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第6章 王太子妃と開かずの間


 その後、ミモザリはグレンデールの手引きによって、従兄のカーティス=ヴァードウォール公爵令息と七年ぶりの再会を果たした。


「身内と会えば何かを思い出すかもしれませんよ。マートリス侯爵家以外の人間とも会った方がよろしいのではないですか?」


 侍医のアドバイスに、キャノット王国の王太子であるヴァロットンはすぐに応じた。

 彼はとにかく妻の記憶を早く取り戻したかった。彼のやるべき仕事が、机の上に山のように積み上がっていたからだ。

 そして、従兄の次期公爵令息に会えたことで、ミモザリの運命は大きく変わったのだ。


 従兄のカーティスは彼女の話を聞いて激怒した。

 まずはミモザリの父親であるマートリス侯爵に対して。

 叔母を心から愛している。必ず大切にすると言って結婚を申し込んできたくせに、元々恋人がいた? そして結婚後もその関係を続け、子供まで作っていただと! 

 しかも叔母が亡くなってすぐに、従妹のためだと言ってすぐにその愛人と再婚したあげく、虐待していたなんて。

 その挙句、ずっとうちからの融資を当然のように受け続けるとはなんと図々しく浅ましい奴なのだ!と。


 次に彼女の夫であるヴァロットン王太子に対してだ。


「豚を抱く趣味はないので、お前とは白い結婚だと言い放った。恋人を作っても一切口を挟むな」


「お前の醜いその容姿を人前には晒すわけにはいかないから、お前は書類仕事だけをしていろ!」 


 王太子が放ったという台詞を聞いた従兄は、怒りで顔を真っ赤にして、ブルブルと両拳を震わせた。

 こんなに可愛い従妹を醜いなどと、目が腐っているんじゃないか!と。

 さらにその王太子が従妹の腹違いの妹と結婚前から付き合っていて、それが現在進行形だと知って切れた。

 そして王太子の下に怒鳴り込もうとして、友人のグレンデール=ロプリンド医師が羽交い締めをされ、ようやく思い留まった。そして彼から


「カーティス、いつもの冷静沈着な公爵令息になって、奴らに報復しよう。そしてミモザリ様を救い出そう」


 そう言われて頷いたのだった。


 その翌々日、ミモザリは手作りの巾着の中に、従兄に借り受けた録画録音できる、前世のスマホの録画と同じ様な機能を持つ魔道具を、エプロンの裏に忍ばせた。

 さすがは筆頭公爵家だ。王家でさえその存在を知らないであろう、こんな貴重で素晴らしい魔導具を所持しているとは。


 いつものように彼女はメイド姿で、大きく腕を振りながら王宮の中を闊歩した。

 そして目的地である、王宮一階のほとんど誰も近付かない一室の前までたどり着くと、前日こっそり王族専用の貴重品ケースから持ち出していた鍵をドアの鍵穴に差し込んだ。

 ミモザリは周りからは王族だと周知されていなかった。とはいえ、神殿できちんと式を挙げ、契約書にサインをしている正統な王族だった。

 それ故に王族専用の鍵を持ち出す権限があり、そのパスワードも知っていたのだ。

 

 彼女は王太子がアイリスと逢い引きをするときに使用する部屋も、その鍵がどれなのかもちゃんと把握済みだったのだ。

 その通称「開かずの間」の扉を開けて中に入ると、彼女は人目につかない棚の上にその魔道具を設置した。

 そしてその一月後にその魔道具を回収して、グレンデールの定期検診の時に一緒にその中身を確認して、二人は絶句してしまった。

 当然二人の行為の映像を見続けることは耐えられず、ミモザリはすぐに顔を背けた。

 

 グレンデールは、二人の行為そのものよりも彼らの会話に腹を立てた。

 何故なら二人は淫らな事をしている最中に、ミモザリを貶し侮る台詞を吐いていたからだった。

 こんなクズ達にミモザリを辱められるなんて許せないと思った。必ずあの二人に彼女を虐げてきた罪を償わせてやる。そして自分達のした行為絶対に後悔させてやると心に誓った。


 ミモザリは当然乙女であった。今世だけでなく前世においても。

 しかし、しっかりその辺の教育は受けていたので、トラウマになるほどでもなかった。気持ちは悪かったが。

 それに罵倒されることなんて日常茶飯事だったので今さら感だった。まあ、腹立たしいとは思ったが。

 それよりも、執務机の上は未だに山になっているというのに、一週間のうち二日もあの部屋でアイリスと逢瀬を楽しんでいた王太子にただ呆れていた。

 そして、それと同時に、王太子の相手が妹だけだったことに正直驚いていた。もっと色々な女性と遊んでいるのかと思っていたからだ。

 だから検証が終わった後でこう言った。


「意外でしたが、どうやら王太子殿下は真剣にアイリスと付き合っているのですね。

 妹一人としか関係を持っていないみたいですし。

 陛下の方は三人の方と逢い引きされていましたが。侍女に男爵令嬢、それと近衛騎士団長夫人。たしかこの方後添えでしたわよね。まだお若いのに、()()()なのかしら? 

 それはとかく、陛下の真実の愛はどうなったのでしょうか。

 それに比べて王太子殿下の方がまだマシですね。妹とは真剣のようですから。それならやっぱり私は離縁した方がいいですね」


「王宮を出たら侯爵家へ戻るのですか?」


「とんでもない。傾くと分かっている家に戻ってまた酷使されるなんてごめんですわ。

 ヴァードウォール公爵家は父が契約を破っていた証拠を掴んだので、あと少ししたら、支援金の返還と違約金を請求するはずです。

 そうなったら元々領地経営の腕はあまりありませんから、すぐに立ち行かなくなりますよ。

 白い結婚が認められるまであと二年と四か月ほどありますから、その間に離縁後どう生きるか考えるつもりです」


「それはいいことですね。でもその選択肢の中に、私の助手として働くということも入れておいて欲しいですね。

 貴女の医療知識は凄い。是非とも私に力を貸して頂きたい」


 いくら白い結婚であるとはいえ、現在王太子の妻であるミモザリに結婚して欲しいとは口にはできなかった。

 そんなことをしてしまったら、ヴァロットンと同じ穴の狢になってしまうとグレンデール思った。

 しかし彼の熱い視線に、彼の気持ちを察したミモザリは、頬を染めながらこう答えた。


「私は単なるど素人の健康マニアに過ぎませんわ。ですが、先生のお役に立てるように、これから勉強に励みますわ」


 こうして王家に対する切り札を手に入れたミモザリは、その後も記憶喪失の振りをし続け、女官やメイド姿で、大きく腕を振りながら王宮の中を闊歩した。

 そして、女官やメイド達の働く環境が少しでもよくなるように、前世の知恵を活かして彼女達にこっそりと助言し、手助けをしていた。 

 もちろん顔見知りになった優秀そうな官吏達にも。

 やがてミモザリは、王宮内で「神出鬼没のスーパーアドバイザー」と呼ばれるようになっていた。

 もちろんその間も彼女は、グレンデールから医学書を借りて勉学に励んでいた。

 そうこうしているうちに結婚してから三年の月日が経ち、ミモザリとヴァロットン王太子の結婚がついに解消されることになった。




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