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黒頭巾の神撃〜Black hood's divine attack〜  作者: 南斗家那乱下


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アリスの変化とシロミの不変②

まずは真白とシロミから訓練が行われることとなった。


「真白ちゃん、手加減しなくて大丈夫よ。二人きりの特訓の時間……ああ、幸せだわぁ」

「め、目が怖いです、シロミさん……。じゃあ、遠慮なく、全力でいきます!召喚(サモン)シルフィーヌ!」


真白が片手を前方に突き出し、白魔術の回路を編み上げる。その中心から眩い緑の光が溢れ出し、木の聖霊シルフィーヌが舞い降りた。


「いくよ! シルフィーヌ!」

「主役の登場だよ!……任せて、真白!『(いばら)の行進』! 」


シルフィーヌが地を叩くと、瑞々しい新芽が爆発的な速度で成長し、鋭い棘を蓄えた無数の荊となってシロミへ殺到した。真白はその背後で、杖を消し短剣に持ち替え、いつでもシルフィーヌの援護に回れるよう身構える。


「きたわね。……でも、私の愛はそんなに安っぽくないわ。『(デス)刑罰(ペナルティ)』」


シロミが指先を優雅に振るう。彼女の手の届く範囲に侵入した荊たちは、まるで見えない寿命を吸い取られたかのように、次々と黒く変色し、脆く崩れ去っていく。生命の奔流と、死の浸食が火花を散らす。


「次はこっちの番よ。私の愛、たっぷり受け取ってちょうだい……。『亡者(デッド)大群(アーミー)』!」


シロミが影を地面へ沈み込ませると、土の中から無数の泥まみれの骸骨スケルトンが這い出てきた。空虚な眼窩に闇の炎を宿した亡者たちが、カチカチと顎を鳴らしながら真白たちへと襲いかかる。


「……ひっ! す、すごい数……!」

「真白、怯まないで! 数が多いだけなら、森の力で押し流すよ!」


シルフィーヌが真白の肩を叩き、鼓舞するように大地へ魔力を注ぎ込む。しかし、シロミの瞳には妖艶な悦びの火が灯っていた。


「ふふふ……とっておきよ。ありったけの愛をぶつけるわ。『巨大(ジャイアント)亡者(デッド)』!」

シロミが両手を天に掲げると、数百の骸骨スケルトンたちが互いの骨を軋ませながら絡み合い、一つの巨大な骸骨を形成した。数メートルに及ぶ巨躯。その骸骨の巨人は、空気を震わせる咆哮と共に、丸太のような両腕を真白たち目がけて振り下ろす。


ズゥゥンッ!!


地面が爆ぜ、凄まじい衝撃が真白の体を襲う。シルフィーヌの蔦の防壁が、その一撃で粉々に砕け散った。


「……ぐっ! このままじゃ押し切られちゃう……!!」


吹き荒れる魔圧に真白は足がすくみそうになる。


「……負けたくない! 私だって、みんなを守れるくらい強くなりたいんだから!」


真白の叫びに呼応するように、彼女の背後でシルフィーヌの魔力が膨れ上がる。瑞々しい緑の光が収束し、実体を持って形を成していく。


「その意気だよ、真白! 全力には全力をぶつけるよ! 喰らえ――『大自然の拳骨(げんこつ)』!!」

シルフィーヌが勢いよく腕を振り下ろすと同時、天空から巨大な影が降り注いだ。

それは、骸骨の巨人すら子供の玩具に見えるほど巨大な、樹木を編み上げて作られた「超弩級の拳」だった。


「あら、それはちょっと愛が重す……」


シロミが言いかける間もなかった。

ドォォォォォンッ!!!

爆音と共に、大気を震わせる衝撃が周囲を包む。

木製の巨大な拳が、亡者の巨人を粉々に粉砕し、その下にいたシロミごと大地を叩き潰した。土煙が舞い上がり、衝撃が収まった後には、見事なまでに地面にめり込んだシロミの姿が。


「……う、うふふ。真白ちゃんの全力の拳骨……これこそ最高の、愛の形だわぁ……」


地面の穴の中から、うっとりとした声でシロミが呟く。


「……あ、あはは。やりすぎちゃったかな?」


真白が頬を掻きながら苦笑いすると、シルフィーヌは満足げに腰に手を当てて胸を張った。


「次はあたしたちね、剣一。変形フォームチェンジ――遠隔形態ディスタントスタイル


アリスの声と共に、彼女を包む魔力の粒子が再構成されていく。近接形態コンバットスタイルの快活なチャイナドレス風とは一変し、他のような深紅の装甲が重なり合う、まるでウェディングドレスを思わせる優美で重厚な姿へと変貌した。赤く染まった毛先が、装甲の煌めきと溶け合う。


「久しぶりにこの姿になった気がする。剣一に通用するかはわからないけど……『炎の障壁ファイアウォール』展開!」


アリスが指を鳴らすと、ドレスの裾から噴き出した炎が彼女の周囲を渦巻き、分厚い深紅のオーラとなってその身を護る。


「……なるほど。近接のように素早く動けない分、防御力を高めているのか」

「そういうこと! ……じゃあ、そろそろいくよ!」

剣一が双剣を抜き放ち、静かに腰を落とす。それを見届け、アリスが先手を打った。


最大出力フルドライブ!! 『火炎爆破ファイアバースト』!!」


アリスの周囲に無数の赤い魔力球が生成され、一斉に剣一へと射出される。剣一は最小限の動きでそれを回避し、間合いを詰めようとした――が、その刹那。背後を通り過ぎたはずの球体が、眩い光を放ちながら連鎖的に爆発した。


「……っ、爆破か」


爆風を間一髪で躱し、剣一が低く呟く。


「気に入ってくれた? ……まだまだ、休ませないよ!」


アリスが手を振るたびに、赤い球体は次々と補充され、弾幕となって剣一を包囲していく。凄まじい爆炎の数に、反撃の糸口が見つからない。気づけば剣一の周囲は、四方八方を浮遊する爆弾に囲まれ、逃げ場のない「檻」の中にいた。


「これで終わり。……チェックメイト!」


アリスが突き出した手のひらを力強く握り込む。それを合図に、全ての魔力球が一気に剣一へと収束し、凝縮された熱量が臨界点を迎える。


「……まだだ! 『竜巻双波たつまきそうは』!!」


爆発の直前、剣一がその場で駒のように鋭く回転した。円の軌道を描く双剣が猛烈な嵐を巻き起こし、迫りくる火球を斬撃の渦へと巻き込んでいく。連鎖爆発のエネルギーは竜巻に飲み込まれ、紅蓮の爆風となって空高くへと舞い上がった。


「そうこなくっちゃ! なら、これならどう!? 『業炎舞台フレイムショー』!!」


アリスを中心に、巨大な火柱が円状に噴き出し、周囲を炎の壁が遮断する。近づくことすら許さない絶対的な防壁。

だが、視界を遮る炎の向こうで、剣一は静かに「がわ」に魔力を込めていた。

剣一は背中に背負った剣に膨大な魔力を付与すると、それをアリスへ――炎の壁のわずかな隙間を目掛けて、槍の如く一直線に投げ放った。


「……っ!? ……ちょ、そんなのアリ!?」


必殺の防壁を「飛び道具」で突破されるとは思ってもみなかったアリスが、慌ててガードを固める。しかし、剣を追うように炎の壁を強行突破してきた剣一が、剣をアリスの眼前で止めていた。


「……あたしの負け、かぁ」


炎の壁が霧散し、アリスは脱力したようにその場にへたり込んだ。


アリスに突きつけられていた剣が、静かに引かれる。剣一は剣を収めると、呆然と座り込むアリスに手を差し伸べた。


「……遠隔形態ディスタントスタイルも中々良かった。気に入ったよ」


その言葉は、訓練の感想としてはあまりに真っ直ぐで、あまりに破壊力があった。


「……っ!?」


アリスの心臓が跳ね上がる。


「気に入った」――ただそれだけの言葉なのに、今の彼女にはまるで別の意味を持って脳内に響き渡る。


「……ありがと」


アリスは差し出された剣一の手を掴むこともできず、ただ素直に褒められたことで気持ちが追いつかないまま、俯いて赤面しながら端的に感謝を口にした。

普段の気の強さはどこへやら。赤い毛先よりもさらに真っ赤になった顔を隠すように、彼女はドレスの裾をぎゅっと握りしめている。

その様子を遠くから眺めていたシロミが、地面の穴から這い出しながらニヤニヤと笑みを浮かべた。


「あらあら……。あんなに熱い火を扱っていたのに、本人のキャパシティはマッチ一本分しかなかったみたいねぇ」

「……っ、うるさいよ! シロミは黙ってて!!」


アリスは吠えるように叫んだが、その声にはいつもの鋭さはなく、どこか上擦っていた。


午後の激しい特訓を終え、一行は再び港町を目指して歩みを進めていた。

ふと空を見上げると、陽は傾き始め、空はオレンジ色に染まりつつある。


「……そろそろ15時か。普段なら双頭翼竜ツインヘッドワイバーンが現れる時間だな」


歩みを進めながら、剣一が魔具の時計を見て呟いた。


「そういえば、そんな時間だったね。……この辺りにも出るはずだけど、今頃はハンターたちが大勢集まって、ごった返してるだろうね」


アリスが同意するように頷く。この世界において、強力な魔物の出現は脅威であると同時に、素材を求める者たちの稼ぎ時でもある。


「変に目立つくらいなら諦めた方がいいだろうな。なにより前回、天魔石を持った双頭翼竜(ツインヘッドワイバーン)は、普通の個体より遥かに強かった。もしあんなのが出現したとなれば、倒せる奴は少ないだろうし、そのときはすぐに向かえばいい」

「そうだね、だったら今は港町へ向かうのが最善かも。真白だって、聖霊を集めなきゃだしね」

「みんな、付いてきてくれてありがとう……!」


真白が申し訳なさそうに、けれど嬉しそうに微笑む。


「あら。真白ちゃんのためなら、火の中、水の中……たとえ布団の中であっても、私はどこまでも付いていくわよぉ」


シロミが真白の肩に手を置き、耳元で妖しく囁く。


「……最後のが一番怖いです。シロミさん、離れて下さい!」


真白が真っ赤になって逃げ出し、それをシロミが楽しそうに追いかける。そんな二人のやり取りに、剣一とアリスは苦笑いを浮かべながら、オレンジ色に染まる街道を静かに進んでいった。

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