巾の神撃〜Black hood's divine attack〜  作者: 南斗家那乱下


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宴会②

グラスを片手に持ち寄り、弾む心と期待を込めて。これまでにありそうでなかった、この四人での記念すべき初宴会がいよいよスタートした。


「とりあえず新しく仲間になった二人ってことで乾杯でもしようか」


『かんぱーい』


キンキンに冷えたエールのジョッキと、真白の持つ果実水のコップが小気味よい音を立てて重なった。


「二人とも、あまり飲みすぎるなよ。この後の予定もあるんだからな」


剣一が釘を刺すと、アリスは「あたしはあんまり飲まないし大丈夫だからっ」と殊勝に頷き、シロミは「私は酔わないから大丈夫よぉ」と余裕の笑みでジョッキを煽った。


アリスはエールを半分ほど、喉を鳴らして飲み干したが、旅の疲れと港町に戻ってきた安堵感。そして、何より信頼できる仲間との食事。そんな状況も手伝ってか、いつもよりお酒の回りがずっと早かった。


「……ふぅ。……なんだか、ふわふわする」


数分後、アリスの頬がほんのりと桜色に染まっていく。普段のツンとした鋭さが取れ、どこかトロンとした柔らかな表情に変わっていく。


「……け、剣一。……となり、いいかな……?」

「別に構わないが……? 顔が赤いぞ、アリス」

「……ん。……ちょ、ちょっと酔ってきちゃったかも……」


アリスはそう呟くと、磁石に吸い寄せられるように剣一の方へと体を寄せ、そのままコテン、と彼の肩に頭を預けた。

さらには、逃がさないと言わんばかりに剣一の腕をぎゅっと抱き込んで離さない。


(……まだ一杯も飲み切ってないのに。アリスって意外とお酒に弱いんだな)


剣一は、腕に伝わるアリスの熱量と、彼女の独特な甘い香りを感じて、少しばかり居心地の悪さを覚えた。普段の勇ましいアリスからは想像もつかない、無防備な姿。


「……アリス、座りづらいんだが」

「いいじゃん……。今日くらい、こうさせて。……剣一、あたし、頑張ったでしょ?」


上目遣いで覗き込んでくる彼女の瞳は、酒のせいでわずかに潤んでいる。

その姿には、昼間の特訓で見せた「強くなりたい」という悲痛な覚悟と、それを乗り越えて剣一に認められたいという純粋な願いが混ざり合っているようだった。

その向かい側では、既に十杯は空けているシロミが、全く顔色を変えずに真白に絡んでいた。


「あらあら、アリス。お酒の力を借りて甘えるなんて……いいわねぇ。でも真白ちゃん、私の愛はお酒の力なんて借りなくても溢れ出しているわ。さあ、私と……」

「シロミさん! 飲みすぎですってば! ほら、お水飲んで落ち着いて!」


酒豪のシロミと、すぐ顔に出て甘えん坊になるアリス。

二人に振り回されるリーダーの苦労を噛み締めながら、剣一は空いた方の手で、アリスの飲みかけのジョッキを遠ざけるのだった。



食事を終え港町を出発した一行の視線の先には、小高い丘に眠る水の祠があった。潮の香りが山の清流の気配へと移り変わる中、滝や川の涼やかな音が彼らの歩調を軽やかにしていく。

だが、その穏やかな景色とは裏腹に、剣一の心境は複雑だった。

剣一は、ついさっきまで肩に乗っていた重みと、腕を締め付けていた感触を思い出し、密かに溜息をつく。


「……疲れたな」

「私もだよ、お兄ちゃん……」


真白も、シロミの執拗なスキンシップを回避し続けたせいで、心なしか足取りが重い。そんな中、ようやく酒が抜けてきたアリスが、不思議そうに周囲を見渡した。


「……っ? あたし、いつの間に酒場を出たんだろう……」


自分の記憶が乾杯の少し後から途切れていることに気づき、アリスが足を止める。


「アリス……あなた、本当に何も覚えていないの……?」


シロミがわざとらしく口元を抑え、憐れむような、それでいて楽しそうな視線を向けた。


「え!? あたし、何か変なことしちゃった?」

「私の口からは、ちょっと恥ずかしくて言えないわぁ……。ねぇ、剣一? あなたの腕をあんなに……ねぇ?」

「……っな!? 腕!? あたし、剣一の腕に何をしたの!!」


アリスの顔が、酒のせいではなく今度は羞恥心で急速に赤くなっていく。詰め寄られた剣一は、視線を泳がせながら短く答えた。


「……気にするな。酒の勢いだったんだろ。……それより、もうすぐ祠の近くだ。一応気を引き締めろよ」

「気にするなって言われる方が気になるんだけどっ!! 剣一、ちょっと、ちゃんと説明して!!」


喚き散らすアリスを無視して、剣一は歩き出した。


「……私がほんの一部だけ教えてあげるわぁ。あなた、剣一に腕を絡ませて肩に頭乗せて、メスの顔になってたのよぉ。……ふふ、ほんの一部よ? ほんの一部」

「…………………………え?」


シロミの残酷なほど詳細な報告に、アリスの思考が真っ白にフリーズした。

数秒の沈黙の後、彼女の脳内で「腕を絡ませた感触」と「肩の温もり」が、断片的な記憶の濁流となって一気に押し寄せてきた。


「……っっっっっっっなあああああああああぁぁぁぁっっっ!!!!???」


絶叫。港の鳥たちが一斉に飛び立つほどの叫び声を上げ、アリスはその場に崩れ落ちて顔を覆った。


「う、嘘……嘘でしょ!? あたしが!? そんな、そんなはしたないこと……っ!!」

「あら、嘘じゃないわよ。ねぇ、剣一くん? あったかいとか離したくないとか、あんなに甘えた声で……」

「わあああああああ!! 言うな! それ以上は言うなあああ!!」


悶絶しながら地面を転げ回るアリス。もはや「狂犬」の威厳は塵も残っていない。

一方、先を歩いていた剣一は、背後からの断末魔のような叫びを聞き流しながら、深く溜息をついて真白に話しかけた。


「……真白。祠に着いたら、まず周囲を確認してくれ。アリスは……使い物になりそうにない」

「あはは……わかった。アリスちゃん、すぐに落ち着いてくれると助かるんだけど…」


真白が苦笑いしながらアリスを憐れむように見守る中、アリスは顔を真っ赤にしたまま、震える足で立ち上がった。


「……っ、剣一! 待って! 忘れて! 今すぐ記憶を消去してええええ!!」


涙目で追いかけてくるアリス。そんな一行を、小さな滝の音とともに「水の祠」が静かに迎え入れた。

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