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第10章 元王太子妃の功績


 結婚式を挙げてからちょうど三年経った日に、ミモザリと王太子と婚姻関係は無効となった。

 その後彼女はヴァードウォール公爵家の養女となった。

 そして以前約束した通り、彼女はグレンデール=ロプリンド医師の助手として、王城近くに新たに作られた、王立医学研究所で働くことになった。

 王宮内で医学書を読み耽っていたミモザリは、すぐに彼の即戦力になれたのだ。

 


 もまたこの二年半の間、ミモザリだけでなく、グレンデールも精力的に医師として患者を診ながら研究を続け、いくつもの論文を発表してきた。

 その中でも突然死の因果関係、並びにそれを予防するための画期的な論文が高く評価されて、世界的に注目を浴びていた。

 そのため、彼は王立医学研究所の所長に抜擢され、さらに子爵位を叙爵されていたのだ。


 一緒に働き始めたその一年後に二人は婚約をした。

 しかし、グレンデールがミモザリに婚約の申し込みをするまでには、かなりの時間を有してしまった。

 王城で定期健診をしていたころから、口には出さずとも互いにずっと思い合ってきたにも関わらず。

 それは身分の差というより、自分の年齢が彼女より十歳も年上であることを彼が気にしていたからだった。


「若くてこんなに可愛いミモザリ嬢に、私のようなおじさんが結婚を申し込んでいいものだろうか?」


 休憩中にソファーに座って何気なく中庭を見ながら、グレンデールはそう呟いた。

 すると、それを耳にしたミモザリがきょとんとした顔をしてこう言ったのだ。


「えっ? グレンデール先生はまだ三十でしょ。まだ若いですよ。イケオジと呼ばれるには早すぎるわ。そもそも私と三つしか違わないし」


 と。

 そう言われて彼は思い出した。王宮で倒れて目覚めた時、彼女が自分のことを二十七歳だと言ったことを。

 この後、彼は愛しい思い人が転生者だったことを初めて知ったのだった。



 二人の婚約が発表されると、王妃殿下からは披露宴用の豪華なドレス、そして王太子からは見事な真珠のネックレスとイヤリングが届けられた。

 その素晴らしい贈り物を目にしてミモザリは歓喜の声を上げたが、グレンデールは渋い顔をした。

 彼は決して僻んでいるわけではない。今の彼は、愛するミモザリにいくらでも贅沢をさせられる。

 だから、質素倹約をモットーにしている彼女に怒られない程度に、彼はちゃんと贈り物をしていたのだから。


 つまり彼は、彼女の元夫と元義母のセンスのいい贈り物に嫉妬していたのだ。そして離縁後も彼らとずっと親しくしていることに対して。

 そう。ミモザリと王太子との仲は、実は婚姻中に大分改善されていたのだ。

 ヴァロットン王太子は、アイリスの本性に気付いて別れた後、誠心誠意ミモザリに謝罪したのだ。そして関係の修復を求めてきた。

 王太子が改心し、真摯に仕事に取り組むようになった姿を見て、ミモザリもそれを受け入れたのだ。


 ただし、記憶にはなくても初夜に言われたという言葉、そして倒れて目が覚めた時に言われた言葉は、決して忘れることはできない。

 自分の尊厳を傷付け、命を軽んじる言葉をかけた人とは、人生を共にすることはできないと、彼女は王太子に告げた。

 そして、性格不一致と白い結婚を理由に二年後に離縁して欲しいと。

 彼女からすれば、実際は記憶が戻っていたわけだから、それ以前に散々無視しされ、妹との仲を見せつけられていたので、やり直しなんて有り得ないことだったのだ。

 

 当然王太子がそれはできないと渋った。それ故に、ミモザリは例の魔道具の映像を彼に見せたのだ。そしてこう言ったのだ。


「これを見てしまった私が、貴方と夫婦生活ができるとお思いですか?

 貴方は行為の最中、妹と愛を囁やき合い、ずっと私を罵倒し続けていたのですよ?」


 ヴァロットンは驚愕し、羞恥し、そして絶望した。


「人は誰でも過ちを犯します。でも、やはり許せることと許せないことはあるのです。

 今後殿下とは友人にはなれるかもしれません。でも、夫婦には絶対になれません。

 もし、友人でもいいとおっしゃるのなら、あと二年、殿下が王太子としてやり直すお手伝いを致します。いかがなさいますか?」


 そう訊ねられて、ヴァロットンはその申し出を受けるしかなかった。

 その後彼は王妃とも話し合い、互いに反省し、ミモザリの協力を得て、王城と王宮の改革をすることにしたのだ。

 つまりミモザリはこれまでのように王宮内を歩き回って、臣下や使用人、出入り業者などから様々な情報を入手して、それを王妃や王太子に報告していたのだ。

 もちろん、最初のうちは国王の横槍が色々と入って面倒なこともあったのだが、やがて彼は一切口を挟まなくなった。


「反対するなら、母上と近衛騎士団長に父上の浮気のことを話しますよ」


 ミモザリにあの魔道具の映像を見せられたヴァロットンは、父親の浮気相手の一人が、近衛騎士団長の夫人だと知った。彼はそれをネタに父親である国王を脅したのだ。

 おかげで自分は悪役王太子妃にならずに済んだと、ミモザリは内心ほっとしていた。

 こうして愚王が実質引退状態になったので、その後、三人の政策はスムーズに実行に移されるようになった。


 ミモザリは、情報提供だけでなく自ら様々な改善策を提案し、皆に喜ばれた。

 そんな彼女の功績の中でも一番人々に感謝されたのは水回りやご不浄の整備だった。

 それまでは排水も糞尿も浅い溝に流していたので、王都の路上は絶えず汚水や汚物に溢れ、不衛生極まりなかったからだ。

 しかもその悪臭がすごかった。それを誤魔化すためにやたら芳香剤をまき散らしていたので、さらに耐え難い臭いになっていたのだ。


 前世の記憶を思い出してからというもの、ミモザリはこの悪臭に苦しめられた。

 一歩でも外へ出たれば悪臭が漂っていて、頭痛と吐き気に襲われたからだ。

 庭園がいくら美しく華やかに整えられていても、あの臭いに包まれていたら興醒めだと彼女は思った。

 だからインフラ整備だけは早急に手掛けなければと思ったのだ。

 もちろん臭いの問題だけでなく、たれ流しは疫病が流行る原因にもなるからだ。


 まずは王都の中心部、つまり高台にある王城から下水道用の大きな側溝を掘り進めて川へと繋げた。

 そして、徐々にそのメインの側溝に各建物からの側溝を繋げていった。

 もちろんその側溝には蓋をつけ、誤って落ちない対策も取った。

 臭いを抑え、見栄えのためでもあった。つまり暗渠(あんきょ)だ。

 前世のニッポンでも古くから造られていた建造物で、モナミはなんとこの暗渠マニアでもあったのだ。


「貴女のおかげで大分王都が綺麗で衛生的になってきたわ。悪臭も大分おさまってきたし。

 実を言うと、あの臭いには辟易していたのよ。ありがとう。

 それに継続的な公共事業のおかげで、王都に集まってきた労働者の雇用対策にもなったし。おかげで浮浪者の数もかなり減ったわ。

 これを地方まで広げられるようにしないとね」


 ミモザリと王妃殿下は、協力して政務を行ううちに、嫁姑というより疑似母娘のような関係になっていったのだ。


「王家はかなりの金額の慰謝料をくださったのよ。だから気になさることなんてなかったのに、王妃殿下は私にドレス一枚も作ってやれないことに申し訳なさを感じていたらしいのです。

 私からすれば、着る必要性がなかったからお断りしていただけなのですが。記憶喪失で社交は無理だという振りをしていましたからね。

 でも


『ウェディングドレスは公爵家で準備するだろうから、せめて披露宴のドレスだけでも贈らせて欲しい。貴女のことを娘みたいに思っているから何かしたいのよ』


 と言われて、正直とても嬉しかったので、ありがたく頂くことにしました。

 王太子殿下も罪滅ぼしのお気持ちだったのではないですかね。

 浮気相手の妹には山のような贈り物をしておきながら、私には何一つ贈らなかったから。

 まあ実際は妹と別れた後、贈って下さろうとしていたのに、私が全てお断りしていたのですが。

 でも、王太子殿下もようやく新しい婚約者がお決まりになったでしょう?

 だから私への気持ちにきちんと踏ん切りをつけたいから受け取って欲しいって。

 それなら仕方がないですよね。素直に受け取ることにしました」

 

 ミモザリは爽やかな笑顔でそう語った。

 しかしグレンデールは、その言葉が王太子の本音ではないことをよく知っていたのだった。



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