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第13章 初恋の行方


 妻ミモザリとのやり直しは無理なのだと、ヴァロットンだって頭では分かっていた。

 それでも彼はやり直しの可能性を捨て切れず、白い結婚が成立してしまうまでの二年間、必死に執務に励んだ。

 そして母親の王妃と共に、愚王である父によって乱れていた多くの問題の改善に取り組んだ。


 王城と王宮の高位貴族による職権濫用や、横領、収賄、職務放棄、縁故採用による役人の質の低下。

 山のように膨らんでいた難題を、新たに採用した優秀な部下達と共に根気よく解決に向けて進めて行った。

 そんな彼らの姿に、これまで王族を冷めた目で見ていた貴族や官吏達も見直すようになり、次第に進んで協力するようになったのだった。

 

 しかし、結局ヴァロットンはミモザリとは白い結婚のまま、婚姻を無効とされたのだった。

 そしてミモザリが王宮を出て行くその日に、ヴァロットンはミモザリがやはりあの初恋の少女であったと知ることになった。


 簡素なワンピースドレスを着たミモザリが、王宮の裏口からこっそりと外へ出て行った。

 その後をヴァロットンはこっそりと追ったのだ。

 すると、裏庭には彼女を見送りしようと、彼女のたった一人の侍女であったリルカが待っていた。

 最初は険悪だったミモザリとリルカは、この三年の間にすっかり親密な関係になっていた。

 なにしろミモザリはリルカの料理長への思いをいち早く気付いて、二人の仲を取り持ってあげたくらいなのだから。

 彼女の夫になった料理長は、以前は高級食材を用いて豪華な食事を作るのが一流の料理人だと思っていた。

 しかし、今では手頃な材料でいかに美味しい料理を作るか、それを考えるのが楽しみになっていた。

 そのおかげで彼の作る賄いは最高だと、王城で働く者達から絶賛されていた。

 もちろん、王族や来賓客からも高く評価されていた。

 それはミモザリのアドバイスがきっかけだったのだ。

 リルカと料理長はミモザリに深く感謝していて、この二年半、彼女によく尽くしてくれたのだ。


「これまで色々ありがとう。貴女はもう一流の侍女だから、新しい王太子妃を迎えたら、これまでのように誠心誠意仕えて、支えてあげてちょうだい。元気でね」


「はい、三年前のような失礼な態度は決していたしません。

 ミモザリ様もお元気で。

 あと、ブルースッテラの花の管理はお任せ下さい。あれは雑草などではなく、王太子殿下のお好きな花だということをこれまで以上周囲に徹底させますから。

 それとお名前の普及にも力を入れます。かつて、幻の王太子妃殿下が初恋の人を思って名付けた貴い名前なのだと」


「幻は言い得て妙ね。うふふ。

 たしかにその話がこのお城の伝説になったら嬉しいわ。この花が雑草として引き抜かれて、踏み潰されなくて済むもの」


 二人のこのやり取りをこっそり聞いていた王太子は、手で口を覆って呻き声を出さないようにしながら、一筋の涙をこぼした。

 ああ。やはり自分の初恋の相手はミモザリだったのだ。そして彼女の初恋の相手もまた、自分だったのだと。

 この二年、ミモザリは献身的に王家や国の為に尽くしてくれた。だからこそ、やり直せるのではないかという思いをずっと断ち切れなかった。

 しかし、自分が彼女の初恋の相手だったと知り、それはあり得ない事だったのだとようやく悟った。


 顔合わせの時に、自分ではなく妹に見惚れた初恋の相手を目の当たりして、彼女はさぞかし大きなショックを受けたことだろう。

 しかもその後も完全に無視され、ほとんど会話もなく、ただただ意味不明、かつ理不尽な言葉で罵倒され続けていたのだ。どんなに辛く悲しかったことだろう。

 そして極めつきは、初夜に夫となった男に投げ付けられた言葉だったはずだ。


「豚を抱く趣味はない」


 彼女の人格を全否定するような台詞だ。

 アイリスと別れて冷静になり、あのときのことを思い出したヴァロットンは全身から冷や汗が出て震えが止まらなかった。


 たとえアイリスからミモザリが悪女なのだと思い込まされていたのだとしても、自分が彼女に何かをされたわけではなかった。

 それなのに何故あんな酷いことを言えたのか、彼は自分でも理解できなかった。その思いは今も同じだった。

 たとえ愛情のない政略結婚の相手からだったとしても、そんなことを言われたら一生許せないだろう。

 ましてそれが初恋の相手だったら、余計に受けた傷は深いものだったに違いない。

 友人になってくれただけでも、奇跡のようなことだったのだと、改めて思い知ったヴァロットンだった……



 グレンデールがこの話をヴァロットンから聞かされたのは、王太子の新しい婚約者が内定したという発表があった数日後だった。


「初恋は結ばれないっていうジンクスは本当なのだな。

 後悔なんてしても何の意味もないってことは分かっているのだが、それでも時折思ってしまうのだ。

 彼女が婚約者に選ばれた時、偏見や思い込みを持たず、自分の目で彼女自身をしっかり見てさえいれば、違う結末を迎えたのではないかって」


「でしたら、次に縁を持った方のことは、ミモザリと比較するのではなく、ありのままの姿を見て差し上げてください」


「ああ。そうするつもりだよ。

 だけど、彼女への思いは多分一生消えないだろう。どうか彼女を幸せにしてやってほしい。今度こそは。

 それと、もう記憶喪失の振りはしなくてもいいと彼女に伝えてくれ」


 そう言って、ヴァロットンは静かに微笑んだ。


 

 ルビー、エメラルド、そしてダイヤモンド……永遠の愛を誓うという言葉を持つ宝石を使った装飾品を本当はミモザリに贈りたかったのだろう。

 それが彼の真実の思いだったから。

 それでも彼は自分の気持ちよりも、愛する女性の命、存在を大切にしたくて真珠を贈ったに違いない。


 三人の中で自分が一番の幸せ者なのだろう。

 なぜなら自分だけは初恋が実ったのだから。その幸運に感謝して、一生ミモザリを守って共に歩いて行こう。

 楽しげに隣を歩く婚約者を見つめながら、改めてそう誓ったグレンデールだった。


読んでくださってありがとうございます。


この話のスピンオフ作品を21日と22日の21時に3章ずつ投稿予定です。

ミモザリとグレンデールがヒロインの親友役として登場します。国王になったヴァロットンも。

タイトルは

「もうお待たせしません。そして私ももう貴方を待ったりしませんわ」

こちらも読んで頂けたら嬉しいです。短めの連載です。

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